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地方メディアが生き残るために必要な「ソリューション・ジャーナリズム」

インサイトメモ №61

  • 北原 利行

2017/12/25

地方メディアが生き残るために必要な「ソリューション・ジャーナリズム」

 

【目次】
ソリューション・ジャーナリズム。解決型報道が地域を活性化する
下野新聞社の事例:情報拠点となる「ニュースカフェ」開設で中心街を活性化し、ファンも獲得
福井新聞社の事例:記者が実際に里山で生活する「コウノトリ支社」が県を動かした
神戸新聞社の事例:「地域パートナー宣言」でさまざまな施策に取り組み、兵庫県を活性化
全ての地方メディアは生活者の「共感」を得るための価値転換に向き合う


ソリューション・ジャーナリズム。解決型報道が地域を活性化する

本稿では、「地方メディアは今後どう生き残るか」を探る。前段として、5月に開催された第65回全日本広告連盟神戸大会の話をしたい。(同大会のレポート記事はこちら

各地の広告協会を会員とする「全日本広告連盟」は、毎年各協会の持ち回りで全国大会を開催している。2017年の神戸大会では「開港150年」「震災と絆」「広告の未来」というキーワードで記念リレープレゼンテーションが実施され、筆者がモデレーターを務めた。その中で見えてきたのは、地方メディアの生き残りへのヒントだった。

5月に開催された全広連神戸大会
5月に開催された全広連神戸大会

一つは神戸新聞社の事例。阪神・淡路大震災から22年、震災を直接体験した人も減ってきている中、記憶が風化しないように語り継ぎ、一人一人の防災意識を高めることが求められている。

そこで神戸新聞と震災を知らない世代の大学生らが取り組んだ活動が、「117(いち・いち・なな)KOBEぼうさい委員会」だ。大学の壁を越えて防災と救命の講習・訓練を行うことで、防災の知識を持った「117KOBEぼうさいマスター」を育成。その活動をSNSなどで拡散し、さらなる参加者を募っている。

もう一つは博報堂の鷹觜愛郎氏がプレゼンテーターを務めた仙台放送と岩手めんこいテレビの事例だ。東日本大震災後に、被災地のテレビ局である両社と鷹觜氏が中心となり、「三陸に仕事を! プロジェクト」として立ち上げたのが「浜のミサンガ『環』」。仕事を失った女性たちに震災で使えなくなった「漁網」でミサンガを編んでもらい、収益を上げることで明日への希望を持ってもらうことを目標にした。

まず「強い入り口」として、シンプルに整理された内容とビジュアルでの訴求を考えて強いメッセージを発信。そして「広がる出口」として、SNSでの発信・拡散と同時に、仙台放送と岩手めんこいテレビを起点にマスメディアが取り上げることで、より広く伝わることを目指した。その結果、累計17万セットが販売され、1億円以上の売り上げを達成したという。

二つのプロジェクトはいずれも「地元を元気にするために、地方メディアに何ができるのか」というテーマを含んでいる。

地域に密着した地方メディアは、その地域の衰退や発展がそのまま死活問題となる。メディアが安定して継続するためには地域が栄えていることが必要で、そのためには地域の課題を解決する必要がある。地域の課題をメディアがいくら報道しても、地域住民にとっては「解決」されなければ意味がない。

メディアが単なる報道を超えて自ら社会や地域の課題解決に取り組むことを「ソリューション・ジャーナリズム」という(※)。

※メディア、ジャーナリズム研究で著名な米国ハーバード大学のニーマン・ジャーナリズム・ラボが13年に“A new, mainstream - solutions journalism”として紹介し、この概念が浸透し始めた。

ソリューション・ジャーナリズムで重要なのは、メディアが一方的に解を提供するのではなく、生活者(地域住民)と一緒に課題に取り組むことだ。生活者を巻き込むことで問題点を共有でき、実効力のある解決策を生み出せる。何より、メディア企業と生活者の間に「共感」が生まれる。メディア企業を「地域に必要な存在」として認識してもらえるのだ。

