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一緒に考えよう。ライフ・ユニットNo.1

幸せの多様性。変容する家族のカタチ(前編)

2016/06/02

今、日本の社会では少子高齢化、生涯未婚率の上昇、単身世帯の急増、働く女性の増加、LGBTの認知などが加速し、“家族や世帯のカタチ”が変化してきています。電通ダイバーシティ・ラボ(DDL)では、これらの多様な家族のカタチを「ライフ・ユニット」と名付け、ライフ・ユニットプロジェクトを立ち上げました。この連載では、有識者へのインタビューを通してこの変化について考えていきます。
初回は、アエラ(AERA)の副編集長・木村恵子さんをお迎えしました。家族や世帯の変化を追い続け、2016年2月には「新・家族のカタチ」特集を企画した、木村さんの目線とは。

(左から)木村恵子氏、古平陽子氏

家族のカタチを考えるヒントは、実生活の周辺に

古平:アエラは育児問題や夫婦別姓など、家族や世帯にまつわる独自の企画を多く立ち上げてこられましたが、木村さん自身の経歴を聞かせていただけますか。

木村:1999年に朝日新聞社へ入社後、最初は新潟支局、次に千葉支局へ。そして本社へ戻る際、アエラも面白そうだな、と思い希望を出したんです。新聞記者時代は警察担当として被告や被害者を取材したり、政治家に話を聞いたりしていた時期もありました。とても有意義だったのですが、そんな特別な世界のことじゃなく、自分と同じように普通に生きている人たちの心を知りたいという思いがどこかにあったんでしょう。
2004年にアエラへ異動して以来、同世代のことを扱うのが面白く、ハマり込んではや12年。現在は副編集長として、全体を見ながら記者と一緒に企画を作っています。

古平:アエラでは、どんな記事を手掛けてこられましたか。

木村:私が入るまでのアエラは、国際・時事分野に強い媒体でしたが、元来の信条は「ニュースは人の心にあり」。より一般読者の心中にフォーカスする企画を増やしていった過渡期でした。当時ちょうど「負け犬の遠吠え」ブームで、私もまさに30歳目前。新聞記者には転勤が付きものなので、仕事は楽しいけど、結婚は、出産は…? という憂いのドンピシャな時期。
働きながら家庭をどう持つかという悩み、女性が社会進出する一方でがんじがらめになってしまう心理、就職氷河期を生きた“ロスジェネ”など。同世代の生き方、暮らし方をテーマに取材し、書いてきました。

古平:10年以上、そこは一本つながっているのですね。

木村:結婚したり、出産したりと、自分のライフスタイルの変化に伴って、興味の対象も変わっていきます。実際アエラの記者も、「負け犬の遠吠え」時代は独身者が、今はワーキングマザーが多いですね。ゆえに、“保活”だとか“子なしハラスメント”だとか、彼女たちが生活の周辺で感じている矛盾を企画化することも増えています。

古平:私も記事を読んで「あー、そうそうそう!」って感じさせられることがよくあります。

木村:自分たちの生活の周辺からトピックを拾うことで、共感を呼ぶ企画ができるのかもしれません。人の心に刺さると言えばいいけど、人の心をささくれ立たせるとも言われますよ(笑)。

別姓、独身、シングルペアレント、里親。多様化する世帯

古平:2016年2月8日号の「ひとり好きだけど子どもが欲しい」も、ドキッとするキャッチコピーでした。この号で「新・家族のカタチ」と銘打った特集をされたのはどんな経緯でしたか?

木村:現代日本の家族像は、ずっと手を替え品を替え扱ってきたテーマです。実は“婚活”という言葉も、言いだしたのはアエラ。別に婚活をあおろうとしたわけではなく…。昔だったら、適齢期になるとベルトコンベアーに乗るようにほぼ全員が結婚できたのに、今はボーッとしていたら従来型の家庭は持てない。「婚活が必要な時代って何だ?」ということを探りたくて、繰り返し企画を立ててきました。

婚活以外にもさまざまな取材をしてきましたが、人のライフスタイルは多様化しており、望みも十人十色なのに、はみ出すことへの圧力、古い制度、親や周囲の固定観念から自由になれない。さらに言えば、同級生の動きを見て「乗り遅れた」と感じるなど、そもそも自分自身の頭の中こそが全然リベラルじゃない。そういうことが全部、なぜなんだろうというジレンマがベースにありましたね。

昨年末、夫婦同姓が合憲という判決を最高裁が下した件があり、もう一度その問題を取り上げたいなと思っていたタイミングで、DDLからライフ・ユニットプロジェクトの提案を頂いたんですよね。それで、夫婦別姓も含め、これからの家族のカタチを考える特集号にしました。

古平:反響はどうでしたか?

