「届く表現」の舞台裏No.8
書道家 高橋卓也氏に聞く
「筆と墨の“インフォグラフィック”で
伝え続けた東北6県の魂」
2016/07/25
「届く表現」の舞台裏では、各界の「成功している表現活動の推進者」にフォーカスしてます。今回は、東日本大震災の犠牲者の鎮魂と復興を願い、東北6祭が一同に会する「東北六魂祭」の題字、テーマ文字を書き続けた書道家の高橋卓也氏に一文字に込めた思いなどをお聞きしました。
東日本大震災は小学校6年生の3月、第1回となる仙台での「東北六魂祭」は、中学1年生の7月でした。このとき、祭りの題字とテーマの「祈」の文字を依頼され、それから毎年、東北六魂祭のテーマの一文字を書いてきました。
その年の一文字を指定されると、文字の意味や開催される県や市の特徴、起きたこととか、さまざまなことを調べます。頭にあったことも加えて、どんな文字の姿にすればよいかを考え抜きました。そうしてイメージをつくってから何百枚と書いてみて、その中から選んだ1点を実際に使ってもらっていました。このやり方は6年間、基本的に変わりませんでしたね。
2011年7月、仙台「祈」。六つの祭りが一堂に会する前代未聞のイベントということで、踊っている人のイメージを文字にしました。震災直後でしたが、鎮魂の意味も込めて、あえて躍動的にしました。
12年5月、盛岡「希」。復興元年といわれた年。拳を振り上げて、「ガンバロー!」と言っているイメージ。かなり大胆に崩してみました。
13年6月、福島「福」。しめすへんの部分を子どもの「子」にしました。左下から右上に力強く走る筆は、子どもたちの未来への懸け橋を表しています。文字全体の形を福島の県の形にしてみました。
14年5月、山形「起」。4回目で折り返し地点ということで、もういっちょう起きるぞ、と復興を進める人間の力強さをイメージしています。
15年5月、秋田「輝」。文字全体で「竿燈まつり」を表現しました。左側は支える人。大地に力強く踏み立つ姿です。右側は竿燈で、よく見ると竿はしなっていますよ。
そして今年6月、青森「跳」。この文字は、「ねぶた祭」の跳人(ハネト)の姿です。書けば書くほど文字自体がどんどん跳ねていきました。最初のイメージよりも思いきり跳躍感の強いものになりました。
東北六魂祭のテーマ文字は多くの方々が見るものです。「人を元気づけるものでなくてはならない」と、使命感のような思いが年々強くなっていきました。祭りが続く間に筆跡が変わってはいけないと思い、6年間同じ筆を使いました。会場で僕の書いた文字の入ったTシャツを着た人やグッズを手にしている方々を見かけるたびに、多くの方々が認めてくださったと感じ、涙が出るほどうれしかったです。
今感じていることの一つは、東北6県、それぞれに個性があるということ。例えば県の代表的な祭りの表現の仕方も、県によって異なります。6県ごとの素晴らしい個性が体感できました。それと6県の一体感。最初のころは各県の個性を披露することが主でしたが、徐々に一体感が強くなっていった気がします。
僕が初めて筆を手にしたのは0歳のとき。祖母の筆ペンをおもちゃ代わりに遊んだのが最初らしいです。そんな書道人間ですが、その一方で小さいころからパソコン人間でもあります。2歳から平仮名も片仮名も読めたので、電子辞書を使って漢字に変換してその漢字を書いたりしていたそうです。現在、学校では写真部に所属しています。動画編集にも凝っていますし、先日、国家試験のITパスポートにも合格したんですよ。動画や写真、そして書道は、僕にとって自分の気持ちを伝えるツールだと思っています。
今年、高校3年生になりました。10年後の自分って全く想像がつきません。書道は続けますが、今は将来を限定したくはありません。人のためになることをいろいろとやっていきたいです。