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“クリエーターをクリエート”する舞台裏 ─本紙連載企画「ArounD 30」を振り返って─

ArounD 30 ○○をもっと面白くするアイデア №21

  • 佐藤 義浩
  • 伊藤 美也子

2017/04/20

“クリエーターをクリエート”する舞台裏
─本紙連載企画「ArounD 30」を振り返って─

月刊電通報では2015年1月号から16年12月号まで、電通の30歳前後のアートディレクター(AD)のビジュアル作品を紹介するコーナー「ArounD 30」を掲載しました。共通テーマは「○○をもっと面白くするアイデア」。実はこのコーナーの舞台裏には、企画段階から参画し、担当AD24人を支え続けるという重要な役割を果たした二人がいたのです。それは、電通アカウント・マネジメント局エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクターの佐藤義浩氏と、同人事局人材育成部の伊藤美也子氏。今回は二人に、2年間の思いや心掛けたこと、クリエーターにとって大切なことなどについて聞きました。

(左から)伊藤美也子さん、佐藤義浩さん
(左から)伊藤氏、佐藤氏
 

モノそのものではなく概念や常識を変える

 

佐藤さんは、アイデアの検討から完成までのクリエーティブディレクションを、伊藤さんは30年近くクリエーター育成に携わってきた視点からADとのコミュニケーションを担当しました。「ArounD 30」を振り返って、苦心した点や心掛けてきた点をお聞かせください。

佐藤:まず「○○をもっと面白く」という統一のテーマが、自由に考えられるようでいて意外と大変でしたね。クリエーターそれぞれにアイデアを提案してもらう際、視点の位置のディレクションに一番苦心したかもしれません。つい、モノに寄ってしまうんですよ。

伊藤:例えば「傘」であれば、傘自体を面白くではなく、「雨の日をもっと面白く」するにはどうするか、といったアイデアになるように話し合っていきましたね。

佐藤:モノそれ自体より、考え方や常識を変えることで見え方が変わってくることを投げ掛ける企画にしたいなと。アートディレクターの仕事って、そもそもプロダクト開発ではなくて、アイデアを形にして発信することで何かを伝えていくことなので、まずは既存の概念を変えるアイデアそのものが大事だと思っていました。

伊藤:同時に、その投げ掛けがこの小さいスペースでパッと伝わるビジュアルになっているか、というのも毎回クリエーターと一緒に考えたことです。音とか、動きが関係するものは表現も難しかったし。結構、佐藤さんがヒントを出していましたよね。

佐藤:見る人に意図が伝わるかどうかというのは、ちょっとしたことで変わってくる。広告的な要素として意図や考えがしっかり伝わらないと。言葉で説明しがちなので、極力言葉は入れないようにしていました。

佐藤氏
佐藤氏

伊藤:最初の打ち合わせで担当のクリエーターが2案、3案持ってきたとき、佐藤さんは「こういうのがいい」という考えがあっても、絶対にご自分では選ばない。必ず「君はどれをやりたい?」と聞きますよね。

佐藤:そうでしたね。いちばん大切なのは「自分でやった」という手応えを持てることなので、基本的に否定はしません。アイデアの背景にある思いを否定しちゃうと、もうなにも残らなくなってしまうので、なぜこれなのかをしっかり聞いて、その案のいいところを見つける。本人の一押しが「え、これ?」という案だったりすることもたまにはあったけど(笑)。

伊藤:この企画はクライアントワークではないから、普段の業務ではなかなか出せない個性も出せるといいなと私は思っていました。だから、佐藤さんが本人の話の中で核心を突いたところを褒めて、本人の希望が通る形で最後には「僕もそれがいいと思う」と言うと、ハッとする感覚がありました。

佐藤:褒め上手ですから、僕は。

伊藤:ですねぇ(笑)。

伊藤氏
伊藤氏

 

 2年目では制作プロセスを変えたり、作品サイズを限定したりしました。お二人から見た違いはありましたか。

佐藤:最初は僕らも手探りでしたし、担当クリエーターも前例がない分、頭を悩ませたと思います。それぞれの力業で切り開いてくれましたね。進行の点では、1年目はメールベースで進めることが多かったのを、2年目はアイデア出しの段階から伊藤さんも交えて打ち合わせするようにしました。それぞれ忙しいけど、仕上げまでに3回くらいは会って話し合うようになったら、スムーズになった。サイズは当初、アイデア優先で本人が3パターンから選べるようにしていました。でも2年目から横長で固定したんですよね。制約がある方がジャンプできるというけど、横長レイアウトを生かして発想を広げてくれました。

伊藤:紙面の中で定位置にしたのもよかったですね。読み手に分かりやすくなったと思います。

 

クリエーター育成の肝は「答えを言わない」こと

 

 お二人はたくさんのクリエーターを育ててこられました。指導する上で、どういったことを心掛けているのでしょうか。

佐藤:先ほどの「基本的に否定しないこと」は、通常の業務でも同じですね。どんな企画でも、いいところをまず見つけて、それをベースにして足りない点や軌道修正などを相談していきます。その際も、僕の方から「こうしろ」とは極力言わずに、なるべく本人が決めたようにしていきたい。結果的に自分で成し遂げたという感覚を持てることが、自信をもたらしますし、次へつながると思っています。

