伝え方研究のススメ ~テレビ局がニュースサイトを運営する理由~
2017/06/21
フジテレビは5月24日、ニュースメディア「ホウドウキョク」のアプリをリリースしました。
ニュース映像のライブ配信をはじめとして、短時間でまとめたクリップ動画、現場を360度で見ることのできるVR動画、さらにはテキスト配信や記者や専門家による記事解説など、さまざまなコンテンツが日々配信されています。テレビ局がニュースサイトを運営し、さらにはアプリもリリースしたその先に、一体何を目指しているのでしょうか?
アプリのプロモーション戦略を手掛けた電通の大崎孝太郎さんが、ホウドウキョクを担当するフジテレビの清水俊宏さん・寺記夫さんと、“テレビ報道のこれから”について語り合いました。
放送局としてのコンテンツを再生成するという行為
大崎:初めに、テレビ局という企業体でありながら、新規事業としてウェブ版のニュースサービスを展開する事になった経緯を聞かせてください。
清水:私も立ち上げメンバーとして参画したのですが、ホウドウキョクは2015年4月に24時間のライブストリーミングサービスとして、FOD(フジテレビオンデマンド)とスマホ向け放送局「NOTTV」で配信する形でスタートしました。
24時間コンテンツを出し続けないといけないので、出演者がいなくて私自身がスタジオに入ることもありました。いろいろな番組を担当してきましたが「24時間テレビ」を少人数で毎日放送するなんて経験は初めてでした(笑)。
しかし、途中でNOTTV自体がサービスを終了することが決まったんです。そのときに、ホウドウキョクとして今までのように24時間出し続けるのか?というのを改めて考え直すことになりました。
そこで、アメリカのネットサービスを視察するなどして検討を重ね、昨年10月24日、それまでのライブ配信だけにとどまらず、オンデマンド動画やテキスト、インフォグラフィックス・VRなども取り入れた、見たいときに見たいものを届けるニュースサイトとしてリニューアルをしました。
24時間のライブストリーミングサービスというインフラは堅持しつつ、24時間流しているけれど、新しい情報がないときまで無理やり24時間作り続けなくてもいいよねということで、リピート配信なども織り交ぜながら、今の形態にしています。
結果として、なかなかまねのできない独自のニュースサービスを実現できているんじゃないかなと思っています。
大崎:放送局にとって「放送波」で流す報道番組がある中で、それとは別に「ネット」でも報道ニュースを共存展開することに対して、会社全体で見ると事業としてのカニバリズムがあるのではないかという社内議論はありませんか。
寺:カニバリのことは特に問題になっていなくて、むしろ連携が進んでいるという感じです。例えば「ユアタイム」で放送した内容を、翌日には記事にしてスマホで読める形にして配信しているんですが、これはいわゆる「コンテンツの再生成」という行為で、これからのテレビとネットの連携でとても重要な視点になってくると思っています。
テレビ放送に適した形では一回出したけれど、そのコンテンツをスマホに適した形にして、もう一度再生成して出す、というところに意味があるという考え方でやっていて、むしろ前進しているという感覚なんですよね。
清水:手前みそな話ですけど、当社は踊る大捜査線などの映画をヒットさせていますが「映画はテレビドラマとカニバっているからやめるべきだ!」なんて言う社員はいません。
映画を見てくださる方も、ドラマを見てくださる方も、どちらもわれわれのお客さんです。初めに映画を見て、面白かったからドラマを見たという方もいれば、元々ドラマが好きだったから映画館に行ったという方もいて、それぞれがシナジーを生み出してきたわけです。
それと全く同じ構造で、フジテレビのテレビニュースを見て下さる方も、ホウドウキョクでニュースを見てくださる方も、どちらもわれわれのお客さんで、カニバるどころか、互いにプラスにしか働かないんですよね。
大崎:ニュースをすみ分けて発信するとか、テレビ放送とホウドウキョクで編成を分けるというような、社内での事前の擦り合わせはあるのでしょうか?
