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一緒に考えよう。ライフ・ユニットNo.2

幸せの多様性。変容する家族のカタチ(後編)

2016/06/03

昔ながらの“家族のカタチ“に振り回され、自分らしい生き方を選べない。そんなジレンマを抱える人が多い現代社会。新しい家族のカタチ=ライフ・ユニットを提唱する電通ダイバーシティ・ラボ(DDL)と、10年以上、多様な世帯や家族のケースを取材してきたアエラ副編集長の木村さん。個人個人のマインドを解放し、自由な選択を取れる社会を目指すため、企業やメディアにもできることがある。両者そろって、これからの社会の在り方を話し合いました。

(左から)木村恵子氏、古平陽子氏

さまざまな選択を同等に認め合うべき

古平:DDLでは、これまでの家族や世帯の固定概念に縛られすぎないために、ライフ・ユニットというネーミングをしました。初めて聞かれたとき、どう感じましたか?

木村:弊誌ではひとまず、「新・家族のカタチ」と冠をつけましたが、家族という言葉自体がもう古いのかもしれません。その響きで想定する像が、ある程度固定されちゃう。男女の二人親で子どもがいて、というような。性別や血縁の有無を超え、共に生きていく新しい世帯の呼称として、ライフ・ユニットは分かりやすいと思いますよ。メディアが率先して使うことで、世間になじめばいいですよね。

古平:家族という単語は、“家”と“族”から成り立っており、そこに個の概念はあまり存在していなかったのかもしれません。

木村:ライフ・ユニットという言葉の意味を知ってもらうために、新しい家族のカタチという補足を付けつつも、広がっていくといいですね。

古平:これまでアエラの取材を通して、印象に残っている新しい家族のカタチはどんなものですか?

木村:そうですね…。女性はアラフォーになって独身だと、いろいろ考えます。私が取材したシングル女性で、こんな方がいました。その取材対象者の方は、子どもを育てたいと切望し、婚活をしてきたけど、いい相手に巡り会えなかった。そこで、年齢的なリミットを考え、医療技術を使って子どもをもうける決断をし、行動に移したんです。
日本はまだ法整備が進んでいないので紆余曲折あり、壮絶な苦労を経て、結果、希望通りに子どもを産むことができました。「現実はもうここまできているんだ……」と、衝撃的な取材でしたね。

古平:海外ではLGBTのカップルが子どもを持つケースも増え、精子提供や代理出産なども発展していますよね。

木村:生殖や遺伝子の医療については、倫理問題もありますし、慎重に議論すべきかもしれません。でも、技術がこんなにも進歩し、すでに独身でも卵子凍結をしたり、海外で代理出産する例もあったりするのに、政治家は従来型の夫婦や家族制度にこだわっている。議論をしないままに現実が独り歩きしていることへの疑問は感じました。

古平:そこまでできる人は少数派だと思いますが、そのような希望を抱いている潜在層はもっといるのでしょうね。制度や仕組みが整っていればトライしたいという。

木村:今回の取材を通して感じたのは、「子どもがいなければ幸せじゃない」という固定観念を持っている人も少なからずいるだろうということです。出産したいという本能が強い女性もいるでしょうが、社会的プレッシャーや、親に孫の顔を見せなくてはというような強迫観念がどこかにあるのかも…。技術で幸せになるのも一つの選択肢だけれど、そもそももっと自由に、幸せのカタチを模索してもいいのかな、と。

配偶者も子どももおらず、好きな仕事をしながら、老後を友達同士で暮らそうが何ら寂しそうとも思われず、人生を謳歌していればそれでいいじゃん、って。それこそライフ・ユニットの概念が浸透し、そんな生き方が、結婚して子どもを持つことと同等の選択として認められる世の中になればいい。まだ日本はその境地に至っていないですよね。

古平:「負け犬の遠吠え」時代から、未婚・子なし=幸せとは言い切れない!?というような空気感が社会にあった気がします。でも、どこかカラッとしていましたよね。

木村:あの時代の、バブルを経験した女性たちにはまだ、自分を笑い飛ばすパワーがありました。「私達は独身だけど、生涯自分で稼いで、旦那の顔色を見る必要もないの」と。“負け犬”と自嘲しつつも、実は自分を誇っているようでしたね。
今の女性たちは当時ほど収入も安定しておらず、将来に不安を抱え、その胸の内はもっと切実です。 “子なしハラスメント”の話題にしても、子どもがいる方もいない方も、互いに肩身が狭く、センシティブ。アエラとしてもキャッチコピー作りに頭を悩ませるところがあります。

消費者が見ているのは、多様性に向き合う企業姿勢

古平:現実にどんどん進んでいく多様化に追いつくために、メディアや企業に求められることは何だと思われますか?

