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ガールミーツガールプロジェクト リレーコラムNo.1

今、女の子に必要なのは「エンパワーメント」。
被災地ネパール視察から受けた衝撃。
ファッションでできるソーシャルアクションとは?

2016/02/23

今年で5周年を迎えるガールミーツガールプロジェクト。電通ギャルラボと国際協力NGOジョイセフで行うこのプロジェクトでは、途上国の女性支援のためにこれまでさまざまな活動を行ってきました。

その中の代表的な取り組みが「チャリティーピンキーリング」のプロジェクトです。ファッションをきっかけに、誰でも気軽にチャリティーに参加することができるアイテムで、リングの販売価格500円のうち200円が途上国の女の子支援になります。これまで11万個の売り上げを達成、1300万円以上の寄付額を集めてきました。

若い女の子を中心にじわじわと広まっているこのチャリティーピンキーリング。今回、それをさらなる大きなムーブメントにすべく、ファッションモデルのオードリー亜谷香さんと一緒に新たなリングをつくりました。まずはこのリング売り上げの支援先であるネパールへ。現地を訪れ、オードリーさんと一緒に、今本当に必要な「ガールズエンパワーメント」について考えました。

「エンパワーメント」はまだ日本にはない言葉かも。

empowerment。あなたはこの言葉を知っていますか? もしかするとまだ日本ではあまり聞き慣れない言葉かもしれません。でも実は欧米ではもう常識的に使われる言葉です。エンパワーメントとは、「自分自身の生活と人生を決定する権利と能力を持ち、さまざまなレベルの意思決定過程に参画し、社会的・経済的・政治的な状況を変えていく力を持つこと」を意味します。

もともとは、「能力や権限を与える」という意味でしたが、1970年ころからソーシャルワークの概念として使われ始め、今では主に「社会的地位の向上」という意味で使われています。単なるpowerとは違い、日本語に直訳するのがちょっと難しい言葉かもしれません。

私たちの目指すエンパワーメントは、女の子たちが自ら持つパワーで、自らの可能性を広げられることを目的としています。今回はネパールの女の子たちをエンパワーすべく、現地を訪れました。

ファッションモデル・オードリー亜谷香さんとネパール被災地へ。

左から、サビナさん、ジョイセフ・小野さん、アシタさん、オードリーさん、クルナさん、電通・間野さん、クスンさん

2015年、12月。JJ専属モデルのオードリー亜谷香さんとネパールを訪れました。今回、本人の強い希望で、チャリティーピンキーリングを一緒につくってくれることになったオードリーさん。リングをつくるからには現地を自分の目で見て、感じたことをJJの読者にも伝えたい、という思いがあり、国際協力NGOジョイセフさんの支援先のひとつである、ネパールの地震被災地へ。

JJの表紙も飾る華やかな見た目のオードリーさん、一体どんな子なのか?超派手な子だったらどうしよう?など少し緊張しましたが、羽田空港で会った瞬間にその不安はふっ飛びました。「はじめまして、おーちゃんって呼んでください!」と気さくな笑顔。見た目とのギャップがある「おーちゃん」という素朴なあだ名にも、親近感。

「日本語、まだ得意じゃないんです〜」と話す彼女は、アメリカ人の父と日本人の母を持つハーフの26歳。「日本で雑誌モデルになりたい! 東京ガールズコレクションに出たい!」という夢をかかげ、6年前に生まれ育ったアメリカを離れ、日本へ。最初は日本語も全く分からず苦労もしたそうですが、わずか2年でその夢をかなえた、いわばドリームガール。でも華やかな見た目から想像つかないほど、実はとっても真面目。この視察に向けても、ネパールのことを事前にしっかり勉強をしていました。そんな彼女と一緒に、いざ、プロジェクトの支援先であるネパールの被災地へ。

飛行機を乗り継いで約15時間、ネパールに到着。ネパールは日本から5166キロ、インドと中国の間に位置し、ヒマラヤ山脈、エベレストがある内陸地です。空港から車でネパール中心部、カトマンズの街中へ向かいます。高層ビルや近代的な建物はまだほとんどなく、みっちり立ち並ぶ古い建物と、行き交う人々、車、大量の排ガス。カラフルで魅力的な美しい街並み。

「ネパールすてき!」。車中からの景色を目にして、オードリーさんも私も、すぐさまネパールが大好きに。しかし、そんな街中のあちこちでは、震災の影響を受けて崩壊した家屋や、いまだにテントでの避難所生活を送る人々の姿が多く見受けられました。

写真は首都カトマンズ周辺で最も被害の大きかった、ブンガマティという村です。古くからの歴史ある、観光客が多く訪れる村だったそう。しかし、今はその面影もなく、崩壊した建造物ばかり目につきます。

