インサイトメモNo.58
フェイスブック×電通総研“SNSってそういうことだったのか会議”
なぜSNSで情報を“タグる”のか?
2017/06/30
前回に引き続き、「SNS上のビジュアルコミュニケーション」をテーマに繰り広げるフェイスブック社と電通総研の座談会をリポート。電通総研による「若年層のSNSを通じたビジュアルコミュニケーション調査」の調査結果をもとに、スマホネイティブ世代ならではの検索手段や、そこから浮き彫りになったインサイトを紹介していく。
座談会参加者
【フェイスブック ジャパン】
大志摩丈嗣(Marketing Science)
下村祐貴子(Head of Communications)
三島英里(Instagram Community Manager, APAC)
【電通総研】
小椋尚太(メディアイノベーション研究部 研究主幹)
天野彬(メディアイノベーション研究部 副主任研究員)
“SNS検索”に“発見ページ”。スマホネイティブ世代の情報収集
「若年層のSNSを通じたビジュアルコミュニケーション調査」では、下記のファインディングスが抽出された。今回は若年層ユーザーが活用する“SNS検索”や、SNSの利用動向について語り合う。
今回の調査で見えてきた大きなキーワードが、いわゆる“SNS検索”。
一般ユーザーの場合、「ファッションのトレンド」「芸能人・著名人の情報」を検索する手段は、Googleなどの検索サイト(サーチエンジン)が主流だ。
これに対し、10代女性では「ファッションのトレンド」をSNS検索で調べる割合が57.6%、「芸能人・著名人の情報」が54.5%と、いずれもSNS検索による情報収集が優位だった。
また、一般ユーザーも4割近くがSNS検索を用いると回答しており、需要が高まりつつあることは間違いない。
電通総研の天野彬氏は、次のように語る。
「SNS検索を、私は“タグる”というキーワードで説明しています。ハッシュタグなどを用いて、ユーザー主導で情報の発信と整理をしながら、それを“手繰る”ように獲得していくという特性を意味しており、アルゴリズムがトップダウンで結果を提示する“ググる”との対比をなします」
「スマホとSNSを使いこなす若年層では、特にファッショントレンドのようなジャンルで “タグる”が重要性を増しています。私たちの調査では、SNS上で影響を受けやすい発信者として“友人”を挙げる回答者が76.3%でトップでしたが、このデータからも読み取れる知見だと思います」(天野氏)
アジア太平洋地域(APAC)でInstagram Community Managerを務めるフェイスブック ジャパンの三島英里氏は、Instagramでの検索について説明してくれた。
「Instagramアプリ内に虫眼鏡のアイコンがあります。これは私たちが“Exploreページ”または “発見ページ”と呼んでいるものです。検索機能はもちろんありますが、検索せずともユーザー一人一人の趣味関心にマッチしたビジュアルがどんどん出てくるんです。視覚的、直感的に『これ好きだな』『これフォローしてみようかな』という具合に、新しいものとの出合いを楽しめます」
「発見ページも一例ですが、今後は検索方法だけでなく、幅広い意味で“情報収集”の形は変わっていくのではないでしょうか」(三島氏)
発見ページがユーザーにポジティブに受け入れられているのは、ユーザーにとってInstagramがさまざまな情報を“発見する”場だと捉えられている側面があるからだろう。インスタグラム社の2015年の調査では、Instagram上でブランドや商品の情報を得る利用者は60%、Instagram上の投稿に触発されてウェブサイトを訪問したり、商品やサービスを検索・購入したり、友人に紹介するなどのアクションを起こす利用者は75%以上に上るという。
「SNS検索で調べられる情報は、検索サイトと比べて即時性に強かったり、ナマの声が多い点が、若年層のニーズにマッチしていると思います」と語るのは、フェイスブック ジャパンの下村祐貴子氏。
「広告投資の少ない商品が、SNSでの口コミやSNS上にアップされた写真がきっかけで流行するケースもあります。若年層においては、SNS上で大きな影響力を持つユーザー(=インフルエンサー)を重視した“インフルエンサーマーケティング”も重要になってくるのではないでしょうか」(下村氏)
また、同氏はウェブブラウザー以外のアプリを活用した情報収集にも着目。「スマホネイティブ世代は、アプリをダウンロードすることに対して非常にオープンで、アプリ上で情報収集することにも慣れています。そもそもウェブ世代とスマホ世代では、“検索”の感覚が異なるのではないでしょうか」との見解を述べた。
