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戦略PR視点で見る2013カンヌライオンズ受賞作。

新明解「戦略PR」 №2

  • 井口 理

2013/09/30

戦略PR視点で見る2013カンヌライオンズ受賞作。

ストーリーテリングで“自分ゴト化”を図る

今回からは、2013年カンヌライオンズ受賞作をそれぞれ解説してみます。各部門の受賞作は、すでに各所の報告会で見ていて「もううんざりや〜」ってな感じの方もいるかもしれませんが、PR部門のみならず、ちょっとしたエッセンスで話題化、自分ゴト化を実現しているものを私なりに選んで「戦略PR目線」で紹介していきたいと思います。売れ行き好調(←これホント!)、拙著「戦略PRの本質」でもまとめている下記3つのポイントに沿って見ていきましょう!

■ 戦略PR〜実践のためのポイント

・ストーリーテリングで“自分ゴト化”を図る
・企業メッセージを継続的に発信、エンゲージメントを創る
・情報発信手法は、ニュートラルな視点で選択

まず今回は、「ストーリーテリングで“自分ゴト化”を図る」から。えー、3回にシリーズ引っ張っていきますんで、飽きずによろしくお願いします。ただし、筆者が飽きた場合には途中でシリーズ変えますのでご容赦ください。

さてさて、実際のところ広告の世界でも映画の世界でも、はたまたPRの世界でも「ストーリーが重要だ」と声高に言われているのはご存じの通り。でも、「ストーリーって一体なんなのよ?」と、講演していてもよく言われます。「いやー、私も実は分かんなくてー」とは言えないんで、なんとか無理矢理説明してみたいと思います。すなわち、、、

「ストーリー=“他人ゴト”ではなく、“自分ゴト化”を促す、前後文脈の付随した共感性の高い情報」

つまり、それって生活者に「うんうん、あるある」と思ってもらえるような、そして人にも伝えたくなるような情報じゃないかなと思うんです。だって伝え聞いた断片的な事実だけじゃ、ちょっと物足りないですよね? 「あれ、知ってる?」「知ってる、知ってる。いいよね、あれ!」「シーン…」みたいな。行って来いで、一往復の会話にしかなりませんわ、そんなんじゃ。それに加えて、自分自身の体験や言葉を織り交ぜつつ、人にも語りたくなるようなものになってる方がいいじゃないですか。とすると、それはただ単に製品やサービスから抽出される事実情報(=ファクト)のみではなく、あくまで生活者目線に立って分かりやすくそのベネフィットを見せてあげ (=コンテンツ)、さらに生活者の置かれた社会環境の解説と併せて提示してあげること(=ストーリー)が必要なんだ、と思うわけです。これによって、生活者に“自分ゴト化”を引き起こし、強い共感や納得が生み出せるんじゃないかと。そーゆー意味で言うと、実は既に我々が国内で行っている“自分ゴト化”のための各種施策も、実は「ストーリーテリング」と言えるのかもしれませんよね。

かつて、製品やサービスに明らかな差異があった時代、良い製品はその差異(USP=ユニーク・セリング・ポイント)を伝えれば選ばれる時代でした。「オレはこんな機能が欲しかったのよね!」とか「私はこういう色味が出たらなんでも買っちゃうのよー!」とか。もうそれさえ分かっちゃえば「買っちゃる、買っちゃる!」となってましたよね。しかし、今は違うかなと。どの企業も切磋琢磨し、製品やサービスの質は向上、それゆえにそれぞれの製品やサービスに明らかな差が無くなっちゃった。実際、それは生活者にとっては望ましいことかもしれないけど、逆に「購買の決め手に欠ける」ということにもなってるんじゃないかと。そこで、その製品をあえて選択させ、「買っちゃえ、買っちゃえ!」と背中を押す「ストーリーテリング」の出番と相成るわけです。

社会問題は、どの国でも共通の課題として生活者に理解されている

この「共感・納得」づくりというのは、今年のカンヌライオンズでも実は大きな潮流となっていたのを知ってました? それは「ソーシャル・グッド」という評価基準の台頭です。鉄道事故の問題、自殺の問題、はたまた輸血や臓器移植、児童虐待の問題といった社会問題は、どの国においても共通の課題として生活者に理解されていて、そういった意識をベースに取り組みについて語られると、やっぱ「それはやはりいいことだね!応援したいね!」となるわけです。まさに知らず知らずのうちに“自分ゴト化”がされるわけですね。

