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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.114

「解決型学問」って、なんだ?

2017/08/24

『入門 公共政策学‐社会問題を解決する「新しい知」』

 

 

秋吉貴雄・中央大学教授が書いた『入門 公共政策学‐社会問題を解決する「新しい知」』という本。帯には「政治学や行政学、経済学など他分野の知識を総合化した新しい学問だ」とか「解決型学問」の文字が。ソリューションの方法論を求めて七転八倒するぼくは興味津々、即購入でした。

そもそも「公共政策」とは環境問題、教育問題、財政問題、高齢者福祉問題など、個人では解決しにくく、社会で適応すべき問題の解決策のことであり、それを研究対象とする学問が「公共政策学」だそうです。
この本では政策のプロセスを五つのステップに整理して説明しています。

第1段階:最初のステップが「問題」の発見と定義です。望ましくない状態を見つけて、言葉によって表現し、そうなった要因を分析します。
第2段階:認識された政策問題について、社会状況を調査し、政策の手段と妥当性を検証することによって、解決案が設計されます。
第3段階:専門家や業界、市民、官邸、政治家等と意見交換を重ね、最終的に政策が議会で決定されます。
第4段階:その政策を実施するために、各種調整と連携を図ります。
第5段階:政策は何らかの効果を社会にもたらすために設計されているので、実際にそれが適切であったか評価します。

この政策プロセスに関する知識と、政策決定に利用される知識、それぞれを改善することによって、公共政策を改善するのが「公共政策学」だそうです。

政策プロセス五つのステップ

 

さて、皆さん。ここまで読んでいかがでしょう? アートディレクターの下村雄飛さんによれば、今年のカンヌでは全28カテゴリー中、18個のグランプリが難民や差別など「社会課題」に取り組んだものだったそうです。つまり広告業界にとって「社会課題の解決」は身近なテーマのはずですが、その割にはわが業界と公共政策学で、ずいぶんプロセスに差があると思いませんか?ぐるぐるの図

実はこの本の著者、秋吉さんは大学のゼミ仲間。出版祝いと称して夜の街に呼び出し、「なぜ、こんなにアプローチが違うんだろう?」と率直な疑問をぶつけてみました。

いろいろ丁寧に答えてくれた中で印象に残っていることのひとつは、学問としての成り立ち。公共政策学はそもそも「科学的に、客観的に分析をすれば、正しい政策を実施できる」という理念からスタートしたそうです。さすがに今では「究極的には自動的に政策をつくることができる」なんて考える人は学界でも少数派なようですが、それでもなお「合理的に政策決定をしたい」考える人は少なくないのでしょう。理性では説明しきれない人間のコミュニケーションを扱い、感性を大切にする広告業界とは根本的な考え方が違うのかもしれません。

一方で、かつて公共政策学の関心は「省庁や国会での政策決定」にあったそうですが、近年はそれ以前に望ましくない状態をどのような問題としてとらえるか、専門用語でいう「フレーミング」に注目が集まっている、という指摘もありました。たとえば少子化問題は「子どもが生まれない問題」なのか、「高齢者の割合が増える問題」なのか、「人口が減少する問題」なのか、「女性の社会進出が進まない問題」なのか。どのような枠組みでとらえるかによって、対応策も変わってくるという視点です。

これなどは、まさに広告業界で言う「課題」設定の難しさ。「深い人間理解」と大いに関係するポイントです。公共政策学がいくつもの分野を統合する「学際的」な学問を目指しているにもかかわらず、いままでは政治学者と行政学者が中心で、まだまだ経営学やデザイン、広告コミュニケーションの知見を活用できていないのかもしれません。その分、発展の余地も大きいということでしょう。

右が秋吉先生。左は同じくゼミ仲間の日大、手塚広一郎先生。
右が秋吉先生。左は同じくゼミ仲間の日大、手塚広一郎先生。

…などなど。谷中生姜のリゾットや火入れが絶妙な肉類を肴にワインをがぶがぶいってしまったので、途中から細かいことをよく覚えていません。ともあれ「広告の常識」とは明らかに違うアプローチが新鮮なので『入門 公共政策学』、興味ある方はぜひ。

どうぞ、召し上がれ!

コンセプトのつくり方