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「と思います」禁止令

  • 梅田 悟司

2017/07/03

「と思います」禁止令

 

プロモーション・デザイン局 梅田悟司氏による朝日新聞WEBRONZAでの連載『「と思います」禁止令』を、ウェブ電通報特別バージョンでお送りします。

「と思います」禁止令
 

断定できる人は、強い

「人の心に響く言葉とは何ですか?」
そんな質問に対して、私は答えの一つとして「明確に未来を打ち出す言葉」と答えることがあります。学校の教科書では断定として登場する表現方法です。
断定は言い切ればいいので簡単なように思えます。しかし、実生活において言い切ることは非常に勇気がいることです。

通常の会話で考えれば、文末に何となく「と思います」や「のような気がします」といった言葉を入れることで、あえて断定を避け、内容をうやむやにしたり、言葉を濁すことがあります。人は無意識のうちに断定を避け、そうではない可能性を残しておくような言い方をしているのです。
これは一種のリスク分散と言えます。
「いやいや、断言はしていません」「その可能性があると言ったまでです」
こうした逃げ場をつくっています。だからこそ、断定できる人は強いのです。
皆さんの記憶にある言葉としては、以下のものが印象的ではないでしょうか。

我が辞書に、不可能の文字はない。    ナポレオン・ボナパルト

実際「ナポレオンにできないことがなかったのか」と言われたら、そんなことはありません。史料によると、「とてもせっかちで自画像を描かせたり彫刻を掘らせる際、10分もじっとしていられなかった」との記載も見られます。ナポレオンにだって、不可能は山のように存在していました。
しかしながら「我が辞書に、不可能の文字はない」と断言することで、彼を慕う将軍や兵士の胸はどんなに鼓舞されたことでしょうか。

もう一つ別の例を見てみましょう。

我が巨人軍は、永久に不滅です。    長嶋茂雄

この言葉はプロ野球選手だった長嶋茂雄氏が、現役を引退した際の発言です。普通ならば「我が巨人軍は、永久に不滅だと思います」、意志を込めるならば「我が巨人軍が、永久に不滅であることを信じます」となります。
そこをあえて言い切ることで信念が伝わり、多くの人の心に響いていきました。
どんな存在であっても、永久に不滅であることを証明できる人は、誰一人いません。しかしながら、断言することで示される気迫あふれる未来に心が動かされるのです。
言い切ることは、言い切れるまで考えた結果です。それがリーダーとしての資質として非常に重要な要素と言えるのです。

断定できる人は、強い
イラスト:Kawacchi

考え抜かれた言葉は、人々を導く「旗」になる

 

世の中にあるさまざまな言葉を見ていると、断言を用いているのは、ビジネスリーダーや軍人などの、大勢を率いる人が多いことに気が付きます。
多くの人を同じ方向に導いていく際に、ベクトルとなる強い言葉が必要だったので、自分の意志を言いきる必要がある。もしくは、誰にでも分かりやすく明確に未来を描く言葉を持っていたからリーダーになれた。
どちらの可能性も考えられるものの、多くの人を率いる際には、強い言葉が有効であることを証明していると言えそうです。

どんな人も、言葉で考え、言葉で理解し、言葉で意見を発しています。時代背景やビジネス環境がどんなに激変しようとも、人の思考と言葉の構造は変わりません。
この断言という形には明確な未来を打ち出す強さとともに、言葉を発する人の本気度が表れていることに注目してみましょう。「断言するほど本気で信じている」「断言できるほど熟考している」。このように感じられるのです。

リーダーシップとは、人を先導する統率力です。仮にチームを率いる立場ならば、全員の意志を統一させて、同じ方向に向かわせる必要があります。リーダーシップが発揮されることで、はじめてリーダーを全力で支えたいというフォロワーシップが生まれます。
リーダーシップの示し方は人によって実にさまざまです。
人によっては、自身の行動によって模範を見せる人もいます。あるいは、圧倒的な企画力・アイデア力でチームをあっと言わせるリーダーや、秀でた経営手腕を持ったカリスマもいらっしゃいます。

しかし、一つ言えることがあります。
それは、リーダーシップは常に言葉で発揮されるという点です。
仮に背中で語るタイプのリーダーであったとしても、チームを同じ方向にまとめ上げていく際には、おのおののメンバーに対して言葉を掛けるはずです。
その視点から考えれば、実力がある人がリーダーになっていくのではなく、周囲を巻き込み、チームで困難に立ち向かっていくリーダーシップのある人がリーダーになっていくという見方もできるかもしれません。自分の思いを適切な言葉に変え、正しく発信しなければ、思いが共有されることはないわけですから。

考え抜かれた言葉は、人々を導く「旗」になる

「と思います」が、意志を弱める

断言することの難しさは述べた通りです。
断言することによって、さまざまなリスクを自分で抱えてしまう可能性が出てくるからです。特に、ビジネスの場では、できなかった時や、物事がうまく進まなくなった時に「できるって言っただろう!」と矢面に立たされることもあります。

その一方、誰かが強い思いを持っていないと、自分の身の周りも、社会も、一向によくなることを期待することはできません。
そのため、断言できるだけあらゆる可能性の幅を検討し、深く考え抜く心構えと姿勢が重要と言えます。その意味でも、私たちが普段使っている「外に向かう言葉」だけに目を向けるのではなく、頭の中に浮かんでいる「内なる言葉」に注目して、考えを深めていく、思いを強くしていく必要があるでしょう。

「私は世界をあっと言わせる仕事をしたい」と思っているのであれば、「私は世界をあっと言わせる仕事をしたいと思います」と無意識の内に「と思います」を付けてしまいがちです。こうすることで、否定される余地は排除できますが、迫力や本気度は目減りします。
逆に、「私は世界をあっと言わせる仕事をする」と語尾を変えると、それだけで意志を持った印象に変化します。

そこで、私がお勧めしたいのが、文章を書いた上で「と思う」「と考える」といった言葉を一度排除してみることです。その時に「これはちょっと言い過ぎだな」と違和感があるならば、本気度が足りていない証拠です。「しっくりきたな」と思えれば、断言できるだけ決意や熱意がある状態です。このように自分の本気度を試すために、役立つ方法なのです。

ここで二つの例を見てみましょう。

明日描く絵が一番素晴らしい。    パブロ・ピカソ

 

世界平和のためにできることですか? まず家に帰って家族を愛しなさい。    マザー・テレサ

ピカソはこの言葉の通り、晩年まで作品へエネルギーを注ぎ込み、数々の名作を描き上げました。世界的な平和活動家として人生をささげてきたマザー・テレサは、平和活動よりも家族を愛することこそが平和の第一歩だと断言します。

これらの言葉を文字通り受け取れば「本当にそうなの?」「そんなことないよね?」「他の可能性もあるんじゃないの?」と批評されてもおかしくありません。しかし、彼らはそんなリスクを理解しつつも、自らの経験をそしゃくしながら自分の頭で考え抜き、勇気を持って断言しているのです。

文末を変えるだけ、という非常に簡単な方法ではあるものの、自分の気持ちを見つめ直す有効な方法なので、ぜひ試してみていただきたいです。

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