ユーザーデータの宝庫!SNSがもたらすメリット
SNS検索や発見ページが広く浸透するようになると当然、消費者の購買行動にも大きな変化が訪れるだろう。フェイスブック社でさまざまなユーザー調査を行ってきた大志摩丈嗣氏はこう語る。
「昨今、マーケティングにおけるいわゆる認知フェーズにおいて、『SNS上の投稿から商品を認知する』という行動が増えつつあります。また、商品を購入するかどうかの判断においても、SNSでの評判やコメントを参考にする傾向があります。今後はさらにこの傾向が強まり、SNSから直接購買行動をとるケースも増えていくと推測されます」(大志摩氏)
こうした購買行動の変化に対応すべく、同社ではクライアントと協業して、興味のある製品をすぐFacebook上で購買できるような取り組みをしている。また、Instagramでも、ビジネスプロフィールから直接レストランや美容室などのサービスを予約する機能の追加を年内に予定しているそうだ。
大志摩氏は“SNSマーケティング”の重要性について、「マーケティング的な観点でいえば、SNSはユーザーデータの宝庫」だという。
「従来のウェブサイトのようにクッキーを用いたやり方では、ターゲティング広告を実施しようとしても『こういうサイトによく行く人は30~40歳ぐらいの女性だろう』ぐらいのことしか分かりません。しかしFacebookなどログイン必須のSNSなら、年齢や性別、生活地域に加え、趣味や仕事など細かなターゲティングができます」
「効率的かつ効果的に広告を届けられることはクライアントにとって大きなメリットで、これがあるからこそ私たちはクライアントに価値を提供できるんです」(大志摩氏)
SNSマーケティングの恩恵を受けるのはクライアントだけではない。ユーザーにとっても高精度のターゲティングは快適さをもたらす。
「ユーザーの立場になってみれば、ターゲティングによって『自分にとって関連性の高い商品やサービス』が適切に表示されるからこそ目に留まり、クリックなどのアクションにもつながる。そういう意味ではもちろん、心に響くクリエーティブも大切ですね。マーケティングの観点からいえばターゲティングとクリエーティブ、この二つの要素が、データの宝庫であるSNSを最大限活用するために重要です」(大志摩氏)
“クッキーベース(デバイスベース)”ではなく“人ベース”で精度の高いターゲティング広告が出せる、ログイン型サービスならではの強み。SNS検索の履歴や、発見ページでの反応もターゲティングに反映されてくる要素だろう。
「SNS検索の重要性は、これから加速度的に増すと思います。そしてユーザーデータを活用した精度の高いターゲティング広告が増えるほど、ユーザーにとって有益な情報が充実し、利用ユーザーはどんどん増えていくのではないでしょうか」と大志摩氏は予測する。
“SNS映え”を軽視するべからず
もう一つ、スマホネイティブ世代のSNSの利用動向として見えてきたのが、「体験をSNSにストックする」という特性だ。
今回の調査で「SNSで発信するとき、何がモチベーションになるのか」を聞いたところ、「生活のアピール・演出」(3位)、「つながり・コミュニケーション」(2位)を抑えて、「体験のストック」が1位となった。
電通総研の小椋尚太氏は「人とつながりたいというモチベーションが当然1位だと思っていたので、この結果は非常に興味深いですね」と感想を述べる。
「でも実感として、私もたまに自分の投稿をつらつらと眺めていて、『自分はこんなものが好きなんだなぁ』と再確認する楽しみは確かにあるなと思って。SNSに積み重なった自分の体験を通じて自己を再発見したり、『次はあそこへ行こう』といったリアルの新しい行動にもフィードバックされていく。現代ではSNSは、いわば新しい“自己同一性確認の手段”としても機能しているのではないでしょうか?」
「もしそうであるならば、従来の個人に閉じられたプライベートな体験の記憶によって形成された“自己”ではなく、ソーシャルの場で他者と共有され、日々積み重なっていく体験のストックによって形成された”自己”がどのようなものか、とても興味があります」(小椋氏)
体験のストックに関連して、天野氏は「若年層は“SNS映え”を重視した行動をとる傾向がある」と指摘する。
「『SNSに載せたときどう見えるか』を優先に考えて行動を計画するのは、もはや不可逆的な傾向です。消費社会が成熟化すると、機能的価値だけでなく、他者からどう見積もられるのか、解釈されるのかといった“記号的価値”が重要になります。例えば、モノの水準では“ブランド品”が記号的価値の例です。そして、コトの水準であれば“SNS映えする体験”こそが、“いいね!を集められる”という記号的価値を持つものとして求められるようになるわけです」
