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DMCラボ・セレクション ~次を考える一冊~No.56

『CMを科学する』

2016/06/24

今回はデジタルインテリジェンス代表取締役の横山隆治氏による『CMを科学する』(宣伝会議)を取り上げます。
タイトルである「CMを科学する」。「科学する」とはどういう意味合いでしょうか。本書では「再現性を担保すること」と定義されています。取り巻く変数が非常に多く、効果を精緻に測定・検証することが難しいのが「テレビ」と、テレビで放送する広告素材「テレビCM」です。その広告効果の再現性を少しでも高めようとする試みの最新の状況が紹介されているのが本書です。

CMを科学する

インターネットにつながれたテレビはすでに1000万台近くある

「デジタル」というキーワードが昨今の広告業界では騒がしく叫ばれていますが、本書では「デジタルマーケティング」を、「ネット領域だけに閉じたもの」ではなく、「マス・リアル・ネットの三領域をデジタルデータで統合し、顧客導線を最適化する」(P.176)ことと定義しています。

ネットとリアルについては、早い段階から、さまざまな行動データが取れるようになりました。一方で、最も影響力が大きいマスメディアであるテレビには「視聴率」という単一の指標しかありませんでした。また、テレビCMの評価方法も対象者に強制視認させた上でのアンケート聴取が主な手法で、人間の反応の95%を占めるといわれる「無意識下の反応」まで探るすべはありませんでした。

しかし、いまや国内のテレビは1000万台近くがネットとつながり、今後もオリンピックに向けた買い替え需要などで、ネット接続されたテレビ受像機の台数は増加すると予測されます。ネットとつながったテレビはパソコンやスマートフォンと同じデジタルデバイスなので、「視聴率」以外の詳細な視聴ログデータを取ることができるようになります。CM素材の評価に関しても、脳波を計測するなど、ニューロサイエンスによるアプローチで、無意識下の反応を測定する方法が開発されています。

つまり、今までは困難だったマス領域でもデータによる検証で再現性を高めることが可能になり、先述の「マス・リアル・ネットの三領域をデジタルデータで統合し、顧客導線を最適化する」ことが実現可能になりつつあるのです。

ニューロサイエンスによるCMの評価

ニューロサイエンスによるCM評価手法の可能性のひとつとして紹介されているのが、電通サイエンスジャムが開発した脳波から五つの感性(興味・好き・ストレス・集中・鎮静)を分析できる簡易型評価キット「感性アナライザ」です。

この感性アナライザ、私も実際に手に取ってみたことがありますが、非常に軽く、頭に装着することへのストレスはほとんどありません。今までは脳波を測るためにはMRIを使用したり、大型の脳波計を装着しなくてはならなかったのですが、そのような特殊な状態にあるということ自体が測定結果に影響を及ぼす可能性が高く、実際の視聴環境とは隔たりがあることが課題でした。その点を解消する可能性があるのがこのデバイスです。

電通サイエンスジャムでは、この感性アナライザと過去のCMアーカイブを活用し、視聴時の脳波データの蓄積からパターンを探ることで、「効果の高いクリエーティブ」をつくるためのヒントを見つけ出そうとしています。

(補足:感性アナライザはその機動性を生かして、さまざまなマーケティングの検証実験に用いられています。例えば、海外からの観光ニーズを探るために、観光客にガイドをつけた場合とつけなかった場合とで興味度がどのように変わるのかを検証したり、ファミリーレストランの店舗内でストレスがかかりやすい場所はどこなのかを明らかにし、店舗設計の改善に生かしたりしています)

また、ニールセンでも脳波測定とアイトラッキングを組み合わせたニューロマーケティング調査を行っており、「注目」「感情関与」「記憶」といった三つの指標で分析しています。

その分析結果から、脳波の反応の違いは年代や人種や国籍以上に男女の違いが大きいということや、CMで商品カットにさまざまな情報を詰め込みすぎると注意が分散して効果が半減してしまうこと、文脈やストーリーを無視して機能説明を入れてもスコアは落ちてしまうことなど、今までも肌感覚として想定されていたことが、実際にデータによって裏付けられています。

また、アンケート調査でブランド名をきちんと回答している場合でも、無意識下では競合ブランドを想起していて、長期記憶には競合ブランドが刻まれてしまっている、といった懸念すべき事態があることなども、ニューロマーケティング調査によってはじめて明らかになりました。

「CMが科学できる」時代の具体策

このようにテレビに関するさまざまな視聴データが取れ、CMについても無意識下の反応まで測定できるようになり、これからますます「CMが科学できる時代」になっていきます。
そのような変化の中、本書で提唱されている今までと大きく異なる考え方が「キャンペーンもいわゆる「アジャイル」(即時対応)型に」(P.144)です。

テレビCMのアクチュアル到達をリアルタイムで把握して、ターゲット到達が足りないと見れば、入札型の動画広告で補完していく。つまり「リアルタイムの運用で最適にする」(中略)消費者からの反応もリアルタイムで把握し、対応できるのであればキャンペーン期間中にも何らかの施策実行をするべきだ。(P.144)

そのために著者は「7:2:1」の予算配分を提唱しています。その内訳は、すでに効果が検証されているメディアや手法に7を、新たにチャレンジして効果検証すべきメディアや手法に2を、最後の1は前述の通り、キャンペーン中に生活者の反応や競合の動向に対応できるように見ておく予算、というわけです。

最後に

ここまで、「いまテレビとテレビCMに起きている大きな変化の概要」「ニューロサイエンスを用いたCM評価手法」「データを生かすためにキャンペーンもアジャイル型を推奨」といったトピックをご紹介しました。本書には他にも「新しく登場したテレビ視聴データ供給サービスの紹介」、「データの分析から得られた知見の事例」、また「日本以上に急速にテレビの視聴環境が変化しているアメリカの最新レポート」などが掲載されています。これからはじまる「CMが科学できる時代」に備えるために必携の1冊として、ぜひ手に取ってみてはと思います。

電通モダンコミュニケーションラボ