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『シェアしたがる心理』のシェアしたくなる話No.1

「インスタ映え」はこれからどうなる?~キーワードは「シェアの細分化」と「コミュニティー」

2018/01/30

電通メディアイノベーションラボ副主席研究員の天野彬です。昨年10月に『シェアしたがる心理―SNSの情報環境を読み解く7つの視点―』(発行:宣伝会議)を発表いたしました。

インスタグラムの流行をはじめとしたSNSの最新動向をオリジナル調査の結果も交えて解説しつつ、今、人々は何を求めてSNSでシェアを繰り返すのか、そしてそれを通じて情報環境はどう変わっていくのか、そこにはどんなマーケティングオポチュニティーがあるのか。そんなことを考察した一冊になっています。

書影『シェアしたがる心理』

今回、書籍で展開した議論を深掘りするべく、さまざまなバックグラウンドを持つゲストをお呼びしての対談連載がスタートします。

第1回はSNS映えを重視したイベントや施策を仕掛け話題を集めているMorning Labo代表の中村朝紗子さんとの対談です。メッセンジャーアプリを使ってオンライン上でやりとりを進めました。「インスタ映え」のこれからについてのシェアしたくなる話を紹介します!

■「インスタ映え」に彩られた2017年を振り返って

メッセンジャーアプリでの会話

中村:CMや交通広告ではメッセージが一方通行で、言いたいことを聞かされている感覚があります。でもSNSの「シェア」には、個人の愛着や共感が含まれていることが多いですよね。

何かメッセージを届けるときに、自分語りするのではなく、誰かに愛を持って語ってもらえる方が良いアプローチになると、多くの企業が認識しているのだと思います。

天野:私自身もスマホとSNSの普及がそうした裾野を広げることに強く寄与してきたなと感じています。

2017年これだけブームアップしたのはなぜでしょうか? 流行語大賞を取るほど多くの人がこの言葉を日々語っていたわけですよね。

中村:体験や予定の全てが、インスタグラムでのアウトプットを意識したものに変わったからだと思います。

パンケーキを例に挙げるなら、「食べる」という価値だけでなく、「パンケーキを食べに行った事実」「かわいいパンケーキの写真」が残ることを含めた価値を私たちは買っています。

原宿で2000円近くするパフェに行列ができるのも、「かわいい」「おいしい」「SNSでウケる」「見返して幸せになれる」と、何度もおいしい思いができるからです。それを考えたら安いものなのかもしれません(笑)。

さらに、女子特有の「世話好き本能」(お節介本能とも呼べる)がブームアップを加速しているように感じます。

女の子って「教えてあげる」ことに快感を覚える生き物なんです。私は今年26歳ですが、小学生のときは「あたらしいタイルシール」、中学生のときは「落書きがかわいいプリクラ機」を見つけた人が、学校のスターになれました。

いち早くかわいいを見つけて、シェアできる人の周りには人が群がるんです。

これをインスタに当てはめたら、誰も見つけていない「インスタ映え」(かわいい)をいち早く見つけてシェアする合戦が、17年にヒートアップした。こう分析できるかもしれません。

■「どうせならインスタ」という新しいスタンス

天野:みんなでシェアし合って「いいね!」する習慣が広まったことで、インスタ映えを意識する意義が強まったというわけですね。確かに、言われる通り、元も取れちゃうようになってきたと(笑)。

世話好き本能という指摘も面白いですね。男性ユーザーが増えてきたとはいえ、やはりインスタは女性主導の場であることと関係していそうですね。

最後の指摘に絡めると、今はインスタ映えするスポットやお店を集めたサービスも出てきていますよね。よく使われているのでしょうか? いち早くかわいいを見つけるということには変わりないのですが、もしかすると一部で言われている“インスタ映えもちょっと食傷気味かも”みたいな感覚につながっていく面があるかなと…このあたりはどうでしょう?

中村: 年代差もあると思いますが、私の場合はインスタを主役に予定を立てるのではなく、いつもの予定にインスタ映え要素が加われば、ラッキーという感覚です。

だから、位置情報と結び付いているのはとてもありがたい。どこか行く場所があって、その近くにでついでに良い写真が撮れるスポットを見つけたらもうけもん、という感覚ですね。私はこれを「どうせならインスタ」と呼んでいます。

天野:どうせならインスタっていいですね(笑)。それくらいのスタンスで付き合う方が長く、楽しく使っていけるのかもしれないなと思いました。

そして、位置情報との結び付きも重要ですね! 著書の中でも触れたのですが、例えば動画フィルター(スマホのカメラを向けると、顔に「犬の顔」などのエフェクト加工を施してくれる技術)のような技術がより場所とひも付いて活用されていくようなイメージもあります。18年はそういうプロモーション手法がより広範に用いられていく気がします。

