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日本の広告費No.3

「2015年 日本の広告費」解説―インターネット広告費がリードし4年連続でプラス成長を達成

2016/02/23

2月23日、「2015年 日本の広告費」が発表されました。広告費のありようをドラスティックに変革したインターネットの普及が始まって20年余り、電通総研の北原利行が「広告費」の現在と未来について解説します。

北原利行


2年連続の6兆円超え、4年連続のプラス成長となった

2015年(1~12月)における日本の総広告費は前年比100.3%の6兆1710億円で、2012年以来4年連続のプラス成長、2014年に続いての6兆円超えになりました。日本の広告費は、大きくはマスコミ四媒体の広告費とインターネット広告費、そしてプロモーションメディアの広告費に分けられますが、同110.2%という2桁成長を遂げたインターネット広告が全体をけん引するかたちになっています。

媒体別「日本の広告費」(2012~15年)

 

年別・媒体別前年比(2012~15年)

 

インターネット広告については、媒体費が9194億円で前年比111.5%、制作費が2400億円で同105.5%でした。媒体費のうち運用型広告費が6226億円で同121.9%と大きく伸びています。
 

インターネット広告費の内訳

 

運用型広告とは、膨大なデータを処理するプラットフォームにより、広告の最適化を自動的もしくは即時的に支援する広告手法のことです。生活者の行動パターンをきちんと把握する、あるいは予測して広告を出すという運用型の手法は今後も拡大していくと思います。

また、新聞、雑誌、テレビ、ラジオのマスコミ四媒体広告費は、前年比97.6%の2兆8699億円、プロモーションメディア広告費は同99.1%の2兆1417億円でした。

マスコミ四媒体広告費について四半期ごとに見ると、2015年1~3月期は96.4%と、前年における消費税の駆け込み需要が大きかったことの反動減が見られ、4~6月期も97.0%と足踏み状態でしたが、7~9月期以降は若干回復の兆しが見えてきており、12月くらいにはテレビ広告にも明るさが戻ってきています。
 

2015年 マスコミ四媒体広告費(衛星メディア関連も含む)の四半期別伸び率

 

ポジティブになれない消費者マインドと企業マインド

「鶏が先か、卵が先か」の話になりますが、かつてのようにヒット商品がたくさん出てくる時代ではなくなっており、消費が活性化しなければ広告費も出てこない、広告費が出ないからこそ消費が活性化しないというジレンマがあります。

2014年4月の消費増税以降、買い控え傾向が続いており、2017年には再び消費増税が予定されているので、消費自体が足踏み状態にあります。それも弱含みの原因の一つでしょう。

もう一つ、2015年は総じて企業の経常利益が改善したなど、企業業績は好調だったですが、収益が設備投資に回っていなかった側面があります。先行きが見えないという理由から、なかなか積極的になっていかない企業マインドも、弱含みの大きな原因ではないかと考えています。

広告費をめぐる構造的変化

かつてはマスコミ四媒体が全広告費の半分以上を占めていましたが、現在は46.5%と半分を切っています。情報の摂取行動を見てもネットを使う生活者が増えているなど、変化が続いています。

媒体別構成比

 

ただ、情報の摂取先にネットが加わったことだけではなくて、企業の戦略自体が変化していることも大きく影響しているのではないでしょうか。

例えば、ある企業では日本市場よりも海外市場を重視するようになって、海外に広告費を投下する。あるいは企業が合併した場合、それぞれ1ずつ広告費があったとして、合併後も、合計した2の広告費を使うのか。実際は必ずしもそうではなくて、1.2や1.3くらいになってしまうケースもあります。

電機業界でも、かつては横並びでどこも総合メーカーを標榜していましたが、現在では例えば重電を中心に据え、家電はつくってもOEM(original equipment manufacturer:他社ブランドの製品を製造すること)ぐらいになると、一般消費者向けの広告出稿の機会が減少するでしょう。そうした企業の戦略の変化が影響しているとすれば、広告費をめぐる環境において構造的な変化が起こっているともいえるでしょう。

