キャッシュレス・インサイト2024:生活者と店舗の両側からみる日本の最新キャッシュレス事情No.3
「使って便利」だけでは進まない?中小事業者によるキャッシュレス導入の現実
2024/10/25
電通で決済領域のマーケティング戦略支援を行うプロジェクトチーム「電通キャッシュレス・プロジェクト」は、キャッシュレスを取り巻く状況や、活用推進における課題を明確にするため、2023年11月、インターネットによる第6回「生活者のキャッシュレス意識調査」を実施しました。(調査概要はこちら)
この連載では、調査の結果を基に、日本がキャッシュレス先進国になるために解決すべき課題をひもとくべく、キャッシュレス利用者と提供する店舗の実情について考察します。
第3回となる本記事では、いまだ大きくは進んでいない中小事業者のキャッシュレス導入状況に焦点を当て、ショップオーナー自身のキャッシュレス使用状況やインサイトとも合わせて、推進のヒントを探っていきます。
<目次>
▼なかなか進まない、中小事業者のキャッシュレス導入
▼自身は「本格キャッシュレス派」でも、3割強の中小事業者は
カード導入に否定的
▼キャッシュレスの導入は、売上向上にもコスト削減にも効く
▼今後キャッシュレス導入の牽引役となるのは、「本格キャッシュレス派」の
ショップオーナーたち!
なかなか進まない、中小事業者のキャッシュレス導入
日本のキャッシュレス推進における主な課題の1つとして、中小事業者のキャッシュレス導入促進があります。今回実施した調査結果によれば、中小事業者でキャッシュレスを導入している比率は全体の58.1%となりました。2022年は54.8%、2021 年は52.3%でした。
58.1%の導入店のうち、4.0%は2023年1月以降キャッシュレス決済を導入したところです。漸増しているものの、未導入店がまだ41.9%あることがわかりました。
今回の調査対象となった中小事業者の78.4%は個人事業主です。であれば、ユーザーとなる個人と同様、自身のキャッシュレス利用頻度が高いほど、キャッシュレス決済を導入する率が高いのではないか。そうした仮説に基づいて、日常生活におけるキャッシュレス利用状況を聞いてみました。
その結果、キャッシュレスを受け付けているところでは100%キャッシュレス決済を利用する「100%キャッシュレス」は32.8%、同じく「80%キャッシュレス」は22.0%、「60%キャッシュレス」は11.3%でした。一方、「60%現金」は6.3%、「80%現金」は13.2%、「100%現金」は14.4%でした。
キャッシュレス利用頻度が100%、80%と高いショップオーナーの方が自店舗に導入している率も高いものの、現金派の導入率を見ると、必ずしも自身の利用状況とは比例しない実情が見てとれます。
自身は「本格キャッシュレス派」でも、3割強の中小事業者はカード導入に否定的
ショップオーナー個人のキャッシュレス利用状況と、キャッシュレス決済の導入状況に相関があるのかをさらに掘り下げるため、カード決済の導入状況についても聞いてみました。
カード決済導入済みと回答したのは「100%キャッシュレス」のショップオーナーで54.0%、「80%キャッシュレス」のショップオーナーでは50.0%、「60%キャッシュレス」のショップオーナーでは53.1%でした。「本格キャッシュレス派」(キャッシュレスを受け付けているところでは、60%以上キャッシュレス決済を利用しているセグメント)のショップオーナーで考えると、約半数がカード決済を導入しており、それぞれに大きな差はみられませんでした。
一方、「現金派」のショップオーナーの中では、「80%現金」のショップオーナーで導入済みが30%台に下がり、「100%現金」のショップオーナーでは18.8%まで導入済みが減少します。
「現在、カード決済は未導入だが、今後導入したい」という回答は、「100%キャッシュレス」のショップオーナーが9.1%とやや高く、「100%現金」のショップオーナーは2.8%と低いものの、その他はほぼ横並びという結果でした。「現在、カード決済は未導入で、今後も導入予定なし」という回答では、「100%現金」のショップオーナーが75.7%と最も高い結果となりました。