清水:報道本体のチームとは常に意見交換と定期的なミーティングをしていますが、地上波でこの時間にこのニュースやるから、同じ時間にホウドウキョクではやるな、みたいな不毛な議論はありません。むしろ、双方で共存しようとしています。
例えばフィリピンのドゥテルテ大統領のインタビューを1時間撮れたんだけど、地上波だと10分にまとめなければいけなくて、他の部分を捨てるのはもったいないから、1時間全編を配信してほしいといった具合で、お互いの特徴を生かそうとしています。
寺:ネット上でも、1次情報は他のテレビ局や新聞社、時事通信などの通信社が配信しています。われわれとしては、ソーシャルメディアを中心にネット上での存在感を出していきたいと思っているので、1次情報を出すだけでは全然ダメで、解説を加えた情報、すなわち「1.5次情報」を適切なタイミングで出していくことが重要だと考えています。
ホウドウキョクでは発生したニュースに対してすぐさま解説委員や記者が「そもそも」「〜とは」といった解説を加え、ユーザーに分かってもらえる状態に加工して配信するという感覚を大事にしています。
清水:「分かってもらえる状態に加工」という点では、たとえば安倍首相と蓮舫代表の党首討論のやりとりを、若者向けにLINE風に加工して配信したりもしました。ニュースをより深く知りたい人に向けては動画もありますし、全文掲載をしたテキスト記事も作っていますが、若い層ではLINEのトーク仕立てで見る方が、読みやすいし、理解できることもあるだろうと考えました。
大崎:ウェブユーザーならではの行動、趣向などを考慮して放送の1次情報を1.5次情報に変換して届ける、それにはスピードが肝となります。人的経営資源や情報リサーチ力、ニュース運営ノウハウを活用できる放送局の強みがあるからこそスピーディーに実現できているということでしょうか。ホウドウキョクに関わるスタッフは、テレビ放送の報道担当者が主体となっているのでしょうか?
清水:ホウドウキョク専属のスタッフは決して多くないのですが、1次情報を出してくれるのは、テレビ放送の報道担当の人間全員です。100人くらいの記者・解説委員が原稿や情報を出してくれる体制になっていて、新しいニュースをより早く出すことが実現できています。
社内の意識も変わってきています。以前は、テレビで流したものをそのままネットで流しておけばいいという人も実際にいました。テレビで放送した内容を一文字も変えずに流せ、というものです。
でも、キャスターが読んだ原稿を、仮に全部テキストで起こしたとしても、それはテレビ放送用のテンポに合わせた、映像ありきの文字なので、テキストだけで読んでも全然面白くありません。
例えば、「ユアタイム」の放送内容をテキスト記事にする際には、タイトルも変えます。キャスターが読んでいた部分も、テキストにする場合はテキストで読みやすい形に変えますし、話の流れや順番も変えます。大事なことは、ニュースをユーザーの方々の受け取りやすい形に合わせて配信していくことです。
キュレ―ションメディアは競合なのか?
大崎:キュレーションメディアがさまざまな意味で昨今話題となっており、同種サービスが乱立しています。ホウドウキョクにとってニュースキュレーションメディアは競合になるのでしょうか?
