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韓流コンテンツと共鳴するブランド力

2024/12/16

2024年10月2日から11日にかけて、釜山国際映画祭(BIFF)が韓国・釜山で開催されました。同映画祭が主催するイベント「ACFM」で、デジタルヒューマン・キャスティング事業を統括する電通の事業開発プロデューサー、アーロン・ズー氏が登壇。「生成AIで広がるデジタルヒューマンの可能性について」の講演を行い、各国のコンテンツの専門家を中心に、大きな関心が寄せられました。

関連リンク:生成AIで広がるデジタルヒューマンの可能性|ウェブ電通報

デジタルヒューマン・キャスティング事業とは、生成AI技術を用いて、人間にそっくりな姿で自由自在に動く「デジタルヒューマン」の実用化に向けた取り組みで、従来のタレントキャスティングでの課題や限界を乗り越える手段として、注目されています。

また本会場には、アーロン・ズー氏の新規事業開発のモデルとして起用されたタレントの佐藤和奏氏も登場し、そのスタイルの良さから「デジタルヒューマンなのでは?」と勘違いされた一幕がありました。

佐藤和奏
釜山国際映画祭でのアーロン・ズー氏とモデル/タレントの佐藤和奏氏

 
釜山国際映画祭ではさまざまな韓国コンテンツのトレンドも紹介され、韓国のみならず世界的な関心が高まっていることがうかがえました。その中でアーロン氏が注目した、韓国コンテンツでのプロダクトプレースメント(PPL)という手法について紹介します。

ブランドと視聴者の新たな接点を創出

韓国ドラマで行われているPPLとは、ドラマや映画、バラエティ番組などで、特定の商品やブランドをストーリーに自然に組み込む広告手法です。韓国ドラマでは、PPLが巧妙にストーリーに組み込まれることが多く、キャラクターが使用するコスメ、ファッション、テクノロジー、食べ物などが視聴者にリアルタイムで訴求されます。

例えば、ある人気ドラマで使われたリップスティックが瞬く間に売り切れるといった現象があり、視聴者はそのブランドや商品に強い関心を抱くようになります。特に韓国ではドラマを娯楽としてだけでなくトレンドの情報源として捉えている側面があるため、実際にドラマをきっかけに新たな流行が生まれるケースもあります。このように韓国コンテンツにおいて、PPLはブランドと視聴者との新しい接点を生む役割を果たしているといえます。

また、韓流コンテンツはグローバル展開されるものが多く、PPLを通じて国際的なブランド認知を高めています。海外の視聴者がドラマや映画を通じて韓国のライフスタイルやトレンドに触れると同時に、PPLを行ったブランドにも触れているのです。

「涙の女王」「愛の不時着」などで反響を生んだPPLの成功事例

さて、そんな韓国コンテンツに登場するPPLでのブランディング事例を少し見ていきましょう。

まず、「涙の女王」に登場する「サブウェイ」(SUBWAY)です。

韓国ドラマの中でも特に効果的にPPLが使われた例です。登場人物がサンドイッチを楽しむシーンが何度も登場し、日常にサブウェイが溶け込んでいるような印象を視聴者に与えます。ドラマのストーリー展開に合わせてキャラクターが特定のサンドイッチを注文する様子は、視聴者にとって身近に感じられ、サブウェイの新メニューやプロモーション商品が間接的に紹介される効果も生んでいます。

特に主人公の御曹司が「忙しいときはサンドイッチに限るね」と言ったようなセリフは、まるでCMの一幕を切り取ったようなシナリオで構成されており、「忙しいときは、サブウェイ!」を間接的に訴求する手法になっています。

 
出典:neoStory「韓国のドラマ PPLケース」より引用
出典:neostory「韓国のドラマ PPLケース」より引用

次に、「愛の不時着」での「bb.qオリーブチキン」です。

このドラマでは韓国で人気のbb.qオリーブチキンが頻繁に登場し、登場人物たちが食べることで視聴者も無意識にその味を想像するようになります。特に、登場人物が飲食店でチキンの香りを連想させるような会話や、主人公とヒロインとの会話で間接的に登場することで、視聴者にbb.qのチキンが身近で親しみやすい存在として認識されるよう工夫されています。視聴者がドラマを通じてチキンの美味しさやリラックスした雰囲気を共有できるため、bb.qオリーブチキンのブランド価値がより高まっています。

最後に、「ヴィンチェンツォ」に登場するキャンディー、「KOPIKO」(コピコ)のPPLです。

この作品では、主人公がエネルギー補給のためにKOPIKOを手に取るシーンや仕事の合間にKOPIKOを食べるシーンが印象的に描かれており、物語のユーモアやキャラクターの人間味を引き立てています。視聴者にとってはドラマとともにKOPIKOの存在が記憶に残り、身近な活力補給アイテムとしてのポジティブなイメージが形成されています。この演出によってインドネシアの会社が生産しているKOPIKOが韓国では買えなくなるほどヒットし、ネットで取り寄せる現象が世界中で起こりました。

出典:neoStory「韓国のドラマ PPLケース」より引用
出典:neostory「韓国のドラマ PPLケース」より引用

このように、韓国コンテンツではPPLが多く活用されています。韓国では、ドラマだけでなく、映画、音楽、バラエティなどのメディアでは、ただ商品を置くだけでなく、物語やキャラクターと巧みに融合させたPPLが多く見られます。

今後の韓国コンテンツでのPPLには、視聴者体験を豊かにするための新たなアプローチが期待されています。例えば、AIやデータ分析を活用したターゲティングが可能になれば、特定の視聴者層に合わせた商品をシーンごとに調整することも考えられます。また、VRやAR技術を利用し、視聴者が自宅で体験できるようなインタラクティブなPPLも増えるでしょう。これにより、視聴者は物語の中で見たアイテムをすぐに仮想空間で試せたり、情報を得たりすることができ、コンテンツの没入感が一層高まります。

さらに、韓国コンテンツが国際的に支持される中、PPLは国際的なブランド認知の向上にも貢献しています。今後も、韓国コンテンツにおいては視聴者とブランドが直接つながるインタラクティブなPPLが積極的に活用されることでしょう。視聴者が物語に没頭しながらも、商品やブランドにポジティブな印象を抱くことで、PPLは韓国コンテンツの新たな魅力を引き出す役割を果たしていくことが期待されています。

日本国内でもテレビドラマやアニメ映画など一部のコンテンツでPPLの活用事例はあるものの、まだ試行錯誤の段階であるといえます。PPLは国によって規制やポリシーが異なるため、日本においても放送法や景品表示法などの法律に違反しないよう注意が必要です。また、規制やポリシーに抵触していないとしても、コンテンツの世界観やストーリーと関係なく商品を入れ込んでしまっては、かえって逆効果になりかねません。実際に、韓国ドラマでもPPLでの過剰なアピールが問題視されたケースが起きています。大切なのは、コンテンツの世界観・ストーリーを考慮した上で、制作者の意図や視聴者のニーズに寄り添った体験を設計することです。そういった意味で、視聴者と制作サイド、そして企業がWin-Win-Winの関係を築くという点においては、学ぶ点があると思います。

これから韓国コンテンツにおいて、PPLがどのように進化していくのか、引き続きウォッチしていきたいと思います。

記事監修:
neostory (ナム・ヒョンジ)

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