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動画とテキスト、併用の重要性 ~オーディエンス全体を底上げするためにやるべきこと~

テレビ報道のこれから №2

  • 大崎 孝太郎
  • 清水 俊宏
  • 寺 記夫

2017/06/28

動画とテキスト、併用の重要性 ~オーディエンス全体を底上げするためにやるべきこと~

フジテレビは5月24日、ニュースメディア「ホウドウキョク」のアプリをリリースしました。

ニュース映像のライブ配信をはじめとして、短時間でまとめたクリップ動画、現場を360度で見ることのできるVR動画、さらにはテキスト配信や記者や専門家による記事解説など、さまざまなコンテンツが日々配信されています。テレビ局がニュースサイトを運営し、さらにはアプリもリリースしたその先に、一体何を目指しているのでしょうか?

アプリのプロモーション戦略を手掛けた電通の大崎孝太郎さんが、ホウドウキョクを担当するフジテレビの清水俊宏さん・寺記夫さんと、“テレビ報道のこれから”について語り合った鼎談を2回に分けてお送りする後編です。

ホウドウキョク

分散先のひとつとしてのアプリ
 

大崎:2015年のサービス提供開始から約2年経過したこのタイミングでアプリを出された経緯を聞かせてください。

清水:2015年にサービスを立ち上げた頃は、まずはメディアとしてのサイズを大きくしようと、とにかくコンテンツを作る方に専念してきました。2016年秋からは、いわゆる分散型メディア戦略を採用し、Y!ニュース、SmartNews、グノシー、Facebook、Twitterなどにホウドウキョクのニュースを出しながら、それぞれのプラットフォームに応じた出し方の研究をしてきました。

サービスがある程度のサイズに成長してきたなと感じるようになってくると、今度はいろんなところから「ホウドウキョクはどうしてアプリがないのか?」と言われるようになりました。浅田真央さんの引退会見の時も、「ホウドウキョクがウェブで配信していたことを知らなかった。プッシュ通知で教えてほしかった」などのご意見を多く頂きました。

分散型メディアとしての出し方・伝え方を追求していく中で、ユーザーの方々の利便性のさらなる向上を考えれば、コンテンツの“分散先の一つ”として、当社自身でアプリを持っているのが自然だねという結論に落ち着きました。

大崎:アプリをリリースしてからさほど時間は経過していないところですが、アプリがなかった時と比して、ユーザー行動の変化や新たに見えてきたことはありますか。

電通 大崎氏

清水:まだ明確な根拠を持って語れるほどのデータを集めきれていないのですが、アプリ内ではさまざまなジャンルのコンテンツがスクロールで次々と出てくるので、ホウドウキョクってこんなにコンテンツが多いのか!と長い時間滞在してくださるユーザーが多いのかなという感触を持っています。

大崎:マネタイズについて聞かせてください。一般的に、ウェブサービスにおいては、まずユーザーの獲得が優先され、ユーザー数をある一定規模にまで持っていき、その閾値を超えたタイミングからマネタイズを考えていくというパターンが多いです。ホウドウキョクではどのように考えていますか。ビジネスモデルも併せて伺います。

 

寺:大きな流れとしては、今年度はビジネスができる基盤を整えて、来年度は収益化に本腰を入れる年にしていこうという計画です。基本的な収益の柱は広告をメインに考えていて、ブランディング広告については既に少しずつトライアルを始めています。

将来的には、アプリやサイトの機能を拡充することで、さまざまな可能性があると思っています。例えばコミュニティー機能。先々の話ではありますが、読んだ記事のデータから嗜好性やニーズを割り出し、ユーザー同士をマッチングするプラットフォームにもなり得ます。

大崎:私もこれまでアプリ開発やウェブサービス運営をしてきたので、アプリだからこそあんなことやこんなこともできそうだと想像してしまうのですが(笑)、コミュニティー以外にもアプリに実装しようと考えている機能はありますか?

 

清水:「それって報道が考えるサービスなの?」というくらいの新しいことを考えています。今の企画書を見せたいくらいです(笑)。“伝え方を研究する”ところにこだわっているので、既存のニュースアプリにはない機能ってどんなものだろうというところから考え始めています。

後から振り返ったときに、ホウドウキョクって、あの時代からこんなことをやっていたんだと言われるようなものを作ろうと思ってやっています。詳細は、今後のお楽しみということで。

 

大崎:今後のアプリについて、現時点で他にも話していただけることはありませんか。

寺:構想段階という前提ですが、AIと位置情報には取り組もうと思っています。AIはコンテンツを発信する側にも使えるんですよね。いわゆるAI記者です。ユーザーによっては、AI記者の方を気に入ったりすることもあるだろうと考えています。

また、位置情報については、僕自身が移動中に文字でニュースを読まずに、耳で聴くことが結構あるので、スマホ側で位置情報をセンシングして、その人が移動中かどうかを判別した上で、移動中であれば音で伝えてくれるなどの機能があるといいなと考えています。

大崎:24時間、コンテンツを流し続ける体制を組み、それを維持し続けていくことは想像できないほど大変なことだと思うのですが。

フジテレビ清水氏(左)、フジテレビ寺氏(右)

清水:僕自身もずっと報道の現場に身を置いているので分かるのですが、年末や正月でも絶対に誰かは報道センターにいるんですよね。事件や地震などへの緊急対応のためですが、そのような既にある人的リソースを使えばホウドウキョクでの情報発信もどんどんやっていけるんです。

