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地域の「クセ」が鍵を握る!持続可能な地方経済圏のつくり方No.4

カードを並べて「地域のクセ」を見極めよ!新機軸「クセ発見ワークショップ」のススメ

2025/03/05

クセ発見ワークショップ~茨城県小美玉市

多くの地方創生施策に携わってきた電通のプランナー3人が、新たなアプローチとして「地域のクセ」という概念を提唱する本連載

※「地域のクセ」とは、その地域の底流にある「無意識の行動様式」のこと。地域の産業、観光、名物などすべての背景に存在する「クセ」を明らかにすることで、日本中に持続可能な経済圏を育てていこうという試みです。その詳細は第1回~第2回をご覧ください!
 

前回は、茨城県小美玉(おみたま)市を訪問。クセ発見の準備段階として、小美玉で活躍する「はみだしプレーヤー」にお話を伺う「クセ探検」を実施しました。今回は、収集した「クセのもと」を整理し、地域のクセを明らかにするワークショップをご提案します。

47CLUBの森尾俊昭氏、グローバル・ビジネス・センターの加形拓也氏、電通BXクリエイティブセンターの宮崎暢氏の3人の“クセ者”がお届けします。

<目次>

発言自体がクセ!「クセのもとカード」から地域のクセを探る!

ステップ1-a:地域の「具体的な事実(クセが生まれたわけ)」をピックアップ

ステップ1-b:そんなふうに考えるのか!「その地域ならではの意識」を何種類か抽出

ステップ2:俯瞰することで見える「行動様式」

ステップ3:「地域のクセ」を言語化する(共感づくりの一工夫)

今回のまとめ

発言自体がクセ!「クセのもとカード」から地域のクセを探る!

加形:前回は茨城県小美玉市の「クセのもと」を3人で100個ぐらい収集して、カードにしました。今回は、その「クセのもとカード」を並べて検討することで、実際に小美玉市の人々の無意識の行動様式、すなわち「クセ」を明らかにすべく、3人でワークショップを開発、実践してみました。読者の皆さんにも再現できるように、「クセのもとカード」から「クセ」を発見するためのポイントを紹介していきます!

森尾:ヒアリングの時の発言自体にクセって出ちゃいますよね。そこを深めてみたいな、と。ただ、今回ちょっと良い意味で誤算だったのが、小美玉市の皆さんは自分たちの強み、言ってみれば「小美玉市のクセ」について自覚的で、言語化もかなりできていたんですよね。「無意識の行動様式を探る」のがクセ発見ワークショップなんですが、「無意識じゃなくて意識的な行動様式」が多くなっています。

加形:クセがどれだけ自覚されているかは自治体によって大きくばらつきがあると思いますが、「小美玉はややレアケース」ということは一応、念頭に置きつつ読んでみてください(笑)。言ってみれば、地方創生の観点では“理想的”なまちなんですよね。

宮崎:ワークショップは、第3回でご紹介した「クセ発見ワークシート」を傍らに置いて進めていきます。とはいっても、地域によって個性もバラバラ。ヒアリング相手もはみだしチャレンジャー、想定を超えたできごともたくさんあります。

ワークシート1
本連載内でも、さまざまな地域を経験することによって、ワークシートの内容はアップデートしていく場合があります。基本的には最新記事のバージョンをご確認ください。

森尾:このワークシートは、クセ要素を整理して考えやすくするための、いわばフレームです。「クセ発見ワークショップ」を実践していただく際は、大きな模造紙などを用意し、みんなで付箋などに「中身」を書き込んで貼り付けていく運用を想定しています。

加形:平たく言うと、「地域のクセを見つける作業」を、地域の皆さんとわいわい話しながらできるようにしたものです。

森尾:とはいえ、われわれも地域の方々の発言がきれいにこのフレームにはまるとは思っていません。フレームからはみ出すこと、フレームの存在だけで嫌がる人、たくさんいますよね。それがかえって地域のプレーヤーの力強さを表しているのかな、と思ったりします。意図としては、その逆で、われわれが先入観なくフラットにお話を聞いたりワイワイしたりするためのモノだと思ってます。

加形:そうですね。なんにせよ、今回は小美玉市を題材に、われわれ3人で実際のワークショップの流れを一通りやってみましょう!

■クセ発見ワークショップ/ワークシート全体像

クセ発見ワークショップ/ワークシート全体像
①分析フェーズ:100個を目安に収集したクセのもとカード(前回参照)から、代表的な「事実」と「意識」をワークシート上にプロットしていく。

②発見フェーズ:そして「発見」の列に、「事実」と「意識」から見えてきたその地域特有の行動様式を文字にして、付箋を貼り付けていく。

③言語化フェーズ:最後に、「発見」した付箋の内容をまとめて「クセ」として言語化する。

ステップ1-a:地域の「具体的な事実(クセが生まれたわけ)」をピックアップ

加形:まず、集めたカードが、ワークシートのどの部分に該当するかを相談しながら、並べていきます。

森尾:比較的簡単なワークショップの導入としては、抽象的な行動様式や考え方よりも、具体的な事実内容を「自然」「なりわい」「歴史」のエリアにプロットしていくといいでしょう。ポイントとしては、地元の方がワークショップに参加していたとして、「うちの地域ってこんなものもあるんだ」という驚きがあると良いですね。

