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Dentsu Design TalkNo.72

テクノロジーと表現―NHK「NEXT WORLD」の取材から見えてきた未来―(後編)

2016/05/07

2045 年には、コンピューターが人間の知性を超えるシンギュラリティー(技術的特異点)を迎えるといわれている。2015 年1月、NHK スペシャル「NEXT WORLD 私たちの未来」が放送され(5回シリーズ)、未来の社会、人間のあり方を模索するために、番組制作陣は世界中の科学者や研究者を訪ね取材した。さらにこのシリーズはサカナクション、ライゾマティクス、アンリアレイジといったクリエーターたちとコラボすることで、ネット時代の新たなテレビコンテンツとしても注目され、NHK 出版から書籍化もされた。今回のデザイントークでは、番組ディレクターの岡田朋敏さんと立花達史さん、プロデューサーの小川徹さんの3人が登壇。テクノロジーに強い事業開発プランナーの加賀谷友典さんと、電通を代表する CM プランナーでクリエーティブディレクターの澤本嘉光さんとセッションを行った。それぞれの関心を照射させながら、未来のテクノロジーと表現について語り合ったトークを前後編にわたりお届けする。

(左から)小川氏、立花氏、岡田氏、加賀谷氏、澤田氏
(左から)小川氏、立花氏、岡田氏、加賀谷氏、澤本氏
 
 

 

シンギュラリティーを

人はどのように受け入れるか?

加賀谷:人がなぜ「いい」と感じるかというような、意識の部分はまだ解明されていませんよね。

岡田:まったく分かっていないと言っていいと思います。意識がどうやって生まれるのかについては、取材すればするほどものすごい数の理論があって混沌としています。

加賀谷:僕は「necomimi」という、脳波で動くコミュニケーションツールを作りました。その際にも意識の問題をいろいろと考察しましたが、分からないことも多かったんです。今日初めて知って衝撃を受けたのが結合性双生児のタチアナちゃんとクリスタちゃんで、ふたりは言語を使わずにコミュニケーションができる。テクノロジーでそれをやろうとしているのが、第3回の放送に出てきたブレインマシンインターフェイスです。こういうテクノロジーは、人間にどんな影響を与えていくのでしょうか。

立花:身体が不自由な方など、本当に困っている方の助けになるためにも、サイボーグ技術はこれからどんどん進歩していかなければいけないと思っています。一方、軍事で使われるという懸念もあります。一番の問題は、その研究をやった方がいいかどうか、誰が決めるのかということです。

澤本:すごく驚いたのは、血液に注入して、がん細胞を選んで攻撃するという小さなロボットの話です。自分が思っていたロボットテクノロジーやコンピューターというものとは全く違っていて。

岡田:ロボットといっても、いわゆる金属製のメカロボットではないんですよね。分子ロボットといわれる、ナノテクノロジーやDNAの応用で、生体の中にあるDNAやたんぱく質を加工してロボットのような機能を持たせる技術です。

加賀谷:ゲノム、ナノテク、ロボティクスの3つがキーになって絡み合い、2015年を起点にわれわれの世界を完全に変えていくというのが、カーツワイル氏が唱えるシンギュラリティーです。シンギュラリティーは西海岸では盛んに研究が行われていますが、東海岸の研究者と話をするとアンチシンギュラリティーな意見が多いように感じます。番組にもいろんな意見が来ていたと思うんですが、シンギュラリティー的なものに対しては全体的に好意的だったのでしょうか?

岡田:否定・肯定の両方がありますが、特に自分の人生をAIに決められることには否定的でした。ただ、こういう見方もあります。グーグルが出てきた時、グーグルに検索ワードが知られるのはプライバシーが侵されるから嫌だと強硬に否定する人がいましたが、結局は大多数が検索機能を使うようになった。それと同じようなことが起きているのかなとも思うんです。たとえば、あるアメリカの大学では、学生が自分に合う授業をAIに選んでもらっています。これは人生をAIが選んでいる事例ですが、学生達は全く否定的ではないのです。AIが選んだ授業はいい成績が取れて落第もしない、就職もうまくいくので学生の満足度は高いそうです。ですから、私はそういうふうに社会にしみ込むように入ってくるんじゃないかと思っています。

 

AIをどう使えば

人間は幸せになれるのか?

