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スポーツ観戦体験をデジタルで拡張する「J.LEAGUE」

2017/09/22

スタジアム

デジタルがスポーツに革新を起こしている。生のスタジアム体験とデバイスでの視聴が、共にデジタルによって進化しているのだ。

その象徴がJリーグ。インターネット配信を行うDAZN(ダ・ゾーン)と今年から契約。さらに8月には、Jリーグ公式アプリ「Club J.LEAGUE」をリリースした。

そこにはどんな狙いがあり、どんな未来を描くのか。Jリーグチェアマンの村井満氏を招き、「Club J.LEAGUE」プロジェクトのプロデューサーを務める電通の渡邉典文氏と、開発ディレクションを担当した電通の坂本雄祐氏が話し合った。

写真左から、渡邉 典文氏(電通)、村井 満氏(Jリーグチェアマン)、坂本 雄祐氏(電通)
写真左から、渡邉 典文氏(電通)、村井 満氏(Jリーグチェアマン)、坂本 雄祐氏(電通)

デジタル視聴がスポーツ最大の魅力を担う

渡邉:今、グローバルではスポーツXデジタルの大きなうねりが起きています。さまざまなスポーツの放送権料が高騰していることに加え、ネットフリックスやDAZNのようなOTT(インターネットを通じた動画や音声などのコンテンツ・サービス、またはその事業者)がスポーツ中継に相次いで参入、視聴環境が激変しています。JリーグもDAZNと契約を結びました。村井チェアマンは、世界的なスポーツXデジタルのうねりと、OTTへの切り替えの関係をどう考えていますか。

村井:確かにグローバルのスポーツを見ると、デジタル技術との融合がどんどん進んでいます。ただ、JリーグでのOTTについては、そういった海外の流れよりも、自分自身の原体験に基づいているんです。誰にでもあると思いますが、スポーツの試合をライブで見られず録画するとき、「後で家で見るから試合結果は言わないで」と周りの人にお願いしますよね。あるいは、ニュースで結果を見ないよう気を付けながら家まで帰ります。そこから思うのは、やはりスポーツの良さは「同時進行のドラマをシェアすること」。結末を知ってから見るよりも、一緒に戦う感覚を味わいたい。そう考えたとき、スポーツ中継は、いつでもどこでもライブで見られるのが理想だと、ずっと思ってきました。

渡邉:ライブで見るのと、結果を知ってから見るのでは、興奮度が全く違いますよね。

村井:はい。その中でOTTサービスは、場所を選ばず、さまざまなデバイスで見られます。加えて、見逃し配信のサービスも充実しています。

渡邉:OTT以外にも、Jリーグではいろいろなデジタル戦略を行っていますよね。スタジアムに特殊なWi-Fiの設置を促進したり、試合中の選手の動きやプレーデータをデジタル化して各クラブにフィードバックしたり。また、昨年のJリーグYBCルヴァンカップ決勝戦では、キヤノンの「自由視点映像生成システム」を使い、試合中のリプレー映像を360度どこからでも自由に見られるという試みを行いました。

村井:「本当にファンの方に見てもらいたいもの」を提供したいのです。例えば、プロのサッカー選手がどのくらいのスピードでダッシュをするのか。パスの初速が毎秒8メートルと9メートルではどのくらい違うのか。これらをデジタルで表すなどして、臨場感を再現しながら伝えたいですね。

渡邉:Jリーグが掲げる五つの重要戦略の一つにも「デジタル技術の活用推進」があります。プロスポーツ選手のスピード感や技術の可視化や体感は、ファンにとってうれしいことですし、それをデジタルのアプローチで進めているということですね。

村井:観戦するファン、サポーターにとっては、気付いたら試合の中に自分が入って疑似体験しているのが理想であり、スポーツ観戦の究極の醍醐味(だいごみ)です。プレーヤーと観客、視聴者が分かれているのではなく、共に試合に参加している状況をつくりたい。その実現のためにデジタルは極めて有効だと思います。

村井 満氏
村井 満氏

新アプリが目指す「スタジアム体験の最大化」とは

渡邉:今回、Jリーグと電通で公式アプリ「Club J.LEAGUE」を開発しました。コンセプトは「スタジアム体験を最大化する」こと。一番価値があるのは、やはり試合を生で観戦する瞬間であり、その盛り上がりは他にないものです。そこでこのコンセプトの下、約1年半をかけてアプリを企画・設計・開発しました。

