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エンターテインメントから
LGBTへの理解を深めてもらいたい

2016/11/24

5年ぶりにメガホンをとった荻上直子監督の最新作が来年2月に公開される。今回は、LGBTや家族がテーマの作品で、これまでの同監督作品の空気感とは少し異なるようです。このテーマを選んだ背景や、映画に込められた思いを伺いました。

社会が自然に受け入れれば子どもも普通に受け入れる

 

来年2月、私の5年ぶりとなる新作映画「彼らが本気で編むときは、」が公開されます。LGBT(性的マイノリティー)や家族の在り方などをテーマに、トランスジェンダーのリンコと恋人の男性、その男性の小学生のめい、3人の共同生活をめぐりストーリーが展開していきます。この作品のテーマがひらめいたのは、ある記事を読んだときでした。トランスジェンダーの中学生の男の子のお母さんが、ニセ乳をつくってあげたという内容で、「ニセ乳?」と気になって。それをお母さんが彼につくってあげたということが、なんてすてきなんだろうと。映画にもリンコと母親の同じような場面を入れました。

荻上直子氏(映画監督)

私は20歳代からアメリカに住んでいた時期が長かったので、LGBTの人たちへの意識の壁は多分低いんだと思います。ごく普通にそういう友達がたくさんいました。でも、日本は特別のことのように思わざるを得ない状況にまだまだあって、そこが違和感として自分の中にありました。そして、自分の子どもにどうやってLGBTのことを伝えられるのかと考えていました。でも、社会がそうした人たちを自然に受け入れていれば、子どもたちも自然に受け入れられるはずなんですよね。日本でずっと暮らしているとLGBTの人たちをなかなか受け入れ難いのかもしれないなと想像しつつも、でもそうじゃない世の中がきっと来ると信じています。

この映画にはさまざまな家族の関係が登場します。育児放棄する母とそれでも母を慕う娘、認知症を患う親とその子ども、リンコたちの家族など。今、家族という形態がどんどん変化していってます。私自身も結婚をしていませんがパートナーと子どもとの4人家族ですし、フィンランドで映画を撮ったときのプロデューサーがタイ人の子どもを養子に迎えていたり。

親がいて、子どもがいる。それにいろんなカタチがあっていいと思っています。日本にも結婚していない夫婦や、養子を育てているファミリーがもっといてもいい。映画で描かれたリンコの家族のようなカタチがあってもいいと思っています。

「彼らが本気で編むときは、」2017年2月25日全国ロードショー 主人公の一人、小学生のトモ(柿原りんか) c2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会
「彼らが本気で編むときは、」2017年2月25日全国ロードショー
主人公の一人、小学生のトモ(柿原りんか)
©2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会
 

出産を機に攻めの姿勢で映画づくり第2部へ

 

今、私の映画づくりの“第2部”が始まったと意識しています。その1作目となるこの作品は、これまでにはない“攻め”の姿勢で取り組みました。主演の生田斗真さんや桐谷健太さんら、これまで一緒に仕事をしたことのない役者さんと映画をつくることも一つのチャレンジでしたし、テーマ性がちょっと強いことも大きなチャレンジでした。

前作「レンタネコ」からの5年間に起きた大きな変化。一番は4年前に双子を出産し、母になったこと。自分自身の環境もガラッと変わりました。自分の意識や感覚は多分それほど変わらないとは思うのですが、知らなかった自分の母性みたいなものが生まれ、パートナーとの付き合い方も変化していった。そういった意味で、本当に新しく違う人生が始まった気持ちになりました。新たな関係が生まれて、それまでとは違う世界が広がったという感じですね。

それと、私は本当にエゴイストで、「私が、私が」と自分のことしか考えていなくて、その部分がすごく強かったんですが、自分より優先順位を上に考える存在ができたというのは、経験したことのない新鮮な感覚でした。

今回の作品によって、何か一個また違う空気感のものがつくれればいいなと思っています。ずっと同じ世界観の中でつくり続ける良さもきっとあると思いますが、私はどんどんチャレンジしていきたいタイプのようです。ただ、できることしかできない。今まで10年以上映画をつくってきて、じゃあこれから違うのをつくろうといって、ホラーやアクション映画を撮ることはできない。自分が持っているものをあえて変えるという攻め方ではなく、長年の経験を踏まえた上でのチャレンジです。

LGBTは特別なことではない、事実を分かってほしい

 

作品をつくるとき、このターゲットに、こういう人たちに見てもらいたいとかは、あまり考えてはいません。映画に対しても、やはりエゴイストなので、「私が、私が、これをつくりたい」という気持ちしかない。そう思っていないとブレる部分も多分出てくると思いますし。でも今回は、今まで私の映画を好きだと言ってくださった人たちにはもちろん見てもらいたいですし、そうじゃない方たちにも来てもらいたい。エンターテインメントという、あまり壁がないところから入ってきて、LGBTの方たちは特別なことではないんだという事実をちゃんと分かってもらえるとうれしいですね。

久しぶりに映画を撮って、現場で仕事をするということがきっと私の生きがいなんだなと実感しました。やはりすごく面白いなと感じたんですね、映画をつくっていることが。楽しいとか言っていられないぐらい無我夢中で真剣なんですけれど。次はもう5年も待ちたくないと思っています。また来年、また次にと、どんどん映画をつくっていきたいです。