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アドバタイジングウィーク・アジア2016 何より勝るオーディエンス どのようなコンテンツで関係を築くかが問われる

2016/06/20

    業界のトレンドを網羅する、アメリカ広告業協会による一大イベント「Advertising Week」が、今年アジアに初上陸。5月30日から6月2日の4日間、東京ミッドタウンで「アドバタイジングウィークアジア」が開催された。50のパートナー企業・団体の協力の下、約90にも上るセミナーやワークショップが展開され、参加者は1万1000人を超えた。国内外から有数の経営者やマーケティング責任者をキーノートスピーカーに迎えた他、セミナーでは特にコンテンツをテーマとしたセッションや、メディア企業の提供セッションが目立った。

    ウェブ電通報では、イベント準備段階から連載「アドバタイジングウィークがやってくる!」(http://dentsu-ho.com/articles/3814)で紹介してきた。本記事では、デジタルマーケティングやグローバルなどの観点からキーノートを中心に俯瞰してリポートする。

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    生活者とパーフェクトな関係を築こう 

    デジタルツールが浸透し、生活者が主体的に発信することが日常化した現代の“Advertising”―広告とは、すなわち生活者と常に良好な関係を築く行為そのものを指すのかもしれない。マイクロソフトやウォルマートを経て、2014年春からキャンベルでソーシャル&デジタルマーケティングのグローバルディレクターを務めるウマング・シャー氏は、一時はほぼ過半の市場シェアを占めていたスマートフォンBlackBerryを例に挙げ、衰退の要因は顧客のニーズをつぶさに理解できなかったことだと説く。iPhoneやAndroidが徐々に普及すると同時に、オープンに使えるメッセンジャーサービスが望まれていたにもかかわらず、同社は自社製品のみでしか使えないサービスをプッシュし続けた。

    オーディエンスに支持され続けるためには、時にハードな決断も必要だ。シャー氏は「恐れないこと」と強調する。「ウォルマートのコーポレートコミュニケーションを担っていたときは、誤りのある記事に対して、記者や批評家に連絡したりプラットフォーム上で返答したりしていた。私が辞めた直後のことだが、誤解を含んだニューヨークタイムズの批判記事にチームがブログで丁寧に訂正したところ、結果的にその対応を含めた好意的な記事がポストされ、他のメディアでも取り上げられた。恐れはさておいて、自分のストーリーを語り、シェアすることが大事だ」

    生活者とパーフェクトなRelevance(関係性)を築き、ブランドが生活者に受け入れられ続けるには、五つの原則がある、とシャー氏。すばらしいアイデアには予算をかき集めてでも賭けること。安易な目標ばかり立てず、むしろ進んで失敗して学ぶこと。オーディエンスは何にも勝ること。ある段階では、撤退もまた大切であること。当初描いていた“成功”にこだわらず、その定義を変えること。シャー氏は、変化や失敗を恐れずに進め、という強いメッセージを聴衆に投げ掛けた。

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    キャンベル ソーシャル&デジタルマーケティング グローバルディレクターのウマング・シャー氏は、オーディエンスの重視を強調

    SIMカードが世界人口を上回るモバイル時代

    Facebookアプリは現在全世界で16億5000万人、少人数でのメッセージングアプリ「Messenger」は9億人に使われている。Messenger、およびFacebookが2014年に傘下に収めたメッセージングアプリ「WhatsApp」(ワッツアップ)を合わせると、1日に600億件もの情報がやりとりされており、これはSMS(ショートメールサービス)のピークである200億件の3倍の規模だという。

    Facebook アジア太平洋担当バイスプレジデントのダン・ニアリー氏は、マーク・ザッカーバーグCEOが今春の開発者会議において発表した今後10年間のロードマップを示し、注力する技術分野であるコネクティビティー、AI、VR/ARをあらためて解説。

    また、今後のビジネスにおけるFacebook活用の四つの切り口を提示した。まず、リーチとエンゲージメント。Facebookユーザーの66%は毎日アクセスし、5分に1回使っている。Instagramなどの“ファミリー”アプリも拡大中だ。

    次に、モバイル。「“これからは”ではなく、世界はすでにモバイルの時代に“なっている”」とニアリー氏は強調する。現在、世界の人口が73億人であるのに対し、アクティブなSIMカードは75億枚。それだけのモバイルデバイスが存在しているわけだ。「とりわけ日本ではモバイルでのインターネット消費時間が約2時間と、世界平均の1.5倍に上る。しかしメディア消費に対して、広告費は伸び悩んでいる。アプリが主流の今、クッキーが有効だったパソコン時代の考え方を変えなければ投資が進まない」

    三つ目は、クリエーティブキャンバス。言い換えれば、どんな表現方法でコミュニケーションを図るか。それは今や動画でのコミュニケーションが当たり前になり、次はVR/ARが広がるだろう、とニアリー氏。今年正式リリースしたライブ配信機能「Facebook Live」も、ユーザーの興味を強く引いているという。

    四つ目は、価値。ビジネス成果をどう指標化するか。CPCやシェア数など、さまざまな指標が発展しているが、最も大切なのは現実的なビジネスの発展だ。「本当にブランド価値が上昇しているか、購買に寄与しているかに視点が移っている。われわれはそうした成果の証拠を提示できるから、大きなジャンプをこの業界に起こせている」と語った。

