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CESレポート2017No.1

CESからみる2017年のテクノロジートレンド

2017/01/25

年明けのラスベガス。世界最大規模を誇るテクノロジーの祭典「CES」(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)は、家電、自動車、IT、ネット業界にとって恒例の行事だ。私にとっても、この7年間はCESが仕事始めとなっている。今年も、CESから見えた2017 年のテクノロジートレンドを2回に分けてレポートする。

CESとは?

さて、CESについてあらためて説明したい。CESは、今年で50周年を迎える大規模なコンベンションイベントだ。主催者発表によれば、3800社以上の出展、世界150カ国以上から16万5000人以上の参加を見込むというからかなりスケールが大きい。会場のスケールも大きく、ラスベガス中が会場となる。LVCC(ラスベガス・コンベンションセンター)を中心に、いくつものホテルやイベント施設が会場となっており、4日間の開催期間でも回りきれない規模なのだ。

家電からテクノロジーへ

家電ショーとして50年の歴史を持つCESは、2015年に大きな分岐点を迎えている。これまで、CESの主催・運営団体であったCEA(Consumer Electronics Association:全米家電協会)が、自らの名称をCTA(Consumer Technology Association:全米民生技術協会)へと変えたのだ。個人的には「とうとう、その時がやって来たか」と、「やっとかなぁ」の気持ちが入り交じった感情にかられている。というのも、長らくテレビや白物家電が主役であったCESは、ここ数年はモバイルやIoT(Internet of Things:モノのインターネット)、AI(人工知能)、AR/VR(拡張現実/仮想現実)などの新興技術へとテーマが大きくシフトしているからだ。

特に近年は、コネクテッドカー、スマートホームなど、あらゆるモノがネットとクラウドに接続された世界であるIoTに関する発信と、それらを支えるビッグデータやAI、ML(機械学習)が主役となっている。もはや家電やパソコン・携帯電話の延長線上では語れない新しいテクノロジーの存在感が高まるにつれて、こうした変化は必然だと思う。

2017年のトレンドは?

魅力的なガジェット、倒れないバイク、有機ELのテレビなど、既に多くのニュースを通じて、CESにおける魅力的プロダクトについてご存知のことも多いだろう。ウェブ電通報では、個別のプロダクトではなく、CESで私が感じた大きなテクノロジーの潮流について触れたい。

AI

AIおよびMLが、今年の主役と言っても言い過ぎではないだろう。CESでは多くの基調講演と個別セミナーが開催されるのだが、その中でも最初の基調講演は、その年にCESが発信していくべき大きなテーマになっていると私は考えている。そして、今年その講演を担ったのはNVIDIAのジェンスン・フアンCEOだ。

さて、読者の皆さまはNVIDIAをご存じだろうか? 米国の半導体メーカーである。半導体メーカーといえばインテルを想起される人が多いのではないだろうか? インテルも過去にCESの基調講演を通じてIoTの世界を世の中に発信していた半導体メーカーなのだが、今年はNVIDIAが基調講演を担った。

その理由は、今年のCESの主役がAIと自動車、それも自動運転とコネクティビティーにあったからだ。NVIDIAは元々、GPU(コンピューターのグラフィックス処理や演算処理の高速化を主な目的とする半導体)の生産で、主にパソコン用のゲーム市場に存在感のある企業だった。

ところが、最近は自動運転技術、ロボットの認識技術、画像認識や音声認識などの分野で、GPUによるディープラーニングの技術が注目を集めるようなった。平たく言うと、AIとかMLにおいて、GPUが重要になっているわけだ。そんな中、GPUのリーディングカンパニーであるNVIDIAが「AIコンピューティング企業」として、インテルやクアルコムなどと共にテクノロジー業界の重要な位置を占めるようになり、CESの目玉となったのだ。

自動運転のAIを支える半導体ユニット「XAVIER」を発表するCEO ジェンスン・フアン氏
 

5G

AIに次いで、今年のCESで重要なキーワードは5Gだろう。5Gとは第5世代移動通信システムの略で、現在の携帯電話を含む無線通信の企画である4GLTEの次に導入される次世代システムだ。10Gbps以上の通信速度、1ミリ秒以下の遅延という高い信頼性を実現するとされ、IoTの本格的な普及やモバイル動画のさらなる発展につながる技術である。

