ワカモンのすべてNo.56
イマドキ若者の恋愛には、“口実”が必要?(後編)
2016/03/23
前回に引き続き、「ラブグラフ」代表の駒下純兵さん・村田あつみさんに、電通若者研究部の湊研究員・奈木研究員がインタビュー。他者と常時接続されている情報環境の中で、“モテ”と“ウケ”を乗りこなす若者の複雑な恋愛事情が見えてきました。
“イタい”と思われないためのリスクヘッジが必要!?
湊:ところで村田さんは、大学の卒業論文でソーシャルノロケについて書かれていたんですよね?
村田:はい、ソーシャルノロケに使われるSNSの種類を挙げて、それぞれの特徴と傾向を分析しました。たとえば、Instagramは写真を投稿する場所なので、基本的にはポジティブな空間でノロケやすい。ネガティブな写真ってあんまり投稿しないじゃないですか。
奈木:確かに…!
村田:Facebookは実名だから気軽にノロケにくいけれど、近況報告をする場所なので、ノロケの一環である「結婚しました」などの投稿はしやすい。Twitterは比較的なんでも投稿できる場所なので、ノロケを発信するハードルは低い半面、批判も受けやすい、などなど。
湊:なるほど。最近、Instagramが若者に人気なのは、ソーシャルノロケがしやすい環境であることも一つの要因かもしれませんね。
奈木:若者はどうしてソーシャルノロケをするのだと思います?
村田:今の20代が小学生のころには、既にある程度インターネットが普及していました。私は24歳なのですが、中学生ぐらいでホームページが簡単に作れたし、「前略プロフィール」や「ホムペ」などのサービスがはやっていて、インターネットに自分のことを投稿する行為に抵抗がない世代だと思うんです。そのマインドに加えて、スマホやSNSなど気軽に投稿できるツールが普及したことで、ソーシャルノロケにも抵抗を感じない人が増えたのかもしれません。
奈木:ワカモンの研究でも、成長背景は重要な要素のひとつだと考えています。いかにSNSと早く接しているかで気持ちのハードルは違いますよね。
ただ、その中でも牽制し合ったり、“ウケ”と“イタい”の線引きがあったりするんですよね。彼氏は映っていないけれど、彼氏といることをさりげなく匂わせる写真はセーフとか。「このプレゼントありがとう。大切にするよ」と書いて、タグで「#LOVE」とか付けるのは“イタい”とか。そういった絶妙な均衡がある中で、「ラブグラフ」は少なくとも“言い訳”をつくれますよね。「撮影してもらいました」と言って写真を投稿するのは、「彼氏とデートしてきました」と言うより心のハードルが低いというか(笑)。
駒下:同じカップル写真でも、「自撮りはむかつく」みたいな空気はありますよね。カメラマンが撮ったものや、前撮りしたものはセーフみたいな。
湊:成人式の写真なんかも、比較的セーフですよね。そういう意味では、いかに特別な日を演出できるかが大切なのかもしれません。
村田:「ラブグラフ」は写真と一緒にカップルのインタビューも掲載するなど、ちょっと特別な体験も含めてパッケージ化しています。やっぱり、“口実”をつくってあげるのは、大事ですよ。今まで、読者モデルに憧れていて撮影してほしいと思っていても、声を掛けられないと難しかったじゃないですか。「ラブグラフ」は自分から依頼しておきながら、「撮影に行ってきた」と言える。別に「お金を払って撮ってもらった」と言う必要はないんです。
湊:ネット上での見え方が全く違いますよね。“イタい”と思われないためのリスクヘッジができています。
村田:若者にとっては、すごく重要な違いだと思います。
“口実”が若者の恋愛を動かす!
湊:以前、大学生にインタビューしたとき、バレンタインデーやホワイトデーのような恋愛感が強すぎるイベントは若者に向かないと言っていました。ハロウィンやクリスマスは、テーマも分かりやすくて、カップルでなくてもみんなで盛り上がれるらしいのですが。実際、バレンタインデーやホワイトデーはそんなに忙しくないですか?