    Facebook アジア太平洋担当バイスプレジデントのダン・ニアリー氏。Facebookのマーケティング活用について力説した
    Facebook アジア太平洋担当バイスプレジデントのダン・ニアリー氏。Facebookのマーケティング活用について力説した
     

    権限委譲と“Execution”を徹底した資生堂

    「『フォーチュン・グローバル500』にリストされた企業の約5割が、CMOを置いている。一方、周囲に聞く限り、CMOがいる日本企業は全体の10%以下のようだ。顧客にとってのブランドの価値は、マーケティングとイノベーションによってつくられる。日本企業はもっと、顧客を中心に据えた戦略的なマーケティングを考えていかねばならない」

    そう語るのは、資生堂 グループCEOの魚谷雅彦氏だ。20年にわたり日本コカ・コーラで各種ブランドを手掛けた後、2013年に資生堂に参画。当時、国内ビジネスは伸び悩み、海外では急成長を遂げていたものの、利益率が低いという課題があった。

    そこで氏は、オフィス内はもちろん各国の店舗や工場に出向き、「最初の100日をかけて4000人ほどのスタッフから直接話を聞いた」という。現場では、投資が足りず、短期的なセールスでプッシュせざるを得ず、ブランドイメージが低下し売り上げが伸びないという悪循環が起きていた。「これを断ち切り、プラスの循環に変えるには、やはり一人一人の意識が重要だ。人材育成が鍵だと考えた」

    そのための要素として魚谷氏が重視したのは、まずグローバルで考え、ローカルでアクションを起こすこと。ダイバーシティーはイノベーションの源であること。高いパフォーマンスと魅力的なカルチャーを生み出すリーダーシップ。そして、とにかく“Execution”、実行あるのみだと、スピード感を持って改革を進めた。

    そうした考えに基づき、資生堂は世界6地域に地域本社を整備し、各CEOに全面的に権限を委譲するという日本企業には珍しいマトリクス組織を敷いた。「彼らは部下ではないが、必要なリソースは当社からも提供する」。実際、ブランド価値の向上のため、2015年からの3年間にグローバルで1000億円の予算を割いている。最後に魚谷氏は、2020年までに日本の女性マネージャー職を25%から50%に引き上げることを掲げるとともに、「日本ブランドの伝統をもって、グローバルのウイナーを目指す」と強調した。

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    資生堂 グループCEOの魚谷雅彦氏。日本企業には珍しい、グローバルでのマトリクス組織の運営に乗り出している

    クリエーティブからAIまで多彩なテーマが展開

    連日、午後にはクリエーティブやイノベーションを切り口に、五つのトラックで多彩なセッションが開催された。博報堂ケトルの嶋浩一郎氏のモデレーターで展開された「熱狂を呼ぶコンテンツのつくりかた」では、作家のエージェントとしてヒット作を支えるコルクの佐渡島庸平氏、ドラマとコントの間を狙ったバラエティー番組「SICKS」はじめユニークな作品を送り出しているテレビ東京の佐久間宣行氏が登壇。SNS時代のコンテンツの考え方とともに、作家や芸人などとの関わり方も明かされた。

    「クリエーティビティー×テクノロジー」をテーマに展開されたGoogleの提供セッションでは、電通の佐々木康晴氏が、高齢者でも負担なく手を動かせて思考の活性化にもつながる「デジタルゆるスポーツ」を紹介。また、Googleのワールドワイドなクリエーティブチーム・ZOOに属する鈴木庸介氏と、dot by dotの富永勇亮氏から、位置情報や移動速度などのデータを使ってエリアごとに音楽を生成・視聴できるプレーヤー「SUUMO SOUND VIEW」が紹介された。

    WPPと同社のデジタルメディアエージェンシーEssenceの提供による「デジタルな邪魔もの:有意義な広告エクスペリエンスのつくり方」には、WPP APACのCDOスコット・スピリット氏とEssence Digital APACのCEOを務める松下恭子氏が登壇。先進国では50%もの人がアドブロックをしているともいわれる状況下、もっとコンテンツにもメディアにもクリエーティブ面での戦略が必要だと議論が交わされた。

    TBSテレビは、12カ国で制作、実に165カ国・地域で放送されているスポーツエンターテインメント番組「SASUKE / Ninja Warrior」を例にセッションを提供。同コンテンツがグローバルを席巻した要因、また電通と共に進める欧州版の開発やスポンサー開発などが紹介された。電通の提供セッションでは、世界のスポーツビジネスをけん引するアジアのスポーツビジネスのトレンドを解説。また同じく電通提供によるAI×データをテーマにしたセッションでは、次世代マーケティングの事例としてディープラーニングを活用した資生堂のプロモーション「uno SOCIAL BARBER」などが紹介された。

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    立ち見のセッションも続出。「熱狂を呼ぶコンテンツのつくりかた」より、左から博報堂ケトル 嶋浩一郎氏、コルク 佐渡島庸平氏、テレビ東京 佐久間宣行氏

    なお、アドバタイジングウィークアジアの公式サイト(http://www.advertisingweek.asia/)では、イベントのハイライトや、一部を除きセッションのオンデマンド配信を視聴できる。

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    2日目にはスペシャルイベントとして、東京ミッドタウンのアトリウムにてYouTubeクリエーターによるステージが展開された