アプリの参考書No.4
良いアプリの7カ条④:もう一度使いたくなる仕組みがある
2024/10/02
多くの企業がDX領域に取り組む中で、顧客接点をスマホに求める動きが加速しています。本連載では、アプリ開発で電通と協業しているフラー株式会社にインタビュー。iPhoneの黎明(れいめい)期からアプリを追いかけてきたフラーの山﨑社長に「良いアプリの7カ条」について語ってもらいます(前回の記事は、こちら)。今回は、「良いアプリの7カ条④:もう一度使いたくなる仕組みがある」について解説します。
(企画:電通 8MK局 笹川真、大坪要介、杉山裕貴)
フラー株式会社
デジタル領域で企業の事業支援を行い、主力事業の一つはアプリのデザインと開発。アプリとその市場をきめ細かく分析し、戦略構築からプロダクト開発、グロースまでを一手に手掛ける。同社では、エンジニア、デザイナー、データサイエンティスト、ディレクターからなるクリエイティブチームがさまざまな企業の優れたアプリを生み出している。
ユーザーが無意識に穴埋めをしたくなる心理を活用する
「アプリをインストールしてもらったが、使われない」というのは、アプリ開発において多くの企業が悩んでいることです。特に、インストールした直後に繰り返し使いたくなる工夫がないと、全く使われなくなる可能性は高くなります。アプリを運営していく上で、インストールした人に数日の間使い続けてもらい、習慣化できるかどうかは、私たちが重要視する指標です。
飲食店や小売業のアプリは、初回利用者へクーポンを配布するなど、金銭的なインセンティブを用意して利用を促すケースが多く見られます。他にも、アプリを繰り返し使ってもらうために、ポイント付与や会員ランクのシステムを設けるのも1つの方法です。ただし、このような方法は、接客マニュアルの変更に加え、店舗スタッフへの説明やトレーニング、会員ランクに合わせたお客さまへの対応など、実店舗のオペレーションに大きな影響を与えます。実現の難易度は高く、どの程度実施するかについて慎重に検討しなければなりません。
アプリをもう一度使いたくなる工夫を考えるときは、アプリ内で完結する施策を併せて考えた方が実現しやすいでしょう。
例えば、映画とテレビのソーシャルネットワークアプリ「Must」は、自分が見たい作品を検索したり、見終わった映画を登録したりする機能があります。このアプリを使い始めると、トップの画面に「映画を3つ登録してみましょう」といったような表示が出ます。ユーザーがあまり負担なくできるタスクをトップ画面に表示することで「タスクをクリアしよう」と思わせ、アプリの使用を習慣化してもらう狙いがあります。
ユーザーがアプリ内での行動を蓄積したことを分かりやすく示すことも大事です。数学や物理を学ぶためのアプリ「Brilliant」は、スタンプラリーのような形で、使用した曜日の欄が埋まっていき、何日間連続でアプリを使ったかをトップ画面に表示することで、継続して使ってみようという気持ちを起こさせます。ユーザーの継続利用をたたえ、習慣化を促します。
両アプリとも、もう一度アプリを使ってもらうために「ユーザーが無意識に穴埋めをしたくなる心理を活用する」という工夫をしています。
優れたゲームアプリから学ぶ、もう一度使いたくなるさまざまな工夫
チェスコーチングアプリ「Learn Chess with Dr. Wolf」は、コンピューターとチェスで対戦し、指すべき手を教えてくれます。ここまでは通常のチェスアプリと変わりませんが、注目すべき点は「これまでの試合で失敗した指し手を、日を置いて繰り返し教えてくれる」機能です。
間違えたその瞬間だけでなく、次にアプリを開いたときに、自分が指し間違えたタイミングの盤面が出てきて、自分が駒を指すところからスタートします。一度試すだけでは忘れてしまう内容も、日を置いて何度も繰り返すため自然と覚えていきます。自分が指し進めた盤面から始まるため理解しやすく、この機能を試すために自然と繰り返し利用したくなる優れたアプリです。
他の事例も紹介します。ニューヨークタイムズはゲーム事業を営んでいますが、同社のゲームアプリ「NYT Games」は、同社の大きな収益の柱となっています。数億円規模で買収したことで有名になった人気ゲームのワードルも、このアプリの中でプレーすることができます。
このアプリの特筆すべき点は、どのゲームも1日に1回しかプレイできないことです。ワードルをはじめとした新たなゲームに取り組もうと思うと、日付が変わることを待つ必要があります。ユーザーに適度な制限を与えることで、繰り返し使いたくなる気持ちを誘発しています。
このような、一度に長時間プレーさせるのではなく、適度な量をユーザーにプレーしてもらい無理なく継続を促す手法は、先ほどご紹介したBrilliantでも使われています。ユーザーに負荷がかかるような数学や物理の難しい問題を解くことも、小出しにすることでアプリの使用継続率を高めています。
以上のように、ゲームアプリにはもう一度使いたくなるようなさまざまな工夫がされています。アプリの使用継続率を高める機能を考える際には、ゲームアプリを使ってみることが何かのヒントになるかもしれません。
もう一度使いたくなるときの気持ちに応える
もう一度使いたくなる仕組みと合わせて、もう一度使ってくれた時のユーザーの気持ちに最大限応える状態を用意する必要があります。せっかく期待をもってアプリを開いてくれたとしても、その期待に応えられないと、アプリへの熱が途端に覚めてしまいます。
そうならないために、ユーザーが使う場面を自分ごとのように想像することが大切です。ユーザーがどのような接点でサービスを知り、どのようなタイミングでダウンロードして、どんなふうにユーザー登録をして使い始めるのか。そして、もう一度開く、使いたくなるタイミングはいつ、どんな気持ちや状態なのか。周りのアプリで考えてみましょう。
例えば、小売店のアプリで、お店でレジに並んでいるときに会員登録を促すのであれば、後ろに並んでいる他の顧客を気にする必要があり、1秒でも早く仮の会員登録が済むようにする必要があります。再び開くのは、きっと列から解放されて急かされなくなり、ポイントがいくらたまったか確認するとき。もし当日にアプリを開いたのにポイント反映が翌日以降だったら、ユーザーはがっかりしてしまいます。ポイント反映のタイミングを確実に伝えるか、なるべく早くポイントを反映する必要があるでしょう。
交通系アプリやチケットアプリは、席の予約をした後、再び開くのはきっと出先で座席番号を確認するときです。移動中でバタバタしている可能性があり、座席情報を見るためのタップ数を1つでも少なくできると、アプリを開く利用回数が増えます。アプリの深いところに情報があると、その画面のスクリーンショットを撮影して写真アプリで確認してしまうような経験がみなさんにもあるのではないでしょうか。
このように、ユーザーの熱量が高いうちにもう一度開いてもらうだけでなく、その時の期待に確実に応えるようにすることで、ユーザーは最初の一連の利用の体験に満足し、定着率に大きく寄与します。使う場面を言語化して、プロジェクトに携わるメンバー全員の共通認識にすることが、良いアプリを生み出すことにつながります。
次回は、「良いアプリの7カ条⑤:操作に対する心地よい反応がある」について解説します。