僕はできるだけ目に見える価値でスポンサーにお返しする努力はしているが、今FC今治に付いてくださっている企業は、共感してお金を出してくれる。それを何とか大切にしたい。
実はそれが企業のブランディングや信頼につながり業績向上につながるのです。
たとえば、営業成績がダントツいい社員がいるとします。もう一人、売り上げはそんなに良くないヤツがいる。普通なら成績のいいヤツの方が「優れている」という価値観ですよね。
ところが、売り上げがいまいちの社員は、周りの人たちに愛され、親しまれている。そうすると、この社員は、売り上げの数字には表れない、「目に見えない資本」を持っているわけです。
数字だけでこいつは能力がないと決めつけるのはやめて、職場の雰囲気を良くしているなどの「目に見えない資本」も同じくらい認めなくてはならない。それが「多様性を認める」ということですね。
戦っても殺し合わない。スポーツは世界平和に貢献する
岡田:他にもスポーツにはいろいろな力がありますが、僕はその中でも社会課題の解決に貢献する力を強く持っていると思っています。
2020年のオリンピック・パラリンピックに向けて東京は「世界平和に貢献する」と、多少ベタでも宣言した方がいい、と僕は言っている。
入場式は国別じゃなくて、競技種目ごとに出てくるとか。それぞれの競技のメイン会場で、ファンを集めた「ファンフェスタ」を主催して、国境を超えた交流会を行うとか。サッカー会場のファンフェスタに行ったら、日本伝統の「蹴鞠(けまり)」が体験できるとか。
日本の文化を広めながら、国境を超えた交流を行うなどは、アイデア次第でしょう。スポーツはそうすることで「平和に貢献する力」を発揮できる。
林:全く同感です。2020年のレガシーは東京や日本国内ではなく、世界に向けて残していけることが大事になってくるように思います。例えば文武両道という言葉があります。中国で生まれて、ほぼ日本にしか残っていない概念ですが、日本はスポーツが学校教育での「体育」として人間形成の役割を果たしてきました。そのような価値を見直し、世界に発信するのもレガシーのひとつなんじゃないかと。
岡田:スポーツ本来の意味からすると、体育は全く逆の価値観です。行き過ぎるとよくない。しかしスポーツと体育の両方から、日本独自の新しい価値を生み出し広げていくのも大事かもしれません。
林:なるほど、そうですね。スポーツの効用は他にもありますか。
岡田:『闘争の倫理:スポーツの本源を問う』という、元ラグビー日本代表監督の大西鐵之祐さんが書いた本があります。その中で大西さんは「人間は戦争になって自分の仲間を殺されたら、捕虜を殺してしまったりする。人間の本性は恐ろしい。そこに行く前にくい止める理性はスポーツで養える」といったことを書いています。
人間は闘争本能をむき出しにすると、獣みたいになってしまうけど、それを抑えるのが理性の力です。この力を養うのもスポーツの大切な役割です。「ルールを守って、やっちゃいけないことをやらない。理性を失わないことが大切。そのためにスポーツが役に立つ」と説いています。
そして、スポーツでの交流は、本当に人と人とのつながりをつくってくれる。僕の会社「今治.夢スポーツ」は中国の人たちと交流を深めているのですが、サッカーの力があってこそです。

スポンサーは何のためにお金を出すのか? 2020に向けて
岡田:「今治.夢スポーツ」の企業理念は、スポーツのことではなく、「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する」というものです。
消費の拡大という目に見える方向ではなく、見えない消費を体現したい。
林:最近、クライアントもそういったアプローチを模索していると思います。中には、広告看板などの露出だけがその意義ではないと感じている企業も多い。「何のために協賛金を払っているのか、再定義したい」と。
岡田:やはり、現状に行き詰まりを感じているんですね。
林:一昨年、ブラジルワールドカップの日本代表の応援キャンペーンを企画、実施しました。「夢を力に」というキャッチコピーをつけて、サッカーをやっていない人も、代表選手が奮闘する姿を見て自分の持っている夢を追いかけていこうと、単なる代表応援にとどまらないキャンペーンを行いました。
それに対し、多くのスポンサーが「協賛する価値がある」と賛同してくださいました。日本代表の試合を通じて日本の社会に価値観をつくっていくことができたわけです。
岡田:スポーツは、まさに夢を力に変えることができますね。
林:私事ですが、娘が中学卒業時のレポートのテーマに選んだのが、日本代表の長友選手の書いた本でした。その本の中で、ミスしても自分を客観的に見つめ直す機会にして、常にポジティブ思考で乗り越えていくという長友選手の姿勢を知って、娘はえらく感動していたんですね。サッカーの日本代表選手が送り出すメッセージは、目に見えない価値を与えてくれると、痛感しました。
岡田:長友君も役に立つんですね(笑)。
林:2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、スポンサー企業はどのような価値づくりをしていこうか、思いを巡らせているところだと思います。岡田さんが今、今治でしていることは、その模範例というか、解答になるんじゃないかと。
岡田:スポンサーが、広告・宣伝費をかけて自社の宣伝をする。または社会貢献の活動を行う。その目的は、業績を上げることだけじゃないんですね。
企業活動は、必ず社会に役立っています。言い換えれば、必ず誰かを「笑顔」にしている。
例えば電通だったら、スポンサーを呼んできてくれて、僕が笑顔になる。そのスポンサーは、FC今治のいい試合を見て、笑顔になる。その試合を見に来たお客さんも、笑顔になる。
誰を笑顔にしているのかを考えることで、その企業の価値が見えてきます。そうなると、従業員のモチベーションがガラッと変わる。「うちの会社は、こんなすてきなことにスポンサードしているんだ」と社員が誇りを持ってくれる。
売り上げの数字にはすぐに出てこないけれど、従業員のモチベーションを上げている。そのことに、企業の人たちは気付いてきています。
林:確かにここ数年、そういう意識がクライアントに強く出てきていると感じることがあります。
岡田:数字に表れないといっても、そういう価値を大切にしていくことで、結果的には事業が成長するんですよ。広告・宣伝費を目前の売り上げのために使わなくても、結果としてちゃんと売り上げは上がります。
これはCSRなどと非常に似ている。「社会貢献は利益が出なくなったらやらない」と思っているかもしれませんが、実は社会貢献をきちんとやっている企業こそが、ちゃんと利益を生み出している構造があるんですね。
心から社会貢献をやることで、社員のモチベーションが上がるし、企業の存在価値がハッキリしてくる。そうしたら「気が付いたら売り上げが伸びている」という結果になっているはずです。
林:まさに岡田さんがFC今治のオーナーとして、今やっていることがそれですね。次回はFC今治のことについて具体的にお話を聞かせてください。
FC今治に関する問い合わせはメールアドレス fcimabari@dentsu.co.jp(電通スポーツ局宛)まで。
みなと交流センターの屋上で今治城を望む