坂本:Eコマースサイトやスマホアプリなどを開発するときにいつも意識することなのですが、商品に出合って気持ちを高めるところから、商品が届いて使用する瞬間、さらにはもう一回買いたいと思うまでの体験を一連で設計することが重要になってきています。Jリーグでも同じように、試合会場にいる時間だけでなく、当日の朝起きた瞬間から、お昼を食べる時間、もっといえば、ふとした会話などから試合を観戦したくなり、実際に見に行った後、試合後の帰路で会話をしながらまた行きたくなる…。そういったサイクルを一連でつくれればと思い、このアプリを開発していきました。

村井:全国に54のクラブが散らばるJリーグの観戦は、新たな“遍路”なんですよね。もちろん各地での“記憶”も大切なのですが、それとセットで、いつどこでどの試合を見たかという“記録”がデジタル上に残るのが大きい。しかもそれがいつも身近なアプリにあることがありがたいですね。

渡邉:特に今回は、「ファンが新たなファンを誘う」という仕組みがアプリの大きな特徴です。新しい人を誘うには、やはり既存ファンの持つ熱量が有効。大きな広告を打つよりも、熱量を持ったファンに誘われた方が「新しい人を動かせる」と感じたんです。そこで、スタジアムにチェックインするとアプリにメダルがたまり、三つたまれば、新しい人を誘うための無料ペアチケットを抽選でもらえる、という仕組みが生まれました。

村井:今回、私が参考にしたのはスキー客です。スキー客のデータを分析すると、小さい頃にスキーをやった人は、自分が親になった時にスキー場に戻ってくる傾向があります。そういった誘い誘われのサイクルをつくりたいとJリーグでも考えていました。一度誘われた経験があれば、その人は将来誰かを誘うかもしれません。ただ、既存ファンから誘われる際の熱量があまりに高過ぎると、新しい人は尻込みしてしまうこともある。もっとライトに、日常の会話から軽く誘えるようなフックが必要です。その点で、今回のアプリの仕組みは正しい方向性だと考えています。

渡邉:さらに、スタジアムの中での体験もより増大するのではないでしょうか。というのも、「ポケモンGO」では複数のプレーヤーで敵を倒すシーンがあり、海外では、その場面でよくプレーヤー同士が話し始めるようです。Jリーグでも、スタジアムに来たとき、試合の内容はもちろん、アプリにもフックがあれば、ファン同士の会話や交流も生まれやすくなりますよね。

村井:隣の人とアプリでデータを交換したり、アプリ内の情報を一緒に見て話したり。そういう状況が生まれれば、隣の席に座っている人は他人ではなくなります。「あのゲートの下に行けばアプリで特典をもらえる」という話題になったり。アプリにさまざまな仕掛けをすることで、ライブ系の出会いにつながりますね。

渡邉:デジタルによってライブ感を高めることも、スタジアム体験の最大化だと思います。

村井:大切なのは、ある種の共通項におけるライトなシェアリングです。大げさな共通項で仲間を寄せようとすると、その属性に含まれない人との不都合が生まれてしまう。ライトに日常的なコンテンツを共有できれば、スタジアムでの出会いが生まれ、誘い誘われも増えていきます。

渡邉:そうやって観戦する人が増えれば、より盛り上がりますよね。

村井:スポーツはライブエンターテインメントであり、結末の分からない同時進行のドラマを一緒に見るのは大きな価値です。そう考えると、歌舞伎やオペラもライブエンターテインメントであり、スポーツとの共通項があるかもしれません。そういった共通項から多くの人を誘い、知らない人と現場で楽しんだり、ライブ感の高い生きざまを一緒に感じたりすれば、社会としてもより良いものになるはず。それを、デジタルによってサポートしていきたい。

渡邉 典文氏
渡邉 典文氏

Jリーグのアプリがパートナー企業の課題解決に

渡邉:Club J.LEAGUEでは、明治安田生命やイオンといったJリーグのパートナー企業と連携したのも大きな特徴です。設計段階から共同で企画をし、アプリに蓄積される各種データを共有することで、パートナー各社の課題解決も同時に行える形をつくっています。

坂本:多くの企業が、今デジタルマーケティングに注目しています。多様なデータを把握すれば、既存顧客のロイヤリティーを上げ、また新規顧客の獲得にもつなげられるのではないかと考えられているからです。ただ、そこには「サービスとデータ」に関する大きな二つのハードルがあります。一つは「データを取得するために、サービスをどれだけの人にどれだけ使ってもらえるか」。もう一つは「顧客満足を高めるために、そのデータをきちんとサービスとして還元し続けられるか」です。今回のアプリは、この二つのハードルを越えるべく、パートナー企業と協力して開発を進めました。

