インサイトメモNo.60
家庭のテレビ受像機でネット動画を見ていますか?
2017/12/01
(目次)
▼ネット動画とテレビ受像機に関する調査を2年ぶりに実施
▼最新型のテレビがネット動画視聴を身近なものにする
▼YouTubeなど共有系では「音楽」、Netflixなど配信系では「映画・ドラマ」
▼ネット接続したテレビを持ちながらネット動画視聴はしない層の存在
▼テレビでネット動画を見るようになるきっかけは「見られると教わったから」
▼大画面・高精細でゆったりと。テレビのメリットとポテンシャル
ネット動画とテレビ受像機に関する調査を2年ぶりに実施
さまざまなネット動画サービスの登場と、スマートフォンなどの視聴デバイスの普及に伴い、ネット動画の視聴スタイルが多様化しています。
視聴デバイスに注目すると、スマートフォンやタブレットは場所に縛られない視聴体験を可能にします。一方、テレビ受像機(以下、テレビ)はくつろいだ環境で大画面でネット動画を視聴できるメリットがあります。ただし、そのためにはテレビ自身をネット接続するか、パソコンなど他デバイスからの転送設定が必要となります。
電通メディアイノベーションラボは「ネット動画サービスをテレビで利用する人」を対象としたウェブ調査を2017年9月に行いました。今回の調査における「ネット動画サービス」とは、以下のいずれかを指します。
【ネット動画サービスの分類】
・定額制動画配信サービス(Hulu、Netflixなど定額で見放題のサービス)
・都度課金制動画配信サービス(アクトビラなど、作品ごとに課金されるサービス)
・無料動画配信サービス(GYAO!など)
・共有系動画サービス(YouTube、ニコニコ動画など)
2015年に行った前回調査(インサイトメモ#48参照)から約2年がたち、その間に「AbemaTV」など新しいネット動画サービスが誕生。「テレビの大画面でのネット動画視聴体験」を訴求するキャンペーンを行う事業者も現れるなど、ネット動画視聴を取り巻く環境は変化しています。本コラムでは調査結果を基に、そうした環境の変化を分析していきます。
なお、今回の調査は2015年とは異なる調査パネルで実施しており、前回結果と単純比較ができない点には留意が必要です。調査対象者の条件も「過去1カ月以内にテレビでネット動画サービスを利用した人」と、前回調査より厳しめに設定しています。
また、今回は「ネット接続したテレビを所有しながらもそのテレビでネット動画サービスを利用していない人」にも質問を行いました。
※調査概要については記事末尾をご覧ください。
最新型のテレビがネット動画視聴を身近なものにする
スクリーニング調査において、「ネット接続したテレビを利用している」と回答した人は29.0%でした。さらに絞り込むと、「ネット接続したテレビで過去1カ月以内にネット動画サービスを利用した」人は12.6%です。つまり、「テレビでネット動画を視聴する人」は現状では多いとはいえない状況です。
サービス類型別に見ると、テレビで最も多く利用されているネット動画は、「YouTube」など共有系動画サービスです。次いで「Netflix」など有料動画配信サービス(定額制/都度課金制のいずれかを含む)、「GYAO!」など無料動画配信サービスの順番となります。<図1>
図1:テレビ受像機でのネット動画サービス利用
個別のサービス名でいうと、テレビで最も利用されているネット動画サービスは、全年齢層で「YouTube」でした。有料系では、「Amazonプライム・ビデオ」「Hulu」「Netflix」が人気です。また、比較的新しいサービスである「AbemaTV」や「DAZN」を挙げる回答者も出現しました。
テレビでネット動画を見ている人の特徴として、比較的新しいモデルのテレビを利用していることが挙げられます。ほぼ半分(49.6%)の人が2014~17年に入手したテレビを使用していました。
また、テレビで最も利用の多いネット接続方法は「テレビ本体を直接ネット接続」(53.1%)でした。新しいテレビほど無線LANなどの機能を内蔵しており、ネットに容易に接続できる設計であることを反映していると考えられます。<図2>
図2:最も利用の多いテレビのネット接続方法(上位5位まで)
YouTubeなど共有系では「音楽」、Netflixなど配信系では「映画・ドラマ」
それではテレビではどのような動画が視聴されているのでしょうか。<図3>はサービス類型別に視聴されている動画ジャンルを整理したものです。
図3:テレビで視聴するネット動画ジャンル
まず、有料動画配信サービス(定額制/都度課金制)と無料動画配信サービスでは「ドラマ」「映画」がよく視聴されています。
他方、YouTubeに代表される共有系動画サービスで最も視聴されている動画ジャンルは「音楽」でした。この傾向は2015年の調査結果と一致します。ちなみに2015年調査の翌年に行ったグループインタビューでは、「パソコンなどで作成したYouTubeのプレイリストをテレビで流し続けている」という回答者が多くいました。その理由として、以下のようなものが挙げられていました。
・家庭で一番良い音を聴けるのがテレビだから
・パソコンやスマートフォンでは別の作業を集中して行いたいから
求める体験によってテレビの使い方は柔軟に変容し得る一例といえます。
ネット接続したテレビを持ちながらネット動画視聴はしない層の存在
テレビはどのような目的でネット接続されているのでしょうか。
図4:テレビをネット接続している目的は?