駒下:依頼が多いということはないですね。クリスマスも2人きりで楽しむイベントなので、写真を撮ってほしいという人はあまりいません。むしろ、比較的忙しいのは夏休みや冬休みでしょうか。
奈木:やはりイベントのない隙間の日常や、マンネリ打破としてサービスを利用される方が多いのですね。ちなみに、世の中的に、現在カップルの数が減っているというデータもよく見かけますが、実感はありますか?
駒下:減っているかどうかは分かりませんが、「恋愛に興味ない」と言いたがる傾向は確実にありますよね。みんな“非リア”ぶるのがうまいというか。“コミュ障”という言葉も同じですが、“非リア”とか“コミュ障”と自称することで自らのハードルを下げているんですよね。恋愛意識が落ちているのではなく、そう言っておくのが無難みたいな感覚があると思います。
奈木:興味ないと言いつつも、付き合えばソーシャルノロケをするし、飲み会で話す話題もほとんどが恋愛ネタだという実態があります。今の若者も恋愛に興味があって、必要としているのは間違いない。
とはいえ、昔と違って“口実”や“理由”がないと恋愛をしにくい環境に若者が置かれているとするならば、“口実”を提供する「ラブグラフ」のようなメディアは、若者の恋愛を促進するためにとても大切な存在だと思うんです。恋愛には消費を動かす側面もありますし、もっと若者の恋愛を後押しするサービスが増えるといいですよね。
湊:「いやらしくない出会いが欲しい」という声もありました。フェスも出会い目的じゃないけれど、音楽を楽しんで、結果として出会えるのがよいと。
駒下:確かに、合コンなんかは参加しにくい。
奈木:合コンとは言わずに、「会ったことない人たちとごはんに行く」という言い回しをするんです。
湊:合コンじゃん!(笑) どうしてそう思うのでしょう。SNSですぐに情報が拡散してしまうから?
奈木:あとは、恋愛に対してガツガツしているような姿が“イタい”という感覚があると思います。少し前の時代は、とにかく前向きにやりたいことをガツガツやるのが良しとされていた時代。もちろん、今の若者の中にもそういう人はいるのですが、「それってイタくね?」と考える層が出てきたんです。
以前、ワカモンで若者のメディア・コミュニケーションを分析したときも、同じ若者でも10タイプのクラスターに分けられることが分かりました。たとえば、「自己プロデュースキャラ」と「SNSめだちたがり」。前者は、写真を撮って「六本木なう」「有名な〇〇さんと一緒」みたいな情報を積極的に発信するタイプで、“イタい”という感性はあまりありません。後者は、みんなが知らないような情報をネットから拾い上げて、SNSでシェアするタイプ。あからさまに自慢している感じはないが、上手く自分をアピールしている。ドヤ!を感じます(笑)。
駒下:たしかに、SNS上で「この発言を投稿したら、どう思われるだろう」というのは気にしますね。
奈木:そういう意味では、「ラブグラフ」で撮ってもらった写真をシェアするかしないか、撮られた側が絶妙なあんばいでコントロールできる点も、若者のインサイトにマッチしていますよね。
駒下:SNSは世界中の人から見られる可能性があると思うと、一挙手一投足に気を配らなければならないですからね。でも、若者が恋愛しなくなったというのはうそだと思いますよ。素直に言いにくい環境になっているだけだと思う。“非リア”ぶっている。
村田:ファッション非リアです(ファッション非リアとは、リア充じゃないことをアピールしつつも、本当はリア充なことを指す)。
湊:若者の「恋愛したい!」という気持ちは、いつの時代であっても変わらないものですよね。SNSと密接に関わっている世代だからこそ、恋愛の仕方や、表現にも絶妙な距離感があることを再認識しました。
奈木:「ラブグラフ」のように、若者にとって自然で心地のよい“口実”を、もっとたくさんの方に提供できるように、引き続き私たちも調査を続けたいと思います。本日はありがとうございました。
<了>
【ワカモンプロフィール】
電通若者研究部(通称:ワカモン)は、高校生・大学生を中心にした若者のリアルな実態・マインドと 向き合い、彼らの“今”から、半歩先の未来を明るく活性化するヒントを探るプランニングチームです。彼らのインサイトからこれからの未来を予見し、若者と 社会がよりよい関係を築けるような新ビジネスを実現しています。現在プロジェクトメンバーは、東京本社・関西支社・中部支社に計19人所属しています。ワカモンFacebookページでも情報発信中。