村に住むインドゥーさん27歳は、この震災で自宅を失いました。「政府の復興庁もいまだにできておらず、再開発のめどは立っていないです。とにかくみんなお金なんてないし、建物をもう一度建てることは難しい。だから避難所生活を続けるしかない。これから来る寒い冬を越せるか、正直不安です」と苦しい現状を話してくれました。

次に被災地の中にある避難所へ向かいました。村人が暮らすテントが立ち並ぶ中に、女性しか入れないFemale Friendly Spaces(女性専用エリア)のテントがあります。ここでは、女性専用の避難キットを渡す他、カウンセラーが滞在していて女性の悩み相談を受け付けています。どんな被害内容があるのかインタビューしました。

81%のネパール女性がジェンダー・ベースド・バイオレンスの被害を受けている衝撃。

「先日、12歳の女の子の性暴力被害の報告を受けました。相手は父親です。その父親は、もうずっとその女の子が小さいころから、繰り返し性的暴力を行っていました。しかも日常的に。彼女はそれをずっと言えず隠していましたが、この避難所のカウンセリングをきっかけに告白したのです。今、父親は逮捕され、彼女は施設で保護されています」。衝撃の事実でした。

さらに、こうした被害がネパールではさして珍しいことではない、そのことに驚きました。なんと、ネパールのある地域では81%の女性が日常的に「ジェンダー・ベースド・バイオレンス」を受けたことがあるという驚くべきデータ(出典:Nepal Preliminary Mapping of Gender Based Violence)もあるのです。

写真と本文は関係ありません。

ネパールが抱える大きな闇、それは女性が受けるジェンダー・ベースド・バイオレンスが異常に多いこと。それは「性差別によって起こる暴力被害」を指します。主に男性から女性への体罰、精神的な暴力、近親姦などの性的暴力などが挙げられます。今回のように震災によって発覚するジェンダー・ベースド・バイオレンスは数多く報告されています。実は、日本でも東北の震災後に暴力被害が増加したという事実があります。

ここで感じたのは、「カウンセリング」の重要性でした。家族の中で起きている問題は他人には話しづらい、とくに田舎ではコミュニティーも狭く、相談できる第三者もいません。日本とは違ってホットラインのような機関も未発達、それ以前に電話すらない地域も多い。そんな途上国では相談できる第三者の存在が、とても大切なものです。

「もしもネパールに生まれたら私もセックスワーカーになっていたかもしれない」

今回、22歳のある女性の部屋で話を聞くことができました。あるレストランの2階に住み込みで働く彼女。彼女はウエートレスではなく、実はセックスワーカー。表向きはレストランですが、実は売春の窓口にもなっていて客を呼びこの部屋で客をとったり、ホテルに出張してセックスビジネスをしているのです。そんな彼女の部屋で、オードリーさんがインタビューをしました。


オードリー:いつからセックスワーカーに?

女性:1年前から。きっかけは結婚した夫に逃げられて生活が苦しくなったこと

オードリー:なぜ夫は逃げてしまったの?

女性:もともとカースト制度で階級が違って、親に結婚を反対されていたの。でも彼は親は関係ないから、君がいないと生きていけないからと懇願してきて、結婚したの。でも実際に結婚してみると、彼はやっぱり親を説得できなかった。そして私を捨てて海外へ出稼ぎへ行ってしまったわ。今では電話もつながらないし、メールの返信もなく音信不通

オードリー:セックスワーカー以外には働く方法はなかったの?

女性:もちろんこんな仕事本当はしたくない。でもこうするしか食べていくことができないから。夫に出会う前は、ずっと苦しい生活をしていたの。小さいころに両親に虐待を受けていて、叔父の家に預けられていた。そこでも一日中朝から晩まで働かされて、学校にもろくに行けなかった。とってもつらかった。自殺を試みたことさえある。でも自殺もできなくって、ある日叔父の家から小銭を握りしめて逃げ出したの。そこで路頭に迷ってるときに夫に出会って。でも今は夫にも捨てられて、帰る家すらない、学校にも行っていないから、ろくな就職だってもちろんないわ

オードリー:部屋に飾ってるのは旦那さんの写真?

女性:ええ、実はまだ帰ってくるんじゃないかって、彼を待っている。殺してやりたいくらい憎いけど、戻ってきたら許してあげるつもり。

--:そう語る彼女は夫のために編んだというマフラーも見せてくれました。彼女と話してオードリーさんは何を感じたのでしょうか。

オードリー:とにかく、驚いた。もしも自分がネパールで生まれていたら、私だってセックスワーカーになっていたかもしれない。そのくらい女性にとって働く場所がなかったり、やりたいことができないほど苦しい現実だなって。でも現実を受け入れてしまっている女の子たちを見て、諦めないで!ってすごくもどかしかったんです。

自分の夢を制限しないで、もっともっと夢を大きく持ってほしい! だって出会った子はみんな頭も良くて、英語もできて、もっと何にでもなれるのにもったいない。もちろん社会的にも課題はたくさんあるのでその解決も必要だけど。でも、何よりもまず大切なのは、女の子自身が自分の力でエンパワーできることだと思う。