宮崎:地域共通のクセがどこからきているか?というと、気候や景観、地形や地質など、同じ地域に暮らす人が共有してきた「自然」、それら自然資源に端を発し、現代にいたるまで変遷しながら地域で営まれてきた「なりわい」、政治や経済など外的要因も受けながら地域が経てきた「歴史」ですね。これらは事実ベースのことがらが多く集まるはずなので、比較的簡単にカードの分類ができる。これが地域のクセのようなものと結びつくと、「なるほど~」という面白さが文脈の中に発見できます。

自然なりわい歴史

加形:ちなみに「クセのもとカード」のフォーマットについて補足します。今回は疑似ワークショップということで、記事用にかっちりとフォーマットをそろえていますが、無理に写真と組み合わせなくてもOKです。また、3つのカテゴリもそこまでシビアに考えなくて良いです。今回の疑似ワークショップでも、かなり気軽に分類・プロットしています(笑)。

森尾:あくまでも、いろんな角度から「クセ」を浮かび上がらせるのが目的なので、「フォーマットに沿う」ことを最優先にしてしまうと本末転倒ですからね。ワークシートは、なんとなくのガイドだと思っていただければちょうど良いかと。

宮崎:「自然」「なりわい」「歴史」のどこにもあてはまらない、考え方や行動の特徴などが書かれたカードは、次の「意識」のフレームに置いていきます。

ステップ1-b:そんなふうに考えるのか!「その地域ならではの意識」を何種類か抽出

加形:「事実」フェーズの3カテゴリに当てはまらないものは、いったん全部「意識」のところに並べてしまいましょう。いろんなシーンや、地元の人の印象的な発言を、なんとなく同じ共通点を持つ「かたまり」になるように分類していきます。できれば5個以上の「かたまり」ができるように意識してみてください。

森尾:分類のコツですが、発言を分けるというより、集めるという感覚でやってみると良いかなと思います。「この人のこの発言は、別のこの人の発言と通じるものがあるな」といったカードを集めて1つの「かたまり」にします。発言だけでなく、行動を書いたカードも寄せてしまいましょう。話し合いながらカードを置いていくうちに、そこに「なるほど!こういう文脈で考えてるのね」という「無意識の行動様式」が見えてくると思います。

宮崎:このとき、同じカードが別の「かたまり」にも重複して入ってしまっても大丈夫です。どっちにも当てはまるな、というカードがあったらその「かたまり」の中間に置いてみても良いと思います。この作業の醍醐味(だいごみ)は、「かたまり」同士の因果関係など、関係性にも注目して考えることです。そこからだんだん、地域ならではの「無意識の行動様式」が浮かび上がってくると思います。

「それぞれのやりたいことをやれる」ということを話しているかたまり
「それぞれのやりたいことをやれる」ということを話しているかたまり
「対話・お互いの関わり方」を話しているかたまり
「対話・お互いの関わり方」を話しているかたまり
「何でもじぶんたちでやろう」「じぶんでやる人を応援しよう」ということを話しているかたまり
「何でもじぶんたちでやろう」「じぶんでやる人を応援しよう」ということを話しているかたまり

森尾:ところで、「意識・無意識」の分類がうまくいくかどうかは、「クセのもとカード」自体の質にかかっています。重要なのは、前回記事で触れた「要素抽出」のファシリテーション手法ですね。ヒアリングして出てくる言葉自体、その地域のプレーヤーによって選ばれた言葉なので、その時点でクセのもとが満載です。

ヒアリング対象者の発言に対して、それが「どんないいことにつながるのか」「どんな特徴につながるのか」、さらには「その特徴は、どんな行動パターンに集約されるのか」ということを聞いていって、「クセのもとカード」に記入しておくことが大切です。

宮崎:「地域のことを語る言葉」を聞けたら、そこで終わらずに、さらに「その背景」などを聞いていくことで、カードの内容が深まっていくというわけですね。

加形:こんなふうに言われてしまうと、インタビューに慣れていない人には難しそうに思えるかもしれませんが、ヒアリング時に面白い発言があったら、「それって、例えばどんないいことにつながっているんでしょうか?」と、一歩だけ踏み込んで深堀りしてみるだけでも、カードの質は上がりますよね。

森尾:言ってみれば、深掘りした「要素」は、最初の発言よりも、より具体的だったり、抽象的だったり、いろいろな広がりを見せます。その広がりが、筋みたいにクセとして見えてくる言葉たちをつないでいってくれます。

宮崎:面白いのが、カードを並べてわいわいと話し合っていると、ヒアリング時の「言葉」には表れていなかった、カード同士の「つながり」が見えてくるんですよね。そのためにも、ヒアリングの際にうまく言語化できていない場合でも、「ちょっと気になるな」「引っかかるな」と思った発言はカードに残しておくといいですね。