興味深いのは、自身が「100%キャッシュレス」ユーザーでありながら、「カード決済の導入予定がない」との回答が33.8%あったことです。「80%キャッシュレス」のショップオーナーでは38.6%、「60%キャッシュレス」のショップオーナーでは35.4%が「カード決済の導入予定がない」と回答しています。
つまり自身は「本格キャッシュレス派」となるショップオーナーの30%強が、カード決済を導入したくないと考えているわけです。カード決済ではなく、モバイルQRコード決済なら、決済手数料や導入コストも安いので、導入するのでは?と思いきや、モバイルQRコード決済についても同様の結果でした。
オーナーとしての店舗運営を考えるときには、手数料や導入コストに関わらず現金決済にこだわる別の理由があるかもしれません。この課題の根は、なかなか深そうです。
キャッシュレスの導入は、売上向上にもコスト削減にも効く
次に、キャッシュレス導入事業者が感じているメリットについて見ていきたいと思います。
調査によると、実際にキャッシュレスを導入した中小事業者は、ある程度の成果をあげています。
キャッシュレス導入店(58.1%)に対し、キャッシュレスの導入効果について聞いたところ、最も効果があったのは、「釣り銭を用意する手間が減った」(22.4%)ということでした。釣り銭を用意するには、手間とコストがかかりますし、逆に小銭をお札に両替するときも手数料がかかります。それを考えれば、キャッシュレスにすることで、釣り銭の心配がなく、コストも削減できるのです。
釣り銭に関するキャッシュレスのメリットは、もうひとつあります。それが「スタッフの釣り銭ミスが減った」(13.3%)です。キャッシュレスの導入は、業務の効率化に寄与します。「レジ作業の時間を短縮できた」と回答した人は17.7%になりました。
現金のやりとりの場合、お客さまから現金を受けとって確認のうえ釣り銭を用意し、それを渡して相手に確認してもらわなければならず、やはり一定の手間と時間がかかってしまいます。そこを非接触決済にできれば、スピーディにレジ作業時間を短縮できます。そうした業務の効率化に伴うコスト削減としても、キャッシュレスの導入は効果があるといえます。
またキャッシュレス決済にはマーケティング効果もあるようです。「客層が広がった」と回答した人たちは16.0%いました。第1回 ・第2回記事で紹介した生活者を対象に実施した調査でも判明したように、キャッシュレスを受け付けるところでは、できるだけキャッシュレス決済手段を使う「本格キャッシュレス派」が増えています。同時にこのセグメントは相対的に世帯年収が高い傾向にあることもわかりました。
「本格キャッシュレス派」を自店舗に呼び込むことができれば、客層の広がりとともに、リピーターの育成と収益の拡大が期待できると考えられるのではないでしょうか。このように、キャッシュレス導入は、売上向上にも効果がありそうです。
今後キャッシュレス導入の牽引役となるのは、「本格キャッシュレス派」のショップオーナーたち!
2023年以降、新規にキャッシュレス決済を導入した中小事業者は、わずか4%でした。これらのショップではなぜ、キャッシュレスを導入したのでしょうか。
導入の理由を聞いてみると、最も多かった理由は、「お客様の利便性が向上しそうだから」(55.0%)でした。2番目の理由も、「お客様からの要望があるため」(42.5%)でした。こうした顧客志向のショップオーナーは、自身も「100%キャッシュレス」という人が35%強を占めました。実体験があるがゆえに、キャッシュレス導入には積極的ということでしょう。
3番目の理由は、「業務効率が向上しそうだから」(27.5%)、4番目は「来店客が増えそうだから」(25.0%)、5番目が「キャッシュレスは衛生的だから」(17.5%)でした。
今後、日本がキャッシュレス先進国になっていくためには、中小事業者のキャッシュレス導入促進が不可欠です。そして、その動きを加速していくためには、このようなキャッシュレス導入の効果を、中小事業者に対してもっと積極的に、わかりやすく、具体的にアピールしていく必要があるのかもしれません。
「電通キャッシュレス・プロジェクト」では、今後も引き続き定期的な調査と、ユーザー店舗側双方のインサイト考察をもって、国内のキャッシュレス推進に取り組んでいきたいと思います。