市原えつこ氏とイノラボがナマハゲをリデザイン
2017/02/27
こんにちは、電通国際情報サービス(ISID)のオープンイノベーションラボ(イノラボ)でコミュニケーションプランナーをしている阿部と申します。
イノラボでは2016年秋に「日本の“まつり”RE-DESIGNプロジェクト」を立ち上げました。全国各地の民俗行事や祝祭が持つ豊かな精神性を、テクノロジーを用いて現代的に再解釈するのが狙いです。
かわいらしいロゴもつくりました。
このプロジェクトを立ち上げる前に、イノラボはアーティスト市原えつこ氏をコラボレーションパートナーに迎えました。市原えつこ氏は、家庭用ロボットに死者の痕跡を宿らせ49日間共生できる「デジタルシャーマン・プロジェクト」や、大根がなまめかしくあえぐデヴァイス「セクハラインターフェース」などを手掛けるメディアアーティストです。ほとんど面識はなかったのですが、ちょうど市原さんの「フリーランスになりました」というブログのエントリーを見つけて、今しかないと思い、あらゆるSNSを駆使して逃げられないように口説きました。ソーシャルナンパですね(笑)。
みこ姿の市原えつこ氏
私が関わりたい外部の方には一つだけ求めるものがあって、それは「自分の理解を超えた人」です。市原さんの過去のプロジェクトを見ていて思うのは、アイデアの始まりからぶっ飛んでいて、自分の理解を超えてるんですよね。最終的なアウトプットが計算できないってそれだけで面白くて、これは間違いなく一緒にやったら想像を超えたものができると思って声を掛けました。
早速一度イノラボに来てもらって、イノラボのチーフプロデューサーの森田浩史と一緒に、市原さんが今、何に興味があるかをヒアリングしました。いくつかのすてきなアイデアと、いくつかのとんでもないアイデアがある中、「土着の儀式」「地方の祭り」のようなキーワードが出てきたので、イノラボが以前から進めている「インバウンド」などのキーワードと結びつけて、今回のプロジェクトの立ち上げとなりました。
そこからは第1弾の祭りの選定に入ります。デスクの上には「日本の祭り」「日本の奇祭」のような書籍が積まれ、弊社一応SIerなのですが、エンジニアが作業する静かなフロアでずっと祭りの話をしていたので、間違いなく非常に迷惑だったと思います。後から聞いたら「楽しそうだなと思っていた」と言われたのはうれしかったですが(笑)。
海外向けということで、海外の方にもどこか親しみのあるような祭りがよいのではないか、という話をした覚えがあります。ナマハゲに代表されるような面をかぶる祭りは日本だけではなく、世界中にありますし、フランスの写真家シャルル・フレジェ氏の「YOKAI NO SHIMA」にインスパイアされた部分もあります。
「わるいごはいねぇがー!」
そんなこんなでナマハゲの秋田県男鹿市に向かいます。
われわれのナマハゲへの熱い思いを語り、男鹿市役所の方とも意気投合し、男鹿市と男鹿市教育委員会の協力の下、正式に「日本の“まつり”RE-DESIGNプロジェクト」の第1弾がスタートしました。こちらが2016年の秋口ですね。
そこから何度か男鹿市に取材と撮影で伺いました。われわれが認識していたナマハゲは「子どものしつけ」という側面が強かったのですが、男鹿市の方の話で一番興味深かったのは、「ナマハゲ台帳」の話でした。
ナマハゲは大みそかの夜にそれぞれの家に現れます。そこで「ナマハゲ台帳」という、その年にその家族に何があったかを事前にリサーチした資料を持参します(真山地区のナマハゲに限るようです)。ナマハゲはその台帳を元に、家族に語りかけます。おばあちゃんが病気だったら見舞いの声をかけ、息子の成績が落ちているようなら叱咤するなど、地域のコミュニティー維持の役割を果たしていました。
社会から疎外され、孤独になると人は良からぬ方向に行ってしまいがちです。ナマハゲはおせっかいにも人を孤独にさせません。孤独になるのが容易な都会にこそ、「ナマハゲ台帳」のようなシステムが必要なのではないか、とわれわれは考えました。
真面目に考え過ぎた結果がこれ。
そしてナマハゲは環境に合わせて適応変化しているという事実を知りました。男鹿市だけで80種類以上のナマハゲがいるのですが、海沿いの集落のナマハゲの面には海藻が使われているなど、その土地に合わせた面が作られていました。
コミュニティー維持システムである「ナマハゲ台帳」と、土地と文化に適応変化するナマハゲ…。
早速男鹿のナマハゲが東京に現れたらどうなるか、市原さんとシミュレーションを開始しました。
秋葉原、原宿、巣鴨、渋谷、新宿…。それぞれに適応変化するナマハゲ。そしてその街でターゲットとなる「悪い子」もさまざまな人がいるのではないか…。壮大なこの妄想をどうアウトプットすべきかわれわれは悩みました。
悩み過ぎた結果がこれ。真面目か。
そこでNHKの中の人でもあった、近所に住んでいるSF作家・浅生鴨氏に相談。思いも寄らないアプローチをいくつか提案いただき、映像演出にはカンヌ受賞歴のある松宏彰氏を紹介してもらいました。
映像のシンボルである「秋葉原のナマハゲ」お面の制作はアーティスト・造形作家の池内啓人 氏、衣装は現代人のための環境と衣服を提案するファッションレーベルchloma と、名だたるクリエーターたちがナマハゲに共鳴し、集結。あまりの集まり具合に水滸伝かなと思いました。
撮影は北風吹きすさぶ12月。男鹿市は海沿いなので、荒れ狂う日本海を尻目に風で飛ばされそうになりながら撮影をしました。男鹿市での撮影も苛烈だったのですが、予想だにしてなかったのが東京での撮影。
とにかく秋葉原ナマハゲに変身するのが、しんど過ぎる…(なぜか私が着ています)。
デザインは最&高だけど着るのがしんどい秋葉原ナマハゲ。
ナマハゲの面はドローンやVRグラスなど秋葉原らしさふんだんに盛り込んだものとなっています。
まず面をかぶると息がほとんどできないので常に酸欠状態。衣装はほぼダウンと同じなので暑い、そして重い。東京パートでは重要な役どころなので出番は多い。男鹿市の方にご迷惑がかからぬように演じきりました。それでは私の会心の演技をご覧ください。
ナマハゲ、東京に現る。 Japanese traditional visiting deity "Namahage" appeared in Tokyo...
Facebookなどを使い、海外の方に見てもらった結果はのべ160万回再生。現在効果測定を行っておりますが、海外の方にもうひとつの日本文化を届けられたのではないでしょうか。本物のナマハゲ体験をしに、ぜひ男鹿市に遊びにきてください。
次にわれわれがお邪魔するのはあなたの街のお祭りかもしれません。