つまり、信頼性が非常に高く、遅延なく、高速な通信がモバイルで実現するわけだ。4Kの映画をたったの18秒でダウンロード可能だというぐらい、高速なモバイル通信の世界がすぐそこまで来ているのだ。この未来の通信技術を支えている企業がクアルコム社である。

クアルコムのCEO スティーブ・モレンコフ氏による基調講演では、「2035年までに5Gが世界中に展開され、12兆ドルの経済効果が見込まれる」と、5Gの今後について予測している。

私は、5Gの普及が生活者のライフスタイルやメディア接触態度に与える影響は計り知れないと考えている。高精細な映像配信、や映像による双方向のコミュニケーションに関する時間と場所の制約が完全になくなるからだ。例えば、VRなど容量の必要なデータの配信も、ストレスなくモバイルで受けられるようになるだろう。

5Gによる映像配信の未来について語る、クアルコムCEO スティーブ・モレンコフ氏
 

当たり前になったIoTとVR

ここ数年、CESの主役はIoTとVRだった。ウエアラブルデバイスに始まり、コネクテッドカー、スマート家電(スマホで操作できる照明からコンセントでネット通販とつながる冷蔵庫まで)や、多くの新興企業により送り出されるガジェットたち、そして、それらをつなげるさまざまなエコシステムなど、全てのモノがインターネットにつながる世界の可能性をCESで感じ取ることができた。

そして今、IoTは未来の世界ではなく、当たり前の前提としてそこにある。CESではさまざまな講演で、米国の多くのCXOがIoTを前提に、IoTの世界で何が必要か? 自社はどうするべきか? 何を差別化するべきか?を話し合っている。

同時に、VRも少なくとも今年は、完全に市民権を得たと言ってよいだろう。もうVRは新しいコンセプトではなく、当たり前のように展示に活用され、VRを活用したビジネスモデルや将来のコンテンツ体験について話し合われていた。ほんの数年前、新しい世界として世に送り出された技術やコンセプトの進展と定着のスピードをCESに来るとあらためて感じてしまう。

影の主役はAlexaと音声対話の可能性

今年のCESの影の主役はAlexaだ。Alexaは、Amazonによって開発されたパーソナルアシスタントで、音声対話機能でコネクテッドホームの中心になるとともに、音楽再生、交通情報の提供、さまざまなスマート家電の制御が可能となっている。Alexaの機能は広く開発者にAPIとして提供され、大企業からスタートアップ企業に至るまで、家電から自動車の車載端末などあらゆる場所で、Alexaによる音声対話機能の実装や連携について発信されていた。家も車も家電も、IoTに関係するいたるところにAlexaの存在感があったのだ。

Amazon AlexaとIoT連携の展示。自宅の環境モニターとして人気のNETATMOの展示ブースから
 

私は、今年のCESで急に増したAlexaの存在感について、二つのことを考えた。一つは、エコシステムの重要性。Amazonは早くからAlexaの開発環境を充実させ、広く多くの開発者へ展開していった。多くの企業がAlexaを採用することでAlexaの競争優位は高まり、さらにAlexaを採用する会社が増える。この循環が、たったの1年でCES会場をAlexaだらけにしてしまったのだ。AIの開発プラットフォームとしてのIBM Watson同様に、IoTという広義のネットビジネスにおいては要素技術そのものの優劣以上にエコシステム構築が極めて重要であることをAlexaは証明している。日本企業は、このオープンマインドかつエコシステム構築を前提とした要素技術の活用と事業化について、学ぶものが多いのではないだろうか。

もう一つは、音声対話の可能性である。英語圏の話になってしまうが、Alexaの後押しも相まって、IoTに関連するプロダクトやサービスと生活者をつなげるUI(ユーザーインターフェース)として、音声認識の存在感が一層高まるだろう。特に日本語など、普及するにはまだまだ技術的な課題が多く存在するが、音声対話を前提としたUIの普及について、生活者とのコンタクトポイントという観点からマーケターは意識する必要があるだろう。
次回は、CESとAT&T 開発者会議で触れた米国大企業の動きについてレポートします。