清水:大きな意味では競合ですが、SmartNewsやグノシーに集まる多様なジャンルのコンテンツを見たいというニーズは確実にあるので、そこに集まる人がいるのは当然だと思います。
「だから駆逐せよ!」というのではなく、その場にわれわれのコンテンツも出しながら、まずは多くの人に触れてもらうことを大事にしています。ただ、われわれのコンテンツをより楽しんでもらうなら、われわれのサイトやアプリで見てもらった方が絶対に見やすくて面白いという自信があります。
1次情報を持って自分たちで加工できる方が絶対に強いし、深い表現もしていけますので。ライバルという側面もありながら、われわれのコンテンツを紹介してくれるパートナーでもあると思っています。
寺:キュレーションメディアから学ぶことはたくさんあります。メディアってある種のブランドだと思うのですが、ホウドウキョクもどうやって一人前のブランドにしていくのかとずっと考えています。
そんな中で、成功しているキュレーションメディアは、コンテンツを他メディアから借用しているというよりは、メディアブランドを確立する編集力・企画力からタイトルの付け方まで、一つ一つに軸があるから支持されていると思うんです。
ですので、敵ということではなくて、そういう優れている部分を謙虚に学ぶ姿勢がテレビ業界にも求められていると思います。インターネットサービスを甘く見ているうちに足元をすくわれるというのが、これまでの(テレビ局の)パターンでしたから(苦笑)。
大崎:ホウドウキョクでよく見られているコンテンツはどのようなものですか? テレビ報道とは違ったウェブサービスならではの特徴があれば、ぜひ教えてください。
清水:まずは、われわれの中で“半径5メートル”と呼んでいるような身近なネタですね。「突然飲みに誘わないでほしい」という若手社員のホンネ座談会とか、「セクハラと非セクハラのボーダーライン」とか。
それから、北朝鮮のニュースなどテレビの地上波でもよく見られているようなコンテンツは、やはりホウドウキョクでもよく見られます。北朝鮮の内部情報や万景峰号船内の360度映像など、他では見られないコンテンツがたくさんあるからだと思います。
また、AIの現状など最新テクノロジー系の話は、地上波ではなかなか深くやれないテーマですが、よく見られるニュースです。この前も、「スマホがなくなる日」という特集を組んだのですが、すごく見られましたね。
寺:あとは、30~40代の方々がなんとなく抱えているぼんやりとした不安などを特集で組むと、よく見られます。例えば「親が死んだらどうする?」というようなもので、これもよく見られましたね。
大崎:“ホウドウキョク”というサービス名称は、FOD(フジテレビオンデマンド)のように局名の冠が付いていないため、フジテレビのサービスかどうかが分からないと思います。フジテレビの冠を付けずにサービス名称を付けたのには意図があるのでしょうか?
清水:コンテンツに魅力があれば、フジテレビであるかどうかはユーザーにとってあまり関係がないと思っています。逆に「フジテレビの報道」という言葉に縛られて、コンテンツの幅を自分たちで狭めるようなことはしたくない。
元々、報道局長とネーミングについて議論していた時に、「とくダネ!」とか「真相報道バンキシャ!」などのように、それを聞いたら、ニュースをやっているというのがストレートに伝わるようなサービス名称にしたいという話をしていたんです。
“とくダネ”とか“バンキシャ”って、番組名が浸透してからは、元々の言葉の意味をある意味、超えてしまったと思うんです。“とくダネ”と言うだけで、テレビ番組の方を連想しますよね。それと同じように、言葉の定義自体を変えるくらいのサービスをしたいな、と。
それで、僕が「ホウドウキョクとかですかね?」とつぶやいた瞬間に、報道局長の目が輝いて、「それだ!」となったんです。片仮名にすることで、「報道局」という言葉が元来持っている「報道はこうあるべき」といった固定観念や堅いイメージを打ち壊したいと思っています。
今では報道局所属ではないけど専門性のある人間に原稿を書かせていますし、テレビの報道番組だけでなく、ネットやサイネージなどこれまで報道とは縁が深くなかった場所にもコンテンツを出していくなど、実際に“報道”という定義を変えていこうという思いで取り組んでいますね。
寺:僕もその名前を聞いたときは、報道を片仮名にした発想がすごいなと思いました。ハフポストやBuzzFeedを競合のひとつとしてベンチマークしているのですが、彼らのサイトはプルダウンメニューで“.uk”とか“.fr”など、国を選べるじゃないですか。
ホウドウキョクも早くそこまでたどりつきたいなと思いながら、”houdoukyoku.fr”というのを想像したりするのですが、実際にあっても全然変じゃない感じがするし、フランス人も「ホウドウホウドウ」って、喜んで言ってくれそうじゃないですか(笑)。
完全に僕の勝手な妄想ですけど。私は技術畑の人間なので、ジャーナリズムを語る立場にはないのですが、先ほど清水が言ったように、名前に込められた思いの通り、報道とはこうあるべきというのとは違う形をつくろうとは思っていますね。
これからのメディアには、“伝え方を研究する”ことが求められる
大崎:現時点(2017年6月時点)で他の同種サービスとの違いとして、VRをはじめとした最先端のテクノロジーをサービスに組み込む試みをしていますが、どういった経緯や意図で始めることになったのでしょうか?