日々の取材活動で蓄積される膨大な情報をテレビ番組の枠に入らなかったからと無駄に捨てたりせずに、コンテンツ化して発信していける仕組みです。もちろん初めは覚えなければいけないこともありますが、やれること・出し先が増えたと思える人にとっては、すごくエキサイティングなことです。

僕の経験から言うと、記者としては伝える場が増えるのはすごくありがたい。なので、ホウドウキョクという新たなプラットフォームが増えたことは、「負担が増えた」ということにはならないんですよね。

動画とテキスト併用のサービスである意義

大崎:放送局の得意分野である「動画」だけでなく、テキストベースの「記事」を併用したサービスが特徴的で面白いと思うのですが、そういったハイブリッドなサービスにしようと考えたのはどういった意図からでしょうか。

寺:ホウドウキョク内では“記事化”という言葉が日常的に飛び交っています。われわれが今取り組んでいる「テレビが読める」というコンセプトは結構面白いんじゃないでしょうか。

5~10年後には日常的になっていると思いますが、テレビを見られるだけでなく、移動しながら聴けるし、ちょっとしたスキマ時間に読めるという状態にして、ネット上、とくにソーシャルで存在感を出していくことがすごく重要なことで、これは「めざましテレビ」でも「とくダネ!」でも絶対にやった方がいいことなんです。

そうしていくことで、スマホ上での新規ユーザーを獲得できて、フジテレビのオーディエンスを全体的に底上げすることにつながっていくはずなので。

清水:「ワイドナショー」のオンエア後に、その放送内容が毎週のようにネットに掲載されたりして、すごい話題になるのですが、当社がそれをやらずに、他社がその価値に気付いて利用していることに、納得いかない気持ちがあります。コンテンツを持っているわれわれが記事にした方がさらに面白い伝え方に変換して出せるでしょうしね。

アーカイブを活用してできること

大崎:過去に使用した映像は、放送ビジネスにおいて非常に価値が高いはずです。この活用がウェブビジネスにとって、ともすると放送ビジネス以上に価値の高いものとなる可能性を秘めていると思っています。ホウドウキョクにおいては過去の映像アーカイブはどのくらいの期間残していくのでしょうか?

フジテレビ清水氏(左)、フジテレビ寺氏(右)

寺:そこについては、正直なところ何年でもいいのですが、まずは1年アーカイブして必要に応じて延長しています。関連して言うと、動画だけでなくテキストにしてネットに残しておくことが非常に重要になります。

それは、テキストじゃないと検索にヒットしないからです。検索で出てこないということは、多くの方に届けられないことと同じです。テキスト化さえしていれば検索エンジンに拾われて、自分たちが予想もしなかったところで見てもらえますし、RSSを通じてSmartNewsやグノシーなどに配信できたりするわけです。

このように誰でも探し出せる形にしてネットに置いておくことの重要性、コンテンツに流動性を持たせることの価値を、テレビ業界全体として実感するようになってくると、報道の分野だけにとどまらず、コンテンツのあり方が自然と今ホウドウキョクが取り組んでいるような形になっていくのではないかなと思っています。

清水:テキストとして記事化をしておく効能は他にもあって、そのときの記事が後々の原稿に生かせるようになるんです。テキスト記事になっていると過去を振り返るのが非常にやりやすい。動画だとそれがやりにくいんですよね(苦笑)。

寺:アーカイブに類似した話として、放送の世界では、撮影されながらも使われることなく消えていく映像は多いと思います。そもそも使われなかったもの、あるいは、放送尺の関係で全てを使用できずに編集で部分カットされたものなどです。そういった未使用映像の利活用などは非常に貴重ですよね。

清水:おっしゃる通りで、ホウドウキョクというプラットフォームがあれば、「本当はそれも知りたかった」というユーザーと、伝えたい情報のある記者との懸け橋になれます。これまで未使用のままで眠ってきた情報や映像などを活用すれば、間違いなくいいサービスになっていくという自信を持っています。

寺:先日、ネット専門のニュースメディアの方と話していた時に話題になったのですが、テレビ局の映像アーカイブは、時系列でのファクトチェック的なコンテンツを作成する際にとても有用で、活用したいとのニーズも伺いました。

大崎:最後に、ホウドウキョクというサービスをこれからどうしていきたいと考えていますか。清水さん、寺さんそれぞれからお願いします。

清水:一言でいえば、スマホに限らず、いつでもどこでもホウドウキョクのコンテンツを見ていただけるようにしていきたいということです。現状、渋谷のロフトビジョンでもホウドウキョクのコンテンツが流れているのですが、そういう場や機会をもっともっと増やしたいなと思っています。

通信やデバイスが発達していったときも常に対応していきたい。先々はARやウエアラブル端末でも見られるようになるとか、ニュースやメディアの定義を変えるくらいの、新しい時代の伝え方を創っていきたいですね。

寺:僕は、放送収入だけに頼らなくてもいいように、360度でビジネス展開することだと思っています。例えば、アメリカだとテクノロジーメディアが、大きなカンファレンスを主催して世界中から人を呼び、そこでマネタイズしていますよね。

それと同じような展開をホウドウキョクも日本でできると思いますし、他にも書籍を出したり、大学のようなリアルな講座をやるとか、先ほど触れたようなコミュニティー機能でのマネタイズなども含めて、全方位でビジネスを成立させるようにすることが、ホウドウキョクがこの先進むべき方向なんじゃないかなと思っています。

大崎:これからのホウドウキョクがますます楽しみですね。本日はありがとうございました。

<了>