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ハーバードのデザイン教育

ろーかる・ぐるぐる №116

  • 山田 壮夫

2017/09/21

ハーバードのデザイン教育

後輩の各務太郎くんは電通を卒業し、アメリカの大学院で建築を学び直すと言います。そして将来はいわゆる設計事務所ではなく、デザイン思考のコンサルティングファームで活躍したいということです。

こんなことを書いたのは連載32回目、2014年5月29日のこと。年を取ったせいか3年前が昨日のようですが、この各務さんが今年ハーバード大学デザイン大学院を修了しました。そこでモノゴトをより上位のレイヤーで考える「メタ思考」を志しつつも、お酒の飲み過ぎで会話が支離滅裂になる「メタメタ会」のメンバーが久々に集結。お祝いの宴は始まったのでした。

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山田:ハーバードの建築って「デザイン大学院」なんだね。ここで教わる「デザイン」って、何か特徴があるの?

各務:日本にはデザインという言葉が2回輸入されたと言われています。ひとつは明治時代に「設計」という意味で、もうひとつは戦後「スタイリング」という意味で入ってきました。

今、日本でデザインと聞いて頭に思い浮かべるものは、一般的には後者の方、すなわち「見てくれ」の領域だと思います。ハーバードにおけるデザインは、実は前者の方だったんです。だから「情報を伝えるため」のグラフィカルなデザインは一切教えられず、建築、都市計画、ランドスケープの3領域を主軸に置いた社会システムの「設計」にフォーカスしていました。

山田:そういえば菊竹清訓『代謝建築論』では、有名な「か・かた・かたち」で建築のデザイン、つまり設計について論じているもんね。正直、ぼくには難しくて分からないところもあったけど。

各務:社会システムの「設計」という意味で一番印象に残っているのは修士課程が始まって最初の週の講評会でした。私は日本でやってきた通り、大きな建築模型、CG、設計意図を示すダイアグラムをそろえて自慢げに案をプレゼンしたのですが、それに対する教授陣の一言めのコメントに度肝を抜かれたんです。

「デザインはいい。でもこれ誰が払うの?」

極端な話をすれば、建築家の仕事は「お金を集めること」と「建物を設計・監理すること」に二分されます。ところが50%を占めるこのマネタイズに関して、日本の建築教育は完全にスルーしています。その結果、大学の製図課題で驚くほど優秀だった人も、卒業後独立して全然仕事を引っ張ってこれず、こじんまりとしたプロジェクトでなんとか食いつなぐ、と言った状況を頻繁に目にします。

アメリカの建築教育では、その建築が建てられるまでのお金の動き、テナントの質、そこで行われるアクティビティーの事業継続性も込みでプレゼンを要求されます。特に都市計画学の教授の3割は、公共政策大学院の教授も兼務していて、いかに政府を巻き込んで資金調達するかが、都市デザインに大きな影響を及ぼすかという点について大学全体が理解していることがうかがえました。

考えてみれば当たり前のことなのですが、お金の話をすることを汚いことだと考える日本のデザイン教育と比べると、非常に印象的な出来事でした。

山田:へぇ! ついこの前、公共政策学についてコラムを書いたばっかりだよ。で、具体的には講義の中でどんな「課題」が課せられるの?

各務:ハーバードの設計課題は、教授が1人当たり約15人ほどの学生を受け持つ「スタジオ型教育」を行っています。この小さなグループで約4カ月にわたって、ひとつの敷地をリサーチし、白熱した議論を交わし、各自設計を行います。日本でもこの教育をする大学はありますが、圧倒的な違いは、そこにリアルなクライアントがいることです。

例えば私の修士課程最後のスタジオのスポンサーはNASAでした。課題は「50年後のNASAの働き方を設計してください」のひと言。私たち学生は、実際にJPL(ジェット推進研究所)というロサンゼルスのNASAの研究施設に1週間招待され、研究員とディスカッションを交わし、彼らの働き方を分析することから始めました。

私自身は、この数十年間、NASAが国から与えられてきた予算とその内訳に興味を持ち、そもそも50年後、NASAは宇宙を探求していないだろうという仮説を立てました。現政権の予算配分や世の中の流れとして、宇宙開発よりも地球の環境保全への関心が圧倒的に高まっていたからです。私は結論として、NASAは宇宙開発を通して培ってきた極限地域(無重力空間、火星や月など)で生存するための技術を、地球上の極限地域(海中、砂漠や南極など)に応用し、人類の生存可能区域を拡大するための事業を進めると考え、XSXL(Extreme Situation Experimental Laboratory:極限状態実験ラボ)という施設を設計しました。

日本では普通、教授が恣意的に指定した敷地に対して「美術館を設計する」といった限定的な課題が出ます。実際のクライアントやスポンサーもなく、抽象的な概念論が中心になることが多い。

ところがアメリカでは、教授からは何を設計するかを指定されません。つまり、何を課題と捉え、何を設計すべきかを主体的に考えることを目的にしているのです。それも実際のクライアントのリサーチを通して、現実的に考える。だから大学を出た後に、解決すべき課題を自分自身でつくり、潜在的なクライアントを自ら探し出すスキルが身に付くのだと思いました。

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ハーバード大学院の食堂にて。担当教授フロリアン・アイデンバーグと最終模型を囲む各務さん

山田:ずいぶん実践的なんだね。各務さんは電通でコピーライターとして活躍してたじゃない? その時身に付けた頭の使い方とかは、役立った?

各務:そんな活躍してないですけど(笑)。コピーやCMに関して先輩方から教わったことは、企画には“What to Say (何を言うか)”と“How to Say (どう言うか)”の2ステップがあること。これは図らずもデザインでも同じプロセスがあり、“What to Design (何をデザインするか)”と”How to Design (どうデザインするか)”という全く異なるフェーズがあります。

前述の通り、問題解決よりも問題提起に重きを置くハーバードでは、”What to Design”に時間を割くことが多く、これは広告企画脳が直接的に役に立ちました。建築を建てないという選択をすることも、建築家の仕事の一部である、という発想は、広告業界で言うところの「オリエン返し」のスピリットだと思います。

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メタメタ会のメンバー

そんなこんなを話す各務くんに、メタメタ会のメンバーがからみ、気がつけばすっかり夜更けでした。やっぱりこの会社の仲間は楽しいなぁ。

どうぞ、召し上がれ!

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