清水:“取材をして伝える”というのが、これまでのメディアの一番の仕事でした。でも、トランプ大統領が自らTwitterでメッセージを発信したり、一般の方がFacebookで情報発信する方が既存メディアよりも早いという場面が普通に出てきています。
要は、取材をして伝えるだけなら、誰でもできる時代になったんです。そうなると、これからのメディアの仕事は、“取材をして伝える”にプラスして、“伝え方を研究する”ところまでをやるべきだと思うんです。今まではテレビ放送に合う取材の仕方だけをしていればよかった。
でもこれからは、テレビというデバイスでは伝えられない情報をどのように伝えられるかを考えなければいけない。例えばVRを使えば伝えられるのか、どういう時にVRを使った方がより有効なのか、を誰よりも研究して把握している必要がある。
この先、VRがどこまで発展するかは、まだ分かりませんが、でも今このタイミングで“たかがVR”をやっていないメディアは、新しいデバイスや技術が出て来た時に、何も対応できないと思うんです。ファミコンでゲームを作っていなかった人が、スーパーファミコンになって急に良いゲームを作れるかというと難しい。
ファミコンでノウハウをためた人は、Wiiが出ても、ニンテンドースイッチになっても、スマホゲームでも対応できるんです。仮にVRが世間に浸透しなかったとしても、ここで伝え方の研究をした事は、この先に必ずつながっていくと思います。
寺:VR以外での伝え方の研究という意味では、最近は、ライブストリーミングを、LINE LIVE、Facebook Live、Periscopeなどで1日1回は流しています。
じゃあ、それをどうやって技術的に実現しているのかというと、実は全然難しいことでもなくて、5万円くらいのライブエンコーダーを中野ブロードウェイにあるジャンク屋で僕が買ってきて、スタジオに設置して使っています。
そういう枯れた技術であっても使い方次第な面があるので、最新のテクノロジーだけにとらわれずに、技術的な面でもさまざまな方向から伝え方の研究をしていきたいと思っています。
清水:サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)のインタラクティブ・イノベーション・アワードの取材に行ってきたのですが、カメラは持たずにスマホで撮影するというルールを決めて行きました。
で、東京大学の学生チームがアワード受賞した映像を、実際にスマホで撮影して、地上波でも流しました。SXSWの会場には世界中のメディアが来ていたのですが、リポーターと音声さんとアシスタントがいて…なんて大人数でやっているメディアは、ほとんどいない。
いつまでも「それが当たり前」なんて思い込んでいると、世界の中で、全く競争力がなくなってしまいます。人的リソースがなくて、機動力が必要な取材環境なら、このデバイス・この人数で大丈夫!という方面からの伝え方の研究も、ホウドウキョクでもっともっとできることがあると思っています。
分散先のひとつとしてのアプリ
大崎:2015年のサービス提供開始から約2年経過したこのタイミングでアプリを出された経緯を聞かせてください。
清水:2015年にサービスを立ち上げた頃は、まずはメディアとしてのサイズを大きくしようと、とにかくコンテンツを作る方に専念してきました。2016年秋からは、いわゆる分散型メディア戦略を採用し、Y!ニュース、SmartNews、グノシー、Facebook、Twitterなどにホウドウキョクのニュースを出しながら、それぞれのプラットフォームに応じた出し方の研究をしてきました。
サービスがある程度のサイズに成長してきたなと感じるようになってくると、今度はいろんなところから「ホウドウキョクはどうしてアプリがないのか?」と言われるようになりました。浅田真央さんの引退会見の時も、「ホウドウキョクがウェブで配信していたことを知らなかった。プッシュ通知で教えてほしかった」などのご意見を多く頂きました。
分散型メディアとしての出し方・伝え方を追求していく中で、ユーザーの方々の利便性のさらなる向上を考えれば、コンテンツの“分散先の一つ”として、当社自身でアプリを持っているのが自然だねという結論に落ち着きました。
大崎:アプリをリリースしてからさほど時間は経過していないところですが、アプリがなかった時と比して、ユーザー行動の変化や新たに見えてきたことはありますか。
清水:まだ明確な根拠を持って語れるほどのデータを集めきれていないのですが、アプリ内ではさまざまなジャンルのコンテンツがスクロールで次々と出てくるので、ホウドウキョクってこんなにコンテンツが多いのか!と長い時間滞在してくださるユーザーが多いのかなという感触を持っています。