広告の機能は大きくは二つあります。一つはモノを売る、販促費的な部分であり、もう一つは、認知を高め、ブランドを形成する部分です。

インターネット広告は、どちらかというと販促的というか、リアルタイムでPDCAを回して成果を最大化する形態なので、モノを売ることについては非常に効果的ですが、中・長期的にブランドを形成していくのにはまだ向いていない面もあります。

最近、もう少しブランド形成の部分を強化したい、そのためにはやはりマスを使いたいという企業の声を聞く機会も増えています。オウンドメディアを立ち上げて認知を広げようというチャレンジも注目されますが、特に企業広告であれば、やはり新聞の信頼性を利用した広告は大きなインパクトがあるでしょう。

揺り戻しではないですが、効率を優先しているインターネットに対する見直しとともに、マスメディアが得意な領域に注目して、今後はいろいろなメディアを組み合わせてコミュニケーション活動をしていく形になっていくと思います。

ネット時代に適応した広告費モデルの構築を

ここ数年来、「日本の広告費」の推計作業に携わる中で、改めて「広告もしくは広告費とは何か」という大きな問題に直面しているように感じています。

基本的に、「日本の広告費」は媒体社などに対して広告費がどれくらい投下されたかを聞いて数値を出しています。一方、日経広告研究所の「有力企業の広告宣伝費」は企業の財務諸表から広告宣伝関連支出を集計しており、基本的に上場企業を対象とするため、大きな金額にはなりません。

さらに経済産業省の「特定サービス産業動態調査」は広告業に対するアンケート調査から売上高を算出しており、6兆円くらいの規模になっています。

今、広告会社は媒体に出稿する以外にもさまざまなビジネスを展開していますが、従来の広告統計にはそうした部分は具体的に反映されていません。経産省の特定サービス産業動態調査でも「その他」の伸びが非常に大きいのですが、では、「その他」の部分とはいったい何なのか。

そうした問題意識から、私たちは現在広告会社が携わっている業務領域を整理してみました(下図)。球体の大きさは市場規模を示し、真ん中には媒体を中心にした「日本の広告費」があります。左下の象限には販促、プロモーション領域があり、左上にはエンタメ系の領域、右下にはEコマース、直接購買とつながっている領域、右上にはデジタル系のさまざまな領域があります。
 

広告会社のビジネスドメイン

広告会社のビジネスドメイン ©電通総研 メディアイノベーション研究部

この図からもご理解いただけると思いますが、広告会社の非常に多岐にわたる業務の中で「日本の広告費」は実はごく一部でしかありません。広告会社の現状については、これまでの広告費という概念では捉え切れないところがあり、時代の変化に合わせた新たな視点から考えていかなければならないのです。

ある企業が新商品を出すのでキャンペーンをやりますというとき、告知のためにはテレビを使うけれども、その先のいろいろな施策はネットを使ったり、実店舗を使ったりするわけです。すると今までの「日本の広告費」では捉え切れない部分が大きいため、当然新しい指標が必要になるはずです。

この図では「日本の広告費」が中心にありますが、例えばデジタル側から全体像を描き直してみると、見え方がまったく違ってきます(下動画)。それは、想定外の新たな競合が出現するという示唆になるかもしれませんし、お互いに協働していく時が来たともいえるかもしれません。広告費をもっと広い意味で捉えていくことは、私たちにとって大きな課題であると考えています。
 


【動画(音声なし)】広告会社のビジネスドメイン―図表を動かしてみると全体像も違ってくる
©電通総研 メディアイノベーション研究部
 


そもそも、インターネットはメディアなのか。メディアではなくコミュニケーションの手段ではないのか。

インターネットが普及してから20年を超えました。かつてはブラウザーを使って情報を集めていましたが、現在では、アプリやメッセンジャーなど、同じインフラでも情報を集める手段はどんどん変わっています。

20年前とは全く違うことが起こっているわけですから、「ネットとは何なのだろう」という問いについて改めて考えなければいけない時期に来ているのではないでしょうか。

「2015年 日本の広告費」詳細はこちら(電通ニュースリリース)。


「日本の広告費」推定範囲