村井:今回特にうれしかったのは、パートナー企業と一緒にアプリ開発ができたことです。私たちオーガナイザーとパートナー企業は、得てして対面する関係になりがち。それを、一緒になってリーグや街をどうすれば元気にできるか、共同で考えられたのは大きかったですね。スポーツ界のパートナーシップの在り方として、将来の提案になる気がします。

坂本:リーグとパートナーが協同して、リーグの価値を上げてファンにいい体験を提供し、そこで得られたデータをパートナー企業が事業に生かしていく。このようなパートナーとのサイクルをつくれた事例はまだまだ少ないと思います。

渡邉:Jリーグの枠だけではリーチできないところにも、明治安田生命を筆頭に、パートナー企業の力を借りてアプローチできるようになることも、大きなポイントですよね。

村井:それと、今回の設計のポイントは、アプリをリーグ共通のプラットフォームとして一元化したことです。小さなクラブが、自分たちでゼロからアプリを開発するのは大変ですから、リーグが基幹プラットフォームのアプリをつくり、それをチューニングしていけば、クラブは重複投資しなくてよい。クラブとリーグが補完関係になっています。

渡邉:Jリーグとして一元的にアプリの基礎をつくりつつ、各チームにおけるファンとの接点はクラブが独自で工夫できるようにする。そのバランスも特徴ですね。

坂本 雄祐氏
坂本 雄祐氏

次の25年、サッカーを通じて各地域に貢献するために

渡邉:今後、Jリーグとしてはスタジアム体験の幅をどこまで広められるでしょうか。もしかすると5年後には、VR中継でスタジアムの臨場感を体験できたり、あるいは今回のようなアプリが会員証となってスマートパス化されたり。そんな可能性もあるでしょうか。

村井:VRについては、すでに7月22日の鹿島×セビージャ戦で配信しており、いずれはサービス化できると思います。その他のサービスについても、急速に進んでいくでしょう。そもそもOTTでの試合中継自体、1年前には想像がつかなかったもの。すごいスピードで進化できると考えています。

坂本:試合におけるスタジアム体験が先鋭化する一方で、地域への貢献や活性化も、デジタルを通して起きてくるのではないでしょうか。

村井:それはぜひ取り組みたいですね。例えば教育でも、学校だけでなくスポーツが教えられることはいろいろあります。チームでの責任やあきらめないことの意義など。これもアプリを使って、選手が地元の子どもに語り掛けるなどの手法があり得るのではないでしょうか。さまざまな社会課題がありますが、サッカーを通じて課題に向かい、地域社会に貢献することが、Jリーグや明治安田生命といったパートナー企業の思いです。ですから、スタジアム周辺から入って、各地域が抱える課題を解決していきたいですね。デジタル技術を使えば、いろいろなアレンジが地域ごとにできると思うんです。

渡邉:Jリーグではスマートスタジアム推進事業を行っていますが、そこで蓄積されたデータを地域で活用してもらうことも考えていますよね。

村井:はい。私たちとしては、蓄積されたデジタルデータを社会還元することでオープンイノベーションが生まれればうれしいですね。来年でJリーグは25周年を迎えますが、地域密着型を目標にスタートして、この四半世紀で54クラブに裾野を広げることができました。次の四半世紀は、クラブのホームタウン活動を通じて、社会をより良くする流れを提示していきたい。そのために、デジタル技術はなくてはならないものです。

 

Club J.LEAGUEロゴ

スタジアム体験を向上させるためのJリーグ公式アプリ。好きなクラブのニュースを見る、試合のチケットを買う、グッズを買う、Push通知で試合速報を受け取る、といった機能だけでなく、試合観戦に行けば行くほどオトクな特典がもらえるロイヤリティープログラム「明治安田生命Jリーグチャレンジ」やスタジアムWi‐Fiに接続してDAZN(ダ・ゾーン)が無料で視聴できる「スタジアム限定動画機能」も搭載。

試合を観戦したり、さまざまなミッションをクリアしたりすることで貯められるメダルを集め、抽選に当たると、まだJリーグ観戦をしたことのない友達を誘えるペアチケットがもらえる。

さらにランクに応じて、Jリーグや各クラブ、パートナー各社によるキャンペーンにも参加可能になる。ファン・サポーター同士だけでなく、リーグ、クラブ、パートナーとのつながりを創り出し、Jリーグのファン・サポーターを拡大していくことを目指している。

Club J.LEAGUE(Jリーグ公式アプリ)画面
Club J.LEAGUE(Jリーグ公式アプリ)画面
Club J.LEAGUE(Jリーグ公式アプリ)画面
Club J.LEAGUE(Jリーグ公式アプリ)画面