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変革のアーキテクトNo.10

アバントグループ森川社長に聞く、「変革をけん引する言葉」とは?

2023/03/22

あらゆるバイアスを壊し、自らアーキテクト(全体設計者)として社内の事業変革を遂行しているトップエグゼクティブの方々に話を聞きながら、その神髄に迫る本連載。

前回に続き、アバントグループの代表取締役社長 グループCEO・森川徹治氏にお話を伺います。

アバントグループは、連結会計のソフトウエア開発に加え、グループ経営支援、決算アウトソーシング、DX・データ活用支援などのビジネス事業を展開しています。2022年10月には、「企業価値の向上に役立つソフトウエア会社になる」というマテリアリティの実現に向けて、グループを再編。さまざまな経営情報を可視化して企業価値を正しく測るプラットフォームの構築や、企業価値を上げるためのソリューションの提供など、事業を拡大する第2ステージに突入しました。

今回は、「変革をけん引する言葉」について、電通の小山雅史氏と福井秀明氏がインタビューしました。

前編:アバントグループ森川社長に聞く、企業の変革のために経営者が考えること

森川氏、小山氏、福井氏
アバントグループ代表取締役社長 グループCEO・森川徹治氏(右)と電通の福井秀明氏(中)、小山雅史氏(左)

自分の想いを社員に届けるために、この言葉でいいかを常に問い続ける

福井:アバントグループは2022年10月にグループ再編を行いました。私たちは、経営の言葉の整理や、理念をグループ内に浸透させるお手伝いをさせていただいています。

アバントグループの理念体系とマテリアリティーおよびストラテジー
ビジョン「BE GLOBAL~世界に通用するソフトウエア会社~」は、創業以来、描き続けている夢を表現。ミッション「経営情報の大衆化」は、多くの会社が持続的に価値を創造できる経営情報システムを構築することで最善の経営を普及させることを、企業理念「100年企業の創造」は、社員全員が創造的に社会への価値提供を行うことで100年続く企業になることを示している。さらに、マテリアリティとして、「企業価値の向上に役立つソフトウエア会社になる」を定めた。(図はアバントグループ統合報告書より抜粋) 

小山:大きな会社になると、MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)開発などの仕事は、企業のブランディング担当者がオリエンテーションするケースが多いです。今回のグループ再編にあたり、2022年春に初めてオリエンテーションを受けましたが、森川さん自らお話しされたことに驚き、「これは大変な想いがあるのだな」と感じました。

アバントグループの事業は、連結会計のソフトウエアの開発・販売が中心で、ソフトは高い国内シェアを獲得しています。でも、お話を伺ううちに、連結会計ソフトウエア開発の領域に収まろうというお考えは全くないことや、世の中の企業の価値向上のために、いろいろなことに挑戦していきたいという熱意を感じました。そんな森川さんの想いをどう表現して、社員をはじめとするステークホルダーの方々にどう浸透させていけばいいのかすごく悩みました。

福井:私は、何度もディスカッションする中で、おっしゃることがよく変わるな、と感じました。打ち合わせをして森川さんが納得されて、「これでいきましょう」となっても、次にお会いすると、お考えがブラシュアップされ変わっていることがよくありますね。

森川:福井さんと小山さんは、大変ですよね。もう少しうまくジャッジできればいいですけど(笑)。他の人にもよく言われるのですよ。1週間ごとの外部ミーティングでも、「毎回言うことが変わっているね」と。

小山:でも、試行錯誤を重ね、グループ再編に向けて2022年9月に全社員に向けたスピーチはとても素晴らしいものでした。森川さんは、「変革をけん引する言葉」について、どのようなお考えを持っていますか?