大崎:マネタイズについて聞かせてください。一般的に、ウェブサービスにおいては、まずユーザーの獲得が優先され、ユーザー数をある一定規模にまで持っていき、その閾値を超えたタイミングからマネタイズを考えていくというパターンが多いです。ホウドウキョクではどのように考えていますか。ビジネスモデルも併せて伺います。
寺:大きな流れとしては、今年度はビジネスができる基盤を整えて、来年度は収益化に本腰を入れる年にしていこうという計画です。基本的な収益の柱は広告をメインに考えていて、ブランディング広告については既に少しずつトライアルを始めています。
将来的には、アプリやサイトの機能を拡充することで、さまざまな可能性があると思っています。例えばコミュニティー機能。先々の話ではありますが、読んだ記事のデータから嗜好性やニーズを割り出し、ユーザー同士をマッチングするプラットフォームにもなり得ます。
大崎:私もこれまでアプリ開発やウェブサービス運営をしてきたので、アプリだからこそあんなことやこんなこともできそうだと想像してしまうのですが(笑)、コミュニティー以外にもアプリに実装しようと考えている機能はありますか?
清水:「それって報道が考えるサービスなの?」というくらいの新しいことを考えています。今の企画書を見せたいくらいです(笑)。“伝え方を研究する”ところにこだわっているので、既存のニュースアプリにはない機能ってどんなものだろうというところから考え始めています。
後から振り返ったときに、ホウドウキョクって、あの時代からこんなことをやっていたんだと言われるようなものを作ろうと思ってやっています。詳細は、今後のお楽しみということで。
大崎:今後のアプリについて、現時点で他にも話していただけることはありませんか。
寺:構想段階という前提ですが、AIと位置情報には取り組もうと思っています。AIはコンテンツを発信する側にも使えるんですよね。いわゆるAI記者です。ユーザーによっては、AI記者の方を気に入ったりすることもあるだろうと考えています。
また、位置情報については、僕自身が移動中に文字でニュースを読まずに、耳で聴くことが結構あるので、スマホ側で位置情報をセンシングして、その人が移動中かどうかを判別した上で、移動中であれば音で伝えてくれるなどの機能があるといいなと考えています。
大崎:24時間、コンテンツを流し続ける体制を組み、それを維持し続けていくことは想像できないほど大変なことだと思うのですが。
清水:僕自身もずっと報道の現場に身を置いているので分かるのですが、年末や正月でも絶対に誰かは報道センターにいるんですよね。事件や地震などへの緊急対応のためですが、そのような既にある人的リソースを使えばホウドウキョクでの情報発信もどんどんやっていけるんです。
日々の取材活動で蓄積される膨大な情報をテレビ番組の枠に入らなかったからと無駄に捨てたりせずに、コンテンツ化して発信していける仕組みです。もちろん初めは覚えなければいけないこともありますが、やれること・出し先が増えたと思える人にとっては、すごくエキサイティングなことです。
僕の経験から言うと、記者としては伝える場が増えるのはすごくありがたい。なので、ホウドウキョクという新たなプラットフォームが増えたことは、「負担が増えた」ということにはならないんですよね。
動画とテキスト併用のサービスである意義
大崎:放送局の得意分野である「動画」だけでなく、テキストベースの「記事」を併用したサービスが特徴的で面白いと思うのですが、そういったハイブリッドなサービスにしようと考えたのはどういった意図からでしょうか。
寺:ホウドウキョク内では“記事化”という言葉が日常的に飛び交っています。われわれが今取り組んでいる「テレビが読める」というコンセプトは結構面白いんじゃないでしょうか。
5~10年後には日常的になっていると思いますが、テレビを見られるだけでなく、移動しながら聴けるし、ちょっとしたスキマ時間に読めるという状態にして、ネット上、とくにソーシャルで存在感を出していくことがすごく重要なことで、これは「めざましテレビ」でも「とくダネ!」でも絶対にやった方がいいことなんです。
そうしていくことで、スマホ上での新規ユーザーを獲得できて、フジテレビのオーディエンスを全体的に底上げすることにつながっていくはずなので。
清水:「ワイドナショー」のオンエア後に、その放送内容が毎週のようにネットに掲載されたりして、すごい話題になるのですが、当社がそれをやらずに、他社がその価値に気付いて利用していることに、納得いかない気持ちがあります。コンテンツを持っているわれわれが記事にした方がさらに面白い伝え方に変換して出せるでしょうしね。
アーカイブを活用してできること
大崎:過去に使用した映像は、放送ビジネスにおいて非常に価値が高いはずです。この活用がウェブビジネスにとって、ともすると放送ビジネス以上に価値の高いものとなる可能性を秘めていると思っています。ホウドウキョクにおいては過去の映像アーカイブはどのくらいの期間残していくのでしょうか?