この視察を経た、オードリーさんの口から出た「エンパワーメント」。実は彼女が滞在中に投稿したインスタグラムには全て「#womanempoweringwoman」のハッシュタグがついていました。「エンパワーメント」。その言葉がこのプロジェクトのキーになった瞬間でした。

途上国支援に必要なもの。それは「エンパワーメント」に着目した支援。

女の子をエンパワーメントするために何ができるか? 具体的には、どんな支援が必要だと思いますか? 支援というと、100円で○○が提供できる、など目に見える物資支援のイメージが頭に浮かぶかもしれません。でもこのプロジェクトで大事にしていることは、実は単に物を提供するのではなく、現地の人を本当に「エンパワーメント」できる支援であるかどうか。

国際協力NGOジョイセフでは、途上国の地域でピア(仲間の、同年代の)エデュケーターを育成し、若者のコミュニティーの中で性の正しい知識や情報を広める活動に力を入れています。

若者を救うのは、若者。「ピアエデュケーター」の存在。

photo by © Miki Tokairin / JOICFP

今回はこの「ピアエデュケーター」が女子校で性教育を教える授業にも参加しました。日本だと、思春期にこういう社会的な取り組みをする子は、真面目で地味な学級委員タイプが多いというイメージがありませんか? クラスの中心になるような派手な子たちはピアエデュケーターなんて絶対やらなそう。でも、ネパールでは違います。ピアエデュケーターになることは、みんなの憧れの的なのです。頭も良くてファッションもオシャレ、そして自分の夢や意見をしっかり持っている女の子たちばかり。

黒板に子宮の絵を描きながらとっても分かりやすく生理のメカニズムを教えています。女子中学生たちはみんな真剣なまなざし。私はその光景を見て、素晴らしいなと感動しました。妊娠、生理、避妊についてなどのトピックは、大人や男性教師にされるよりも、ピア(仲間)にしてもらう方がよっぽど興味もわくし、質問もしやすい。このメソッドは、性教育が遅れている日本でも見習いたいくらいだ!と。

ジョイセフと連携して活動を行う現地のNGO「IPPFネパール」(ネパール家族計画協会)では、毎年約430人程度のピアを育てています。現時点でいるピアは4000人程度で、これまでに1万4160人のピアを育ててきました。ピアエデュケーターになると、望まない妊娠を防ぐための、あらゆる性教育(妊娠のメカニズム、性感染症など)を学びます。そして学ぶだけではなく、学んだことを同世代の友達にどう伝えるのがよいか?どう表現すればいちばん分かりやすく伝わるか?を自分自身で考える、そこまでを含めたトレーニングをします。

日本では学校教育の中で性教育が義務づけられていますが、途上国では学校に行けない人や、退学をする女の子もたくさんいるため、ピアエデュケーターの活動が重要になります。国際協力NGOジョイセフでは、ネパールだけではなくタンザニア、ザンビア、カンボジアなどでもピアエデュケーターの教育に力を入れています。

今回のチャリティーピンキーリングの売り上げの一部は、世界のピアエデュケーターの育成をはじめ人材育成や、彼らが学ぶ場所を提供する支援などに使われます。ネパールでは震災で壊れてしまったピアエデュケーターのユースセンター(トレーニングを受ける施設)の復興にも使われる予定です。

リングを買ってくれた日本の女の子たちのアクションが、こうして途上国の女の子の支援につながっていきます。“望まない妊娠を防ぐこと”“性感染症やHIVから身を守ること”。途上国の女の子に性教育を普及させることは、命そのものを守る大切な支援です。どんな状況においても自分の体を守る武器(=性知識)を得てこそ、彼女たち自身がエンパワーできるようになるのです。

今回、ネパールでたくさんの女の子と出会い、ネパールの現実を知った私たち。日本の女の子たちにも、この事実を海の向こうの人ごとじゃなく、身近に感じてもらいたい。これまでに11万個のチャリティーピンキーリングを通して、たくさんの日本の女の子がこのプロジェクトに賛同してくれました。これからは、その輪を広げながら、さらにもう一歩深く、日本の女の子にこの社会課題に興味を持ってもらいたい。

例えば、ピアエデュケーターのことを知ることは、日本の女の子にとっても自分自身のリプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性の健康と権利)を考えるきっかけにもなるから。先進国日本。だけど実は先進国の中で、唯一HIVの感染率が増加している、いわば性教育の遅れている国ともいえるのです。先進国が途上国に対して上から目線の支援をするだけではなく、実はその中に学びや気付きもあるはずだと思います。

「リングを通して世界の女の子を支援しながら、日本の女の子自身もエンパワーメントする」。大きな目標を掲げて、これからもガールミーツガールプロジェクトは活動を続けていきます!

次回コラムへつづく

チャリティーピンキーリング発売先サイト(3月7日からジョイセフショップで販売発売。現在予約受付中)