そういうふうにしてインスタ映えする景色が集まっていくことはすごくポジティブだなとも感じていて。ウィキペディアはみんなで知識を持ち寄ることですごいデータベースになったわけですが、こういうサービスにも似た感覚を覚えるんです。みんながカメラを持ってすてきな風景を収め、それをパズルのピースのように集めてオンライン上でアクセスできるようにしていく。

今個々のユーザーがそういう写真や動画をシェアしたり、またタグること(検索エンジンで調べる「ググる」に対して、SNSでユーザーがハッシュタグをつけて拡散した情報を手繰るように集めていく情報行動)を通じて、今まで存在しなかったマップを編集している、といった大きなことに取り組んでいるような感覚があります。

中村:位置情報のひも付けが表すものは、「まねできる」価値が高まっていくということかもしれません。

見ているだけでは「かわいい自慢」「ぜいたく自慢」だけだったものが、位置情報が入ることで、自分の予定として検討できるようになります。

みんなで集めた点(写真)が積み重なってオンラインでマップを構築していくって、面白いですね〜。

天野:そうですね、取り入れられる余白をどう設けられるか、すごく重要な視点だと思います。著書では、その連鎖でトレンドが起きていく現象をシミュラークルというキーワードで描いたつもりです。そういうことが起きやすくなっている情報環境の中でみんな生きていると感じますね。

■我シェアする、ゆえに我あり

中村:一方で、最近では「インスタ映え」を自己承認欲求の一言で片付けてしまう風潮もあります。それはちょっと残念に思いますね。

インスタ映えする写真を撮ろうと躍起になる一部の人たちを「インスタバエ」と虫のように揶揄する表現も出てきています。 私の感覚では、「インスタ=ときめきの採集箱」 なんです。誰かに「いいね」されたらうれしいですけど、それ以前に平凡な毎日の中にキラキラした瞬間を見つけて、それをコレクションしていくこと自体に楽しみを感じています。 流行語を取るほどのムーブメントになると、こうした真逆の価値観やアンチテーゼは出てくるものでしょうけれど、インスタを素直に楽しむ女の子たちが遠慮ややりにくさを感じなければよいな、と心配してしまいます。

天野:なるほど、確かに、国民的ブームとしてスポットライトが当たったことへの反動も今はあるのかもしれないですね。

ただ私自身は、著書でも触れたような視点から、SNS映えという現象自身が持っているポジティブな効果に注目しています。単なる情報拡散の手段以上の意義が、こういった実践の中には含まれていると思っているからです。人を動かすということの意味や方法論についての変化というか。

中村さんもきっとそういうふうに感じられていると思うのですが、そういった視点で携わられてきた事例なども教えてもらえたらと思います!

中村:天野さんの著書で紹介されていた「我シェアする、ゆえに我あり」という言葉が、まさにその真意をついていると思っています。

一つ一つの「点」の投稿が「線」となって紡がれるのがタイムライン(インスタグラムならグリッドの見栄えですね)です。

一つ一つの投稿が、「わたし」を物語るわけですから、見せたいわたしに近いコンテンツをつくらないと、なかなかシェアはしてもらえません。

天野:著書からの引用ありがとうございます(笑)。まさにシェアは誰かのためにすることでありながら、自分自身を形づくり確かめる行為でもある―という二面性を内包していますよね。

■シェアラブルを目指した「UMAJO」プロモーション

中村:以前、女性の競馬ファンを増やすためのプロモーション「UMAJO」を担当させていただいたとき、「競馬」をどうすれば女の子たちにとってシェアラブル(シェアし得るもの)になるかを考えました。

それで出てきたのが、ヘアアレンジへの関心と絡めたプロモーションです。ポニーテールを「UMAJOヘア」として、馬とおそろいのヘアアレンジを体験できるブースと、ポニーと一緒に写真が撮れるフォトブースをつくるなどしました。

「競馬をしよう!」と突然呼び掛けたところで、女の子たちには自分ごと化されません。メークやヘアアレンジはウェブコンテンツとして投稿数や検索件数が非常に多いと分かっていたので、その層を巻き込もうと思いました。

プロのヘアメークさんに仕上げてもらう華やかなポニーテールは、投稿の中でもひときわ目立ちますし、撮影女子会を運営する経験から、かわいく変身したときの高揚感とSNSのシェアの相性が良いことは確信していました。結果は4日間のイベント開催で600ほどのハッシュタグ拡散に成功しました。