寺:そこについては、正直なところ何年でもいいのですが、まずは1年アーカイブして必要に応じて延長しています。関連して言うと、動画だけでなくテキストにしてネットに残しておくことが非常に重要になります。
それは、テキストじゃないと検索にヒットしないからです。検索で出てこないということは、多くの方に届けられないことと同じです。テキスト化さえしていれば検索エンジンに拾われて、自分たちが予想もしなかったところで見てもらえますし、RSSを通じてSmartNewsやグノシーなどに配信できたりするわけです。
このように誰でも探し出せる形にしてネットに置いておくことの重要性、コンテンツに流動性を持たせることの価値を、テレビ業界全体として実感するようになってくると、報道の分野だけにとどまらず、コンテンツのあり方が自然と今ホウドウキョクが取り組んでいるような形になっていくのではないかなと思っています。
清水:テキストとして記事化をしておく効能は他にもあって、そのときの記事が後々の原稿に生かせるようになるんです。テキスト記事になっていると過去を振り返るのが非常にやりやすい。動画だとそれがやりにくいんですよね(苦笑)。
寺:アーカイブに類似した話として、放送の世界では、撮影されながらも使われることなく消えていく映像は多いと思います。そもそも使われなかったもの、あるいは、放送尺の関係で全てを使用できずに編集で部分カットされたものなどです。そういった未使用映像の利活用などは非常に貴重ですよね。
清水:おっしゃる通りで、ホウドウキョクというプラットフォームがあれば、「本当はそれも知りたかった」というユーザーと、伝えたい情報のある記者との懸け橋になれます。これまで未使用のままで眠ってきた情報や映像などを活用すれば、間違いなくいいサービスになっていくという自信を持っています。
寺:先日、ネット専門のニュースメディアの方と話していた時に話題になったのですが、テレビ局の映像アーカイブは、時系列でのファクトチェック的なコンテンツを作成する際にとても有用で、活用したいとのニーズも伺いました。
大崎:最後に、ホウドウキョクというサービスをこれからどうしていきたいと考えていますか。清水さん、寺さんそれぞれからお願いします。
清水:一言でいえば、スマホに限らず、いつでもどこでもホウドウキョクのコンテンツを見ていただけるようにしていきたいということです。現状、渋谷のロフトビジョンでもホウドウキョクのコンテンツが流れているのですが、そういう場や機会をもっともっと増やしたいなと思っています。
通信やデバイスが発達していったときも常に対応していきたい。先々はARやウエアラブル端末でも見られるようになるとか、ニュースやメディアの定義を変えるくらいの、新しい時代の伝え方を創っていきたいですね。
寺:僕は、放送収入だけに頼らなくてもいいように、360度でビジネス展開することだと思っています。例えば、アメリカだとテクノロジーメディアが、大きなカンファレンスを主催して世界中から人を呼び、そこでマネタイズしていますよね。
それと同じような展開をホウドウキョクも日本でできると思いますし、他にも書籍を出したり、大学のようなリアルな講座をやるとか、先ほど触れたようなコミュニティー機能でのマネタイズなども含めて、全方位でビジネスを成立させるようにすることが、ホウドウキョクがこの先進むべき方向なんじゃないかなと思っています。
大崎:これからのホウドウキョクがますます楽しみですね。本日はありがとうございました。