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アプリの参考書No.5

良いアプリの7カ条⑤:操作に対する心地よい反応がある

2024/10/10

アプリの参考書
多くの企業がDX領域に取り組む中で、顧客接点をスマホに求める動きが加速しています。本連載では、アプリ開発で電通と協業しているフラー株式会社にインタビュー。iPhoneの黎明(れいめい)期からアプリを追いかけてきたフラーの山﨑社長に「良いアプリの7カ条」について語ってもらいます(前回の記事は、こちら)。今回は、「良いアプリの7カ条⑤:操作に対する心地よい反応がある」について解説します。

(企画:電通 8MK局 笹川真、大坪要介、杉山裕貴)

フラー株式会社
デジタル領域で企業の事業支援を行い、主力事業の一つはアプリのデザインと開発。アプリとその市場をきめ細かく分析し、戦略構築からプロダクト開発、グロースまでを一手に手掛ける。同社では、エンジニア、デザイナー、データサイエンティスト、ディレクターからなるクリエイティブチームがさまざまな企業の優れたアプリを生み出している。

山﨑将司
フラー代表取締役社長・山﨑将司氏。大学時代からアプリ開発に携わる。長年にわたり国内外のアプリを多数試していて、さまざまなアプリに精通している。アプリ開発においてはスタッフに単なる知識を伝えるのではなく、自分の使用感をもとに的確なアドバイスをしている。

ユーザーの行為に対して、適切な反応を返すことが必要

良いアプリの条件として、今回は5つ目の「操作に対する心地よい反応がある」についてお話しします。「心地よい」とは何かを語る前に、まず「ユーザーの操作に対してアプリが適切に反応すること」の必要性を説明します。

例えば、こんなときどう感じるでしょうか?課金ボタンをタップしたのに、何の反応もない。ECアプリで情報を記入して登録するボタンを押したのに、何の反応もなくて保存されたかどうか分からない。マッチングアプリで気になる人にメッセージを書いて送信ボタンをタップしたのに、画面が何も変わらない。

「課金できているのか」「ちゃんと保存されているのだろうか」「メッセージが送れているのだろうか」と、思うのではないでしょうか?

アプリにおいては、ユーザーの一つ一つの行動に対して、アプリ内で何が起きているのかをこまめに正しく返さないと、たとえアプリがきちんと作動していたとしても、ユーザーは不安を感じるでしょう。そして、アプリへの信頼が低下してしまいます。

何かを入力して保存することは、ユーザーにとって、とても負荷がかかる行為です。また、お金を払う行為は慎重になります。そのようなユーザーの行為に対して、印象的なフィードバックを返すことは大事です。

そこから発展して、アプリの反応に「心地よさ」が加わると、アプリへの親しみが湧くとともに、商品やサービス、ブランドへのイメージがアップすると考えます。

心地よい反応がある3つのアプリ

では、「心地よい反応」とはどういうものなのか。ここで3つの事例を紹介します。1つ目は、ルイ・ヴィトンの公式アプリです。このアプリは、画面下部のタブバーのメニューを押すと、さりげなくルイ・ヴィトンのモノグラムの記号の1つが下から現れて、どのタブを開いているか分かる工夫がされています。ちょっとしたことですが、気が利いていて楽しさを感じます。また、下から浮かび上がるアニメーションはアプリの起動時にも採用されており、似たアニメーションを用いることでアプリ全体の装飾の一貫性を演出しています。

アプリを店舗と考えると、楽しんで商品を選んだり買ったりしてもらうためのユーザー視点での工夫が大切です。もちろん、そうした工夫がなくても商品購入はできるので機能的には問題はありません。しかし、操作に対する心地よい反応があることで、ブランドイメージを高めたり、ブランドが持っている世界観を伝えたりすることができ、継続的に購入してもらえるファン層の獲得につながります。

2つ目は、自然音を聞いてリラックスするためのアプリ「LEMO FM」です。このアプリはラジオをモチーフにしたデザインが特徴です。ダイヤルをスワイプするとカチカチと音がしたり、ボタンをタップすると振動があったり(ハプティックフィードバック)、あたかもラジオを操作しているような感覚になります。このアプリは、ラジオの世界観を徹底して再現しているところが特徴で、愛着を感じるユーザーも多いでしょう。余談ですが、このアプリのような実世界に存在する物質に似せたつくりをするデザインは、「スキューモーフィズムデザイン」と呼ばれています。

3つ目は、ドイツの会社が開発した「klima」というアプリです。個人でも気軽にカーボンオフセットに取り組むことができます。このアプリはユーザーの生活スタイルを基にCO2排出量を計算し、その量に見合った環境プロジェクトへの投資を提案します。ユーザーはサブスクリプション形式でこの投資に参加でき、簡単にカーボンオフセットを実現できます。

klimaの特徴的な点は、ユーザー体験にあります。サブスクリプションに加入すると、アプリのホーム画面が大きく変化します。この変更は、ユーザーの重要な決断を歓迎し、その行動に対して最大限のフィードバックを提供するためです。サブスクリプションへの加入は多くの人にとって大きなハードルになりますが、klimaはこの視覚的な変化という心地よい反応を通じて、ユーザーの環境への貢献をたたえて継続的な活動を促しています。


 

「静止画」としてではなく、「動き」を考える

「操作に対する心地よい反応」をアプリ内に作るためには、「動き」を意識することが必要です。ところが、アプリ開発では、従来のウェブ開発と同じようにデザインするケースが見られます。PC上の画面を見ながら、必要な情報だけを入れ込んで、後はどんな見た目が良いか考えることに終始することが少なくありません。

「静止画」として捉えるのではなく、アプリの操作に対して、どのような「動き」があるとユーザーは便利か心地よいと感じるか、心理的な面を考えてみましょう。ウェブと違い、アプリ開発では、スマホのいろいろな機能を使うことができます。画面内の小さな変化、画面の切り替え方法、振動、音など、スマホの機能を駆使し、ユーザーにどのようなフィードバックを返すべきか一つ一つ考えなければなりません。

とはいえ、「心地よさ」と「しつこさ」は紙一重の部分があります。やりすぎれば、ユーザーに「何か使いにくい」と思われてしまう可能性があります。どの程度フィードバックするかは、開発者の力量が問われます。アプリに対する感性を磨くには、普段からアプリをたくさん使ってみることが大切です。さまざまなアプリを触りながら、どのような点が心地よいのか考える習慣をつける必要があります。アプリを使っていると悪い部分は目につきやすいですが、良い部分は意外と気づきにくいものです。

心地よい反応があるとアプリの印象は大きく変わり、それが継続して使用してもらえることにつながります。ぜひ検討してみてください。

次回は、「良いアプリの7カ条⑥:教わらなくても使える」について解説します。

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