ジョブ理論は、間違いなく次世代のイノベーション・バイブルだ!~私とイスラエルと、時々カレー~
2017/12/26
2017年も残すところわずかとなりました。1月に目標を立てた方は、無事に達成できましたか? 私なんかは、正直なところ、今年の目標がなんだったかなんて、すっかり思い出せません…。
今回のコラムは、勝手ながら、私の一年の振り返りとともに、世の中の革新的成功の理由を解き明かすクレイトン・M・クリステンセン著「ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム」(ハーパーコリンズ・ジャパン)をご紹介します。
時代は「消費」ではなく「雇用」へ。“片付けられるべき”ジョブ理論。
「なぜそのミルクシェイクを買ったのですか?」
このような問いを受けて、正確に答えを述べることができる生活者は、ほぼいないでしょう。価格?味?デザイン?おそらくそのようなワードが出てきたとしても、それは生活者の本音ではないことは自明です。
では、本書でいう、“ジョブ・レンズ”という視点を取り入れてみるとどうでしょうか。
「すみません、ちょっと教えてください。どういう目的(ジョブ)のためにあなたはこの店に来てミルクシェイクを買ったのですか?」
実際にこのような視点でのインタビューを実施したそうです。すると、面白いことに、価格や味といった話ではなく、さまざまな切り口で生活者の思考を抽出することに成功します。
「仕事先まで、長く退屈な運転をしなければならない」
「ドーナツはくずが落ちるし、手が油でべとべと - ハンドルを汚してしまう」
「ベーグルはぱさぱさしていて味がないし-ジャムを塗ろうと思ったら膝で運転しなければならなくなる」
「スニッカーズにしたこともあったんだけど、朝食に甘いお菓子なんて-うしろめたくて…」
「濃いからさ!ストローだと20分くらいかかる。-昼飯まで腹が持てばいいんだ。車のカップホルダーにもぴったりだし」(P33)
少なくとも通勤というシーンでは、“快適な運転と昼までの自然な空腹の解決”をジョブとし、ミルクシェイクを“雇用(ハイア)した”という表現を本書では表現しています。
このように、「消費」を「雇用」(ハイア)つまりは手段と捉え、生活者が抱える人生の課題(≒買った理由)を「片付けられるべきジョブ」と規定する。これこそが、これまで多くのデータが語ってきた“相関関係”ではなく、“因果関係”を見いだすための、ジョブ・レンズの考え方であるとしています。
たったこれだけで、一気に世界の見え方が変わるように思いませんか?
イスラエルが世界をハックする理由
2017年9月、WIREDが主宰する、イノベーションの理由を探す旅「ワイアード・リアル・ワールドツアー」に参加し、イスラエルの地を訪れたのですが、そこでの出来事がまさにジョブ理論そのものでした。
イノベーション大国イスラエルは、人口1人当たりのエンジニア数世界1位、GDP当たりのR&D投資額世界2位…。
さぞかし、“世の中の課題を解決し、より良い時代に変えてやる”マインドであふれてるかと思いきや、実は全くの逆。
マインドとしては、「もうかるし、圧倒的なテクノロジーがあるから、やる」。
これを初めて聞いたときは、あっけにとられました。
しかし、ジョブ理論に当てはめれば、それはとても合理的であることが見えてきます。
Airoboticsは、“危険な場所でも上空から地図データを取得したい”というジョブに対して、メンテナンスも含めた完全自動ドローンを開発し、ハイアされる存在を目指しました。
また、Mobileyeは、圧倒的な精度を誇る、自動運転車の“制御システム付きカメラ”を専門に開発することによって、自動車に最も重要な”目”となってハイアされることをポジションとしています。
徹底的なジョブへのフォーカスと、その分野で圧倒的にハイアされる存在を目指す。これこそが、世界で今、スタートアップの聖地として注目されている理由だと感じました。
(では、なぜそのような思考回路でテクノロジーを保有できているか、独自の国家メカニズムについては、またどこかで)
ジョブとブランドが同化する「パーパスブランド」とは
本書のジョブ理論では、これからのキングとなるブランド定義を「パーパスブランド」という表現を用いて説明しています。
Uber
イケア
リンクトイン
オープンテーブル
…
顧客のジョブを解決するための適切な体験を、毎回一貫して生み出せるプロダクトは、顧客にこんなふうに語りかけている。「検索はもう終わり、ぼくを選んで!」(P220)
イケアは「アパートメントの家具をきょうのうちに設置し終えたい」というジョブのパーパスブランドになった。(P220)
ワンジョブ-ワンハイアのサービスが求められ、時価総額でも突き抜けるのは海外だけの話ではなく、爆速でDMMにバイアウトが決まった、目の前のアイテムが一瞬でお金に換わる“CASH”の事例でも証明されているのでないでしょうか。
カレー?サラダ?インスタ映え?「ジョブを再定義する」
新たなジョブを発見、もしくは再定義し、新たな雇用(ハイア)を生み出す。
これこそが今、サービスを生み出すための最も重要な活動であると考えます。
例えば、国民食であるカレー…、これを再定義するとどうなるのか。
一つの事例として、筆者が、プロボノとして企画・プロデュースに携わっている”6curry”というサービスがあります。
「カロリーの罪悪感なくサラダのように、いつでもどこでもおいしいカレーを食べたい」といったジョブが仮に存在するとすると、UberEATSで注文ができるハンディーでヘルシーなこのプロダクトは、一つの答えとなるのではないでしょうか。
2017年流行語の「インスタ映え」などという、非常に短命なジョブへのハイアにとどまらない、パーパスブランドを目指していきたいものです。
最後に、ジョブ理論は非常に概念的には注目すべきものである一方、多用するとルー大柴さんのような言葉の言い回しになってしまうことが唯一の難点です。(カレーだけに!)皆さまよいお年を。