J-READなどの調査によると、地方メディアは生活者からの「信頼性」が高い一方で「親しみやすさ」などのスコアは高いとはいえない。課題解決と同時に地域の生活者とのコミュニティーを構築していき、生活者にメディアのファンやサポーターになってもらうことで、持続可能な共生関係が生まれるのである。

生活者との関係性をソリューション・ジャーナリズムでは「エンゲージメント」という言葉で表しているが、マーケティングの世界ではよく知られた概念で、「企業が生活者との間に良好な関係性を構築する」ということを意味する。

ソリューション・ジャーナリズムのポイント

ソリューション・ジャーナリズムで地域を活性化することには、すでに国内でいくつかの実践例がある。以下に、筆者も深く関わり、新聞協会賞の経営業務部門を受賞した13年度から15年度までの3事例を紹介する。

下野新聞社の事例:
情報拠点となる「ニュースカフェ」開設で中心街を活性化し、ファンも獲得

中心市街地の空洞化は地方都市の大きな課題だ。宇都宮市でも、中心市街はロードサイド店に顧客を奪われ、「大型店の撤退」「小規模店舗の空き店舗化」「シャッター通りの出現」という状況に陥っていた。

これは地元の下野新聞社にとっても打撃となった。中心市街地からのニュースは乏しくなり、宇都宮市内の発行部数が減少し始め、同時に広告も減少するようになった。

同社は地域の活性化を自らの課題として捉え、「地域に愛される新聞社」を掲げて解決に取り組むことを決めた。その活動の一つが、目抜き通り「オリオン通り」に面して12年6月に開設した「下野新聞NEWS CAFE」。日本初の「ニュースをテーマとした、新聞社が運営する常設カフェ」だ。

1階はコーヒーや県内産のジュースを飲みながらゆっくりとその日の下野新聞を読めるカフェ。2階はちょっとしたイベントを開催できるように無料開放し、毎日のように地域の企業や団体が展示会、会議、音楽イベント、落語会などを行う交流拠点となった。そして3階には「下野新聞宇都宮まちなか支局」を併設し、中心市街地からの情報発信拠点としても機能している。

下野新聞NEWS CAFE
無料のイベントスペースとして貸し出すことで、地元の人々の交流の場としても機能している下野新聞NEWS CAFE。過去記事はこちらを参照。

このカフェには二つの理念があり、一つは「まちなか」に生き生きとした情報を発信し、地域活性化の一助になること。もう一つは下野新聞社の可能性を最大限に発揮することにより下野新聞自体のファンを増やすことだ。

注目したいのは、「購読者を増やす」ではなく「ファンを増やす」というところ。直接購買に結びつかなくても「ファンを増やす」ことで地域に安定した基盤をつくる発想は、今後の地方メディアに欠かせないものとなるはずだ。

カフェ開設後、オリオン通りには徐々に人が戻り、新たな店舗もオープンするなど、かつてのにぎわいを取り戻し始めている。定期調査では、地元商店街の活性化を示す結果が得られており、地域住民の同紙に対する親しみやすさなどのスコアも軒並み向上した。下野新聞はより生活者にとって身近な存在になったといえる。

福井新聞社の事例:
記者が実際に里山で生活する「コウノトリ支社」が県を動かした

ブランド米「コシヒカリ」の育成地としても知られる福井県は、里山で育まれた農産物に加えて、日本海からの海産物もあり、豊かな土地として県民の満足度は高い。しかし最近は、過疎化で里山の荒廃が進み、かつて豊かな里山の象徴だったコウノトリも姿を見せなくなってしまっていた。

コウノトリを福井県に呼び戻そう、ということから始まった取り組みが「福井新聞コウノトリ支局」だ。コウノトリにも縁が深い越前市白山地区にある、築100年の古民家を「支局」として記者が住み込み、里山暮らしを実際に体験しながら、コウノトリが住めるような環境の保護や活用法を探ることになった。

