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DMCラボ・セレクション ~次を考える一冊~No.68

世界史から学ぶ、ビジネス成功の秘訣とは?

2017/06/30

今回は、『「超」整理法』などの著書で有名な、現在は一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による新著『世界史を創ったビジネスモデル』(新潮社)を紹介する。

世界史的出来事を「ビジネス」の視点で読み解く!?

 

本書は、世界史でおなじみの「古代ローマ帝国」の盛衰や、ルネサンスから近代にかけてヨーロッパ諸国が競った「大航海時代」の展開、それからここ20~30年のスパンで起きている現代の「情報産業の飛躍的な進展」など、人類の長い歴史の中でも、大きな変化のあった象徴的な時代を三つ取り上げ、(タイトルのように)「ビジネスモデル」の観点から、何が時代に変化と繁栄をもたらし、その後、何が衰退を招いたのか、その因果をひもといた本である。世界史を創ったビジネスモデル

英雄譚もビジネスの視点でクールに見てみると…?

本書のユニークな点は、ある時代の帝国や国家の繁栄や衰退を、経営やマーケティングの観点からクールに描いている点だ。歴史といえば、つい、英雄譚や人間ドラマに焦点が当てられがちだが、野口氏は、帝国の繁栄や産業の勃興などを、経営学のタームや比喩を用いて、淡々と分析していく(もちろん、歴史上の人物の魅力は描きながら)。この手法で歴史をひもとくと、これまで歴史上、非常に評価されてきたことや人々に人気のあるエピソードが、実は、ビジネスの観点からは「悪手」であった可能性があるという「逆説」が導き出されたりする。例えば、ローマ帝国の五賢帝時代の皇帝の一人、ハドリアヌス帝が行った対外的な防衛的政策は、ローマに平和をもたらしたと評価されているが、“ビジネスモデル”の側面からは本当に「賢かった」と言えるのか?といった疑問を挟む。そのような逆説的な視点を提供していることこそが、本書の魅力となっている。

人類に繁栄をもたらす二つの条件

ネタバレになってしまうので詳細は控えるが、本書では人々に繁栄をもたらす重要なファクターとして「多様性の確保」と「フロンティアの拡大」の二つの要素が重要である、という視点を提案していることはここで述べておきたい。

筆者によれば、新しい富を生み出し、文化を作り出し、後世にまで長くインパクトを残すようなプロジェクト(それが帝国の建国であれ、新しい産業の創出であれ)には必ず、人々の多様性が認められ、フロンティアの拡大が目指されるという。
どちらか片方ではダメで、「多様性の確保」と「フロンティアの拡大」という二つの必要十分条件がそろって、初めて持続する繁栄がもたらされる。つまり、人々のバラバラの個性が認められながらも、皆が憧れる、皆が重要だと思う目指されるべき未来(フロンティア)を用意することが、統治者やリーダーには必要なのである。

これは、まさに、現在のわれわれも、企業にはビジョンやイノベーションが必要(フロンティア)で、社員にはダイバーシティーを受け入れること(多様性)が重要である、といわれていることと全く同じだ。

この変化の時代を、人類史・世界史レベルで考えてみよう

ところで、最近は、ユヴァル・ノア・ハラリ氏の『サピエンス全史』や、トマ・ピケティ氏の『21世紀の資本』、あるいはケヴィン・ケリー氏による『テクニウム』などなど、数世紀にまたがる長いスパンの社会史や経済史、技術史の視点から「今」や「未来」を考察した著書が大ベストセラーになっている。

一見、読みづらい、とっつきづらい、ともいえるこれらの「歴史書」がベストセラーになるのは、今われわれ人類が体験している圧倒的な変化は、一体何を意味するのか?ということを、落ち着いて、数世紀をまたぐ歴史の視点で捉えたい(歴史の重みのある視点で捉えないと、そもそも、この変化の本質は分からない)と多くの人が考えているからなのかもしれない。目先のテクノロジーの変化に振り回されず、人類史の観点から、未来を見据えたいという人々が増えてきているのかもしれない。

また違う視点に立ってみれば、目先のことしか考えていない、構想力のないビジネスはすぐに変化の波にのまれてしまう時代がやってきているのかもしれない。変革の起こっている今こそ、人類史的な「大きな構想力、大きなビジョン」が求められている。

本書も、世紀をまたぐような長い歴史のマクロ視点から、人間が富を増やし、文化を作り出し、長期的に繁栄をもたらすために必要な、普遍的な原理や洞察を導いている。本書を読むと、改めて、人間や社会は、変われば変わるほど変わらない側面があるのだなとも思えるし、この変化の本質を見極めるには、自分もより積極的に学び、自らももっと変化をしていかないといけないのだなとも同時に思わせられる。今、現代に暮らすわれわれが体験している「変革の時代」を生き抜く上で、世界史好きにも、大きな構想でビジョンを作りたいと思っている人にもオススメの一冊だ。