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ヒットさせてと言われても(前編)

Dentsu Design Talk №108

  • 山本 宇一
  • 天野 譲滋
  • 谷尻 誠
  • 石阪 太郎

2017/10/27

ヒットさせてと言われても(前編)

空間プロデューサーの山本宇一さんは、東京の「カフェ文化」の草分け的な存在。駒沢「バワリーキッチン」、表参道「ロータス」「モントーク」などの空間プロデュースに加えて、人と人がつながるコミュニティーをつくってきました。心地よい空間をデザインし続けてきた山本さんですが、ヒットの秘訣はむしろ「世の中の流行に乗らないこと」だと語ります。今回のデザイントークでは、山本さんのデザインに共感する、ジョージクリエイティブカンパニーの天野譲滋さんと、建築家の谷尻誠さんをゲストに迎えて、電通ライブの石阪太郎さんが聞き役となり、ヒットする空間づくりの思考プロセスを探ります。

ヒットさせてと言われても(前編)登壇者画像01
(左から)谷尻誠氏、山本宇一氏、天野譲滋氏、石阪太郎氏

レアな3人がそろったディスカッション

石阪:本日のテーマは「ヒットさせてと言われても」です。今回、登壇いただいた3人がつくる空間は、いつも多くの人が集まり、しかも人気を集め続けています。その要因はどこにあるのか、手掛けた案件と解説を通して学んでいきたいと思います。

天野:山本宇一さんが、こういう場に登壇されるのは非常に珍しいことなので、今日はかなりレアな3人がそろったなと思っています。

僕が宇一さんと初めてお仕事をしたのは、ジョージクリエイティブカンパニーを立ち上げる前で15年ほど前になります。「CIBONE(シボネ)」という、新しいライフスタイルを提案するショップを立ち上げるときに、クリエーティブディレクターとして参加していただきました。

「シボネ」という店名も宇一さんに決めてもらいました。当時、宇一さんがグッチやプラダのようにカタカナ3文字で、無国籍な名前にしたいと言っていた。実は僕は「なんでシボネだろう?」と疑問に思っていたんですが、実際にオープンしてみるとお客さまから「どこの国のブランド?」とよく聞かれ、まさに狙っていたフラットなブランドづくりに成功したなと感じました。

谷尻さんには、東京ミッドタウン敷地内の芝生広場で行われるデザインイベントで「マウンテンジム」という巨大なジャングルジムを制作してもらいました。

谷尻:最近、公園からジャングルジムが消えていっているそうです。その理由は「高いところから落ちると危ない」ということのようで、そうであれば、なだらかな山形にして、ジャングルジムのワクワク感と安全性のバランスがとれれば、子どもたちに喜んで遊んでもらえるのではないかと企画しました。松の角材を2500本使用して、シンプルな仕組みで、大人が50人ぐらい登れる荷重設計です。

天野:3歳ぐらいの小さな子でも、ビルの2階ぐらいの高さがある頂上まで一気に登って、飽きずに遊んでいましたよね。手触りもすごく良くて、谷尻さんは“ぬくもりのあるデザイン”が、すごくうまいと思いました。

「コーヒーの香り」が漂う1500冊の旅行本が並ぶ店舗

天野:表参道にあるエイチ・アイ・エス店舗のリニューアルを担当しました。現場のリサーチに行くと、多くの人がエイチ・アイ・エスの店舗でパンフレットを取って、隣のカフェでコーヒーを飲みながら見ているんですよ。これは、もったいないなと思って、誰でも入れるパブリックスペースをつくりました。

そして、ブックセレクターの幅允孝さんに選んでもらった約1500冊の旅をテーマにした本を並べました。猿田彦珈琲のスタンドを設置して、コーヒーを飲みながら旅に関する本を読んで気になった場所については、近くにいるエイチ・アイ・エスのコンシェルジュがパンフレットを渡してくれる仕組みです。売り上げもすごく上がりました。

山本:ロータス」の近くですよね。先日、お店の前を通ったら、トークイベントを開催していました。

天野:月に1回、旅をテーマにしたトークイベントを開催しています。幅さんのファンが来店したり、猿田彦珈琲に引かれる人もいたり、トークイベントに来る人もいたり、人が集まるきっかけを増やすことを意識しています。

