変革のアーキテクトNo.11
変革の熱量を高め続けるために
2024/02/22
「変革のアーキテクト」連載では、企業の変革を遂行するトップエグゼクティブの方々に話を聞いている。では、企業の変革に伴走する電通のBX(ビジネス・トランスフォーメーション:事業変革)事業は顧客企業にどうアプローチし、どんな価値を提供しているのか。第2ビジネス・トランスフォーメーション局 局長の山原新悟氏に話を聞いた。
変革の「2周目」の悩みを抱える企業が増えている。
DXや事業改革など、ここ数年変革を進めてきた企業が、新たな課題に直面している。「パーパスは作ったが、社員の変化が思うように進んでいない」「新事業の種は生まれているが、太い柱に育っていない」「DXにより仕事の効率化は進んだものの、本業の稼ぐ力が変わっていない」など、思ったより成長につながっていないと悩む経営者も多いと山原氏は言う。
「われわれはこれを、変革の2周目の悩み、と呼んでいます」変革を進めてきた経営者が、本質的な成長につなげる上での新たな課題に直面しているというのだ。
興味深い調査結果がある。
企業内で、変革に主体的に向き合う社員は思ったよりも少ないというものだ。2021年実施の「企業の変革に対する従業員意識調査」では、「変革に積極的」という層は全体の約2割、「変革に消極的についていく」というフォロワー層が約3割で、後の5割はどちらかというと変革に興味がない、むしろ後ろ向きだとわかった。多くの人が変革を受け身で捉えており「自分は変えられてしまう側ではないか」と漠然と不安を感じているのだ。これでは、経営トップがパーパスを策定し、どれだけ旗を振っても実態としての企業変革は現場で止まってしまいがちになる。
そういった企業の実情がある中で、電通はどのように成果を出しているのか。山原氏は、電通が事業変革・企業改革のパートナーとして顧客企業の変革を成功に導けるのは、包括的に課題に向き合いながら、その変革の活動に丁寧に寄り添い続けることが理由だと言う。
「従業員のインサイトを丁寧に把握し、それを変革の戦略に組み込む。誰もが覚えやすく語りやすいコンセプトと戦略図を策定することも重要です。議論が起こることがまず大切なのです。そして変革のプロセスに従業員を積極的に巻き込み、社内にうねりを生み出していく。変革の構想とメッセージには、企業のDNAを組み込むことも重要です。変わるべきことだけではなく、変わらず大切なことも伝える。これを繰り返し続けることで、熱量は高まっていきます」
従業員のインサイトに基づいて変革のアーキテクチャ(設計図)を組み立て、変革のストーリーとプロセスへの共感を創り、熱量を途絶えさせないアクションプランが重要になるのだ。
変革をホリスティックに推進する
電通は元々、パーパスの策定、マーケティングやブランディングの変革に関する相談を多く受けていた。コミュニケーションやマーケティングの拡張である。
そこから、「伝える」だけでなく、変革のより本質な中身の設計・実現に関する相談を受けるようになった。市場や生活者視点で、事業そのものの変革や、新事業創造に関する相談を頂くようになったと山原氏は言う。
また、企業変革の支援の領域も、拡張してきた。
元々、コミュニケーションのノウハウを活用した企業内部のエンゲージメント向上などの領域が中心であったが、さらに構造的な課題にも向き合い、組織・人事制度設計の支援をするようになった。組織の基盤である領域の支援は、IT基盤やデータマネジメント基盤の構築や、運用支援などDXにもつながっている。
そこから経営や事業戦略の策定そのものの依頼をいただくようになり、中期経営計画策定や、実現へのロードマップ、アクションプランなど、変革のアーキテクチャの構築を支援している。
電通はこのように、企業変革・事業変革の課題をホリスティック(全体論的)に捉え、支援する「Holistic Transformation Model」を構築し、各領域のプロフェッショナルをつなぎながら、企業に伴走している。
「企業が生み出す価値が変わらなければ、企業文化は進化しない。社内のあらゆる仕組みが変わらなければ、新たな事業は実現しない。サイロ化しがちな社内をつなぎながら、事業サイドと企業基盤サイドをリンクさせながら、統合的に変革を推進することが重要になります」と山原氏は言う。
一見個々に存在しているように見える事業課題や企業課題も、会社全体で見るとそれらは連環し影響し合っていることが多い。ひとつの個別課題の解決だけでは変革が実現しないのだ。
社会にも、社内にも、新たな価値を創り続ける
ハーバード・ビジネス・スクールのフェリックス・オーバーフォルツァー・ジー教授が提唱する「戦略」の考え方では、「社会や顧客に提供する価値(Willingness-to-pay: WTP)を高め」、「従業員に対して提供する価値を高め、負荷感(Willingness-to-sell: WTS)を下げること」が重要だと説かれている。(出典:「価値」こそがすべて! 東洋経済新報社)
この考え方は、価値創造を重視する電通の変革のアプローチと共通するものがあると山原氏は言う。事業創造やブランドの価値向上を通じて、顧客が払いたくなる価値を高めること。そして、その企業で働く意義を高め、成長できる仕組みを構築し、エンゲージメントを向上させて従業員満足度を高めること。その外と内の両方の変革を統合的に推進することが、組織の熱量を高め、成長を実現することにつながっていく。
電通グループには電通の他に、電通総研(旧電通国際情報サービス)や電通デジタル、電通コンサルティング、イグニション・ポイントといったグループ会社が存在し、約800人のトランスフォーメーション専門人材が協力して顧客企業の変革に日々向き合い、専門性を発揮しながら必要に応じてバトンをつないでいる。これだけのプロフェッショナルがいるからこそ、ホリスティックな変革の推進が可能になるのだ。