森川:過去の経験を振り返ると、自分の想いというのは社員になかなか伝わらないのです。昔、社員が100人ぐらいだったころでも、自社の理念をすぐ言える社員は少なかった。ですから、何を言うかがとても大事です。そうすると、まずは自分の考えを自分で突き詰めて整理することが重要になります。

今回のグループ再編の肝は、当社の経営を私個人ではなく、チームでやっていくということです。アバントグループのマネジメントチームが、会社全体の価値をきちんとつくっていく体制にバージョンアップしようとしています。であるならば、最低限、マネジメントチームはアバントグループが目指すものややるべきことをきちんと理解しておく必要があります。私が思い描いているバラバラな言葉をどうやって社員に伝えていくかが最大の課題ですね。

小山:一緒にお仕事をしていて、森川さんは、外部環境の変化なども踏まえながら、言葉の強度をご自身の中で常にチェックされている印象でした。打ち合わせで決めたことでも、変えた方がよければ、ちゅうちょなく変えますね。

森川:言葉って一度定義すると思考停止してしまうじゃないですか。私はそれが嫌なのです。言葉に込めた意味や実現しようと思うことは、環境の変化などによってどんどん変わる。定義した言葉自体を変えたいけど、一度発表したら頻繁には変えられない。ですから、本当にこれでいいのかをずっと問い続けています。

森川氏

数字だけを追いかける経営にならないように、言葉に魂を入れ続ける

森川:言葉だけでなく、会社の構造についても、本当にこれでいいのかとずっと考え続けています。前回お話ししたように、世界に比べて日本の企業の価値は低く見積もられています。人財価値についても同様で、報酬も世界と比べるとかなり低い。人財価値を上げることは急務ですが、それはただ報酬を上げればいいという話ではありません。人財の価値を上げなければいけない。そのために、上場企業である以上は企業価値から考えた方がいいと思っています。人を大切にしようとして、結果的に企業価値が欠損していくケースはこれまで多く見られました。だから企業価値から考えた方がいいのですが、ともすれば、投資・資金調達・分配といったファイナンスの方に引きずられてしまいます。

小山:数字ばかりを追いかけてしまい、人財価値がなかなか上がらない、ということですね。

森川:そのあたりがとても難しいところです。私は「会社は人のためにある」というのが根底の考え方で、これが一番重要です。この考え方に基づくと、社員にとっていい環境をつくる必要があるのですが、そのためには、事業を継続させなければなりません。そして、継続するためにはもうけが必要になります。この構造の中で、もうけと事業と人の優先順位をきちんと考えて企業価値を直視しておかないと、あっという間にずれると思います。

事業継続のために生産性を上げるというのは、現場の人間は頭では分かりますが、実際にそれをやろうとすると、1人当たりの単価を上げるか、もしくはコストを下げるかになります。コストを下げるだけならリストラすればいいわけですから簡単です。そういうことがいろいろな企業で往々にして起こるのですが、それは経営者が望んでいることではないですよね。

本当は生産性を上げることが大事で、それにはクリエイティブな発想が必要ですが、簡単なことではありません。ですから、どんなに高尚な理念を掲げたとしても、ノルマが生じて数字でコントロールされるわけです。でも、それを当たり前と思ってしまうと、結局、言葉というのは魂が抜けたものになって、企業価値が上がらない原因になるわけです。

小山:数字を達成することだけが目的になって、何のために達成しているのかが分からなくなってしまうわけですね。

森川:ですから、言葉に魂を入れ続けることが大事です。そうでないと、言葉だけが独り歩きして違った方向にいってしまうので。

ソフトウエアで経営を楽しくする

福井:森川さんが言葉を大切にしているエピソードでは、2023年の年頭所感の話も印象的でした。「随所に楽あり」という言葉を掲げたそうですね。どのような意味が込められているのか、改めてお話しいただけますか?

福井氏

森川:もともとは、私と公を一つのごとく、という原稿を用意していました。読むと20分ぐらいになる、森川節の面倒くさい文章です(笑)。

小山:すごい量ですね……。

森川:でも改めて読んでみると、「これを聞いた人は何か得るものがあるかな?」と疑問が湧いてやめました。それから考え直して、「随所に楽あり」という言葉にしました。これは以前、京都の寺を回ったときに見かけた書に書かれていた言葉です。「どんなところにも楽しさがあるから、それを発見して、日々楽しく生きていこう」という意味です。

この言葉は、当社に重要だと感じました。チームで活動していくときに、参加している場所で楽しさを見つけてほしい。周りも、一人に仕事を任せきりにするのではなくサポートして、チームの活動をもっと楽しくしていくことが重要だろうな、と。

