愛せる未来をつくるためのビジネスデザイン
2017/11/21
電通内に、顧客企業のイノベーションを創出するための専門組織「電通ビジネスデザインスクエア」が発足しました。本連載では、メンバーが「電通の考えるビジネスデザインとは何か」をお伝えします。
第1回はリーダーである国見昭仁氏が、電通ビジネスデザインスクエアとは何か、どんな価値を提供できるのかについて語ります。
【目次】
▼これまでと同じことをやっていてもビジネスとして立ちゆかない
▼「企業の存在意義と社会のズレ」という課題を解決する
▼個別にカスタマイズされ考え抜かれた方法が企業を大きく成長させる
▼電通ビジネスデザインスクエアの七つのサービスライン
▼ビジネスデザインのノウハウと人材が集結
これまでと同じことをやっていてもビジネスとして立ちゆかない
「ビジネスデザイン」という言葉をいたるところで耳にするようになりました。しかし「ビジネスデザイン」の概念は、ビジネスというものが世の中で生まれた時から存在するので、決して目新しくも、はやり廃りのものでもありません。
では、なぜ最近になって「ビジネスデザイン」という言葉が世の中に急浮上してきたのでしょうか。
それは、デジタライゼーションとグローバリゼーションの影響によって、過去に作った仕組みを高速回転させればビジネスが順調に推移した時代が終息したたからだと思います。これまでと同じことをやっていては立ちゆかなくなり、既存のビジネスを根底からチューンアップさせる必要が出てきたり、既存のビジネスだけではなく新しいビジネスを立ち上げなければならなくなったわけです。
ただ、新事業を立ち上げようと旗を掲げてみたものの、新たな仕組みを創ることをやってこなかったことに気付いて、「何とか企業に新しい風を吹き込むような新事業を成功させたい」「社員の教育システムを見直したい」「そもそも経営の在り方を変革したい」など、これまでにはない課題が増えた結果「ビジネスデザイン」という言葉が話題になっているのだと思います。
では、「ビジネスデザイン」とは何なのでしょうか。
私は「ビジネスデザイン」を「解かれるべき課題を本質的に見いだし、解くべき方法を使って、実現させること」だと考えています。
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「企業の存在意義と社会のズレ」という課題を解決する
ビジネスの本質は、突き詰めて考えると社会における存在意義です。家に帰っておいしいごはんを作る時間も体力も残っていない人がいるから、代わりにおいしいごはんを作ってくれるレストランが存在します。約束の時間に遅れてしまうと思った時に、素早く移動できるからタクシーが存在します。しかし社会における存在意義を失ったビジネスは、数年は耐えられたとしても、継続的に存続させるのは難しくなってしまいます。
ビジネスの世界に知識が大量に流通するようになり、いわゆるナレッジやノウハウが企業に浸透しました。それは素晴らしいことです。一方で、知識に流されるようになってしまったのも事実です。知識とは知の結集でもあり、共有財産でもあり、誰かの後追いでもあるのです。企業の課題を考える時「商品力を高めなければいけない」とか「チャネルを拡張しなければいけない」とか、個別で語られることが多いように思います。確かにこのようなバリューチェーンの知識や思考は、全く否定すべきものでもありません。
ただ、バリューチェーンのさらに上位レイヤーで、企業の存在意義が社会とズレ始めているとしたらどうでしょう。課題は、より本質的なところに存在します。その企業の存在意義は何であり、その存在意義を妨げていることは何なのか、という視点です。すべてのビジネスは社会的な存在意義が起点となります。
ここには、私の核となる思考があります。
そのブランドはどこから来たのか
そのブランドは何者か
そのブランドはどこへ行くのかこれは画家ゴーギャンの最高傑作「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」というタイトルそのもので、とてもシンプルな問いです。私はクライアントと向き合う際にこの3点を毎回考え抜き、私なりの明確な「解」を持ってクライアントの未来をデザインしています。
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個別にカスタマイズされ考え抜かれた方法だけが、その企業を大きく成長させる
企業の存在意義を再定義する時も、新事業を創造する時も、「未来」のことを考えます。企業が利益を生む、あるいは存続していくのは手段であり、目的は「良い未来をつくる」「人が幸せになる」ということのはずです。そこで私たちは、「愛せる未来をつくる」という本質的な目的をもって、クライアントと向き合っています。
ビジネスデザインにおいて、全ての企業に適した画一的な方法はありません。なぜなら、たとえ同じ業界だとしても、一社一社の社会における存在意義が異なっているからです。だから他社が成功したことをやってみても、同じような効果を生み出せない、という声を多く聞くのだと思います。個別にカスタマイズされ考え抜かれた方法だけが、その企業を大きく成長させます。