現地の農家とともに無農薬の米作りをするなど、記者が里山づくりの当事者になることで、読者と同じ目線で里山の苦労や魅力を書くことができた。記事執筆時には記者の思いも素直に表して「客観報道」から「当事者報道」への転換を図ったのである。それを見た地元の人々も、無農薬での米作などに積極的に協力するようになり、生態系が豊かな里山が戻ってきた。

翌年には早くもコウノトリが戻ってきたのだが、プロジェクトはそこで終わらず、福井県と兵庫県が連携してコウノトリ野生復帰事業に取り組むことになった。新聞社がソリューション・ジャーナリズムに取り組むことで、行政までをも動かして地域を活性化した事例といえるだろう。

福井新聞コウノトリ支局
空き家になっていた古民家を活用したコウノトリ支局。その取り組みは多くの人を巻き込み大きな渦となっていった。

里山再興に続いて福井新聞社が取り組んだのは、中心市街地の活性化である。福井市の福井駅前は、人口減などでかつてのにぎわいをなくしていた。その一方、北陸新幹線の福井までの開業計画が決定しており、新幹線開業を迎えるに当たって福井駅周辺をどう開発するかが課題となっていた。

行政を中心に、有識者による議論が何年も繰り返される中、福井新聞社の役員が「もう議論は尽くした」と発言。以後、議論で明らかになった過疎化などの問題点を解決することが福井新聞のミッションとなった。それが「まちづくりのはじめ方 記者、奔走」というプロジェクト。コウノトリ支局の経験を生かし、記者が自らまちづくりの拠点を駅前につくり、そこを中心にさまざまな活動を始めている。

神戸新聞社の事例:
「地域パートナー宣言」でさまざまな施策に取り組み、兵庫県を活性化

冒頭に取り上げた「117KOBEぼうさい委員会」の神戸新聞社は、地域活性化のために「もっといっしょに」のスローガンのもと、「地域パートナー宣言」を打ち出した。同社を兵庫県民のパートナーとして認知されるような存在へとつくり替える、大規模な取り組みだ。

神戸新聞地域パートナー宣言
大学生たちと神戸新聞が一緒に取り組んだ「117KOBE ぼうさいマスタープロジェクト」。SNSを通じて徐々に定着していった。

すでに動いている取り組みとしては、子育てを支援する「神戸新聞子育てクラブ すきっぷ」、販売店と連携し防犯パトロールや地域見守り活動を行う「くらし応援プロジェクト」、天空の城として有名になった竹田城がある朝来市との地域連携協定などがある。

また、神戸新聞社は被災地の復興支援プロジェクト「“みんな” のひまわりHeart! Project」にも関わっている。明るさや元気さの象徴であるひまわりの種を配布して多くの人々にひまわりを育ててもらい、その種からひまわり油を作って、収益金を被災地支援に生かすという取り組みだ。ひまわりを育ててくれた人は全国的に広がり、多くの賛同の声が寄せられている。全広連神戸大会では、収益からの寄付金を熊本地震の被災地に贈呈するセレモニーも行われた。

全ての地方メディアは生活者の「共感」を得るための価値転換に向き合う

今回紹介した三つの事例はそれぞれ新聞協会賞を受賞したが、いずれも「ソリューション・ジャーナリズムへの転換」が評価されているといえる。

多くの調査で「地方メディアは地域の生活者からの信頼度が高い」という結果が出ている。しかし、コトラーの『マーケティング4.0』でも述べられているように、今や企業の価値も変化して、生活者に共感されないものは選ばれない時代となった。

これからは、「信頼」という機能的価値にとどまらず、「共感する」「ファンになる」という情緒的価値がますます鍵になってくる。メディア企業も、生き残るためには「報道」という画一的な価値からの転換に向き合わなければならないのではないだろうか。

まとめ