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顧客接点としてのアプリ その活用のポイントとは

2016/07/29

スマートフォン・アプリの利用実態と開発最前線から見る未来像

スマートフォン(スマホ)が急速に普及し、アプリがインフラ化した現在。いわゆるアプリ関連業界ではない一般企業も、アプリを生活者との重要な接点としてアプリに注目し始めている。来店を促すクーポンや単発のキャンペーンだけではなく、業態に合わせて顧客の継続的な体験価値を高めるべく、各企業は工夫を凝らす。企業はどのようにアプリを活用していくべきか、さらにその未来はどう変わっていくのか。アプリを活用したマーケティングのスペシャリストである電通の文分邦彦氏、ダウンロード手法やそのマーケティングについてコンサルティングを行う電通デジタルの高橋学氏、そして、さまざまなアプリのUI(ユーザーインターフェース)デザイン・開発に関わってきたグッドパッチの日比谷すみれ氏が語り合った。

左から、高橋氏、日比谷氏、文分氏
左から、高橋氏、日比谷氏、文分氏
 

ミニマムでリリースし ユーザーと共に成長させていく

 

高橋:企業と顧客との接点において、アプリの重要性を見過ごすわけにはいかない時代になっています。それぞれの立場からアプリをどう捉えていますか。

日比谷:多くの人が日常をスマホと過ごす中、生活者の「あっ、これしたい」をカバーできるか、その先の体験をサポートできるか。それが重要だと思っています。

文分:私はかなり早い時期からアプリの企画に携わっていましたが、当時はいろいろな機能やコンテンツを詰め込んだアプリが多く存在していました。しかし、最近では、本当に必要な機能やコンテンツにフォーカスするようになってきたと感じています。

主要業界におけるアプリ利用実態マップ
縦軸をダウンロードの絶対数、横軸にアプリの起動率(日別起動率/月別起動率)の高低を置き、業界における主要アプリをピックアップし、平均化した数値でマッピングしたもの。●データ参照元:FULLER社のアプリ分析ツール App Apeを用い6月時点のAndroidデータで作成

日比谷:上の図版を見ると、成果が上がっていない左下の象限こそ、実は先行する事例が少なく、これからチャレンジしがいがある業界が多いですね。アプリとライフスタイルをいかに密接に関わらせ、リアル店舗とどう結び付けるかですね。

高橋:このデータは2月にも一度調べているのですが、今回再調査した6月には急速にダウンロード数が増えたり、逆にサービスが終了していることもある。変化のスピードについて、どのように考えていますか。

日比谷:出して終わりではなく、ユーザーの使用動向を調査しつつ常にアップデートし続けないと投資が無駄になります。初期に設定したゴールに対して、仮説はどのくらい懸け離れているか、定量的なデータ分析はもちろんグループインタビューやユーザビリティーテストなど、現場でのチェックが重要です。

高橋:企業の思い込みではなく、ユーザーの視点が欠かせないわけですね。

日比谷:ただ、どこに最初のゴールを設定するか、私たちのようなデザイン開発チームと企業が足並みをそろえることが最も大変であり重要です。企画を開始する段階で、最初から機能や要件を詰め込み「リッチ」にすることは現実的ではありません。まずはターゲットユーザーに対して今提供すべき価値をチームで定義します。その上で、そこにユーザーが本当に課題を持っているか、提供すべき価値は課題を解決できるのか。これを何度も話し合い、ミニマムラインを合意することがとても大切になります。

文分:同じく難しいのが、リリースの基準です。例えばハードウエアだと、メーカーは限りなく100%に近い完成度でリリースするんですね。しかし、その基準でアプリをリリースしていたら大変なことになります。

高橋:100%の完成形を目指して何カ月も開発にかけていたら、時代遅れになることもある。そうした中で、ベータ版を使いながら回していけるか、なのでしょうね。いろいろ試してお客さんと一緒に良くしていくという関係を、企業側がつくっていけるかどうか。耳の痛いレビューも顧客の貴重な意見だと発想を転換させ、すぐに改善に生かすことも、デジタルにおいては大事ですね。