木村:この手のテーマはいつもそうですが、「私も悩んでる! よくぞ言ってくれた」という人たちと、「伝統的な家族制度と秩序が壊れる。けしからん!」という人たちと、反響は二つ。賛否はあってしかりです。この号のちょっと前に“子なしハラスメント”という企画をやったことがありました。子育てしやすい社会について問題提起すると、一方で子どもを持たない選択をしたことで肩身が狭い思いをする人たちもいる。こちらも賛否両論、どちら側からもすごい反響がありました。

古平:夫婦別姓や子を持つ・持たないも含め、選択肢は本当に増えていますね。今回の特集を通して、改めて興味を抱いた家族のカタチはありますか?

木村:里親の話題でしょうか。取材をさせてもらった方は、未婚だけど子どもが欲しくて、里親になりました。里親になる基準や審査は、都道府県によって差はあれど、基本的にすごく厳しいんです。夫婦そろっていて高収入、かつ奥さんが専業主婦でフルに子育てできないと、というケースも多い。共働きでは難しいんです。この方は比較的制度の寛大な千葉県在住で、お母さんと同居。この方自身も里子として育ちました。そういう事情で希望がかない、今とても幸せそうです。

古平:里親制度って、まだよく知られていません。今どきそんな厳しい条件をクリアできる世帯はまれですね。

木村:どこにいるんだ?という。私の友人にも、結婚しても子どもができないとか、シングルでも子どもを育てたいという人が結構います。一方で日々幼児虐待のニュースを目にしていると、血がつながっていることが絶対なのか?という疑問が湧きます。先ほどの里親のケースでも、お子さんは自分が里子であることを理解し、里親ととてもいい関係を築いています。

また、たまたま私の近しい友人に、未婚の母がいます。周囲からはいろいろ言われていましたが、父親はいなくとも母子共にすごく幸せそうなんですよ。常識や固定概念を取っ払うと、実は幸福っていろいろなカタチがあるんだって、個人的にも実感することが多いです。

自分は何が幸せなのか? 模索して選ぶ時代へ

古平:頭で考えているだけだと、他の人の価値観や幸せのカタチを受け入れられないこともありますよね。だから実際にいろいろなケースの方と出会うことは大事ですね。

木村:取材を通して、実にいろいろな人生を垣間見ます。一見、従来型の幸せなカタチにハマっているようで、苦しんでいる人だって多いんです。家は立派だけど、世間体に縛られて、実情はギスギスしているとか。結婚相手は年上で、年収も自分より上でなくちゃと思い込んでいて、もがいている女性もいます。

果たしてそれは、自分自身が真に望んでいることなのでしょうか?今回取り上げた里親の方も、周囲からの偏見があったかもしれない。でも、それを乗り越えたから、自分らしい幸福にたどり着けたんです。本当はいろんな幸せのカタチがあって、勇気を持って選択する人たちも出てきているのに、何かの圧力で他人の幸福を認めないのって、おかしい。誰が何と言おうと、自分らしい選択肢が取りやすい社会になればいいのに。

古平:自分の目が曇っていて、本当の幸せが選べないのかもしれません。普通に生きていくと、いろんなプレッシャーやあつれきがあります。ベルトコンベアー式の人生はもう用意されていないから、自分にとって何が必要なのか、考えることを放棄しちゃいけないですね。

木村:そうなんです。私は福井県の出身で、親はいかにも北陸の古いタイプ。なのに娘は東京に出て、バリバリ仕事をしていて「おまえは道を誤った」とよく言われていました(笑)。そういう世代差や地域差による固定概念に影響を受け、親や世間が示す幸せ=自分の幸せだと思い込んでいる人の気持ちも分からないではない。全否定はできないですよね。昔ながらの価値観を無視するんじゃなく、これからの世代や、変わっていく価値観も知ってもらって、多様性を広めていきたい。

古平:いろいろな選択肢があっていいし、そのひとつひとつにある気持ちをお互いに理解し合いたいものです。

※後編につづく
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