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DMCラボ・セレクション ~次を考える一冊~No.70

営業の「センス」って何なのか真面目に考えてみた『センス入門』

2017/09/01

営業の上司や同僚と語り合う(飲む)ときの頻出ワード「センス」。

先輩「プレゼンお疲れ~!勝ててホンマよかった!」
後輩「お疲れさまで~す!本当によかったです!僕も間近で関われて、いろいろと勉強になりました!」
先輩「お、例えば?」
後輩「例えば…、プレゼンの最後の質疑応答での〇〇部長の対応とか!」
先輩「確かに。あそこであの切り返しできるんは、もはやセンスとしか言いようがないわ」
後輩「ですよね~!」

僕は広告業界でしか働いたことはないですが、こんな会話は(居酒屋の)そこかしこで聞こえてきそうです。

で、結局「センス」って何??

頻出ワードであるにもかかわらず、みんなの認識がちょっとずつ異なるような気がしますし、なんとなく、明文化することも難しい気がします。

上記の会話でも、先輩は分かっている風ですが「センスでしかない」と一言で片づけてしまうと、もはや後輩にとっても勉強になっていないですよね(笑)。

今回のコラムを書くにあたってビジネス書の新刊をチェックしに入った自宅付近の書店で、ビジネス書でも新刊でもないのに、なぜか平積みされていた『センス入門』(筑摩書房)なるストレートすぎるタイトルの一冊。著者は、エッセイスト、書店店主で『暮しの手帖』元編集長の松浦弥太郎氏。思わず手に取ってしまいました。

センス入門

まずは今の自分の「センス」と向き合ってお手本を見つける

最初に断っておきたいのは、本書で語られている「センス」や「センスがいい」ということは、人間全般に対しての言及ですのでビジネスパーソンに限ったことではありませんし、また、著者自身の思想だけではなく著者が出会った数多くの「センスがいい」ひとをお手本にされているということです。

僕にとって「センス」とは、まず最初に、「選ぶ」もしくは「判断する」ということだと思います。(中略)いつもよい選択や後悔しない選択ができればいいのですが、なかなかそうはいかないものです。(中略)ただたいていのことには、お手本になってくれる人というのが世の中にはたくさんいるものです。その人たちはお手本といっても特別なところにいるわけではなくて、僕たちと同じようにふつうの場所で仕事をしたり生活しているはずです。(P12,13)

素直に自分と向き合ってみて、今の自分にとって「このひとセンスいいな」とか「優秀オーラ出まくってるな」と感じる営業の先輩や同僚が社内に数多くいるというのはとても幸せな環境なんだなと改めて思うと同時に、その環境で自分はいったい何を学べているだろう?センスを磨けているのだろうか?と胸に手を当てました…(汗)。

なんでも知っている人より、なんでも考える人

本書には、著者がさまざまな角度、視点から考えた、性別や年齢を問わず「なるほど」とうなずけるような、「センス」についての言及がちりばめられていますが、われわれからすると「センスのかたまり」のように思える著者も

「センス」と言われたら、手も足も出ない気持ちになるのは、僕だけではないでしょう。(P8)

と本書の冒頭で宣言されています。

読み進めると、いくつも納得感のある言葉があったのですが、取って出しのような引用の羅列になりそうで、そうしてしまうと「センスないな」と思ったので(笑)、最も共感した箇所を紹介させていただきます。「センスのよさ」に替わる日本のことばは「美徳」であると説く著者が、本書執筆当時に強く思われていたことのようです。

自分の頭のなかでふわふわ漂っている、非常に感覚的なものをつかまえて、ひとつひとつことばに落とし込んでいくというのが「考えること」だと僕は思っています。(中略)「考える人である」というのは、「美徳」のひとつです。考えることができる人は、間違いなく魅力のある人で、センスのいい人です。(P75)

この本の中にある「センスとは何か」に答えようとする数々の言及は、まさに著者が「考え」続けた証しなのだなと思いました。本稿冒頭の先輩と後輩の会話に登場する営業部長(実際にモデルがいるのですが)の鋭い切り返しも、きっとその営業部長がクライアントのことやその商品・サービスを伝えたい相手のことを誰よりも考え抜いていたからこそなし得たワザだったのでしょう。

謙虚であり続けるというセンス

第3章「センスのお手本」では、「センス」への言及にとどまらない人生訓のような話への発展も多く見られます。それらはまるで著者が考え続けてきたさまざまなセンスに対する考察を「あなたのセンスならどう思いますか?」と問い掛けられているようでした。実際に、ビジネスの現場に置き換えてみると「営業の交渉現場ではなかなかこんな感じででけへんぞ、でも待てよ…」というように思考が回っていくのが段々と楽しくなる読書体験でした。

最終章の「あとがき」には、「センスとは何か」に対する著者のいったんの回答めいた記述がありますが、ここでは伏せておきたいと思います。

営業という仕事に資格や型が存在しないように、営業におけるセンスなんてものは明文化できないどころか、そもそも存在しないのかもしれません。けれど、本書を読みながらセンスについて考えてみて、僕がお手本にしている上司や先輩や同僚に共通しているのは、謙虚であり続けるというセンスなのかもしれないと思い当たりました。謙虚な人は、常に他人の声に耳を傾けて、常に学び続けて、常に自分を変えられる機会と勇気を持っているから、相対するひとは「あのひとセンスいいな、また会いたいな」と思えるのかなと。そう思い当たっただけでも「1ミリくらいはセンスを磨くことができたかな」と読後の満足感に浸りながら本稿を締めくくりたいと思います。冒頭の後輩との会話で「センス」とは何かも考えずに「センス」という言葉を乱用していたのは他ならぬ僕自身でしたから(笑)。

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