木村:メディアや公に発言する人が社会の空気を作るので、立ち位置は重要です。昔からの価値観を前提に発信しないのはもちろん、マジョリティー、マイノリティー、どちらかの側に偏らないようにしたいものです。消費の傾向も、昔と少しずつ変わってきていますよね。

商品そのものだけで評価するのではなく、「かっこいい企業が作っているものだから買いたい」「社風がクールだから就職したい」というふうに。商品だけはすごいけど、ガチガチの古い体質の企業では評価できない。広告で取り繕っても、ネット上などでボロが出る時代ですよね。若い消費者にライフ・ユニットの価値観が浸透すれば、先進的な取り組みをし、公平なメッセージを発している企業が伸びていくような気がします。

例えば、最近はLGBT向けの就職説明会を実施している企業もあります。自分が当事者でなくとも、マスだけに特化しない柔軟な対応ができる企業は信頼できるんじゃないでしょうか? 私たちメディアも、ヒット商品だけでなく、企業姿勢そのものを取り上げる機会が増えています。

古平:企業もメディアも、マスを取った方が効率がいいですからね。でも、誰しも自分の中にマイノリティー要素を持っている。だから、多様性に向き合う姿勢がある企業には共感できる。うなずけますね。

血縁や婚姻、恋人や友達だっていい。それがライフ・ユニットの大前提

木村:でも、一体、現代社会のマスとはどの層を指すのでしょう? もはや、独身世帯は社会において大きな割合を占めています。現実にどんどん増えているのに、古い概念ではまだ二人親世帯がマジョリティーで、独身やシングルペアレントはマイノリティーだと認識されている節がある。その現実を伝えていくのも、私たちの役割です。

古平:ちなみに、木村さんが注目しているライフ・ユニットはありますか?これから社会的影響力を持ちそうな。

木村:私自身の年齢的なこともあり、子育てのネクストステージのライフ・ユニットが気になりますね。子どもが手を離れた後、夫婦というユニットが生涯必要なのか? とは感じています。
夫婦間の閉じたコミュニティーに依存せず、配偶者はいても、友達と旅行をしたり、暮らしたりしているような人も実際にいますよ。熟年離婚とまではいかなくとも、いろんなつながりがある方が楽しそう。

古平:ライフステージの変化によって、一緒にいる相手が変わってもいいのかもしれません。今、高齢者の独居や看取りの問題が深刻化していますが、生涯夫婦だけで過ごすという概念から解放されれば、老後の在り方も変わりそうですね。

木村:倒れるもっと前の段階で、例えば余生を共にするコミュニティーや人生の次のステージのライフ・ユニットを形成できれば、それがセーフティネットになるのかもしれません。
今は、SNSを見ていると、多くの人が家庭や仕事以外に、趣味や同窓生などの複数のコミュニティーを持っていますよね。そういったゆるい横のつながりが、ライフ・ユニットに発展していくような気もします。

古平:今後、ライフ・ユニットプロジェクトはどうしていきましょうか。

木村:私たちメディアは、注目を集めるために際立ったレアケースを取り上げがちな面がありますが、ライフ・ユニットプロジェクトは、別に特殊な生き方を推奨するものじゃない。
男女の二人親世帯や専業主婦も当然、当事者が幸せならいいんです。それぞれが取りたい選択を、自由に取れるようになってほしいと思います。

古平:知られていないケースを紹介し、いろいろな生き方を紹介する。知った上で、従来の家族制の良さや血縁の絆を再認識したり、そうじゃない生き方の良さも認められたり。皆で考える場を設けるべく、種をまいていきましょう。

<了>
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