さらに注目していただきたいのは、その中には愛と熱量にあふれたシェアが多かったことです。その子たちが本当に楽しんでいる笑顔がシェアされたことで、フォロワーたちにも好意を持ってその投稿を受け入れてもらうことができます。 消費者もどんどん賢くなっているので、企業アカウントからの押し付けや下心を感じ取ると、距離を置かれてしまいます。一方で身近な人のリアルな「好き」「楽しい」への共感性が高いのは言わずもがなです。 シェアさせるためには、女の子たちの気持ちを高めてシャッターを切らずにはいられない体験を用意すること、これが近道だと考えています。

天野:なるほど、紹介いただいた事例も、企業側の課題をユーザー側のシェアしたい気持ちや心理と結びつけて、うまくソリューションされているものだと思いました。

SNS映えというものが持っているポジティブな側面が分かりやすく表れていると感じます!

■キーワードは「シェアの細分化」と「コミュニティー」

天野:最後に、18年以降こうしたテーマはどうなっていくと考えているか聞かせてください。ご自身の取り組みなどともぜひ絡めつつ。

中村:「シェア」で一言で表しても、細分化が進んでいくと思います。これは独自に分析をした共感マップです。

Morning  Labo

横軸が自分にとっての親近感、縦軸がバーバル(言語的)・ノンバーバルを表しています。

右上は近距離に感じる存在で、文章や語り手に魅力があるもの。ストーリーにファンが付くタイプです。 右下は近距離に感じる存在の中でも、説得いらずで愛着を持ってしまうもの。赤ちゃんやペット、おしゃれなカフェなどがそれに当たります。 左上は遠距離だけれど、ハウツーや面白ネタを提供することで役立つ存在として重宝されるもの。 左下は存在自体に注目が寄せられていて、ありのままの姿を上げるだけで「いいね」や反応を生み出せるタイプです。

それぞれの勝ち方、魅せ方があるので、自分がどの位置を取っていくか分析して、それに見合った投稿をつくっていくセンスが、より求められていくのではないでしょうか。

天野:このマッピングはとても興味深いですね! 発信者の捉え方、見たいものの期待感など、シェアにまつわる要素が端的に整理されていると思いました。

中村:個人的に注目したいのは左上、ユーザーとのコミュニケーションが鍵を握る「共感の余白属」が、今後ストーリーや動画コンテンツをどのように使いこなしていくのかと、インスタ映えビジネスの最大の課題「リピートしない」を解決する施策をどのようにつくっていくのかの二つです。

前者はコミュニティーやオンラインサロン化、後者は「人」にひも付くファンづくりが大切かと思います。

天野:2017年はインスタグラムの影響力が一気に増して、ユーザーはもちろん、ブランドやパブリッシャーもアカウントを運用してコミュニケーションするようになりました。だからこそ、ご指摘のような細分化のお話、そして自分たちはどういったポジションでやっていくのかという指針がますます重要になりそうですね。

中村:はい。流行語大賞が発表されてから、当社にも「インスタ映え施策を」とたくさんの相談を頂いています。

ただ、それぞれの持ち味や魅力を正しく把握した上でアカウントの強みを育てていかないと、なかなか思うような結果が得られないと思うのです。

映えれば売れるというものではない。女の子たちのインサイトや共感のメカニズムは、もっと複雑で一概には言えません。

天野:これからより重要になっていくコミュニティーやオンラインサロン化、そして「人」にひも付くファンづくりについてもう少し展開していただけますか?

中村:「インスタ映え」 はこれがオシャレだというみんなの雰囲気や、トレンドに基づくもので、一度アップされたシーンがリピートされるのは非常に難しい。

一方で「信頼」は個人にひも付くもので、悩みの共有や質問の受け答えを繰り返す中で、少しずつ築かれていくものです。

18年の明暗は、「インスタ映え」をきっかけに振り向いたユーザーと、どのようにコミュニケーションをとり、信頼関係を築いていくかで分かれると思います。

SNSで振り向かせた後に、ファンとつながるコミュニティーやオンラインサロンへと場を移行させていく。文字や写真だけでなく、温度を感じられる場を増やしていく。この場が温まれば、リピートしたり、おすすめされたものを試してみるなど、SNS施策の狙いもより効いてくるはずです。時間も体力もかかりますけれど…(笑)。

天野:なるほど、施策一発で終わらない、つまりリピートしてもらうためになすべきことというのは、より原点に帰ると、SNSを使うことの利点としてのエンゲージメントを築くということにも合致しますね。

インスタ映えのようなトレンドを一時的な流行(Fad)で終わらせないためにも、そのようなアプローチやそれを進めるためのノウハウがさらに重要になっていくと感じました。

濃密なトークをどうもありがとうございました!