これは日々のソーシャルメディアにおける生活者の行動を見ていても、思い当たることが多々あります。フェイスブックでも、社会問題などに対するカキコミには多くの「いいね!」が集まる傾向が見受けられるし、「なるほど」と思ってもらえれば、生活者はその「ストーリー」を“自分ゴト化”し、自分の言葉で、さらには自身の体験を織り交ぜながら語り継いでくれたりします。そのような「共感」をいかに作り出すかは、実は企業のマーケティングにおいても強く影響するはず。設定するターゲットにおいて、最大公約数的に彼らの課題を抽出し、これに向けたソリューションとして一番強い部分をきっちりと提示してあげることが、やっぱり大切かなーと。これによって、“自分ゴト化”へ導くことができるのではないでしょうか。“自分ゴト化”を最大化するための「ストーリーテリング」、あなたも始めてみませんか?

カンヌライオンズ受賞作の中から、優れたストーリーテリング事例をご紹介

■Dumb ways to die(オーストラリア)

Metro Trainsという鉄道会社による事故防止キャンペーン。公共安全のメッセージなんかには耳を傾けない13〜25歳の若者を振り向かせるために、Tangerine Kittyという架空のミュージシャンの名前で、歌とアニメによるミュージックビデオをつくっちゃった。これがYouTubeで空前の大ヒット。この他、WEBサイト、ゲームやインタラクティブ屋外広告なども展開。学校の教育教材や絵本にもなり、3カ月(2012年11月〜翌1月)で鉄道の死傷事故が21%減少したという成果を達成。結果の数字もいいですけど、もっと若い子供たちにも伝えたいよね、みたいなことで絵本とか学校カリキュラムとかになっていくところが、副次的な活動も生んでいて、ほんと「いいね!」な感じです。

カンヌライオンズ2013にてPR部門ほか、史上最多となる5部門でグランプリを受賞。
カンヌライオンズ2013にてPR部門ほか、史上最多となる5部門でグランプリを受賞。


■Bridge of Life(韓国)

サムスン生命による自殺防止キャンペーン。OECD加盟国のうち自殺率1位の韓国で、自殺の名所で「Bridge of Death(死の橋)」と呼ばれていた「麻浦大橋」を「Bridge of Life(命の橋)」としてよみがえらせようと橋のリニューアルを実施。バリケードを作るなどの“物理的な”取り組みで自殺を防ぐのではなく、コミュニケーションにより人の心を変えることを試み、橋の手すりに特殊なセンサーとLEDライトを仕込んで、橋を渡る人が歩くスピードに合わせてその真横の手すりに明かりが灯るようにした。それと同時に、不安や絶望している心を癒やすような言葉や、笑顔の子供やカップル、祖父母たちの幸せそうな写真が光の中に浮かび上がるようにしたってわけ。結果、自殺率を77%も減少させることに成功。今ではソウル市の観光名所となっている。普通、これって「ネーミング・ライツ」みたいなもんなんですけど、名前付けて、はい終わり、ではなく、きちんと能動的なブランディングに寄与してますよね。ソウル市からのオファーでこの後、その他の橋にも展開しようという計画が進んでいるってのもまたグッド!

カンヌライオンズ2013のPR部門ではシルバー、ブロンズを受賞。プロモ&アクティベーション部門でゴールドを受賞したほか、チタニウムライオンなども受賞。
カンヌライオンズ2013のPR部門ではシルバー、ブロンズを受賞。プロモ&アクティベーション部門でゴールドを受賞したほか、チタニウムライオンなども受賞。
 

ここからの学びは、ふたつ。 なにも、ソーシャル・グッドなことをしよう、ということを勧めてるんじゃないんです。多くの人が「あるある」と共感できるような問題提起や切り口を探すことが、人の心を動かすことにつながるんじゃないかということ。それは、普通のマーケティングにも活かせるんじゃないかな?

もうひとつは、どうせソーシャル・グッドなことをやるなら、本業に関わることをすべきということ。鉄道会社だったら事故防止、生命保険会社なら命を大切にするような取り組み、いずれも本業と密接なことを手掛けることで、企業の存在意義や価値を高めることができるんだし。
ってなことで、今日はこの辺で。次回にご期待を!