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CESレポート2017No.2

CESとAT&T開発者会議から見えた。米国大企業の動向とは

2017/01/26

CESは、国内でも多くのメディアがニュースとして取り上げる一大イベントだ。今年も、ホンダの倒れないバイクやトヨタのAIコンセプトカー、ソニー、LG、サムスンの有機ELテレビや量子ドットディスプレー、Amazon Alexaに対応した白物家電、ドローン、VR…多くの魅力的なガジェットやIoTのプロダクトのニュースに触れられたのではないだろうか。

しかし、私が考えるCES最大の魅力は、米国の先端を行く大企業の、それもCXOレベルの方々による生の声に多く触れる機会があることだ。米企業が、テクノロジーやデジタルトランスフォーメーションとどう対峙して、これらによって経営やマーケティングをどう変革しようとしているのか?を一年で最も早く聞ける場なのだ。

実は、CESでもう一つ楽しみにしていることがある。それは、CESの前日に開催される米国通信会社の大手AT&Tの開発者会議に参加することだ。AT&Tがどのような取り組みを行い、どのような分野・テクノロジーに対して投資をしようとしているのか? 開発者会議は、スマートホームからコネクテッドカー、ヘルスケア、スタートアップとのコラボレーションに至るまで彼らの戦略について理解を深めることができる場なのである。

本編では、あまりメディアで発信されない、こうした米企業の発信から私が興味を持ったセッションを紹介したいと思う。

 

AT&Tが語る、イノベーションがブランド価値を創る方法とは?

今年、私が最も興味深かったセッションは、AT&Tファウンドリーのディレクターであるルース・ヨンドゥビアン氏による講演だ。AT&Tファウンドリーとは、AT&TがIoTのさまざまな領域で外部企業とコラボレーションし、イノベーションを加速するために世界中に設立された研究開発組織。

世界が急速に変化する中、ブランドは企業にとって不可欠であり、そのブランドにとって重要な要素として「イノベーション」がある。テクノロジーのエコシステムへの取り組みが、新しい顧客体験や製品に寄与し、最終的にブランドリフトにつながる。彼はそう主張している。

AT&T ファウンドリーディレクターのルース・ヨンドゥビアン氏とAT&Tファウンドリーの世界展開の現状
AT&T ファウンドリーディレクターのルース・ヨンドゥビアン氏とAT&Tファウンドリーの世界展開の現状
 

また、AT&Tでイノベーションを生むファウンドリ―が持つ9の重要な指針について説明されたので紹介したい。

場所:オープンで柔軟性があること
人:エンジニアとの偶然の出会い
文化:コラボレーティブで実験的であること
アウトリーチとインリーチ:組織の内外からインスピレーションを得ること
アプローチ:行動に注力させる
プロジェクトの推進力:確実にビジネスに寄与させる
破壊的革新者との結びつき:会社と破壊的革新者との間を通訳する
舞台:プラットフォームを提供する
コラボレーション:スタートアップとのコラボレーション

 

オープンイノベーションを加速するVISA

AT&Tは、イノベーションがブランドにとって重要であり、イノベーションを生むための機能としてファウンドリ―を紹介していた。ファウンドリ―が持つ九つの指針を紹介したが、これらはオープンイノベーションの仕掛けに他ならないと考える。CESでは、VISAのイノベーション担当シニアバイスプレジデントでシブ・シン氏が、スタートアップコミュニティーとの共創について語っている。

CESでのCXOによるセッション。中央がVISAのイノベーション担当シニアバイスプレジデントのシブ・シン氏
 

シブ氏によれば、スタートアップコミュニティーは、華々しく刺激的で楽しく知的なものだが、VISAのビジネスにさほど貢献するものではなかった。スタートアップの99%のイノベーションは成立しない。そこで、これまでスタートアップからの持ちかけを待つこれまでの仕組みを改め、VISA自らコラボレーションの条件を定め、スタートアップに対して能動的にアプローチを行ったという。具体的には、VISAは3年間で1000のスタートアップとコンペティションを行い、5社を勝者として採用したというのだ。 これは非常に興味深くダイナミックな取り組みだ。

VISAは、こうしたオープンイノベーションな取り組みを推進するために、積極的にAPI(アプリケーションプログラムインターフェースの略語。プログラミングの際に使用できる命令や規約、関数などの集合のこと)をオープンにしている。多くのスタートアップにAPIを公開し、イノベーションの誘発を狙っているのだ。

 

新しいエコシステム

他にも、米百貨店大手のノードストロームやドミノ・ピザ、アメリカンファミリー保険など多くの有力企業のCDOやイノベーション担当役員の話に触れた。いずれの企業も、経営層のテクノロジー理解と経営に対する位置付けの高さが目立つ。さらに、テクノロジーによるイノベーションを図るための多くのチャレンジをしていることが分かる。スタートアップとの連携、外部企業との共創モデルの模索、APIの公開などさまざまだ。そして、スピードの速さ。私は、AT&T開発者会議に毎年参加しているのだが、同社は毎年新しい領域のファウンドリ―を開設しており、それぞれ大小数百のプロトタイピングやコラボレーションを行っている。

こうした、取り組みやプロセス、スピードの速さは、日本では主にネットベンチャー企業のカルチャーと見なされる傾向があると思う。しかし、CESで触れる世界を代表する大企業の経営層は全く違う。ネットの世界のエコシステムに速い意思決定と投資によって向き合っており、日本の大企業は多く参考にする必要があるだろう。CESは、テクノロジーを起点とした新しいエコシステムに順応しイノベーションを起こそうとする米企業の取り組みに触れる非常に良い場所だ。
もし、読者の皆さまがCESに訪れることがあれば、ぜひとも多くのセミナーを通じて米国企業の取り組みの一端に触れることをオススメしたい。