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インサイトメモNo.59

“動画広告料理人”のためのガイドライン

2017/07/04

もしあなたが料理人なら、お客さまに出す料理の品質を高めるよう努力することでしょう。そして料理をよりおいしく食べてもらうためには、「料理を食べる環境」(例えば盛り付ける皿)に気を配ることも、料理の中身と同様に大切かもしれません。

いきなり何の話かといえば、「動画広告」の話です。

料理人を「動画広告の送り手」、料理を「広告表現タイプ」、皿を「動画メディア」、食事体験の質を「起こしたい態度変容」(広告効果)に置き換えていただければ、今回私の言いたいことにつながります。

端正なマイセンの白磁と、色も形も独特な織部の皿では、随分と趣が違います。一流料理人は、それぞれの性質を熟知し、客の求める気分に応じて料理と食器の相乗効果を計算することで、最高の食事体験を演出します。

われわれ動画広告の送り手は、一流料理人のように、目指す広告効果に応じた「料理(広告表現)と皿(メディア)の組み合わせ」を視聴者に届けられているのでしょうか?

広告表現が「料理」、広告メディアが「皿」なら、最高の食事体験とは?

昨今、動画広告を露出できるメディアは従来のテレビだけでなく、ネットの動画共有/配信サービス、SNS、ニュースサイト、電車内ビジョンと多様化しています。

料理人でいうなら、長らく皿は1種類(テレビCM)しかなかったところに、突如見たこともない色や形の皿が使えるようになり、料理をどの皿にどう盛りつければいいのか分からない状況です。

1 料理(広告表現)と皿(広告メディア)

図1 皿(メディア)と料理(広告表現)の組み合わせで広告効果が変わる
イラスト:YUKO TAKAKI

このような状況では、新しい皿(広告メディア)の性質と、その皿にどのような料理(広告表現)を盛り付けると、客の気持ちがどう動くのか?(態度変容)について、ガイドライン的なものがあると便利です。

電通総研メディアイノベーション研究部では、「動画広告メディアにおけるCMタイプと態度変容」について調査分析を行いました。

調査概要や分析手法を説明すると長くなるため、本稿では割愛し、結論部分を紹介していきます。

ガイドラインの目的

前段として、まず「メディアと態度変容効果の相性」を見てみましょう。図2は、いわば「皿の性質の一覧表」です。

目的とする広告効果(態度変容)は、「認知関心系」「購入検討系」「BUZZ拡散系」「FAN化系」の4系統を設定しました。「認知」「購入意向」といった、広告に期待されている伝統的な態度変容だけはなく、「広告を話題化する」「キャンペーンに参加する」など、ウェブ上の動画施策でよく見られる“直接購買には関係のない態度変容”も対象としています。

マス目にある「-0.059」などの数値は各メディアと各態度変容の間の“距離”で、距離が近い(数値が小さい)ほど相性が良くなります。分かりやすくするために、態度変容ごとに相性が良いものを赤に着色しました。

図2 動画広告メディア(表側)と態度変容(表頭)の相性

認知関心系購入検討系BUZZ拡散系
FAN化系
※MERYは2016年12月7日以降全記事非公開(2017年7月4日現在)
※マス目の色が濃く赤いものは特に相性が良い

表を見る限り、メディアにはそれぞれ、態度変容に対して“得意技”がありそうです。目的とする態度変容に応じて、メディア選びも変わってくることが示唆されます。

表から読み取れることをまとめました。

・「認知関心」に相性が良いメディア
→テレビ(リアルタイム視聴・録画再生視聴)、YouTube、電車内ビジョン

・「購入検討」に相性が良いメディア
→YouTube、Facebook、Yahoo!ニュース、テレビ(リアルタイム視聴・録画再生視聴)、Twitter、電車内ビジョン

・「BUZZ拡散」に相性が良いメディア
→Instagram、AbemaTV、Gunosy、SmartNews、ニコニコ動画、GYAO!、放送局の無料見逃し配信

・「FAN化」に相性が良いメディア
→Instagram、Twitter、Facebook、新聞のデジタル版・サイト

さらに、「テレビ(リアルタイム視聴)は、『買ってみたくなった』が特に親和性が高い」など、メディア固有の特徴も見られます。それぞれの課題意識でメディア(皿)の特徴を見つけてみてください。

