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Dentsu Design TalkNo.102

ヒットさせてと言われても(後編)

2017/10/28

空間プロデューサーの山本宇一さんは、東京の「カフェ文化」の草分け的な存在。駒沢「バワリーキッチン」、表参道「ロータス」「モントーク」などの空間プロデュースに加えて、人と人がつながるコミュニティーをつくってきました。心地よい空間をデザインし続けてきた山本さんですが、ヒットの秘訣はむしろ「世の中に乗らないこと」だと語ります。今回のデザイントークでは、山本さんのデザインに共感する、ジョージクリエイティブ・カンパニーの天野譲滋さんと、建築家の谷尻誠さんをゲストに迎えて、電通ライブの石阪太郎さんが聞き役となり、ヒットする空間づくりの思考プロセスを探ります。

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(左から)谷尻誠氏、山本宇一氏、天野譲滋氏、石阪太郎氏

「できない」と決め付けているのは自分

山本:僕が「ヒットさせて」と依頼されてつくった案件では、三菱地所の新丸ビルの7階につくった「marunouchi HOUSE(マルノウチハウス)」があります。ビルの5階から7階が飲食店なのですが、エレベーターで5階や6階で降りてしまう人が多く7階が弱かったんです。

そこで、僕はテラスという気持ちのいい場所があるのだから、外でご飯を食べられるようにする企画を提案したら、当初は反対されました。それに僕が「ヨーロッパの田舎風」のイメージにしたいと言うので「丸の内のテラスをヨーロッパの田舎に?」と困惑もしていました。でも結局、ふたを開けてみると、これが大好評でプロジェクトに関わった人たちはみなさん出世されました(笑)。

谷尻:僕が宇一さんと一緒にお仕事をさせてもらったのは、3年半ほど前で、大阪の飲食店「CUBIERTA(クビエルタ)」のプロデュースでした。

衝撃的だったのは「屋上の階段室に厨房をつくる」と言われたことです。自分の経験からは、場所も広さも、厨房をつくるには足りなかった。そしたら宇一さんは「建物を壊したらいいじゃん」と、平気で言う。あの時は、この人は「何を言っているんだろう」と思いました(笑)。

しかし、無茶苦茶だなと思いながら、いざつくってみると実現できた。その時に、「できない、と決め付けているのは自分の経験からなんだ」と気付かされました。そして、できるという可能性を見つけられる人になることが重要だと学びました。自分の仕事に、大きな影響を与えたプロジェクトになりました。

山本:腕がいい人と仕事をする時は、あえて「無茶を言う」ようにしているんです。自分が思い描いた通りのものが出来上がっても、面白くないじゃないですか。無茶を言うと、化学反応が起きて、想像以上のものが出てくる。だから面白いんです。

谷尻:後から思うと、楽しかったプロジェクトの一つでしたが、渦中にいる時は、夜な夜な宇一さんと打ち合わせをして、本当に大変でした(笑)。

この仕事以降は、空間の企画から立ち上げるプロジェクトが増えました。泊まれる本屋がコンセプトの「BOOK AND BED TOKYO」は、本棚の向こうにベッドルームをつくったホステルです。本を読むことを目的に宿泊するという、新しいユーザー層を開拓できたことが、この企画の一番の価値ではないかと思っています。

最近、自分のオフィスも改装しました。「細胞をデザインする」をコンセプトに、大きな部屋の真ん中にオープンキッチンを設けて、オフィスと食堂の境界をなくした空間です。いい食事がいい細胞をつくり、体が健康になれば、思考もプラスになって、いいアイデアを出せるんじゃないかと企画しました。

天野:スタッフの働き方に、変化はありましたか?

谷尻:みんな明るくなりましたね。食堂スタッフが、「今日は何にしますか?」とオーダーをとって回るので、必ず同じときに食事をし始めるんです。

食事時には、一般の人も訪れるので、パブリックな場になります。写真家の若木信吾さんのオフィスも入っているので、若木さん選出の写真を飾っています。僕らにはオフィスであり、食堂ですけど、写真を見る目的で来る人にはギャラリーですし、コーヒー豆を買いに来る人にはコーヒーショップ、本を目的に来る人にはライブラリーと、来る人の目的によって名前が変わる。そんな設計事務所になりました。

ヒットさせてと言われても(後編)登壇者画像02

手元のリアリティーが空間へと広がっていく

谷尻:3年前になりますが、「ONOMICHI U2」の企画とデザインに関わらせていただきました。県営上屋2号と名前のついた物流倉庫を改装して、サイクリスト向けの「HOTEL CYCLE」をつくりました。“サイクル”という名前には、自転車のサイクル、古い倉庫を生き返らせるサイクル、海と山に囲まれた心地よい季節のサイクルをかけました。

広島県から出された条件は「観光拠点になる施設」でしたが、観光客だけでなく、普段から町の人たちにも愛されるような場所にしようと考えて、パン屋、カフェ、レストラン、サイクルショップ、物販のショップなどを盛り込んで、建物の中に尾道の路地を再現しました。

石阪:「ONOMICHI U2」で印象に残っているのは、従業員の方が皆、尾道で最もステキな店舗で働いている!というプライドを持って働いておられるので輝いている。まさにシビックプライドだなと感じました。

山本:谷尻さんは、町や路地や人の暮らしを見て、それを自分できちんと受け取った上で、自分の主観でつくられているんですよね。ヒットのキーワード的なことを言えば、主観が本当に大事です。谷尻さんがつくったものは、主観の中で昇華させているからこそ、リアリティーが生まれている。

谷尻:僕が忘れられないのは、宇一さんが「CUBIERTA」のプロジェクトで、「屋上はレストランではなく、ピザ屋にすべきだ」と提案されたことです。大阪の人に屋上レストランは似合わないって。

石阪:それは、偏見じゃないですか?

谷尻:確かに、乱暴な言い方かもしれないけれど、奇麗な白い陶器の皿が並ぶよりも、ピザが乗ったアルミ皿が並ぶ方が、この街には似合うし、それをこの場所で実現することに意味があるとおっしゃったんです。

僕もそのとき、その方が誰もが気兼ねなく店に集まりやすいだろうなと、しっくりきました。どんな皿が置かれるかによって、テーブルやイスの在り方も変わる。インテリアデザインは、空間のマテリアルやスケールを決定するだけではなく、雰囲気をつくることでもあるんだなと思いました。

山本:そう、手元のリアリティーが空間へと広がっていくんですよね。僕がつくる店は50席から100席程度で、僕の主観にもぴったりはまっているわけです。その主観にマッチした人が、僕に店をつくってほしいと依頼してくれます。

それはマイノリティーではあるけど、それなりの量があるセグメントですよね。それを大手企業がそしゃくして、編集していくことで、流行になっていくのかもしれません。

石阪:われわれ広告会社は多くの人を対象にしなければいけなかったり、クライアントのコミュニケーション課題の解決を優先したり、山本さんとはそもそも微妙に方向感が違うのかもしれません。

けれど、おっしゃるように、クリエーティビティーの主観をどう編集するか、もう少し意識を持って取り組めば、宇一さんと一緒に仕事ができるようになっていくと思います。

<了>
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