カンヌライオンズだけではない「注目すべき世界のクリエーティブ&テック系イベント最新事情」
2016/09/06
イベント仕掛け人が語るイベントのトレンド
「イベンターの、イベンターによる、イベンターのための夏のフェス」を掲げたイベント「BACKSTAGE 2016」が8月30日、東京・虎ノ門ヒルズで開催され、インターネット業界・メディア業界を中心とした28人のゲストによる11のトークセッションが繰り広げられた。電通からは、CDCの中嶋文彦氏が「海外テクノロジーイベントの最新トレンドを見通す〜アメリカ、ヨーロッパ、アジア〜これからの潮流とは?」にモデレーターとして登壇した。
広告業界ではフランスのカンヌライオンズの知名度が高いが、クリエーティビティーとテクノロジーの融合などに伴い、注目すべきイベントが増えてきている。そんなイベントの最新動向を北米・アジア・ヨーロッパの地域に分けて解説した、このセッションの模様をレポートする。
日本の参加者も続々 ― SXSWでクリエーティブ、テクノロジー、カルチャーの未来をのぞく
スタートアップ企業とのアライアンス構築やプロダクト開発を専門領域とし、イベント参加者としてだけでなく運営者、登壇者の経験も多く持つ中嶋氏。同氏がゲストに迎えたのは、海外のイベントに精通した未来予報研究会の曽我浩太郎氏、宮川麻衣子氏と、THE BRIDGEのコファウンダー・池田将氏の3人。
初めに北米エリア注目のイベントとして、米国・テキサス州オースティンで開かれるサウスバイサウスウエスト(SXSW)が曽我氏と宮川氏から紹介された。SXSWはミュージック、フィルム、インタラクティブを柱にした、世界最大級のクリエーティブビジネスイベント。曽我氏は「10日間の開催で10万人が参加し、380億円の経済効果がある」と話した。
特徴は街を挙げたジャンル横断型のイベントであることだ。デモ(展示)、トークセッション、ピッチ(プレゼンテーション)、ミートアップおよびパーティーといったあらゆる形式を取り入れながら、音楽・ファッションからVRまで幅広いジャンルのテーマの未来を垣間見ることができるのがSXSWの魅力。近年は日本からの参加者も増え、2016年(3月開催)は700人以上がオースティンを訪れた。「企業のマーケティング担当者などの参加も増え、しかもプラチナパスで音楽やフィルムのエリアにも顔を出す方が多い。イベント全体を通じてテクノロジーやクリエーティブの未来がどうなっていくのか吸収する人が多いのではないか」(曽我氏)とその傾向を分析した。
また、未来予報研究会はSXSW日本事務局の公式パートナーも務めている。そのような背景から、日本からの参加者のつながりを継続させるコミュニティーづくりも行っている。中嶋氏も「これからは当日に参加して終わりという”単発型”ではなく、イベントを通じたその後のコミュニティーづくりがより重要性を持つようになるだろう」と述べた。
日本はスタートアップ後進国?シリコンバレーも注目するアジアのテック系イベント
続いて池田氏は、アジアとヨーロッパ地域におけるテクノロジーイベントの潮流を紹介した。日本語圏・英語圏でスタートアップ企業のニュースを中心に情報発信をする同氏は「テクノロジーというと北米を意識しがちだが、実は世界中で盛り上がりを見せている」と話す。
アジアでは、beGlobalに代表される韓国のイベントの注目が高いことを指摘した。「シリコンバレーの起業家には韓国・中国系のバックグランドを持った人が多いこともあり、日本以上に米国とのつながりが深い。実際に米国に進出するための足がかりになっていたり、シリコンバレーの投資家やGoogleのような企業が参加したりする場になっている」(池田氏)と、日本とは異なる韓国の現状を語った。
また東南アジア地域もスタートアップや関連イベントの熱が高い。「各都市(国)間の行き来がそれほど容易にできないため、イベントを開催することで一気に人が集まる」(池田氏)という事情もあり、中国のAsia BeatやタイのTech Sourceの他、シンガポールのTech in Asia、中国のGMICといった日本にも進出しているイベントが盛り上がりを見せている。
イベント海外輸出を進めるヨーロッパ
ヨーロッパでは、スペインのMobile World Congressと 4YFN(4 years from now)やアイルランドのWeb Summit(※2016年はポルトガルで開催)など、アジア版が開催されるようになっていることが特徴だと池田氏は紹介する。また、英国では社会性の高いテーマやテクノロジーの基礎技術に関わるテーマが多いことや、ヨーロッパ全体としてフィンテックやAIといった特定の分野に特化したイベントが増えてきていることなどが特徴になっている。
これからのイベントでは何が重要か ”イベントのプロ”が語る三つの潮流
セッションの後半は登壇者によるディスカッションが行われた。これまで数多くのイベントに関わった登壇者からは、まとめとして三つのポイントが挙がった。
登壇者になる
中嶋氏は「イベントは単に参加するだけでなく、登壇することで人とのつながりなど参加する価値を高められる」と述べた。また宮川氏も「SXSWでもFacebookやGoogleといったトップ企業からの登壇などで1200以上のセッションが催されるが、そのうち数百ほどが公募枠から選ばれている。選考方法は非常にオープン、さらに性別や国籍など登壇者のバックグラウンドの多様性も重要視されていることが特徴で、毎年4000ほどの応募が集まっている」と登壇者の一般公募があるイベントとしてSXSWの例を挙げた。同イベントでは毎年6月から7月にかけて応募を受け付けている。
コンテンツとテクノロジーの融合
宮川氏によると、SXSWはサービスやプロダクトなどテクノロジー寄りのイベントという印象もあるが、昨年からは原点である音楽やフィルムといったコンテンツと、テクノロジーとの融合が進んでいる。「中継技術、スポーツイベントなどの新たな領域に注目が集まっている」(宮川氏)ことや、「昨年は『エクスマキナ』というAIをテーマにした映画作品が上映されたが、まさにこれもテクノロジーとメディアの融合の一つの形だ」(曽我氏)とSXSWでのトレンドが紹介された。
イベントからコミュニティーに
自身もThe Bridge Fesでイベント主催者を経験した池田氏は「人をつなぐメディアの発展形としてイベントを開催したが、さらにイベントにも物足りなさがある」と指摘、参加者同士がコミュニティーをつくることの重要性を語った。The Bridgeではこうした思いを反映させ、「イベントの隙間をうめるためのコミュニティースペース運営」の取り組みに着手している。
これを受けて、中嶋氏は「イベントを通じて、いかにコミュニティーや社会を活性化させていくかが、これからのイベントに求められることだ」と締めくくった。