【続】ろーかる・ぐるぐるNo.113
「食卓」の常識を覆そう
2017/08/10
わが家の食卓にカレーライスが登場することは滅多にありません。理由は簡単で、お酒が進まないから。妻はたまに食べたそうな顔をしますが、そこは調理担当の特権。気付かないふりをして好きな肴を並べます。
そんなぼくでも学校の食堂に行くとついついカレーを注文しちゃいます。春学期に通った明治学院は具のうまみがルーに溶け出したタイプ。適度な辛さもあって、講義前にサラサラッとかっ込むにはピッタリでした。
『経営学特講 イノベーションとクリエイティビティ』で学生の皆さんと議論をしたのは「その手があったか!」のつくり方。なにが真実か曖昧な世の中で「正解」のない問題に取り組まなければならないとき、どうすればいいのだろう?というお話です。そして期末試験には次のような出題をしました。
食品会社Mは「食卓にもっと笑い声を!」というビジョンのもと挑戦を続けています。さて、あなたがこの企業の社員なら、新たにどんな商品やサービスを開発しますか?
ターゲットのホンネと食品会社の技術。「食卓にもっと笑い声を!」という企業が目指す世界と現実。その二つの軸を行ったり来たりしながら答えを探します。正解なんてないこの問いに、学生諸君はどう立ち向かったのでしょうか?
今村さんが考えたのは「メニュー・ギャンブル」。「食卓が盛り上がらないのは、それが単に生きるための行為になってしまっているから」という課題を解決するために、注文ごとに勝負をして、出てくる料理に差をつけようという企画です。千切りキャベツか、トレビスとプラータのサラダか。猫マンマか、キャビアのパスタか。同じ値段で食べられるものが違えば、確かに笑い声も生まれそうです。
ぼくがこの解答に良い点数を付けたのは、タブーを恐れず広く発想しようという意欲を感じたからです。日本では基本的にギャンブル行為は禁止されています。最終的には法律を順守するのが当然で、この案が「一時娯楽物の例外」なのかどうか、よく分かりません。しかしアイデアを考える際、そういった規制を気にし過ぎると思考の幅がどうしても狭くなってしまいます。
「おしゃべり弁当」は福島さんのアイデア。焼き肉弁当とのり弁では買う時の気分が違うハズ。性、年齢や購入メニュー、時間帯などのビッグデータをAIが解析。購買者に最適な「雑談」を提供するサービスです。
一方、自分がいま食べているものをアイコンに、自動翻訳機能で世界中の人と「なに食べてるの?」とチャットするサービスを考えたのは中川さんでした。
お二人に共通して、食品会社だけれど「食品」というモノではなく「楽しい食卓」というコトを売ろうという意志が明確でした。
「レシピサイトとかに投稿する、承認欲求の強い料理好きな人って、いますよね」という発見から「そんな人たちに日替わりでシェフを任せて競わせたら、どうだろう?」と考えたのは加瀬さんでした。彼が会社に入って現実にこういう提案をしたら「つくりたい人がいるのはわかった。食べたい人は誰だろう?」とか「それはどういう風にビジョンと関係するのかな?」など、さまざまな試練に立ち向かわなければなりません。しかし明確な「こういうひとっているよね」という基点があるので、企画がぶれることはなさそうです。
蘇田さんはユニークなアプローチをしようとして着陸できず、いささか理解不能な企画になっていましたが、失敗を恐れるものに成功はやって来ません。学生さん全員が人とは違う着想を得るために七転八倒してくれました。
学期を通じた平均出席率85.4%はなかなか。毎回出席者の過半数が発言してくれましたが、これはもうちょっと改善できるかな(笑)。ともあれみんな熱心に参加してくれたので、とっても楽しいクラスでした。でも夏休みに入った瞬間、きれいさっぱり忘れちゃうんだろうなぁ。