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「人・もの・お金・情報」の循環で地方創生へつなぐ 

2016/06/24

今話題のふるさと納税。自分の故郷や応援したい地域などの地方自治体に寄付すると、納税の際に特別控除が受けられるシステム。寄付金の使い道を指定できると同時に、多くの自治体からはお礼の品も届く。このふるさと納税を多くの人に活用してもらいたいと、総合サイトを一早く立ち上げた株式会社トラストバンク代表の須永珠代氏に話を聞いた。

地方を元気にするサービスをつくりたい

 

2012年9月、ふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」を開設、これまでに累計800万件超の寄付申し込みを頂いています。もともとベンチャー企業で働きながら漠然と「30代で起業しよう」と決めていたのですが、実はふるさと納税ありきで起業したわけではありませんでした。ただ、起業するなら「地域を元気にするサービスをつくりたい」という思いはありました。出身地の群馬県伊勢崎市に帰省するたび、子どものころ通っていた駄菓子屋さんがなくなったり、シャッター商店街が目立ってきたりと、地方経済の衰退を肌で感じていたからです。

そこで長年関わってきたウェブを通じて、地域が元気になるお手伝いをできないだろうかと、仲間とブレストして挙がったキーワードの一つがふるさと納税でした。寄付者は生まれ故郷やお世話になった地域、応援したい地域など自分が選んだ自治体に寄付(ふるさと納税)すると納税の際に特別控除を受けられ、都市に集中しがちな税収を地方自治体に一部移転することにつながる。この仕組みに大きな可能性を感じたのです。

私自身、伊勢崎市に18年間お世話になりながら、働いているのはずっと東京なので、考えてみれば地元には一円も納めていない。多数の自治体が提供しているお礼の品として物産品が動くことで地場産業の活性にも寄与できる、寄付をする際にはその使途も選べると、ウェブを活用して「こんなにいい仕組みがある」と皆さんに伝えることならできる、と一念発起しました。

サイトでは当初、“納税”という言葉に身構えられないよう、分かりやすさや楽しさを心掛け、この制度と生活者を結び付けることを重視しました。その方向性は、寄付額が増える過程では奏功したと思いますが、私たちが目指しているのは、ふるさと納税の本来の意義でもある「自治体の施策やその効果を納税者が意識する」こと。ですので、少しずつその地域の課題や自治体の考え、ふるさと納税によって地域に何が起きているかといった情報やメッセージを発信できるように、サイトをつくり替えています。

トランスバンク代表 須永珠代氏
 

三方良しの仕組みを生かし、地域の自立のきっかけに

 

ふるさと納税の総額は拡大を続けており、15年度は約1653億円でした。なぜふるさと納税に関心が集まるのでしょう。それは、寄付者、自治体と地場の生産者が「三方良し」の関係を築ける仕組みだからだと思います。お礼の品を提供している地場産業の活性化につながっている事例は既に多数あります。

一方自治体はもちろん、そのお礼の品に使った経費の残金を住民に還元します。例えば、北海道にある人口5000人の上士幌町(かみしほろちょう)では、子育て・少子化対策の用途への寄付金で、なんと町立の認定こども園の利用料を今年4月から10年間無料にしました。すると「それなら子どもを預けられる」と、お母さんたちがこぞって働きだしたのです。お礼の品の出荷が増える中、人手が足りなくなったジェラート屋さんでもお母さんの働き手が生まれています。自治体と生産者と住民。ここでもウィン・ウィン・ウィンの良い循環が生まれ始めています。

サイトを運営しながら意外なことにも気付かされました。同じ寄付額なら、お礼の品が豪華な自治体の方が選ばれると思いますよね? 確かに初回はそういう動機の人が多いのですが、一度寄付するとその自治体がまず“気になる存在”になる。そして寄付金を発展的に使い、それをうまく伝えられている自治体にはリピーターがつくようになりました。地域と一丸となってお礼の品を開発したり、施策をどうPRするかなど知恵を出したりする自治体に寄付が断然集まり、物品をポンと用意しただけの自治体にはあまり集まらないのです。

自治体にとってふるさと納税は大きなチャンスですが、これに依存して寄付額を増やそうとするばかりなら、お金の循環はこの仕組みの中に閉じたままになってしまいます。先の上士幌町では、寄付金が雇用創出につながったことで経済が広がりました。

また、事業者にとって、自社の商品がふるさと納税のお礼の品として人気を集めたとしても、それはお礼の品の中から選ばれたにすぎません。そこにも激しい競争はあるのですが、寄付者の動向やコメントに注目すれば、もっとオープンに全国区で戦うためのマーケティングのヒントが山ほど得られると思います。

これらの先にあるのは、自治体や生産者の“自立”です。地域は今、そうした視点からどんどん動きだしています。

北海道豊富町の事業者を訪問。
北海道豊富町の事業者を訪問。
北海道遠別町の遠別農業高を視察。生徒たちが心を込めて作った加工品はふるさと納税のお礼の品になっている。
北海道遠別町の遠別農業高を視察。生徒たちが心を込めて作った加工品はふるさと納税のお礼の品になっている。

次のテーマは「人の循環」。都市との交流を生み出す

 

地方を元気にするためには、大都市だけでぐるぐる回っている「人・もの・お金・情報」の循環を地方にも生み出すことが大事だと考えています。ふるさとチョイスで人以外の三つの循環に多少のお手伝いはできたかなと思っています。でも大多数の自治体の一番の望みは、IターンやUターン、移住や定住なんですね。とにかく「人に来てほしい」。今、どうにか一人でも多くの人に地方へ移動してもらえるような仕組みをつくりたいと考えています。現状は、移動の第一歩となる都市圏と地方の人の交流がほとんどありません。そこで例えばふるさと納税のお礼として、地方をディープに楽しめる企画を設けたり、ふるさと納税とは関係なく新たにローンチした、ふるさと探しお手伝いサイト「ローカル日和。」で、まずは人的交流を促すプランをつくりたいと考えています。

地域に人が増え、産業が育って元気になれば、さらに人も必要になりますし、税収も豊かになり地方交付税に頼る必要がなくなる。そうした好循環が自立へ、そして地方創生につながることを信じ、これからも多様な事業を展開していきたいと考えています。