「『SNSで発信する目的のためにパンケーキの店に並ぶ』というのは目的と手段が逆だと思われがちです。しかし、私たちの考える本質(目的)とそうでないものとの境界線は、実はあいまいです。テクノロジーがそうした“常識”をシフトさせる力を発揮する中で、今後は『SNSに載せるため』という動機を本質的なものだと多くの人が考えるようになるかもしれません。SNS普及以降の生活者のコミュニケーションを把握する上で、こうした視点の重要性はさらに大きくなるでしょう」(天野氏)
アジア全域でInstagramユーザーと接している三島氏は、“体験のストック”や“SNS映え”を重視するのは世界的な傾向だと分析する。
「海外でも、例えばコーヒータイムのすてきな食卓風景を俯瞰で撮ることが流行したりとか、そういうはやりは常にあって、ショップや観光地もSNS映えを意識するところが増えています。美術館なども、今は写真撮影OKなところが増えてきていますよね。ファッションの分野でも、SNSで“魅せる”ことを考えてショーウインドーをつくったり。世界中で『SNS用に写真が撮られる』ことを意識した趣向が凝らされている気がします」(三島氏)
大志摩氏も、“写真をシェアする”という文化が定着してきていることを感じるという。
「デバイスが進化したことで、誰もが気軽に写真を撮り、シェアできるようになってきた。今、日本に来ている観光客の方々を見ると、やっていることは日本人と同じですよね。やはり積極的に、美しい風景を写真に撮ってSNSでシェアしています。全世界共通で、シェアに対する抵抗はなくなってきているのだと思います」(大志摩氏)
“これからのSNS”を読み解いていくためのポイント
個人の情報発信力の高まりを背景とした、SNS検索の隆盛。こうした中、SNSはこれから社会にどんな価値を提供し、生活者とどのような関係を築いていく存在となるだろうか。
大志摩氏は「かつては情報を得る手段がマスメディアしかなかったのが、SNSによって“ユーザー視点の情報”を得られるようになり、消費行動にも変化が生まれている」と指摘する。
「Facebookのミッションはコミュニティーづくりを応援し、人と人がより身近になる世界を実現すること。そのためには、安全なコミュニティーを提供していく必要があります。“Facebookで触れる情報”が真実で価値のあるものであることを願っていますね」(大志摩氏)
これを受けて下村氏も、「例えば災害時に安否確認ができる機能など、実名制だからこその、世の中の役に立つことに取り組んでいきたいです」と語る。
三島氏は、「ビジュアルコミュニケーションをより気軽に楽しんでもらえる世界になるように、面白い機能をもっと追求していきたい。Instagramとしては、引き続きStoriesの強化をしていきます」とEphemeralな動画サービスを強化していくことを確認した。
一方、「今年はインフルエンサーに関する調査を進めています」と語るのは電通総研の天野氏。
「ユーザーが情報発信力を手に入れる“個人のメディア化”こそが、今起きている最大のメディアイノベーションであるという視座に私たちは立ちます。ネット上の“強い発信者”とは、振り返れば“コテハン”“アルファブロガー”“ミームクリエーター”…のように連綿と存在してきたわけですが、今はその敷居が下がっていることがポイントです。誰もが潜在的なインフルエンサーである時代の、そのあり方やマーケティングの可能性についてリサーチしたいと思います」(天野氏)
最後に電通総研の小椋氏が、若年層SNSユーザーについて総括した。
「今回の調査を通して感じたのは、今の若い人たちは、“リアルな私”と“SNS上の私”が矛盾なく共存しているということ。“盛った自分”も『私である』と認識している点に新しさを感じます」
「かつてのインターネットユーザーは、オンラインとオフラインを切り離すことに“自由”を求めていました。それに対し、今はむしろオンラインとオフラインを結び付けた上で、そのアイデンティティーを拡張していくことに“自由”を感じる世代。だから、これからはわれわれ広告会社も、“リアルな私”だけでなく、“SNS上の私”もターゲットとしたコミュニケーションの在り方を考えていく必要があると思います」(小椋氏)
今後もフェイスブック社と電通総研は各種データをベースにSNSユーザーのインサイトを分析していくという。両社のさらなる取り組みに期待したい。