小川:ウェブサイトで行ったアンケートでは、一番肯定的に受け止められたのは「若返りの薬」で、自分も飲みたいと思う人がたくさんいました。一番否定的に受け止められたのは、「亡くなった人をコンピューター上でよみがえらせる」ことでした。

立花:「NEXT WORLD」を題材にした、ハーバード大学のサンデル教授と日米中の学生の議論(2015年6月放送「マイケル・サンデルの白熱教室 科学と幸福の話をしよう」)では、「結婚相手を決める時、完璧なAIの勧める相手と親の勧める相手のどちらを選ぶ?」という問いに、学生の半数がAIと答えました。親は考えが古くて思い込みが強いが、AIは公平に客観的にたくさんの候補者の中から自分にぴったり合う人を選ぶからという理由でした。

岡田:「NEXT WORLD」では、自分で結婚相手探しのマッチングのAIを開発して結婚した人の事例も紹介しました。彼は自分が開発したAIが選んだ女性はどの人も自分に合うと浮かれていたんだけど、何人も会ううちに、同じタイプの人としか会っていないことに気がついた。その人が最終的にゴールインした相手は、AIのレートは低いけど会ってみようと思った相手だったそうです。「AIは全てを決めないけど、AIの助けがなかったら彼女とは出会わなかった。だからAIはマストだ」という言い方をしていました。

澤本:彼の話は興味深いですよね。趣味嗜好が分かっている人とは絶対に話が合うんだ、というのはAIの話と関係なく自分にとっては発見で。ある人を「好き」だと思うというような、普段自分が何げなくやっていることをAIのフィルターを通してみると、自分はこういう理由でやっているんだなと分かりました。そう考えると、AIは敵というより、共存していけば自分の味方になるような気がします。

加賀谷:AIをどう使っていくと人間はハッピーになれるのか。将棋では人間の棋士とAIがペアになって対戦するようなことも始まっていますね。

岡田:AIは人間が考えつかない手を出してくるらしいんです。それを拒絶する人がいる一方で、そこから学べばいいじゃないかと考える人もいます。

小川:IBMのシェフ・ワトソンも人間が考えつかないようなレシピを作って料理界に衝撃を与えていますよね。

加賀谷:いろんな国の人が集まったときに宗教上の制限も考慮して皆で食べられるものを提案してもらったら、人間ではとても思いつかないレシピだったんですよね。

岡田:韓国風ギリシヤサラダとかね(笑)。実際食べましたが、比較的おいしかったです。食べたことはないけれど、新しいおいしさだねという。

加賀谷:課題解決はしているわけですね(笑)。

小川:あるAIを使ったビジネスでは、一人に一台パーソナルなAIを作ってより楽しい暮らしを提案しようとしています。ドラえもんが一緒にいるような感じでしょうか。

岡田:アメリカの大手銀行では、ソシオメトリックスバッジという電子版社員バッジを使っていて、社員がどこにいたか、誰と話をしたか全部記録し、それを元に働き方を改革しています。例えば、成績のいい営業の行動を分析して社員教育に使ったところ、非常に説得力もあり、やる気も高められたといいます。全部記録されるのは嫌だなと思いつつ、効率性という面では抜きん出ていると感じました。

 

コンテンツはAIでどう変わるのか?

加賀谷:最後にコンテンツの話をしたいんですが、コンテンツとAIはどうなっていくと思いますか。

立花:8Kは人間にとっての究極のディスプレーを考える中で生まれたそうです。目の前に見えているものは映像なのか現実なのか、区別がつかなくなるところまでやろうとした解像度が8Kなんです。でも、テクノロジーはきっと8Kでは終わりません。もっと高い解像度が実現したときに、われわれ映像やコンテンツを作る人間は何を作るんだろう? これからはそういうことを考える時代だと思うんです。

カメラメーカーの技術者のインタビュー記事で「未来のカメラは何を目標とするのか」をお話しされている記事がとても良かった。目の不自由な知人が、デジカメでご自分のお嬢さんの成長をずっと記録し続けているそうなんです。その方に「データはどうするんですか?」と尋ねたら、「いずれカメラのテクノロジーがサイボーグ技術と結びついて、僕の目も見えるようになるはずだから、その時に娘の成長記録を見るのを楽しみにしているんですよ」と答えられたそうです。テクノロジーが人間を超えることで、人間の幸せを形づくることも可能になるんだなと思いました。

小川:ゲームのバーチャルリアリティーはまだ解像度がそんなに高くないので、リアルな世界を再現できていませんが、8Kになったら、リアル以上の新しい世界が生まれるでしょう。ゲームクリエーターの水口哲也さんたちが、VRゲームのために開発したシナスタジアスーツは、振動素子をたくさんつけたスーツで、ヘッドマウントディスプレーと一緒に装着すると、本当にゲームの中の世界にいるような体験ができるそうです。そういうことが実現していくと、ゲームはもうゲームの世界ではなくなり、テレビはテレビではなくなっていきます。そういうテクノロジーを良いものとして使っていくように考えていかなければいけないと思っています。

澤本:今日のトークを聞いて、テレビ制作スタッフのすごさを感じました。激変していくメディアに対応していくには、新しい技術とうまく向き合っていかなければ取り残されてしまうということが分かりました。こういう番組を作ってくださったことに感謝します。

加賀谷:「NEXT WORLD」の第2弾を見たいと強く思いました。お三方にはぜひ頑張って続きを作っていただきたいです。本日はどうもありがとうございました。

<了>

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企画プロデュース:電通イベント&スペース・デザイン局 金原亜紀