アプリの参考書No.2
良いアプリの7カ条②:デバイスやOSの持つ特性を最大限活用している
2024/06/19
多くの企業がDX領域に取り組む中で、顧客接点をスマホに求める動きが加速しています。本連載では、アプリ開発で電通と協業しているフラー株式会社にインタビュー。iPhoneの黎明(れいめい)期からアプリを追いかけてきたフラーの山﨑社長に「良いアプリの7カ条」について語ってもらいます(前回の記事は、こちら)。今回は、「良いアプリの7カ条②:デバイスやOSの持つ特性を最大限活用している」について解説します。
(企画:電通 8MK局 笹川真、大坪要介、杉山裕貴)
フラー株式会社
デジタル領域で企業の事業支援を行い、主力事業の一つはアプリのデザインと開発。アプリとその市場をきめ細かく分析し、戦略構築からプロダクト開発、グロースまでを一手に手掛ける。同社では、エンジニア、デザイナー、データサイエンティスト、ディレクターからなるクリエイティブチームがさまざまな企業の優れたアプリを生み出している。
「アプリの外側」に目を向けると可能性が広がる
アプリ開発では、「アプリの内側(アプリを開いた後の画面)」にどのような機能やコンテンツを盛り込むかに注力しがちですが、「アプリの外側(スマホのデバイスとOSの特性)」にも目を向けることが重要だと、会社のみんなにも伝えています。
というのも、デバイスとOSの進化のスピードは速く、スマホでできることがどんどん増えているからです。例えば、いまのスマホには、デバイスの向きや傾き、動きを検知するセンサーがついています。万歩計やヘルスケアアプリなどはこのセンサーを活用しています。
また、スマホの内側のカメラが搭載される位置も変わり、昔はノッチ型と呼ばれるデザインが多かったのですが、最近はパンチホール型が主流となってきました。特に最新のiOSデバイスでは、カメラのパンチホール部分に「Dynamic Island(ダイナミックアイランド)」という表示スペースが設けられました。iOS16.1から「ライブアクティビティ」機能が追加され、進行中のアプリ情報をロック画面から確認できるようになったり、Dynamic Island上に表示することができるようになったりしました。
このようなデバイスとOSの特性を生かすと、アプリ開発の可能性は広がります。私たちがクライアントと一緒にアプリ開発の企画を考える際は、クライアントから「こんなことできますか?」とご希望をいただくことがあります。その際にデバイスやOSの更新情報を知っていないと、「アプリの内側」のことしか話ができず、提案が限定されてしまいます。ですから、デバイスとOSの更新情報はこまめにチェックしています。「アプリの外側」に目を向けることで、アプリを使っていない時間にもユーザーにアプローチできて、アプリをより使ってもらえるきっかけを作ることができます。
デバイスとOSの特性を生かした三つのアプリ
「デバイスやOSの持つ特性を最大限活用している」という点で注目している三つのアプリがあります。一つ目は、アメリカのLocket Labs社が提供している写真共有アプリ「Locket Widget」です。
「Widget(ウィジェット)」は、スマホのホーム画面上に表示されるアプリのショートカット機能です。時計や天気、予定、ニュースなどが表示されているのはご存じでしょう。この機能を使うとアプリを開かずに内容が確認できるようになります。
「Locket Widget」は、Widget機能をうまく活用しています。このアプリで写真を送信すると、相手はアプリを立ち上げる必要なく、スマホをロック解除するだけで新しい写真が見られます。アプリを開かないと写真が見られないサービスが普通ですが、親しい人のライブ写真を手軽に見られるこのサービスは画期的でした。
インターネットで、「nクリックを1クリックにしたら商売になる、1クリックを0クリックにすると革命になる」という言葉がありますが、私は、アプリもタップする回数を減らせば減らすほどビジネスチャンスが増えると考えています。「Locket Widget」は、アプリのアイコンをタップすることなく最新の写真を見ることができ、その写真を見て、コメントを送ったり、他の写真も見たくなったりして、結果的にアプリを立ち上げるという好循環が生まれるでしょう。
二つ目は、盲ろう者(視覚と聴覚に障害のある人)をサポートするアプリ「Anne」です。このアプリは、イタリアのミラノを本拠地とする企業が提供していて、2023年のApple Design Awardsでファイナリストに選ばれました。
iPhoneには、スワイプなど指で決まった動きをすることで特定の操作ができる「ジェスチャー機能」が搭載されています。他にも、バイブレーション機能や背面タップ機能もあり、「Anne」はこれらを活用した好例です。
「Anne」は、iPhoneの背面をダブルタップすると起動するように設定することを促してくれます。さらに、指で画面をなぞると、そのなぞり方に合わせて音と振動を発します。それによって盲ろう者とコミュニケーションをとることができる、「デジタル点字」のようなアプリです。
三つ目は、2017年にApple Design Awardsを受賞したゲームアプリ「Blackbox」です。「Blackbox」は、デバイスを傾けたり、マイクやカメラを使ったり、画面の明るさを調整したりと、iPhoneの特性を駆使して謎を解いていくパズルゲームです。コンテンツの中には、画面をタップせずにクリアする必要があるものもあります。ゲームアプリの可能性を広げたという点で特筆すべきアプリです。「Blackbox」をプレーしてみると、スマホのさまざまな機能を知ることもできます。
デバイスとOSの更新情報は常にチェックする
アプリ開発では、デバイスやOSの変化を開発者が理解して、機能やコンテンツを盛り込んでいくことが大事です。それが、ブラウザではできない、アプリ独自の価値の提供につながります。しかし、実際のところ、デバイスやOSの特性を最大限活用したアプリは多くありません。例えば、iPhoneもAndroidもホーム画面の通知機能がありますが、表示のデザインはいろいろカスタマイズできることがあまり知られていないようですし、前述したWidget機能をうまく活用しているものも少ないようです。
実際、年に1度は大きなOSアップデートもありますし、他に細かいアップデートも発生しています。デバイスやOSの最新情報を把握するために、開発者向けのAppleとGoogleの公式ドキュメントで情報を確認することが重要だと考えています。
アプリ開発では、目的を満たすためにとれる選択はすべて考慮する必要があると考えています。デバイスやOSの機能に着目すると、アプリのUI/UX、利便性、使用頻度の向上につながり、アプリの価値が高まります。
次回は、「良いアプリの7カ条③:継続的に改善されている」について解説します。