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「届く表現」の舞台裏No.7

東京大大学院助教 舘知宏氏に聞く
「研究者が考えるオリガミの未来」

2016/02/24

「届く表現」の舞台裏
各界の「成功している表現活動の推進者」の方々にフォーカスしてお話を聞きます。


今やオリガミの世界は、アートやデザインの領域で取り組んでいる人がいる一方で、さまざまな学問領域を横断した研究対象となっています。国際会議も開かれ、設計理論や工学、数学、教育から芸術分野まで多彩な人材が参加する注目領域です。私も本来の専門は建築ですが、工学的な応用以外にも、マイクロスケールの構造や幾何学的な研究、ソフトウエアの開発など横断して活動しています。

このウサギは、1枚の紙を折って作ったオリガミです。10時間かけて手で頑張って折ったんですよ。ただ、このような立体的な作品はやみくもに折っていってもできないので、こういう形にするにはどうしたらいいかということを逆向きに考えていく必要がある。最終的な形を想定して、そのための配置を考えていくのがオリガミの設計手法なんです。

 

 

もちろん、頭の中で考えて作っていく作家の方もいますが、立体的なものは結構難しい。試行錯誤を重ねて、3次元の立体から逆算して2次元の紙に到達するには、結局コンピューターを使って幾何学的な計算をして解くことが必要だと考えつきました。最初は手計算で、作品をひとつひとつ設計していたのですが、やっているうちに、最終的にはどんな3次元のものを入れても、それを折るための2次元パターンを作るようなソフトウエアシステムができるのではないか、じゃあ、やってみようと。そうして出来上がったのが「オリガマイザー」で、3次元の作りたい立体形を入力すると2次元の折り目つきの展開図を自動作成するというソフトです。現在、「フリーフォームオリガミ」「リジッドオリガミシミュレーター」を加えて3種類のソフトをウェブ上で公開しています。海外でもデザインの教育目的などで使われているようです。

既にオリガミ技術の応用は進んでいます。東京大の三浦公亮名誉教授が40年以上前に考案した「ミウラ折り」は、人工衛星に搭載される太陽電池パネルの格納と展開に広く用いられています。私が昨年発表した蛇腹状の構造材も平面の折り畳みでできていますが、簡単に伸縮する一方で、それ以外の変形には伸縮の400倍の力が必要です。実はこの構造にも「ミウラ折り」の手法を用いています。

今、究極的に考えているのは、勝手に折り上がる仕組みを作れないだろうかということ。“セルフフォールディング”という考え方です。例えば表面と裏面の伸縮率が違ったり、熱や光の条件によって形が変わる材料などをうまく組み合わせ、自分自身で連続的に変形していく仕組みができれば、人間の労力ははるかに軽減されます。

これから21世紀の物の作り方はどうなっていくのか。もちろん今までの作り方は残ると思いますが、新しい作り方の形として、材料が自分自身で折り上がるセルフフォールディングみたいな考え方があるのではないか。例えば、生命体では、それを組み立てる機械があるわけではなく、DNAという、材料自体が設計情報を持ち、自分自身で働くことによって形が出来上がる。そういうもののアナロジーですね。3Dプリンターも新しいものづくりの考え方ですが、「折り」の良いところは平面で全てが済むこと。平らに畳まれたものをガッと広げて形にするという作り方のコンセプトは、紙に限らずさまざまな材料で、いろいろなスケールで、例えば建築スケールでも実現できるように発展していくのではないかと期待しているところです。オリガミには未知数の可能性が秘められているのです。