カフェ文化の草分け「バワリーキッチン」誕生の背景

天野:こうしたショップのプロデュースを考える度に、空間からBGM、トイレのブラシまで、細部に気を配っている宇一さんはすごいなと、お世辞じゃなく思います。そうなりたいと思って、自分なりに取り組んでいます。

山本:さまざまな事例を聞いていて、実は僕がしてきたことは対極にあるような気もします。僕が1軒目につくった駒沢公園の近くにある「BOWERY KITCHEN(バワリーキッチン)」は、26坪ほどの小さなお店で、今年6月で20年になりました。ここは誰かに「ヒットさせて」と言われて始めたわけではなく、自分の生活のためにつくった店です。

 BOWERY KITCHEN
 BOWERY KITCHEN

石阪:オープンキッチンのカフェの草分け的な存在として、知られています。

山本:当時のカフェといえば、籐のイスを並べるヨーロピアンなカフェが主流でした。「バワリーキッチン」は“アンチカフェ”をコンセプトに、インテリアデザイナーの形見一郎さんと一緒につくったんです。

当時のカフェ店内は茶色が使われることが多かったので、あえて白のステンレスと黒いプラスチックのモノトーンにしました。カフェとは真逆の発想からつくった店舗が、今や「カフェの源流」と言われていることに驚きます。

石阪:茶色を使ったカフェが成功している中で、なぜ真逆がいいと思ったんですか。

山本:当時、僕は30代でしたが、自分の世代から“老舗になるような新しい店”をつくろうと思ったんです。イメージしたのは、自分が子どもの頃に行った、プラスチックのテーブルに緑色のビニールのイスが置いてあって、納豆や豆腐がメニューに並ぶような食堂です。その原体験を、自分のフィルターを通してつくったのが「バワリーキッチン」でした。

オープンキッチンも少ない人数でお店を切り盛りするために、厨房で作業しながら店内が見渡せるようにした、というのが生まれた背景です。

石阪:機能性を追求した結果に生まれたのが、オープンキッチンだったんですね。でも、それを意匠的に優れていると、多くの人が感じました。

山本:結局、スタイルやサービスの在り方は、自分の必然から生まれるんでしょうね。例えば、普通は梁の下に天井を貼りますが、「バワリーキッチン」はお金がなかったので、天井の躯体に直接照明をつけました。これも必然から生まれたことですが、結果的にウケました。

全国から同業者が来て、「バワリーキッチン」のディテールや雰囲気を持ち帰って、自分なりの店舗をつくっていった。だから同じオープンキッチンでも、僕の店とは違う存在なんだろうと思います。それが結果的に、カフェ文化を形成したのかなと思っています。

ヒットさせてと言われても(前編)登壇者画像02

表参道「ロータス」のコンセプトとは?

石阪:次につくられた表参道「ロータス」は、「バワリーキッチン」とは全く違うタイプでした。

山本:「ロータス」も必然から生まれたんですよ。「バワリーキッチン」が、人が入りきらないぐらいに盛況になったので、どこかに店をつくるしかないと思ったんです。せっかくなら、来てくれているお客さんの職場と近い場所がいいなと思って、表参道に決めたんです。

「バワリーキッチン」も「ロータス」も、出店時は周りにほとんど店がありませんでした。でも、どちらの店舗もすぐ近くに郵便ポストが設置されていたんです。もともと郵便ポストは、誰もが行きやすい場所に立っているので、立地は問題ないだろうと思って。

石阪:いろいろなデザインの家具が置かれていますよね。それまでのカフェは、特定のブランドやデザインで一貫性を持たせていたと思いますが、「ロータス」では宇一さんのキュレーションで選ばれた家具で絶妙な雰囲気ができていて新鮮でした。日本のインテリアデザインにも大きな影響を及ぼしたはずです。

ところで「ロータス」と「バワリーキッチン」は、全くタイプが違いますよね。普通は、はやった店と、同じような店舗にしそうですけど。

山本:「バワリーキッチン」のデザインがモノトーンだったので、ずっと店にいる僕が飽きてしまって。色に対する渇きが出ていたんで、「ロータス」はカラフルにしました。お客さんも僕から遅れて、同じような渇きを感じていて、ロータスを見たときに「カラフルでかわいい」と思ったんだと思います。

※後編に続く
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