全く新しい思考やアイデアにより、いろいろな可能性を妄想し期待が膨らむものの、一方で不安やリスクも感じるものです。だからこそ、もう少し現実的なアイデアにしようとして、最も跳んだアイデアと現在とのちょうど中間あたりに結論を見いだすことになり、そうすると、想像の範囲内の未来に歩みを進めることになっていきます。
よくイノベーションのジレンマという言葉が使われます。これを回避するには、アイデアのレベルを高めていく、そしてそのアイデアの正当性を検証するスキルを手に入れる、さらには実現性に向けたネットワークや社内事情を乗り越えるアイデアを身に付けていく必要があります。
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電通ビジネスデザインスクエアの七つのサービスライン
電通ビジネスデザインスクエアでは、七つのサービスラインを展開しています。
1.VISIONEERING 北極星を見つける
企業の存在意義を再定義します。こうした定義は新事業創造といったレイヤーでも展開しています。企業にしても、事業にしても、またインナー改革にしても、社会において価値あるものとして永続させるために不可欠なプロセスになります。これは単に言葉で定義するだけのVISION策定ではありません。VISIONとENGINEERINGの造語が意味しているように、ロジカルにVISIONが及ぼす影響までを計算しながら設計していきます。
2.OPPORTUNITY FINDING 革新的な機会を創る
設定した北極星に向かった時に、得ることができる機会を具体的に設定していきます。例えば、企業の存在意義を再定義したとすれば、その新たな定義から生み出される新事業の具体的なアイデアや現在の事業を見直すべき視点やアイデアなど、社会的な価値を高めながら、収益を生み出すための革新的な機会をあぶり出していきます。
3.INTEGRATED DESIGN 統合デザインを行う
あぶり出された機会をどのように展開していくのか、より具体化させるプロセスです。新事業であれば、その事業の核となるプロダクトデザインやサービスデザインを、そこに新たなチャネルが絡んでくる場合は、そのチャネルにおける役割設定から空間デザインまで、コアアイデアを見える形式に変換していきます。
4.BUSINESS FRAMING 起動・成長モデルを作る
統合的にデザインされ、可能性を十分に感じる状態にまで昇華されたアイデアを、ビジネスモデルに落とし込んでいきます。戦略的に意思決定するべき要素をストーリー化させながら、すぐに起動可能で、成長曲線を描くことができるビジネスモデルを構築します。要素の選択、ストーリー化、そしてモデルの選択などにおいて、高度な技術を要するプロセスになります。
5.DEEP PROTOTYPE プロトタイプで検証する
設計されたビジネスが、本当に世の中に受け入れられるのかを検証します。アイデアを、触れる形式や目に見える形式にすることで、本当に魅力的なものに仕上げられるのかを検証し、さらにそのアイデアが市場でどのように評価されていくのかも検証しながら、そのアイデアに確信が持てるまで徹底的にチェックします。
6.FUTURE ANALYSIS 未来を分析する
確信に至ったアイデアが、一体どれだけの売り上げや利益を生み出すのかを検証します。事業構造を明確にし、さまざまなシチュエーションにおける計算に基づいて、このアイデアを数値化させていきます。経営の最終意思決定における重要な判断基準を提供していきます。
7.SHERPARING 実行に寄り添う
最終意思決定されたアイデアも、実現させるまでには想像もしていなかったハードルが次から次へと現れるものです。SHERPARINGとはSHERPAから作った造語です。エベレストに登頂する時に黒子として重い荷物を背負い、登頂を共にするシェルパのように、実現に至る最後の最後まで、一緒に考え、一緒に汗をかき、お供します。
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ビジネスデザインのノウハウと人材が集結
電通ビジネスデザインスクエアは、電通や電通グループ、さらには電通と業務提携している企業から、ビジネスデザインに関わるノウハウと人を集めました。
ストラテジスト、ビジネスアーキテクト、プロダクトデザイナー、グラフィックデザイナー、コピーライター、フォトグラファー、テクノロジスト、ファイナンスマネージャー、ディシジョンマネージャー、アナリスト、プロジェクトマネージャーなど、多様なプロフェッショナルを配置しています。
Art(クリエーティビティー)とScience(ロジック)が融合する場所として、その両面をワンストップで対応する専門部隊として、私たちの組織が生まれました。
クリエーティビティーだけではロジックで不安が残ります。ロジックだけではいつになっても具体化していきません。経営にも事業にも、その双方が必要なのです。そしてクリエーティビティーとロジックの両面から、その企業や事業の社会的な存在意義をデザインし続けることで、初めて「愛せる未来」が開かれていくのだと考えています。