2017年、企業は生活者の心をどうつかめばよいのか?~「消費潮流2017」より~
2017/03/31
電通総研では、毎年末にその年のヒット商品のランキング「話題・注目商品」と、これからの消費の行方を洞察する「消費潮流」を発表しました。2016年は、 “コンテンツ・スタイリング消費”が加速した年と発表しています。本稿では、コンテンツ・スタイリング消費とは何か?の紹介と共に、それを踏まえて、企業がこれから、どのような商品開発・サービス開発をしていけばよいのかを提案していきます。
1.“コンテンツ・スタイリング消費”とは何か?
かつて、生活者は企業が提供する商品やサービスをその使い方、楽しみ方も含めて、与えられるままに受け入れていました。しかし、SNSの発展で、生活者同士がつながり合い、情報共有するようになった結果、今の生活者は商品・サービスを自由な発想の下に使い、新たな楽しみ方を見つけるようになりました。それと共に、自らが見つけた楽しみ方を、SNSを通じて共有するようにもなりました。企業もそれを受け、商品やサービスを生活者の求めに応じて柔軟に進化させるようになった結果、商品・サービスは 生活者の求めに応じて、その姿を進化させ続ける“コンテンツ”となり、生活者は商品・サービスを自由に使いこなし、自らに合った形に“スタイリング”するようになりました。こうした、生活者が商品やサービスを自分に合った形に自由な発想で組み合わせ、新たな楽しみ方を発見し続けるあり方を、電通総研はコンテンツ・スタイリング消費と名付けました。2016年は、“コンテンツ・スタイリング消費”が広がり、企業と生活者が双方向で進化する年でした。
コンテンツ・スタイリング消費の潮流に当たる事例として、日清食品の「10分どん兵衛」の事例を見てみます。一部で話題になっていた「日清のどん兵衛は10分待つとさらにおいしい」というネタを、芸人のマキタスポーツさんが紹介したところ、日清食品がこれに反応し、ホームページ上で「知りませんでした」と公式に認めたのです。
すると、ホームページ公開直後から瞬くという間にツイート数が伸び、数日後には店頭からどん兵衛が売り切れる現象が起こるほど、売上も大幅に伸びて、大きな成功を収めました。
また、別の事例としては、「BRUNOコンパクトホットプレート」というおしゃれなホットプレートが挙げられます。昨年くらいから主婦の雑誌で話題になっており、見たことのある方も多いことかと思います。この商品のホームページでは、たこ焼き用のプレートでアヒージョを作りましょうとか、ケーキポップを作りましょうとか、多様な使い方を提案しています。元々デザインが非常に食卓に映えることから主婦の方々がインスタグラムなどに挙げることが多い商品ですが、こうしたさまざまな使い方を紹介することで、さらに多様な使い方がネット上で広まっています。この二つのケースは、生活者が商品・サービスを自らに合った形に“スタイリング”し、また企業側もそれをよく理解してコミュニケーション活動に取り込んでいる好例といえます。
2.企業は生活者の心をどうつかめばよいのか?
それでは2017年、企業は生活者の心をつかむために、どのような商品開発・サービス開発を行っていけばよいのか、今回は三つのアプローチをご紹介します。
【提案1】細部だから、こだわる
~ディテールにこそ、力を入れる~
【提案2】説得力のあるストーリーを持つ
~なぜそれを作ったのか、明確な志を持って語る~
【提案3】個々人に合わせて提供する
~自分だけのものだからこそ、愛着が湧く~
ここからはひとつずつ解説していきましょう。
【提案1】
細部だから、こだわる ~ディテールにこそ、力を入れる~
商品やサービスが多様化し、差別化が図りにくくなった昨今では、ディテールにこだわることは大きな強みとなってきています。
ロングヒットとなっている映画「この世界の片隅に」では、徹底的に当時の資料を読み込み、当時を知る方々にも聞いて回ることで、細部にまでこだわって徹底的に作りこんでいきました。普通のアニメファンだけでなく、当時の呉を知る人たちからは、「あの時代の呉のようだ」という感想もたくさん聞かれ、それらが作品の良さと共に大きな話題となり、ヒットにつながりました。
また、数年前から運行しているJR九州の「ななつ星in九州」のように、JR東日本が「TRAIN SUITE四季島」、JR西日本は「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」というクルーズトレインを、今春からそれぞれ運行する予定です。こちらも、車両そのものから、料理や調度品まで、徹底的にこだわり抜いた作りや演出が話題を集め、「高くてもよいから利用してみたい」という憧れを生み出しています。このように、利用者に高い満足度を提供するだけでなく、利用者が話題にし、周りに広げるためにも、ディテールに力を入れることが非常に大事になってきています。
【提案2】
説得力のあるストーリーを持つ ~なぜそれを作ったのか、明確な志を持って語る~
なぜその商品・サービスを開発するに至ったのか、どこに力を入れたのか、といったストーリーが、商品にとって、より大事になっています。例えば、「最高の香りと食感を実現する感動のトースター」と自らうたい、大ヒットとなった「BALMUDA The Toaster(バルミューダ ザ・トースター)」は、ホームページを開くと、代表の寺尾玄さんがご自身の言葉で、非常に長い開発ストーリーを語っています。
また、伝統工芸の分野で長年人気を集めている「猫ちぐら」は新潟県関川村の特産品ですが、やはりなぜこの商品が生まれたのか、なぜ、届くまで時間がかかるのかといったことを丁寧に語っています。これらのように、商品にまつわるストーリーは、生活者と作り手を結び付ける大切なものとなっているのです。
【提案3】
個々人に合わせて提供する ~自分だけのものだからこそ、愛着が湧く~
生活者が選ぶことができる部分は、徹底的に選ばせることで、満足度を高めるという事例も多く見られます。昔からあるカスタムオーダー・カスタムメードは、ネット技術の普及に伴い、より簡便で扱いやすいものになってきています。たとえば、ユニクロは、“セミオーダー感覚で選べる”シャツやジャケットをネットで販売しています。これは、袖丈や首回りを着丈、身幅を全サイズ用意し、自由に選べる商品です。さすがにここまでのラインアップをそろえられるのは、ユニクロならではといえますが、ファッションや服飾の分野では、より多くの選択肢を生活者に提供することに注目が集まっているようです。
Knot(ノット)という国産時計のメーカーは、時計本体とストラップを別々に多くの種類の中から選ぶことで、7000種類もの組み合わせが楽しめます。もちろん、後からストラップだけを変えて、違う時計感覚で楽しむこともできます。これらのように自由な組み合わせを提示することで、幅広い選択肢を提供することもまた、ヒットにつながっています。
今回ご紹介した“コンテンツ・スタイリング”消費は、企業と生活者の関係性をより双方向のものへと変えるこれからの消費の在り方です。生活者が触ってみたくなる、使ってみたくなるツボを押さえることで、商品やサービスは話題になり、世の中が盛り上がるきっかけとなります。ぜひ、これからの世の中を盛り上げるような、新しい消費のムーブメントを作り出すような商品・サービスの開発に、これらの視点がつながればと思います。