森尾:ちなみになぜわざわざ「クセのもとカード」をつくるのかをおさらいすると、先入観で、答えありきのワークショップにならないようにするということですね。カードにしておくと、地域の皆さんの発言としてきちんと残るし、僕らが考えている時にも、根っこの発言に立ち返れるということなのだと思います。

宮崎:各要素が本当に「地域のクセ」なのかを検証するには、「同じようなことを複数の人が言っている・やっている」ことが重要ということですね。

森尾:そうなんです。まとめると、このワークシートというフレームを参考としていただければ、「クセ」の「クセたるべき」地域での共有感を把握することができるのではないかと思うのです。地域に特徴的な「行動」や、あるいはそれより抽象度の高い「行動様式」を並べて俯瞰(ふかん)し、共通項を見つけ出せたら、それは、もしかして「地域のクセ」っていうことですよね。

ステップ2:俯瞰することで見える「行動様式」

加形:ここまでで下ごしらえは完了で、いよいよ面白いところです(笑)。ここまで並べたカードをもとに、その地域の人たちが無意識にとってしまう行動を抽出し、「これは、クセなんじゃないか?」という仮説を立て、いくつかのパターンに分類します。

森尾:このフェーズでは、「これ、クセなんじゃないか?」と思ったら、大きめの付箋(ポストイット)などに書き込み、「発見」の欄にどんどん貼り付けていきましょう。今回はわれわれ3人で「事実」と「意識」のカードを吟味し、ごく自然に3つの「行動様式」を抽出できました。

宮崎:この時に、クセらしいものを見つける基準として、「つい◯◯しちゃう」があるか?を見るのがポイントです。例えば以下のような感じですね。

行動様式

宮崎:この連載では、クセとは「無意識の行動様式」と定義しましたが、地域の人が言ったりやったりしていることの中に、「誰に言われたわけでもないけど、そういえばついこういうことしちゃってるね」という共通のものが見つかったら、それが地域のクセとなる可能性が高いです。

森尾:ですから、ワークシートを囲んで議論する中で、地元の人たちが「ああそうだよね、みんなついやっちゃうよね」という共感で盛り上がる内容になっていれば、より「クセ」である確率が高まりますね。

宮崎:ただ、この段階ではたった一つの「クセ」に行きつかなくてもまずは良いです。人だって「なくて七癖」と言いますし、いくつもクセがあって当たり前なんですね(笑)。あくまでも「仮説」レベルで、いくつか考えてみましょう。

ステップ3:「地域のクセ」を言語化する(共感づくりの一工夫)

加形:いよいよ最終ステップ、「地域のクセ」の言語化です。1個前のステップで、いくつかの「これはクセなんじゃないか」という地域ならではの行動傾向、「クセ仮説」が見えてきたことでしょう。それを最終的に、1個か2個のクセに集約していきます。

宮崎:前のステップでポストイットに書き込まれた「クセ仮説」を、集約できないかを検討していきます。コツとしては、「クセ仮説同士で共通することは?」「このクセによって、何が起こる?」といったことを言葉にしてディスカッションするといいでしょう。

森尾:連載で何度か触れたように、地域のクセ概念は「未来に向けてポジティブな行動をつくっていけるもの」であることが理想です。ある意味で、地域のキャッチコピーになり得るような、行動指針足り得るような言葉に落とし込んでいきましょう。この段階ではコピーライティングができるメンバー、コンセプトやビジョンを書けるメンバーに参加してもらっていると良いかもしれないですね。

加形:今回、われわれ3人で「クセ仮説」を基にディスカッションした結果、以下の2つが「小美玉のクセ」なのではないか?という結論にたどり着きました。

クセの言語化

宮崎:仮説同士をすり合わせて、なおかつ「つい◯◯しちゃう」という行動様式に落とし込めていますね。こんなふうに、1系統に絞ろうとしていたクセが、最終的に2系統に分かれることがありますが、さっきも言ったとおり「なくて七癖」ですから、無理に1つに集約しようとする必要はありません。次回以降、「クセを使う」段階でも、2つ以上のクセを使い分けるケースは出てきます。

森尾:まずはここまででワークショップは完了です!ただ、最初に言った通り、小美玉はちょっと特殊なケースで、ヒアリングの時点でかなり「クセ」が見えていたところはあります。でも、他の地域でも基本的にこの手順で「クセ」を発見できるようにつくったつもりです。

加形:もちろん、「地域のクセ」という概念は生まれたばかりで、われわれも手探りですから、ワークショップのステップも、ヒアリングシートの書式も、今後どんどんブラッシュアップし、アップデートしていく予定です。もし「一緒にワークショップをやってみたい」という方がいらっしゃいましたら、われわれ3人にご相談ください!

次回は、ある意味でこの連載のクライマックスとも言える、「発見したクセをどう使うのか?」についてご紹介します!

 <今回のまとめ>

1.クセ案が2つ出てくる時もあるね、という気づき

2.つい、〜しちゃうよね、がクセ発見のキーワード

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