【続】ろーかる・ぐるぐるNo.95
宮崎の椎茸パテ
2016/11/10
秋の味覚といえば、キノコ。冷静に考えれば人工的に温度や湿度を管理しているものは年がら年中手に入るわけですが、シメジ、ナメコにエリンギ、シイタケ。そうそう、キクラゲだってキノコです。
わが家のお気に入りはキノコ鍋。できるだけいろいろな種類のキノコを鍋に入れ、少量の水分で蒸し煮にします。ひと手間かけて、その水分を乾椎茸の戻し汁にすれば完璧。味付けはお酒と少量の塩と醤油、隠し味程度に秋田の魚醤「しょっつる」で。おかずっぽくしたいならつみれ団子を入れてもよいですが、なくてもうまみは十分。かん酒に合わせれば、近づく冬も怖くありません。
…なんてエラそうに書いていますが、日々の食卓ではなかなか「乾椎茸の戻し汁」まで手がまわらないのが現実。格段においしくなると分かっていても、ついつい手を抜いちゃいます。時間をかけて戻すのは年一回。おせち料理をつくる時くらいです。
ぼくみたいな人が少なくないからでしょう。大正元年創業の乾燥椎茸問屋「岡田商店」(宮崎)は新商品開発に熱心です。さて、皆さんならこの手間がかかる「乾椎茸」にどんなサーチライトを当て、どんな品物を考えますか?
岡田家の3代目に嫁入りした光さんが考えたのは「椎茸パテ」。
皆さまご存じのことと思いますが、そもそも椎茸はその栽培方法によって大きく2種類に分けられます。オガクズなどの培地に菌を植え付ける「菌床」は一般的に売られているもので、手軽な値段が魅力です。一方、クヌギやナラの丸太に直接種菌を入れる「原木」は、自然のサイクルの中でじっくり時間をかけて育てるので高価。その代り野生的な香り、味わいは格別。そんな宮崎産の希少な原木乾椎茸に一番絞りの菜種油、宮崎産にんにく、岩塩のみで仕上げたパテです。
パンに乗せて口に含むと「あれ?コレなんだっけ?」「ポルチーニじゃ…ないもんね」。あの、なじみのある乾椎茸の香りだと気付くまでちょっと時間がかかるほどの完成度です。
この「なんか新しい」商品のサーチライトは何でしょう?
岡田光さんは「原木乾椎茸の美味しさをもっと若い人、次の世代の人に伝えたい」という明確なビジョンを掲げています。そしてそれを実現するために「古くからある乾椎茸を、若い人にも手に取りやすいお洒落なイメージに変えたい」と考えたそうです。コンセプトらしくひとことでまとめると「若者向け乾椎茸」でしょうか。たしかにパッケージもオシャレです。
とはいえ、そのままだと「商品開発をする際のコンセプト」としては弱い可能性があります。「若者向け」に「オシャレに」というのは実は幅があり過ぎて、ひとによってイメージするものが違うからです。
たとえば「プロヴァンスの乾椎茸」と置いたらどうでしょう? 南フランスの料理人が乾椎茸という食材と出合ったら、どんな風に仕上げるだろうという空想です。考えてみれば近年「シイタケマッシュルーム」は「豆腐」と並んで欧米のヘルシーレシピの常連です。しかし乾椎茸、しかも原木の乾椎茸はまだまだマイナーな存在。もしそんな出合いがあったらどうなるだろう?ということは商品開発を大きく方向づけてくれます。
ただ、それなら菜種油ではなくオリーブオイルを使っているハズで、岡田光さんにしてみれば「プロヴァンスじゃないんだよなぁ」なのでしょう。であるなら、何なのか。身体的な感覚を言葉にできれば商品開発にひとつの軸が備わります。
岡田さんはこれを使ってさまざまなメニュー提案もしています。「なば手羽餃子」もそのひとつ。「なば」とは宮崎を含む西日本で広く椎茸のことを表す方言。あんにこのパテをつかった手羽餃子です。昨年に宮崎のご当地グルメコンテストで優勝したそうですが、残念ながらぼくはまだ食べたことがありません。