※質問対象:ネット接続したテレビでネット動画を視聴する人
今回の調査はテレビでネット動画を視聴する人を対象としているため、「ネット動画サービスを利用するため」(43.4%)が最も多くなりました。次いで「テレビ本体のソフトウエアアップデートを利用するため」(32.0%)、「データ放送を利用するため」(20.0%)が挙がりました。(複数回答)
逆に、「ネット接続したテレビを持ちながらもそのテレビでネット動画を視聴していない人」たちに同様の質問をすると、以下のようになりました。
図5:テレビをネット接続している目的は?
※質問対象:ネット接続したテレビでネット動画を視聴しない人
注目したいのは2位の回答です。特に何をしたいという明確な目的を持つことなく、「ただ新しく買ったテレビを初期設定する流れでネット接続した人」が一定数いることは、将来のテレビのネット接続の広がりを考える上で興味深いポイントです。
テレビでネット動画を見るようになるきっかけは「見られると教わったから」
「何をきっかけとしてテレビでネット動画サービスを利用するようになったか」についても聞きました。<図6>
図6:テレビでネット動画を見るようになったきっかけ(上位5位まで)
「ネット動画サービス事業者の広告や宣伝を見て、テレビで見られることを知ったので」(27.9%)、次いで「テレビを買い替えたときに店員からすすめられたので」(22.2%)が上位に挙がりました。
実際、テレビの大画面で動画を楽しめることを伝えるキャンペーンを展開する動画配信事業者が増えています。こうした動きに呼応する結果と捉えることができます。
逆にネット接続したテレビを持ちながらそのテレビで動画サービスを利用しない人たちにとっての障壁は何なのでしょうか。<図7>はテレビでネット動画を視聴しない理由です。(複数回答)
図7:テレビでネット動画サービスを利用しない理由(上位5位まで)
「その他機器の方が手軽」「やり方が分からない・面倒」「お金がかかると思うから」という回答が上位に並びます。
ちなみにこのグループでは、「テレビでネット動画サービスを利用している友人や同僚など」が周りにいる人は14%にとどまっています。せっかく自宅のテレビがネット接続して視聴環境が整っていても、実際の利用イメージがなく、なかなかきっかけをつかめない様子がうかがえます。
大画面・高精細でゆったりと。テレビのメリットとポテンシャル
テレビでネット動画を視聴している人は、そのメリットとして以下のような回答をしています。
図8:テレビでネット動画を視聴するメリットは?
いずれもゆったりと動画を視聴できる点を高く評価しており、ここにテレビがネット動画視聴の受け皿となり得るポテンシャルを見ることができます。
大画面・高精細というテレビ単体の機能に加えて、テレビと向き合う形で居間にセットされているソファなど、テレビを取り巻く快適な視聴環境を含めた評価がなされていると推察できます。
自宅内無線LAN環境の整備や買い換えによる最新モデルのテレビ導入が、テレビでネット動画を視聴するハードルを下げる方向に働くことは容易に想像できます。また、テレビの買い換え時の店員の説明や動画配信事業者の宣伝を通して「テレビでネット動画を視聴できること」を知り、実際に視聴した人が多く見られました。
その半面、具体的な視聴方法やどの程度の負担を伴うものなのか、といった情報が視聴者に十分伝わっていないケースも見られます。
今後、テレビでネット動画を視聴するスタイルはどの程度浸透するのでしょうか。
その広がりを考える上で、生活者の行動様式とニーズ、家庭内の通信環境・機器普及状況の把握が重要なのは明らかですが、今回の調査結果を踏まえると、それに加えてネット動画配信事業者、テレビ受像機メーカー、小売店など、関係事業者の働き掛け方の影響も小さくはありません。
短期的にテレビの使われ方が大きく変わるとは考えにくいものの、スマートフォンとは全く異なる視聴体験を提供する「テレビの良さ」が見直されています。このことはネット動画視聴スタイルの今後の在り方だけでなく、「テレビ放送を視聴するデバイス」としてのテレビ受像機の役割をも再定義する意味合いをはらんでおり、そのトレンドは継続的に注視する必要があります。
「第2回テレビ受像機でのネット動画視聴調査」概要
● 調査手法:インターネット調査(調査エリア:全国)
● 有効サンプル数:2531サンプル(男女15~59歳)
*系列1=1200サンプル
テレビ受像機でネット動画(定額制動画配信サービス、都度課金制動画配信サービス、無料動画配信サービス、共有系動画サービスのいずれか)を過去1カ月以内に利用
*系列2=1331サンプル
テレビ受像機をネット接続しているがネット動画サービスは利用していない
*スクリーニング調査(全国男女15~59歳、22394サンプル)での出現率、住民基本台帳2017の性年齢構成比に合わせウェイトバック集計
●調査時期:2017年9月22~25日
●実施協力機関:株式会社ビデオリサーチ