皿と料理の組み合わせ「コンビネーショングループ」

メディア特性のガイドラインだけでも参考にはなりますが、できれば「こんなメディアとこんな広告表現と組み合わせれば、こんな態度変容が得られる」ということまで分かると便利です。

そこで、顧客に味わってほしい食事体験(態度変容効果)を決めて、それに合った皿(メディア)と料理(広告表現)の組み合わせをリストから選べるガイドラインをつくりました。

今回の調査では17の動画広告メディア(皿)に対して17の広告表現タイプ(料理)、計17×17もの膨大な組み合わせについて調査しています(広告タイプの詳細については図3を参照)。

これをいちいち精査するのは大変なので、「各メディアと広告表現タイプの組み合わせ」と「態度変容効果」の相性の傾向から、“クラスター分析”の手法を用いて解析しました。

図3 今回調査した広告表現タイプ

商品特徴型アイコン型第三者推奨型行動要請型コンテンツセントラル型企業/ブランド精神型

クラスター分析の結果、それぞれ得意・不得意な態度変容効果を持つ4グループに分類できることが分かりました。各グループは「メディアと広告表現タイプの組み合わせ」の集まりなので、以後「コンビネーショングループ」(CG)と呼称します。

図4 各コンビネーショングループと態度変容の相性

図4 各コンビネーショングループと態度変容の相性

図4の折れ線グラフは、次項で述べるCG1~4の各態度変容との相性を示し、距離が近い(=左の数字が小さい)ほど相性が良くなります。

例えば黄色い線(CG1)は、「認知関心系」と「購入検討系」の態度変容で特に優れる一方で、「BUZZ拡散系」「FAN化系」では親和性が低いことが分かります。

コンビネーショングループと態度変容(広告効果) のガイドライン

いよいよ本稿の目玉、各CGの特徴をまとめたガイドラインです。

図5 各コンビネーショングループの特徴

CG1 需要生成型CG2 購買距離短縮型CG3 商品価値共有型
CG4 エンゲージ形成型
※図5のメディアと広告表現タイプの組み合わせは、スペースの都合上主要なものに絞りました。詳細については電通までお問い合わせください

【本ガイドラインの使い方】
1.キャンペーンのマーケティング目的、目標とする態度変容に応じて、合致する「特徴・特技」を持つCGを選ぶ
2.そのCGに属する組み合わせの中から、動画メディアと広告表現タイプを選ぶ

以上です。

四つのコンビネーショングループ詳細

CG1「需要生成型」
「認知関心」から「購入検討」まで親和性が高いグル―プです。

企業/ブランドへの関心や好感を高め、検索など“購買検討行為”に導く。新商品・新サービスのキャンペーンで特に重要なCGです。生活者との関係構築の最初の一歩を踏み出す、切り込み隊長的な役割を期待できます。

注目したいのは「テレビ(リアルタイム視聴)」というメディアに対し、「商品特徴型」「アイコン型」「コンテンツセントラル型の一部」「企業/精神型」など幅広いタイプの広告表現タイプの組み合わせがCG1に含まれる点です。「さまざまな広告表現でブランドを認知や購入に結び付けられる」という、コミュニケーション戦略への柔軟性もテレビの利点といえそうです。

居間などでの快適な視聴環境、画面との距離感から生じる心の余裕、定着された視聴習慣が、広告へのオープンマインドな受容を促しているのかもしれません。デジタル広告でターゲティングの高度化が進む中、ノンターゲティングのテレビCMが持つこのような性質はあらためて注目したいと思います。

また、「YouTube」上では「商品特徴型」「アイコン型」が、「Facebook」「Twitter」「新聞のデジタル版」といったメディア上では「商品特徴型の一部」という組み合わせがCG1に属します。


CG2「購買距離短縮型」
名前の通り「購入検討」系の態度変容に特に強みがあるグループです。「認知関心」系にも強いです。

一度関心を持ったブランドへの購買欲を高め、検索やトライアルといった検討行為に導く。購買というゴールまでの距離を短縮させるイメージです。

「雑誌のデジタル版・サイト」「動画配信系サービス」など、やや利用者がセグメント化されているメディア上で、「商品特長型」「アイコン型」といった広告表現との組み合わせがCG2には多く見られます。

つまり、ある程度能動的なメディア接触においては、同じ広告表現でも「より自分ゴト化された商品情報」として扱われる傾向があると考えられます。4マスでいえば雑誌広告に近い機能を持ったグループではないでしょうか。