さらに、経営の楽しさとは何かを考えてみると、やっぱり、関わる人たちがハッピーになるほど楽しくなってくると思いました。ハッピーな気持ちが減ると、経営はものすごく苦行になる。すると、業績が悪いからリストラしようなどと、どこかひとごとにもなってくるわけです。そうではなくて、全部がハッピーにはならないけど、関わる人たちの幸せの総量を増やす。そう考えると、大変なこともあるけど、使命を果たしていく楽しさが出てきます。

社員を大事にしながらも、最後は株主まで含めたさまざまなステークホルダーのハピネスを最大化していくことが経営者自身にとってのハッピーになり、周りにとってもハッピーになる。そんなことから、「随所に楽あり」という考え方で整理していったほうが分かりやすいかな、と考えました。

小山:僕は経営者と話をすると、「いやー、経営はつらいんだよ」ということをよく耳にします。もちろん、言葉のあやかと思うのですが、経営が“つらい”のと“大変”なのは全く違いますよね?大変でも楽しいことはたくさんありますが、つらくて楽しいということはない。ちなみに、森川さんが考える「楽しい」とは、どのようなことでしょうか?

小山氏

森川:抽象的な言い方になりますが、ワクワクする目標に向かってギャップを埋めていく工程は楽しいですね。目標を達成したときよりも楽しさを感じます。

私は走ることが好きなので、よく経営をマラソンに例えて話をします。東京マラソンに出たい人は多いですよね?出場するために週末に自分を追い込みながら走り込んでいる人って、ウイークデーは体がボロボロになっているのではないでしょうか。仕事のパフォーマンスもすごく下がる。そして週末にかけて体を戻していって、また週末に負荷をかける。マラソンに興味がない人からすると、とんでもない生活をしているわけです。でも、本人は嫌々ではなくてやりたくてやっている。

レースに出てこれくらいのタイムを出したいという目標設定があって、いまの自分のタイムというギャップがあるから、それを埋めようとしている。そして、トレーニングを積んだ分だけ、ある程度報われるわけです。だから自分の人生が楽しい。自分が集中できる目標があって、ギャップを埋めていくことが楽しいわけです。企業もそのような環境を提供していく場であるべきです。

小山:社員がチャレンジする場をつくって、現実と目標とのギャップを埋める達成感をつくる。それを繰り返していけば企業も成長するし、経営の楽しさも増えてくるわけですね。

森川:そういったクリエイティブな活動を続けると、経営は楽しくなってくるし、そこに参加する人もどんどん増えてくるはずです。

小山:なるほど。顧客に向けてはどのようにお考えですか?

森川:世の中に向けてわれわれが取り組もうとしているのは、企業価値を計測して、パフォーマンスをちゃんと可視化することです。企業活動が適切に行われているか、もしそうでないなら、どう改善していけばいいのかということをデータに基づいてきちんとサジェスチョンできるようになることです。ですから、結果が出せるように環境を整えるお手伝いをしていきたいです。

福井:アバントグループの経営を楽しくするという点について、課題に感じていることはありますか?

森川:いろいろありますが、一つは分かりやすさですね。個人ではなく組織全体で楽しさをつくっていくわけですから、一人ひとりが、これでいいのだと自分で考えられるようにしておくことがすごく重要です。そう考えると、「ソフトウエアで経営を楽しくする」ってどういうことかな?と考える余地ができます。

福井:どういうものか想像したくなりますよね。

森川:ええ。そういう仕組みづくりが大事です。「ソフトウエアで経営を楽しくするとは、こういうことです」と、社内のメンバーやお客さまに対して、自分の言葉で分かりやすく説明できることが、大事ですね。

最後に、小山さんや福井さんには、アバントグループの変革にいろいろ力を貸していただいています。お二人には、売れない漫画家をベストセラー作家に仕立て上げる編集者のような存在になっていただきたいですね(笑)。編集者の力は大きいですから。私たちの想いが世の中に伝わるようにこれからもよろしくお願いします。

森川氏、小山氏、福井氏

 

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