【定石8】営業効率向上のためにマーケティングオートメーション導入から始める
2017/06/27
電通デジタル刊行の書籍『電通デジタルのトップマーケッターが教える デジタルマーケティング 成功に導く10の定石 簡単に分かる売れ続ける仕組みをつくるツボ』の発売を記念してお届けしているこの連載。
第8回は、定石8「営業効率向上のためにマーケティングオートメーション導入から始める」の中から、一部を抜粋して紹介します。
マーケティングオートメーション(MA)とは
多くの企業では、マーケティング活動の実行部門として、マーケティング部門と営業部門という組織が存在します。マーケティング部門ではマーケティング活動を行う際の意思決定を行い、営業部門では実際の販売活動を行う、というように一つの製品のマーケティング活動をとっても、それぞれの部門間で活動領域が分断されています。
さらに、自動車会社などでは、ものを作るメーカーと、実際にクルマの販売を行う販売会社、というように会社組織自体がまたがり、その活動領域の分断の溝が深くなっているケースもあります。
マーケティング部門は、直接顧客と向き合うビジネスシーンには介在せず、顧客への営業活動は営業部門や販売会社といった営業の現場の属人的な技能に依存していることが大半でした。それが新規顧客へのアプローチであっても、既存顧客への再購入促進であっても、現場の営業マンの商談創出力に依存しており、現場に大きな負荷がかかっていました。
しかし、デジタルデバイスの進化、デジタル上の情報量の増加といった「デジタル化の発展」によって、マーケティング部門も直接顧客と向き合えるようになりました。自社のWebサイトというコンタクトポイントを通じて、販売の現場と同様、顧客の閲覧行動から検討度を見極めたり、どのようなニーズがあるのかを捉えることが可能となったのです。
デジタル上の接点を活用し、さらにデジタルマーケティングの手法を取り入れれば、マーケティング部門も見込み客の検討度を高め、機の熟したお客様リストを営業や販売会社などの現場に渡すことで、商談機会創出の一翼を担えるようになります。
このプロセスをシステム化したものが「マーケティングオートメーション」です。 文字通り、企業のマーケティング活動としてマンパワーで実施してきた業務を自動化し、効率を高める仕組みです。一般に、英語の「Marketing Automation」を略して「MA」と呼ぶこともあります。そのプロセスをまとめると下図のようになります。
図: マーケティングオートメーションのプロセス
MAを実現するのが「MAツール」です。ターゲット顧客の属性情報やCookie での閲覧情報をもとに、反応やアクションに応じたアプローチシナリオを組み立て、メールやWebサイト、SNSなどのさまざまなデジタルチャネルでのコミュニケーションを自動的に実行させます。また、ターゲット顧客の反応の履歴を「コンタクト履歴」としてデータベースに蓄積していきます。
このMAツールを活用することによって、マーケティング部門は商談機会を創出する以外にも、お客様ニーズを事前に把握して営業の現場での商談の効率化、さらには売上げアップへの貢献などの機能を担うことができます。
なぜMAが必要なのか
いま、企業のWebサイトをハブとして、MAの取り組みが重要視されています。
その背景には、以下のような課題があります。
①顧客へのコンタクトが難しくなっている
インターネットの普及により、だれでも情報収集が簡単に行えるようになり、消費者の購買プロセスは変化しました。購入前に企業のWebサイトを見るのはもちろんのこと、比較サイトやSNSなどでも情報収集するのは当たり前の行動となっています。
インターネットの普及以前には、最初に検討が始まった段階で店舗に足を運んだり、営業担当者から商品やサービスの情報収集をする必要がありました。しかし、インターネットで容易に情報を得ることができるようになったことで、担当者にコンタクトを取らずともWebサイト上である程度購入商品やサービスの選別が行えるため、実際に営業担当との接点が減少してきているのです。
たとえば、電通で行った自動車の購入プロセスの調査では、新規顧客の約6割が来店前にWebサイトを閲覧しているという結果が出ています。
一方で、インターネットの普及以前は、車のデザインや価格などを確認しに何度も販売店を訪れるのが一般的でしたが、現在では、購入前の平均来店回数は2回未満というデータもあります。
これは、デジタル上での情報収集によって意思決定が促進され、来店する頃には、顧客はもう「実物を確かめるだけ」という状態にあることを意味しています。デジタル上で得た情報が意思決定を左右し、営業活動を開始する前に勝負がついてしまっていることも少なくありません。つまり、営業担当に代わってWebサイトでお客様を待ち構える必要があるのです。
②意思決定が対面していないところで行われている
しかし、単にWebサイトを用意しておくだけでは、見込み客の心をつかむことはできません。デジタル上には競合他社や比較サイト、SNSの発言など、実に多くの情報であふれており、それらの情報によっておおよその意思決定がなされているのです。
お客様が真剣に検討しはじめたとき、この商品とあの商品で悩んでいるとき、などの「タイミング」を察知して、情報を届けることが重要です。自社のWebサイトで、お客様のニーズを満たすコンテンツを用意するだけではなく、そのタイミングにも気を配り、リアルタイムでコミュニケーションをとり、より接点を強化しなければならなくなっているのです。
MAツールを導入すれば、お客様の興味や検討段階に応じて、本当に必要としている情報を的確なタイミングで届けることができ、お客様の真のニーズに応えていく用意が整うのです。
③営業の現場におけるお客様の情報武装
前述のように、マーケティング部門と営業部門の活動領域が分断されている場合は、お客様リストの管理は、マーケティング部門ではなく、営業部門や販売店が行っています。
しかし、お客様が事前にさまざまな情報をWebサイトから得て、情報武装した現在では、すでに検討が進んでしまったお客様一人ひとりに対応するためのマーケティング施策が求められます。そうなると、営業の現場だけでなく、マーケティング部門と販売の現場が一丸となってお客様のニーズに応えていくことが必要です。
MAツールがあれば、マーケティング部門は自社のWebサイトやコンテンツの閲覧行動データを管理し、そこからお客様の検討度や関心事項などを把握しておくことができます。一方で、営業部門や販売店では、このような来店前のお客様の情報を活用して、お客様ニーズにあった的確な接客を行うことが可能となります。お客様がすでにどんな情報を把握していて、次に何を知りたいのか事前に分かっていれば、短い時間でも的を射た提案ができ、商談や営業の効率を上げることができるというわけです。
そのためにも、デジタル化の進化したマーケティングにおいては、Webや店舗などのクロスチャネルを統一的にマネージメントできるスキームを構築することが重要なのです。
マーケティングオートメーション導入の準備
マーケティングオートメーションの導入に当たっては、まず以下の三つのステップが必要です。
・STEP1 自社のWebサイトで見込み客の行動をとらえる準備する
・STEP2 行動からニーズを推察し、自動で一人ひとりにマーケティング施策を実行する
・STEP3 リアルチャネルの営業への情報連携
また、準備に当たっては、マーケティングプロセスの洗い出し、顧客インサイトに基づいたシナリオ設計、関係部署との調整・MA担当人的リソースの確保、組織設計として、MAツールによって得られた情報(新たに有望客に育った見込み客など)を営業へ連携する役割を担う専任部署や担当者の配置、社内システムの共有化も視野に入れることが重要です。
情報やチャネルが多様化し、複雑化した現在、マーケティング部門と営業部門、本社と販売会社が一丸となってお客様と継続的につながる仕組みづくり、デジタルを味方につけるデジタルシフトは必須となっているのです。