CG3「商品価値共有型」
「BUZZ拡散」「FAN化」といった態度変容に親和性が特に高いグループです。「購入検討」系にもそこそこの親和性があります。

「広告の拡散」「その企業ブランドを好きになってもらう」など、ブランド価値を生活者の心の中に徐々に浸透させる効果が期待できます。

このグループでは「Facebook」「Twitter」といったSNS、「新聞のデジタル版・サイト」「Yahoo!ニュース」といったテキストニュースメディア上で、特に「第三者推奨型」「コンテンツセントラル型」という広告表現との組み合わせが多く見られます。SNS、ニュースサイトといった一種の“公共空間”で広告が受容された時、商品への興味に加えて、社会的共感のようなものが生まれやすいのでしょうか。

そこに載せる広告も、「第三者推奨型」や「コンテンツセントラル型」といった、「商品の直接的訴求ではないタイプ」の広告表現がより多く符合しています。

CG4「エンゲージ形成型」
CG1とはちょうど裏返しで、「BUZZ拡散」「FAN化」系の態度変容にだけ特に優れたグループです。

認知や購入意向ではなく、「広告を拡散させる」「キャンペーン参加」「ブランドへの支持表明」など、顧客の自主的な関与を高め、いわば顧客を味方にしていく効果を後押しします。

「顧客の優良化によって、LTV(ライフタイムバリュー)を高めていきたい」といった今日的なマーケティング課題に対応しているといえましょう。

SNS「Instagram」が、多くの広告表現タイプとの組み合わせでこのCGに所属しており、BUZZ拡散、FAN化の両方の態度変容で親和性が高いのが印象的です。マーケティング的な利害に左右されない、個人の感性の発信共有の場といったメディアの印象が奏功していると思われます。例え広告であっても、心の琴線に触れた場合は気に入った投稿と同様に受容され、共感を形成していく効果があるのではないでしょうか。

また「GYAO!」「AbemaTV」「ニコニコ動画」といった動画系メディアと、「コンテンツセントラル型」との組み合わせの多くがCG4に属します。

BUZZ拡散、FAN化は、生活者にある種の“自己投企”を要請する、本来はハードルの高い態度変容です。それに対応するCG4は希少価値があり、うまく活用するべきでしょう。

コンビネーショングループで「メディア戦略」と「コミュニケーション戦略」を融合!

最後にもう一つ。今回抽出したCGを活用することで、分断されがちな「コミュニケーション戦略」と「メディア戦略」の連携もできるのではないかと考えています。

「見込み顧客→トライアルユーザー→カスタマー→ファン」と徐々に顧客を優良化していくファネルを想定した場合、各CGは図6のように対応します。

図6 ファネルの各段階に対応するコンビネーショングループ

図6 ファネルの各段階に対応するコンビネーショングループ

それぞれのフェーズで「メディアと広告表現の組み合わせをどうすべきか?」という問いにも、示唆を与えることができるでしょう。

“料理と皿”をめぐる差異の視点を得る

料理と皿に例えながら、調査結果に基づき動画広告について私の考えを述べました。

デジタルメディアの伸長、アドテクノロジーの進化で、「動画広告」という広告形式はどんどん規模を拡大しています。そんな中で筆者は、動画広告のリーチや効率の視点については議論されているが、態度変容の差異についてはあまり議論をされていないという印象を持っていました。

思えば4マスの時代、「新聞、雑誌、ラジオ、テレビ」の役割の違いと、そこに適合する広告表現については、クライアントと広告会社の間で一定のコンセンサスがありました。それは経験と勘によるものだったかもしれませんが、結構役に立っていたと記憶しています。

本論は、調査と統計分析を用いて、動画広告でも同じことができないか?というトライアルの結果です。

ストラテジックプランナー、クリエーティブ、メディアプランナー、営業…動画広告をソリューションとして考えている“動画広告料理人”たちが何かを考えるきっかけとなれば幸いです。


「動画広告メディアにおけるCMタイプと態度変容」調査概要
●調査エリア:
全国
●調査手法:ウェブ調査
●調査時期:2016年10月
●対象者性年齢:15歳(高校生以上)~59歳男女
●対象者条件:本調査で対象とするメディアのうち「7個」以上を「週1回くらい」以上利用していること
●サンプル数:2301(ワンパターン回答者を除外)


【問い合わせ先】
電通 メディアイノベーション研究部
infomedia@dentsu.co.jp