伊藤:ヒントは出すけど、選ぶのは本人なんですね。

佐藤:そう。これ、我慢が要るんです。答えを言わない、じっと待つ我慢。特に最後の一歩には時間がかかります。でも、「結局クリエーティブディレクターの指示通りにつくったな」という仕事は、どれだけ外部に評価されても心に残らないし、本人のためにならないんです。最後の一歩を自分で踏み出して得られる、自分がやったんだという気持ちが、そこからまた成長する元になると思います。

佐藤氏
佐藤氏

伊藤:あと、引き算というか、整理してあげる役割もありますよね。見る人の視点になると、これはなくてもいいかもね、ない方が分かるね、みたいな。

佐藤:そうですね。本人には思いも大事にしたいこともたくさんあるからこそ、絞り込みがなかなかできない。だから、ディレクションする側は同じところに立たないことが大事ですね。ちょっと上から見ると、必要なものとそうでないものが見えてくる。全部を生かしてあげようとすると永久に変わらないので、そこは引き算です。立場という点では、伊藤さんの立ち位置は絶妙ですよね。僕らディレクターはどこまでいっても上司だから、どの意見も上からになってしまうけど、伊藤さんは横にいる。

伊藤:佐藤さんがオン・ザ・ジョブで育てているとすると、私はオフの方で見ているから、オフでやれることってなんだろうといつも考えています。例えば、メールでもすぐ返すとか。「いいねぇ」とか簡単な一言ですけど、新入社員の日誌に毎日コメントを返していたので、習慣がついたんだと思います。

佐藤:クリエーターはやっぱり一人作業のところがあるから、ふとしたときに隣に伊藤さんがいてくれる心強さはあるんじゃないかな。

伊藤:そうだといいですね。子どももそうですけど、自分をずっと見ている人がいて、「これでいいんだ」と思えると、続くんですね。各局に配属になる前、何カ月か一緒に時間を過ごす中で、やっぱりこの仕事を好きになってもらいたいと思うので、リアクションって大事だなと感じます。

 

 クリエーティブの新入社員育成に携わるとなったときは、戸惑いませんでしたか。

伊藤:戸惑いましたね、私はクリエーターではないし、そんなのできませんよと思いました。でも、当時の上司に「いいやつとたくさん会わせてやればいいんだよ」と言われて、それがすごく印象的で。あ、そうかと思って、その時々で一番活躍している人に新人の前で話をしてもらうようにしたのが、今のクリエーティブ研修のスタイルの元になっています。それと、クリエーティブ採用ではなく、総合職で入社してからクリエーティブに来る人が多いので、勉強の仕方を少し教えています。例えば「アドシャワー」と呼んでいるんですが、これまでの優れたクリエーティブを、シャワーを浴びるようにたくさん見るんです。それは、ひとつの基礎体力になっていると思いますね。

 

突き抜ける前夜は時間がかかる

 

── 数多くのクリエーターの成長を見守ってきたお二人は、クリエーターの資質をどのようにお考えですか。

伊藤:私はすぐ、性格だとか人柄だと言ってしまうんですが、なかなか連絡をくれない人が優れたクリエーティブを発揮することもあるので、そうとも限らないですね(笑)。でも、広告会社のクリエーターなので、人の話をしっかり聞いて自分の考えを伝えられるとか、アイデアを皆で持ち寄ったときに熱意を持って語れるとか、そういうコミュニケーション能力は大事だろうと思いますね。

伊藤氏
伊藤氏

佐藤:クリエーティブの資質は、新入社員のときにある程度は分かります。例えば伸びしろがある、完成していない人。凝り固まらないで、広告じゃないことも常に考えている人の方がいい。でも、右肩上がりで順調に伸びる人はそんなにいなくて、何か一つの仕事でポンと伸びるんです。一流といわれている人はどの人も、「あ、これでいいんだ」と自信を持ったときを境にブレークしていて、その直前はすごく苦しんでいるということを皆に知ってほしいですね。それから、カンのいい人。こちらの出すヒントに対して感度が高いというのかな。僕の話に自分の考えをつなげて、どんどん思考が発展していくような人。その止まらない感じ。自分の中で内向きに考えるのでもかまわないんですが、そこで完結せずに、外に出したがる人の方がいいですね。

伊藤:そうですね。また、育っていくのは職場なので、本人の資質と同じくらい、先輩や仕事との出会いも大きいですよね。

佐藤:そう思います。その点でも、伊藤さんの言われた性格の良さ、明るかったり柔らかかったりというのも大事ですね。自分からチームに入りたいと言って受け入れられるか、先輩からどれだけ吸収できるかは、そういうことに左右されたりするので。

伊藤:あと、資質といえるか分かりませんが、皆、表現に対して粘り強いですよね。その大本にあるのは、クリエーティブが好きだという気持ちなのかな。

佐藤:そうですね、好きだと、いくら考え続けるのも苦にならない。発想したり表現したりすることが好きかどうかが、伸びる資質でいちばん大きいのかもしれないですね。

(聞き手:編集部)
 
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