loading...

アクティブラーニング こんなのどうだろうNo.14

カナダの学校で体験した
ちょっと変わった科目5選。

2016/04/21

電通総研に立ち上がった「アクティブラーニング こんなのどうだろう研究所」。アクティブラーニングについてさまざまな角度から提案を行っていきます。このコラムでは、ラーニングのアクティブ化に活用できそうなメソッド、考え方、人物などを紹介していきます。

カナダの中高校に転校して、まず校長先生からスケジュール表が渡された。「これに沿ってがんばって行動するように」。そう、ここでは固定されたクラスがなく、まるで大学のように、それぞれがそれぞれのスケジュールに沿って毎日動くのだ。全ての授業が一緒だという人は学年におそらくいない。

全貌がまだ把握できていない校舎の中で、該当する教室を見つけるのはなかなか大変そうだったが、少しワクワクした。そして、スケジュールをのぞき込んでみると、まず目に飛び込んできたのはその日の締めくくりに書いてあった「MRE」という3文字の科目だ。「この授業は一体何だ?」見当も付かなかった。

教え方や進み具合が違っていても、どの国でもほとんど同じような科目を学んだ。でも、ここではちょっと変わった科目の数々が私を待ち受けていた。その中から、特に記憶に残っている5本を紹介しよう。

ちょっと変わった科目その1:Architectural Drawing

これは、中1向けの1学期間だけある科目。文字通り建築図面の描き方を習う。「でも、なぜ?」その疑問は最後まで解けなかった。

この授業では、まず自分のドリームハウスについて詳細な説明を書く。いわゆる作文だ。どこにあって、どんな部屋があってなど想像力が膨らむ。もちろん、とんでもないことや物理的に無理なことを書いてくる生徒が続出。

でも授業は次のステップへ。今度は、その家のビジュアルイメージのスケッチを描く。ここでもファンタジーがさく裂。最後に、その家を図面に落とし込むというステップが待ち受けている。

これが、なかなか難しい。突然現実に打ち当たるのだ。でもこれこそが建築の世界。可能と不可能を知ることから始まることを教えられる。建築にフィクションはない。完成した一つのプレゼン資料のようなブックが授業の提出物だ。

ちょっと変わった科目その2:MRE

こちらも、中1向けの授業。ずっと「MRE」と略されて呼ばれていて、その正式名称は最後まで分からなかった。ここでは、宗教かモラルを教わる。カトリックなら宗教。無宗教あるいは他の宗教の生徒ならモラルの授業を受けるという仕組み。

わたしは、モラルクラスを履修したが、宗教と違って何を教えるべきかがかなり曖昧。結果として、世の中のいろんな善しあしとされているルールについて、何でそうなのかみんなで考える。意見を言う。

全てには、いろんな見方があって絶対的な答えなどない。でも国家などによって決められたルールがある。その集団にいる限りそれが善しあしを決め、人の行動はそれによって判断される。今から思うと何だか、とても感慨深い。

ちょっと変わった科目その3:ITT

これは、中2で習った。Home Economics、日本でいう家庭科と半々で学ぶ授業だ。何の略かというとIntroduction to Technology、つまりテクノロジー入門だ。パソコンが出てくるかと思ったが、それはComputer Scienceという別の授業のようだ。ここでは、文字通りテクノロジーとは何かを学ぶ。紀元前にさかのぼって。

最初の課題は、「街中にある草を集めて自分の体重に耐えられるロープをつくれ」だった。やり方などすべて自由だ。 使うのは草だけ。ありとあらゆるロープが集まり、実際にテストされる。 しかし、ほぼ失敗作。テクノロジーはそんな甘くはない。次に、ペットボトルだけから自分が30分座れるイスをつくるなど、文明が発展した素材を使った工作が続く。

ただし、最後までやり方は教えられず、素材と締め切りが指定されるだけ。やり方を発明することこそが、文明(テクノロジー)の進化につながることを教えられる。

ちょっと変わった科目その4: Banking

これは中3の授業なので、履修する前に転校してしまった私はシラバスしか見ていないので、正確には体験はしていない。

この授業では銀行での口座の開き方やいろんな口座の種類、利子や定期預金やお金の運用など銀行にまつわる全てのことを教わる授業。ものすごく実用的。

子ども銀行口座なども含めるとこの年齢だと銀行口座を持っている生徒もかなりいる。でも、複雑な運用まではなかなか親も教えてくれない。でも増やせるお金は増やしたい。当たり前のことだ。この授業を通して中学生は大人への階段を一歩上がっていくのだ。

ちょっと変わった科目その5:Wood Work

中高の数年にわたってあるのがこの授業。木を使った工作を学ぶ。日本の技術家庭科の「技術」に雰囲気は似ているのかもしれないが、扱うのは木だけ。先生いわく、これを履修すれば家のドアや床や家具の修理など日曜大工はできるようになるとても役立つ授業。

実際には、時計、バードハウス、イスなどどんどん複雑なものを木の板からデザインしてつくっていく。型紙や図案はもちろんない。全部自分が欲しいものを考えて、スケッチを描いて、木に落とし込む。

カタチ、色、質感など全て自分次第だ。ひねり過ぎて完成しないのもアウトだし、想像力に欠けるデザインも高得点は取れない。そうやって、フィジビリティーを学んでいくのだ。

カナダの学校のちょっと変わった科目ベスト5

今から振り返ってみると、ほとんど全てのちょっと変わった科目に共通することは、そこには教科書もなければ、やり方も答えもない。それを編み出すのが先生ではなく生徒の役目。重要なのは、アイデア、実現力、プレゼンテーション能力だ。

20年前の話なのに、すでに作文やレポートやプレゼンテーションボードはパソコンでつくっていた。なぜなら説得力があるから。まるで日本の大学のようなことがカナダでは中学校から訓練されている。

そして、もう一つのポイントは選択制の授業がどんどん増えること。自分は、スペイン語を学ぶのか、演劇を学ぶのか、あるいはお金について学ぶのか、選択をしなければいけない。学年が上がるにつれて選択肢も増えていく。

必然的に、自分の興味や得意分野などを考えることになるし、人生設計がここから始まる。受験に何が必要かを考える前に、自分にとって何が必要なのかを考えなければならない。これは、日本にはまだない責任が伴う自由なのかもしれない。