オフィスポNo.11
ジム通いより「オフィスで毎日10秒の運動」が良い!? その理由をトップアスリートのトレーナーに聞いてみた
2016/07/29
ブレークタイムを利用して運動する「オフィスポ」は、プログラムが非常に重要だとブレークタイムデザイナーの奥村誠浩氏は語ります。どうすれば、運動とは縁遠い人に興味を持ってもらえるか。オリンピック選手から会社員まで、多くの人の身体づくりに携わるトレーナーの森実利さんにそのヒントを聞きました。
“悟り”から始まったトレーナーへの歩み
奥村:森さんは、トレーナーの前は競技者だったんですよね。中学時代は野球をやっていたとか。
森:そうです。その後高校に進学する際に「駅伝をやらないか?」と特待生の誘いがあり、そちらの方が好条件だったので、高校では陸上部に入りました。
ですが、練習の初日に悟ってしまったんです。
奥村:何をですか?
森:選手として上を目指すのは無理だなと(笑)。レベルが違い過ぎました。それでその日から、「トレーナーになろう、僕は裏方として生きていこう」と心に決めました。
奥村:すごい早い段階で決断したんですね…。でも、どうしてトレーナーをやろうと思ったんですか?
森:僕は中学3年生のときに、パーソナルトレーナーを付けていたんです。トレーナーという人が何をするのか知っていたこともあり、興味を持っていました。
奥村:トレーナーになると決めてからは、どのような経緯で今に至るんですか?
森:高校の頃は本を読み漁るなど、とにかく情報収集をしました。卒業後は、トレーナーのための専門学校に通い、さらにカナダのスポーツ専門学校にも留学して、学生とトレーナー業を両立して生活していました。
奥村:そして帰国後に、すぐ独立されたんですか?
森:はい。帰国するタイミングで、当時スポーツ関連企業にいた知人から「駅伝経験があるなら、ランニングアドバイザーをやってみない?」と誘われて。さらに別の知人の紹介で、さまざまなアスリートのトレーナーをすることにもなりました。
オフィスポに求められる“ゆるさ“とは?
奥村:僕は、スポーツゲインの岩田さんからの紹介で森さんと出会いましたが、当時からかなり異色のイメージがあります。
森:よく言われるのですが、トレーナーっぽくないということですよね?(笑)
奥村:いい意味でゆるいというか。オフィスポは、既存の競技の型にはまり過ぎている方だと、なかなかいいプログラムを考えられないんです。
森:基本は、着替えずにできるライトな運動ですからね。
奥村:そうなんです。「ストレッチとはこういうもので」とか「これはこういうもので」という固定観念が強すぎると、オフィスポに合ったプログラムにはならない。
先日一緒にやった「ブレストレッチ」もまさにそうですが、森さんは柔軟にオフィスポに合わせてメニューをカスタマイズしてくれますよね。
森:それは早い段階で、「オフィスでできる、意味のあることをやろう」という共通認識を持てたからだと思います。
日本人は4%の人しか運動していない?
奥村:森さんがオフィスポに共感してくれた背景にはどんなことがあったんですか?
森:それは、トレーナーというのは運動したい人にしか接することができない仕事だからです。日本のフィットネス人口は約4パーセントだといわれています。幼児や高齢者を加味しても、かなり少ない数字だと思います。
奥村:僕自身も社会人フットボールをやっていたりして、周りにスポーツをしている人が多いので、この数字は想像よりもはるかに少ない印象です…。ここからさらに、トレーナーを付けている人となると、さらに少ないんですね。
森:そうなんです。ちなみに、この数字は米国だと20パーセントくらいだといわれています。また、一般の人でもトレーナーを付けることが普通だったり、そもそもスポーツをしている人たち自体も身体に関する知識がトレーナー並みに高かったりします。
奥村:日本では、やっとビジネスエリート層などを中心にトレーナーが普及しつつあるところですもんね。その一方で、オフィスポは“96パーセントの人”に運動をする機会を提供するものなので全く逆ですね。
森:そうなんです。先ほどの通り、僕がトレーナーとして関わるのは、大なり小なり「運動をしたい」と思っている人たちです。それは1対1でも、100人規模のイベントでも同じです。しかし、オフィスポはそういうところにいない人たちに参加してもらうことが目的なので、こちらから歩み寄る必要があると思いました。
奥村:そうですね。会社でオフィスポっていうのをやるから、なんとなく行ってみたら楽しかった。まずはそんな体験をしてほしいですね。
森:できることからやる、というのはすごく大切ですよね。これは私が教えている方にもよく言いますが、無理は続かないんです。
例えば急にある日から、毎朝のウォーキングを始めるとします。簡単そうに思えますが、実は毎朝早く起きることと、運動することという二つのハードルがあるんです。いきなり二つもハードルがあるので、続けられないのはある意味当然です。意外に聞こえるかもしれませんが、無理をしないことが実は重要です。
奥村:そうですね。“96パーセントの人”も、運動した方がいいことは頭では分かっているはずです。だから、「やっぱり、身体を動かすっていいよね」と身をもって感じてもらうきっかけをつくれたらという思いはあります。
オフィスポのプログラムはなぜ簡単なのか
森:きっかけづくり、という意味でいうと、スクリーンセーバーの企画はまさにそうですね。あれはどういった経緯で生まれたんですか?
奥村:例えば打合わせから席に戻った瞬間って、絶対にひと息つくと思うんですよね。そのときに目にするパソコンのスクリーンセーバーに、その場でできるストレッチのメニューが表示されていたら、きっかけづくりになるんじゃないかと思ったんです。
森:なるほど。その方法であれば、やるやらないは個人の判断ですもんね。それでいいと思います。僕の経験則でも、「これやってください」で続いた人はあまりいません。
それに、きっかけがあれば「運動したいな」という気持ちが芽生える可能性もありますよね。そのきっかけが1回でいい人もいれば、10回必要な人もいるとは思いますけど。
奥村:だからこそ、オフィスポは継続して接点を持ち続けることが大切なんです。「身体を動かすって楽しいな」という体験の積み重ねが、健康への意識を自然に高めると思います。
森:確かに「ジムに通いましょう」というのはハードルが高いかもしれないですけど、「オフィスで着替えいらずの軽い運動をしましょう」というのは、決して高いハードルではないですよね。
森:一方で、最近よく考えるのは、健康であることと幸せであることが必ずしもイコールだとは限らないということです。例えば健康のために家族を犠牲にしては、それを幸せとは呼べませんよね。だからバランスが大切なんです。
まずはリフレッシュ目的で10秒だけストレッチをしてみる、そんな軽い気持ちでいいと思います。続けることで必ず変化が現れますから。