高橋学氏

決定権あるメンバーでチーム形成 サービスの本質を常に意識

 

高橋:開発のステップで心掛けていることを聞かせてください。

日比谷:まず大事なのが、企業としてなぜこのビジネスをするのかという点を明確にし、私たちも含めたアプリ開発に携わるチーム全員に浸透させることです。その上で、どのようにしてデザインとテクノロジーで実現するかを考える。また、サービス開発においてはデザイン、テクノロジー、ビジネスの3領域の責任者の誰が欠けても話は進みません。そのため、私たちはプロジェクトの最初から必ずUX(ユーザー体験)デザイナー兼プロジェクトマネジャー、UIデザイナー、場合によってはエンジニアが一緒にチームを組み、議論の段階から全員がプロジェクトに携わります。アプリ開発に当たって企業に必ずお願いしていることは、ビジネスの責任者を最初からプロジェクトにアサインしていただくことです。定例会など普段のディスカッションに参加して意思決定をしていかないと、プロジェクトをスピーディーに進めることができないからです。

日比谷すみれ氏

文分:プロモーションの一環ではなくて、サービスの体験そのものをつくっていくという意識ですと、当然の体制ですね。

高橋:制作サイドからするとアプリは納品物の一つになりがちです。しかし、どういう形で顧客との関係づくりをし、どうビジネスを回していくのかを踏まえて開発しないと、すぐに使われないアプリになってしまう。その関係性をきちんと考えているアプリこそが、常に移り変わる顧客の要望に応え続けることができるのではないでしょうか。

文分:これまでの広告やキャンペーンは目立つことが求められることも多かったと思います。だから、他と違うものをつくりたいとか、独自性を出したいという要望が多かったのですが、アプリのUIにおいては独自性を出さない方が使いやすいこともあって、どこで独自性を出すかはしっかり検討されなければいけません。

アプリは最終ゴールではない 大切なのは顧客とのデジタル接点

 

高橋:アプリは企業にとって、まさに現代におけるデジタル活用の入り口です。だからこそ生活者の行動取集ツールとして常に顧客の「今」に向き合っていかないと、あっという間に時代遅れになってしまう。顧客のアクションの一番近いところにあるアプリを通じて、デジタルの未来にどう投資していくか、ノウハウをどう蓄積していくかを考える意識を持つことが重要でしょう。

文分:アプリは顧客接点の最終形ではないので、いつかは別形態のツールに取って代わられるかもしれません。しかし企業が顧客とのデジタルの接点を考え続ける必要性は変わらないと思います。

文分邦彦氏

高橋:大事なのはアプリそのものではなく、生身の人間とデジタルの接点づくりをいかに自然にしていくか。AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、自動運転などデジタルの現在の進展を考えると、将来的にはアプリの必要がなくなることも十分考えられます。その中で、ひとつの過渡期ぐらいに考えて俯瞰(ふかん)的に向き合うことも重要と思っています。今回の調査で、各企業が今装備している機能の類型化はできますが、ただそれを実施すればよいというわけではありません。むしろ、サービスやブランドに対し、ユーザーが求める機能をきちんと付けていけるかどうかが重要です。さらには半年後には新しい技術でもっと高度なことができてしまう可能性がある。それを、企業側がどれだけ意識し、そのスピード感についていける体制で臨めるかが今後求められるのではないでしょうか。

日比谷:これからもOSは進化し続け、スマホでできることは年々増えていきます。それをキャッチアップしアプリに取り入れていくというのも、企業や制作という立場には必要なことだと思います。

文分:デジタルのコンテンツをつくって、はやらせるということではなくて、やはり、マーケティングや事業そのものをデジタルでどう捉えていくかに尽きますね。

高橋:ありがとうございました。